パパにそんな趣味があったなんて……。
理子は呆然と中空に浮かぶそれを見つめ、心の底で呟いた。実験台には鈴が横たえられている。その上に裸の青年がぷかぷかと浮いているのだ。
「理子、パパはのーまるだと思ってた……」
ぽつりと言って理子は力なく首を振った。
「違う。これは僕の父上の一部なんだ」
「パパはほんとのパパとそういう趣味が……」
急に起こった激しい揺れも今は鎮まっている。理子はぼんやりと青年を見上げ、腕組みをして頷いた。世間は広いなあ、と呟いた理子を見つめ、優一郎が困ったような顔をする。
「理子。わかっててからかってるでしょ?」
「うん」
笑い混じりに言った優一郎に理子は軽く頷いてみせた。鈴から流れた力が青年の身体に移ったのがはっきり判る。
「これでよし」
そう言って優一郎が頷く。理子は青年の周りをぐるりと周り、まじまじと観察してみた。背中を丸めて膝を抱えている青年はまだ目を開けておらず、宙に浮いたままだ。理子はそんな青年の身体をじっと見つめ、指差した。
「ねえパパ。男の人ってこういう格好をすると、袋が見えちゃうんだね」
青年の尻辺りを指差して理子はそう言った。
「理子。僕はおしとやかな女の子が好みだな」
「うっ。……じゃ、じゃあ……おたからが見える……とか……そんな感じ?」
理子は考えを巡らせながら戸惑い気味に訊ねた。すると何故か優一郎がぷっ、と吹き出す。
「理子はそれでいいよ」
「もっ、もう! パパ、理子のことバカにしてない?」
唇を尖らせて理子は優一郎の傍に戻った。優一郎がぱちんと指を鳴らすと青年がゆっくりと目を開ける。青年の顔はあの立城によく似ている。が、どことなく雰囲気が立城よりきつい気がする。
「父上、おひさしぶりです」
微笑みを浮かべて言った優一郎を見下ろし、青年がため息のようなものをついて身じろぎする。その直後、青年の身体には服がまとわりついた。身軽に宙で身体を捻った青年が軽く床に着地する。
「ああ。久しぶりだな」
ぶっきらぼうに言った青年がちらりと理子を見る。それからまた青年は優一郎に目を戻した。
「……お前の女か?」
「はい」
「この間、連れてた女と違うな」
そう言って青年はまじまじと理子を見た。視線に負けないよう、理子は腰に手を当てて胸を張ってみせた。ふうん、と呟いた青年が頭をかく。
「紫さん、いらっしゃるんでしょう? 出てこられたらどうですか?」
優一郎がそう言うと、青年が舌打ちをする。
「あいつは恥ずかしがりなんだよ。そもそも俺に何の用だ」
そう言って青年が手近な実験台に腰掛ける。
「まず、今現在、父上は僕の管理下に置かれています。立城さんが、手放されたからなんですが……」
真面目な顔をして説明をしていた優一郎を見やり、青年がぴくりと眉を動かす。だが青年の表情はすぐに元に戻った。
「そうらしいな。平たく言えば、俺は使い魔みたいな扱いになってると」
そう言って青年がひょいと肩を竦める。
「正確に言えば、三体の使い魔の中に分かたれて隠されていたと言うべきですね。そして、それが全てではありません」
「まあ、それも知ってる。なんかどろどろしたゼリーみたいなのも俺だしな」
ため息を吐きながら頭をかいて青年が言う。理子は二人の話を黙って聞きながら想像を巡らせた。どろどろのぜりー。それはもしかしてストローで飲む類のものに近いのだろうか。
それはさぞ美味そうな……。理子は美味しいゼリーのことを想像してほわんとした表情で天井を仰いだ。だがそんな理子を余所に二人は話を続けている。
「ええ。できたらそれも統合したいと思っているのですが……。紫さん、そちらからいらっしゃらないなら、召還しますよ?」
「何だ。母親でも恋しくなったか?」
にやりと笑って青年が言う。
「いえ。父上の力に相当する部分を抑えているのが彼女なので」
「ああ……。どうせすぐに会うから、俺が自分で吸収すりゃ済むことだろ。お前の手を煩わせることもねえだろ」
そう言って青年がすとんと床に降りる。じゃあな、と一方的に手をあげて青年がすたすたと歩き出す。
「それでは、また」
にっこりと笑う優一郎を肩越しに振り返り、青年がぼそりと言う。
「……またはねえよ」
青年が部屋のドアを開けて出て行ってしまう。理子は青年の閉じたドアと優一郎を見比べた。
「良かったの? パパ。ほんとのお父さんとお話しなくて」
「とりあえず、母上と話をするほうが先かな……。地龍、紫よ。我が下へ疾く参ずべし」
優一郎の呼び声に答え、部屋の端に藤色の光が現れる。光はすぐに人の形に変わった。現れた女性が優一郎に軽く頭を下げる。
「こんにちは」
そう挨拶した女性の顔は妙に硬い。
「母上、どうされたのですか? えらく表情が暗いですけど」
「克人を消したのはあなたね?」
