※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


一般論でおれは酷いですか!

 水鏡には悲惨な現場の様子が映し出されている。先の大陸に続いて沈んだのは南にある島の幾つかだった。水輝はじっと水鏡を見つめて目を細めた。そうかと思うと、とある海のど真ん中に突如として広大な土地が現れたという。地上で発信されるニュースに少し繋ぐだけで、水鏡には騒々しい光景が幾らでも映し出される。

 

 ベッドに座る奈月が唇を噛みしめて水鏡を見つめている。その隣には翠が座っている。そんな二人を振り返ってから水輝は水鏡に目を移した。

 

『本当に荒れ模様になったな』

 

 ぽつりと呟いて水輝はため息を吐いた。桜が妹たちと表現したあの使い魔たちは地中に根を張り巡らせて地を支えていたのだ。彼女たちが一斉に消えたことで地上のあちこちでは大きな災害が起こっている。地震や嵐ならまだ人々も対応出来るだろう。が、唐突に地面が海に沈むなどという経験を彼らはしてはおらず、逃げることも出来ないままでたくさんの生命が消えてしまった。

 

『桜さんも、あれから……』

 

 小声で言った佑がちらりと檻の方を見やる。檻に閉じこめてあった桜があれから目を覚まさないのだ。そうだな、と呟いて水輝は深々とため息を吐いた。

 

『立城が使い魔たちを切り捨てたからな。仕方ないだろ』

 

 水輝は不機嫌な顔をして言ってから水鏡を見た。大きな地震が発生し、高波が船をさらい、そして人の暮らす場所を襲う。

 

『手を下したのは優一郎よ』

 

 そう言ってから佑が表情を曇らせる。優一郎が巧妙に自分の責任にならないようにしていたことを思い出したらしい。あの時の彼女たちは自発的に命を絶つしかなかった。何故なら木は根を奪われては生きられない。かといって優一郎に与する訳にもいかない。

 

『奴らの判断は賢明だろ。どうも優一郎は切れてるらしいからな』

 

 低い声で呟いて水輝は水鏡に映る場所を切り替えた。それまで水鏡に映っていた被害地の様が消え、代わりに白い建物の中の様子が映し出される。そこには見覚えのある女が映っていた。

 

『あーあー……』

 

 水鏡を見つめて水輝は思わず呻いた。どうやら優一郎は紫を改造することにしたらしい。台に横たわる紫の形をしたものを見て水輝はため息を吐いた。

 

『わたしの娘に手をだしたくせに、まだ人形ごっこするの? こいつ』

『まあ、それだけヒューマノイドが好きなんだろ』

 

 もしかしたらセックスよりも好きなのかもなあ。のんびりと言って水輝はソファの上に片膝を立てた。立てた膝に顎を乗せ、おかきを器から取り上げて口に放る。

 

『違うわ……。優一郎の奴……!』

『あ? どうした?』

 

 水輝は訝りを覚えて眉を寄せた。水輝の隣に座る佑が鋭い目で水鏡を見つめている。

 

『手を下さずに、済ますつもりなのよ。また……』

『あー……。まあ紫の性格ならなあ。そうなるかも知れないな』

 

 そしてまた自分の首を絞める、と。水輝は小声で呟いて湯飲みを取り上げ、熱い茶を少しずつ啜った。水鏡に映された白い部屋の中で優一郎は熱心にヒューマノイドの機体を組み立てている。

 

『何考えてるの? こんな無責任な奴じゃなかったのに……』

『それだけ理子が大事なんじゃないか? 立城が狙ってると思ってるしなあ』

 

 のんびりと答えて水輝は茶をずずず、と啜った。空になった湯飲みを覗き込み、奈月にお代わりを要求する。それまでベッドに座って身体を強ばらせていた奈月が慌てて頷き、茶をいれるために空間の隅に向かって駆けていく。

 

『そんなの、被害妄想じゃない!』

『いや、焚きつけたのはおれのような気がするぞ』

 

 テーブルに湯飲みを置き、水輝はまた膝に顎を乗せた。

 

『そうだったかしら?』

『だから子供を狙うことにしたんだろって言ったろ。狙うって意味の認識が若干、ずれてるらしいが』

 

 茶をいれた急須を持った奈月がとことこと近付いてくる。奈月は手際よく二人の湯飲みに茶を満たした。

 

『あれって……』

『出てこないつもりなら、僕が直接、君たちの子供を育てちゃうぞ! 嫌だろ、ほらほら、嫌だろう! ……という意味だな』

 

