※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


仕事を放り出してバカンスへ

 この忙しい時に、何でこの男はこうもばかみたいに明るいのだろう。

 

 突如、部屋の中に現れた順を見て透はげんなりと肩を落とした。それでなくても処理しなければならないことが山積みになっているというのに、この男は目が覚めた直後に屋敷を飛び出し、今までずっと連絡も取れない状態になっていたのだ。

 

「おっ。なんか透ちゃんがぷるぷるしてるっ。もしかして感動して涙した!?」

 

 あははは、と呑気に笑って順が透の肩をばんばん叩く。相変わらずのアロハシャツとジーンズという格好に身を固める順の背後には、何故かあの和也も居る。

 

「我ながらなかなかいいアイディアっしょ!? 南の島でかわゆいおにゃのことらぶらぶアハーンなバカンス! ほら、透ちゃんってばここのところ働きづめっしょ? たまには羽根を伸ばさないとダメよーん」

 

 へらへらとだらしなく笑いながら順が何度も透の肩を叩く。出来れば女の身体になっている時には少し加減して欲しいのだが、どうやら順のこのテンションだと素直に聞いてもらえそうもない。

 

「あんたねー! あたしがどれほど忙しいか、解ってて言ってるの? あたしの代わりに、あんたが動いてくれるとでも?」

「いや。だってさ。透ちゃんだって襲いかかる人智を超えた高さの高波とか、激しく揺れる地面が割れるとか、そういうの見たくないっしょ?」

 

 必死の面持ちで言った透に順がけろりとした顔で言い返す。その背後にいた和也が至極当然という顔をして言う。

 

「要するに逃げろってこったな。下手すりゃここら一帯沈むしな」

「んー、優一郎刺し殺してきても、やっぱダメ?」

 

 しかめ面をして透は言った。原因があの二人であることははっきりしているのだ。しかも片方の優一郎は相当に羽目を外している。その程度のことは透にもよく判っていた。

 

 むー、と腕組みをして唸った順が難しい顔をする。

 

「無理だから。透ちゃんには。それに出来れば透ちゃんには危ないことして欲しくないし」

 

 そう言った順の腕には一振りの刀が抱えられている。そのことについても訊きたいのだ。何で順は透が貰ったはずの青藍を抱えているのだろうか。

 

「わかったわ。あんたの言うとおりにしてあげる」

 

 透は順と和也を交互に見てから重々しく頷いた。うんうん、と笑った順が気軽に透の肩を叩く。

 

「透ちゃん、今度えっちしようねっ」

「いいから早く支度しろ」

 

 げいん、と順の頭をげんこつで殴り、和也がぶっきらぼうに言う。透は呆れたため息を吐いて腰を上げた。多分、順が言うのだから相当に状況は切迫しているのだろう。

 

「何で殴るんだよー! 近親相姦は変態の基本って知らないの!?」

「まだ言うか」

 

 喚く順を睨みながら和也が指を鳴らす。

 

「あんたたちがらぶらぶなのは解ったから、さっさと準備始めてるわよ!」

 

 そう言い捨ててから透は足早に部屋を出た。言われた通りに支度を済ませ、要やちなりたちに声を掛ける。用意が整ったところで透は元の部屋に戻った。

 

「ほんじゃ、楽しんできてねっ!」

 

 気軽に言った順が指を鳴らすと、透たちは部屋から転移した。一瞬の後に見知らぬ部屋に現れる。窓からはエメラルドグリーンの海が見える。歓声を上げて窓に駆け寄った四人を余所に、透は仏頂面で荷物を床に放り出した。

 

------------

 

 その日、何故か急に二人の男が執務室に現れた。優雅にヒューマノイドと戯れていた渚は現れた二人の男を見止めて深々とため息を吐いた。執務机の前で渚に跨っていた祐が驚いたように息を飲む。

 

「やあ! 渚ちゃん、その他大勢の皆様! 南の島へバカンスに行きませんか!?」

 

 やたらと明るい声で言って順がへらへらと笑う。渚はうろんな目でそんな順を見つめ、またため息を吐いた。

 

「見て判る通り、今はもの凄く忙しいんだけど?」

「渚様」

 

 執務机の脇で渚に今日のスケジュールを説明していた道代がそう声を掛けてくる。渚はそちらを見て何事かと訊ねた。

 

「各所で疎開の動きがあります」

「なるほど。つまり、ここは危険ということ?」

 

 道代に頷いてから渚は順に目をやった。順はにこにこと笑っているだけだ。確かにこの辺りにはかなり濃い力が蔓延しており、いつ弾けてもおかしくない状況になっている。

 

「まあ、オレは別にどっちでもいいがな。てめえらを全部移動させるとなると、なかなか骨が折れるしな」

 

 順の隣に立っていた和也が仏頂面で言う。なるほど、執事の仮面を剥がしてしまいたくなる程度には事は切迫しているということだ。

 

「渚様、今ならちょうど全社員が揃っています。ご決断を」

「用意は万端ということね」

 

 小声で呟いてから渚は頷いた。

 

「いいわ。みんなでそのバカンスとやらを楽しむことにしましょう。ただし!」

 

 そこで声を張り上げて渚はびしりと指を立ててみせた。

 

「この施設を丸ごと移動させて頂戴。この子たちは設備がないと維持できないし、全く仕事が出来ないというのも困るわ」

「え、まさかこのビル丸ごと?」

「出来ないの?」

 

 渚はぎらりと順を睨みつけた。すると順が頭をかきながら視線を彷徨わせる。その後、まいっか、と順は軽く頷いてみせた。




透と絵美佳と書き分ければ良かったのですが……。
同一人物なので地の文がぐっちゃになってますね(汗)

渚のところは短かったので透のところと一緒にしました。
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