強ばった顔をしたままで女性が言う。それを聞いて理子はなるほど、と心の中で頷いた。この間、優一郎が切って虹色の珠にしてしまったあれのことだ。どうやらこの女性はあれと知り合いだったらしい。
「それが何か?」
平然とした顔をして優一郎が言う。すると女性は何か言いたそうに口を開き、だが結局は俯いて何でも、と呟いた。
「何の用?」
現れた時のまま、部屋の隅で佇み女性が問う。
「これまで、僕はあなたの振る舞いを放置してきました。しかし、克人くんのように勘違いから不幸な事にならないように、関係をしっかりと確認しておいたほうが良いかなあと考え直しました」
そう言いながら優一郎がゆっくりと女性に近付いていく。理子は二人の邪魔にならないよう、実験台に近付き、鈴の機体の観察を始めた。足を開いて横たわる鈴の股間を覗き込んでみる。
「心配しなくても、もうわたしは何も出来ないわ」
俯いたままで女性が小声で言う。理子は会話する二人を余所に鈴の陰部を指でつついてみた。優一郎に抱かれた時のまま、鈴の股間はぐっしょりと濡れている。つんつんとクリトリスの部品をつついていた理子は、心の底でおお、と声を上げた。つついた拍子に鈴の膣口から精液が零れてきたのだ。
「そんなことはありません。あなたには僕の下でしっかり働いてもらう予定です。地龍、紫よ、空の主として、汝を我が配下に迎えん」
「拒否権はないの?」
女性が消え入りそうな細い声で言う。理子はそんな女性をちらりと見てから鈴の股間に目を戻した。もったいないもん、と心の底で呟き、鈴の膣から零れてきた精液を舐め始める。
「ありません。それでは紫さん。疲れているようですし、今日はもう眠りについてください」
そう優一郎が声をかけた後、女性が小さな声を漏らしてふらつく。ぐったりと脱力した女性を抱えた優一郎がくるりと振り返ったところで顔を引きつらせる。理子はそんな優一郎に気付かず、鈴の陰唇を指で割り開き、零れてきた精液を舐め取っていた。
「理子。どう? ヒューマノイドの女性器ユニットは?」
「んうっ!?」
急に声を掛けられて理子は目を白黒させた。息を吸い込んだ拍子に精液を気管に吸い込んでしまい、思わず何度も咳き込む。優一郎は両腕に先ほどの女性を軽々と抱えて理子のところに歩いてきた。
「うう、吸い込んじゃった」
目に浮かんだ涙を指で拭い、理子は何度か咳払いをして苦しさを紛らわせた。それから優一郎を見て首を傾げる。
「パパ? どうしたの? その人」
会話を途中から全く聞いていなかった理子は不思議に思いながら訊ねた。
「配下に迎えた。これからヒューマノイド化しようと思ってる」
「え? その人、ヒューマノイドにしちゃうの?」
理子は目を丸くして優一郎の抱える女性を見た。大人しそうな顔をした女性だ。だが何故か女性の顔はさっき見た青年に少し似ているような気がした。
「適正は完璧だからね。そうだ、理子が何かアイデアあるなら、いろいろ組み込んでも面白いかも」
「それはいいけど……その人、パパに逆らえないんだから、ヒューマノイドにする意味、ないんじゃない?」
首を傾げてから理子は身軽に実験台に飛び乗った。優一郎が微笑みを浮かべて理子と腕の中の女性を見比べる。
「理子は、自分の言うことを聞かない女性が、僕の配下に居て平気?」
「それは嫌だけど……。だってその人は、逆らおうとしても逆らえないよ? 理子、そのくらいのこと判るもん」
理子は唇を尖らせて足をぶらぶらと揺らした。この女性がどんなにあがこうと、優一郎の命令には絶対に逆らえないだろう。
「ある意味、この女性のためってところもあるかな」
「どうして? さっきのお話だと、この人はあの男の人のじゃないの?」
青年のことを思い出し、理子は唇に手を当てて天井を仰いだ。その時の会話に出ていた紫というのがこの女性のことなのだろう。
「理子は反対なの?」
「理由が判らないから訊いてるのっ。それともパパはちょっと気に入った女の人はぜーんぶヒューマノイドにしちゃうの?」
そう言って理子はぐるりと周囲を見回した。ここはいつも見慣れた清陵高校の地下ではなく、巣穴のあった場所に優一郎が作ったところだ。優一郎はあれから次々に必要なものを引き寄せ、この建物の中には数人のヒューマノイドがいる。
「僕は空の主だからね。そのほうが制御しやすいし」
「あ、ずるい。してみたいからって言わないんだ」
理子はうろんな眼差しで優一郎を見た。優一郎が少しの間を開けてから微笑みを浮かべる。
「もちろん、してみたい。理子も好奇心抱いてくれてるみたいだし、一緒に楽しくこのひと改造しない?」
「最初からそう言えばいいのにっ。もうっ」
理子は拗ねた顔をしてつん、と横を向いた。困ったように笑う優一郎につられ、思わず吹き出す。理子は明るい声で笑いながら頷いてみせた。
優一郎は開き直ると強いw