 テンションの高い喋り方をわざと作り、水輝はそう言った。それまで水鏡をじっと見ていた佑が呆れた顔をして水輝を見る。茶を淹れてくれた奈月にありがとうと礼を言い、水輝は湯飲みを取り上げた。熱い茶の表面に細い息を吹きかける。

 

『でも、必然だったのかもしれない』

『ま、優一郎が切れたらやばいってのは判ったがな。……しかし、こんなの止めるのか? 命が幾つあっても足りねえなあ……』

 

 ぼやきに近い口調で呟いて水輝は慎重に茶を啜った。ほどよく淹れられた緑茶はとても美味い。

 

『なんで水輝さんが?』

『紫翠を止めるのはおれの役目だからなー。まあ、微妙にそのものって訳じゃないが、奴らが切れたら止めなきゃならんだろ』

 

 当たり前の顔で言って水輝はまた茶を啜った。

 

『だめよ! 水輝さんが出て行ったら、余計酷いことになるわ!』

『殴られたいですか、おまえは』

 

 堅苦しい口調で言って水輝は横目で佑を睨んだ。力一杯声を張り上げた佑が慌てたように手を振る。

 

『ごめんなさい。ただ、わたしは一般論を……』

『一般論でおれは酷いですか!』

 

 顔を強ばらせて水輝は叫ぶようにして言った。身を竦めた佑が怖々と水輝を伺う。水輝は深々とため息を吐いて水鏡を指差した。

 

『よく見てみろ。理子を』

『やっぱり、親子よね……』

 

 佑が感心したように呟き、うんうんと頷く。違う、と声を荒らげて水輝はぱちんと指を鳴らした。すると水鏡に映っていた光景が暗く沈み、そこに映るものが持つ力がぼんやりと光の形になって現れる。

 

『いいか。理子はお前の命を吸って生まれた。そのために佑は器を維持することが出来なくなった。大量にあったお前の命だからな。かなりの時間保つはずだった』

 

 銀色の光は微かに揺らめいている。

 

『理子が司るのは命だ。この世界に生きる者が一度に、しかも大量に命をなくしてみろ。影響がない訳がない』

 

 仏頂面で解説してから水輝はまた指を鳴らした。すると水鏡の光景が元通りになる。

 

『仕方ないわねえ。だいじな娘の命がかかっているとなっては、放置しておくわけにもいかないか……』

『立城と優一郎がやってる陰険合戦でな。一つだけ決定的な差があるんだ』

 

 嫌な顔をしつつ水輝はぼそぼそと小声で言った。

 

『おじさまのほうが一枚上手よね。優一郎はいきあたりばったりで動いてるだけっぽいし』

『違う。表面的に見れば確かに佑の言う通りだが……』

 

 そこで言葉を切って水輝は深々とため息を吐いてうなだれた。

 

『優一郎は理子と会って間もないから、理子の全てを知ってる訳じゃない。恋は盲目ってな。まるで新婚生活でもしてる気分だろうよ』

 

 ああ、言いたくない。そう思いつつも水輝は仕方なく言葉を継いだ。

 

『ところが立城の奴は……おれのことを……』

 

 苦しい顔をして水輝は低い声で呟くように言った。それまで水鏡を見ていた佑が不思議そうな顔をして水輝を見る。その直後、佑は遠慮のない声で水輝を笑い飛ばした。

 

『くそ、笑うな! だから言いたくなかったんだ!』

 

 水輝は喚きながらがばっと顔を起こした。それまで笑っていた佑がぴたりと笑うのをやめ、まじまじと水輝を見る。

 

『違うわよ。おじさまの知ってる水輝さんなんて、もう存在しないのに、馬鹿みたい』

『あ』

 

 水輝は目を丸くして息を飲んだ。やれやれとでも言いたそうに佑がため息を吐いて肩を竦めてみせる。

 

『どっちにしても、酷いことになるわ。おじさまのほうもかなり危ないってことだもの』

 

 一転して真面目な顔になった佑が言う。そうだな、と呟いて水輝は頭をかいた。佑が言うほど自分が変わったようには思えない。が、もしかしたら外から見なければ判らないのかも知れない。

 

『さってと。一暴れしてきますか』

 

 ふふふ、と笑った佑が腰を上げる。水輝はやれやれと言いながら湯飲みをテーブルに戻した。

 

『くれぐれも言っておくが、無茶はするなよ。おれも出来る限り無茶はしないつもりだが』

 

 ゆらりと立ち上がって水輝はため息を吐いた。




水輝の叫びをエピタイにしてみました。
水輝と佑の組み合わせは本当にヤバいというか物騒というか。
2人とも壊すことしか出来ないのです。
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