※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

15 / 177
エロシーンはありません。


エロシーンからの~いきなりバトル 2

「出入りが!」

「馬鹿もんが! 門番は何をしとる! 迎え撃て!」

 

 どすのきいた声で怒鳴りつけて紫藤が男に命令を下す。水輝は黙って一人、部屋の窓に寄った。

 

 空に鮮やかな花が咲いている。気の早い打ち上げ花火をしばし見つめてから水輝は視線を庭へと落とした。

 

 馬鹿野郎。水輝は口の中でぼそりと呟いた。鮮やかなライトグリーンの大きなフラッグが夜空に舞う。紫藤の屋敷の庭には続々とバイクが乗り込んできた。群れの先頭を切って走るのは、一際鮮やかなカラーリングを施されたバイクだった。

 

 屋敷の中が騒然となる。ここにいるようにと水輝に言ってから紫藤が慌ただしく部屋を出て行く。水輝はだが返事をせず窓からじっと外の様子を見下ろしていた。

 

 鮮やかな紫色をしたバイクが迎え出てきた男たちの頭上を越え、屋敷の窓をぶち破って二階の部屋に飛び込む。庭では何故かスーツを着ている連中がバイクを駆り、その中にはサイドカーの姿もある。ヘルメットを被り、手には鉄パイプを握り、青い顔をしてバイクの横に乗っているのは北原だ。

 

 独特のエンジン音が近づいてくる。水輝は苦笑を浮かべて窓に背を向けた。銃声があちこちに響く。だが銃などこの女には効きはしない。

 

 スロットルを開いて廊下を疾走したバイクがドアをぶち抜いて部屋に飛び込んでくる。水輝はポケットに手を突っ込んで苦い顔をして舌打ちをした。

 

 バイクに跨った女がヘルメットを取る。すると長く美しい髪が現れた。

 

「やあ」

「阿呆。何してんだ、お前は」

「ちょっとしたツーリングをね」

「いくら夏だからってこれは脳がわきすぎだろ」

 

 呆れた顔をして水輝は窓の外を肩越しに指差した。夜空に花が開き、少し遅れて腹に響く太い音が聞こえてくる。

 

「彼らと利害が一致してね」

 

 立城がにっこりと笑って右手に握った刀を振る。すると立城に向かって飛んだ銃弾があっさりと刀身に弾かれた。ひょいと首を傾けた水輝のすぐ傍を弾かれた銃弾が飛び、窓硝子が粉々に砕け散る。

 

「女は駄目だ! タイヤを狙え!」

 

 どこかから紫藤の叫びが聞こえる。水輝はやれやれと肩を竦めて歩き出そうとした。だがその時、窓の外から響いていた人々の声の質が変わる。水輝ははっと目を見張って慌てて振り返った。

 

 争っていたはずの人々が散り散りになって逃げている。その中心には異様に大きな虫の姿があった。魔だ。

 

「しゃ、社長! 魔です! 魔が出ました! うちの庭です!」

「なんだと!?」

 

 素っ頓狂な声が聞こえてくる。そのすぐ後、屋敷の中は大騒動になった。地面からわき出した虫が次々に人間に襲いかかる。

 

「どうするの?」

 

 静かな声が背中から聞こえる。水輝は無言で窓の下を見つめた。

 

 今やテレビやラジオなどのメディアで娯楽番組が放映されることは殆どない。日々、流れているのは魔に関するニュースばかりだ。どこでどんな魔が出ただの、どこの街が死んでしまっただのと暗いニュースは日々流れ続けている。

 

「決めるのは君だよ。僕は手を出さない。魔もこの世界には必要だからね」

「おれはもう関係ない」

 

 それに力もない。感情のない声で答えて水輝はこぶしを握り固めた。

 

 あれから色んな魔を見てきた。中には弱い人間を選んで狙う狡猾な魔もあった。人型をしている魔が次々に人を食っているのも見たことがある。だが水輝はその度に犠牲になった人々を見ない振りをした。

 

「そう。じゃあどうしてそんなに怒っているの?」

 

 逃げ遅れた人々に異形の虫が襲いかかる。水輝は歯を食いしばって握ったこぶしに力をこめた。

 

 責めてくれれば良かったのに。どうしてあんなことをしでかしたのだと誰かに責めて欲しかった。あの時の魔法は本当は使うべきではなかったのだ。あれは夜と昼の意味を変えてしまい、世に闇がはびこるための禁断の魔法だった。だが世界のバランスと引き替えにしなければ多輝に力は移せなかったのだ。

 

 運転を誤ったバイクから北原が放り出される。水輝は歯軋りをして振り返った。

 

「刀を寄越せ!」

 

 狙い澄ましたように刀が飛んでくる。水輝は放られた刀をつかみとり、窓から身を乗り出した。バイクを降りた立城が駆け寄ってくる。

 

「結界を張れ! 奴らを避難させろ!」

「判った」

「おい! 聞こえてんだろ、紫藤のおっさん! おれが引きつけるからあんたは舎弟つれて逃げろ!」

 

 水輝は振り返って怒鳴ってから窓から身を躍らせた。慌ただしい足音が部屋に飛び込んでくる。水輝はだがそれを無視して一直線に虫の群れの中に飛び込んだ。逃げまどう人々を余所に水輝は地面を蹴って怒号を上げ、虫に斬りかかった。だが前のようにはどうしても動けない。

 

「水輝君!」

 

 悲愴な声で北原が叫ぶ。水輝はだがそんな北原に答える余裕がなかった。蜘蛛のような形をしたモノが次々に水輝にロープのような糸を飛ばす。水輝は気合いの声を発して糸を切り裂き、走った。

 

 長い手足を振り回して魔が攻撃してくる。水輝は立城の刀を揮って懸命に虫の攻撃を避けた。だが身体が思うように動かず、鋭い魔の手足が次々に身体に刺さる。

 

 魔法も使えない。龍神の力も使えない。身体の動きは前より遅い。だがそれでも水輝は必死で魔に斬りかかった。

 

 どうしてそんなに怒っているの?

 

 身体のあちこちから血を流す水輝の脳裏に立城の問いかけが蘇る。水輝は口に溜まった血を吐き捨てて、地面を強く蹴った。

 

 そんなこと決まっている。答えは最初から一つきりだ。

 

「おれがだらしねえからだ!」

 

 水輝は怒鳴って青い刀を両手に握り、魔に斬りかかった。

 

------------

 

 夜が明ける。

 

 周囲は異様なほどに静まりかえっていた。朝の鳥の声すらない。逃げ延びた人々は紫藤の屋敷を遠巻きにしていた。そんな彼らも緊張に息を詰め、ひと言も発さない。

 

 ゆっくりとした足取りでライディングスーツに身を包んだ女が紫藤の屋敷の庭に入っていく。女が庭の中央に佇む少年の肩を軽く叩く。その拍子に少年の身体が傾ぎ、両手に握っていた刀が地面に落ちる。

 

 人々の歓声がその場に響いたのはそれからすぐのことだった。




最後のとこは別の段落になっていたのですが、文字数制限がありますのでくっつけました。
水輝は傷だらけです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。