あ、若干BL風味なので注意です。
「だーから、そんなんじゃねえっつってんだろ!」
身体のあちこちに包帯を巻いた水輝は憮然とした面持ちで怒鳴った。だが控え室で同僚たちは楽しそうにまだ騒いでいる。
「うっそうそ! 絶対、あれってば水輝さんが好きなんですよ!」
「そうでなきゃ、オレらにバイクまで用意するか!?」
相変わらず脳天気な。水輝はそう呟いて力なく首を振った。あれから一週間が過ぎたのに他に話すことがないのか、同僚たちは何かと言えばその話ばかりしている。
今回の事の顛末を水輝は病室のベッドの上で聞いた。無謀にも刀一振りで魔に斬りかかったため、水輝の全身は傷だらけになってしまったのだ。今もまだ折れた骨は繋がっていない。だが同僚たちが店に来いと余りにも煩いので仕方なく出勤しているのだ。
水輝が紫藤に連れ去られた後、しばらく経ってから北原が立城にその話をしたのだという。北原は北原なりにずっと悩んでいたのだ。もしも紫藤に刃向かうとなれば店の運命も危うくなる。だが北原は水輝を助けようと決死の覚悟で立城に相談したに違いない。
その話を聞いた立城は北原に出資したいと申し出たのだという。驚いたのは北原だ。確かに立城は最初から嫌に金払いのいい客ではあった。だがホストを一人侍らせるのと店の経営を助けるのとではかかる金の桁が違う。北原が驚いたのは無理もないだろう。ちなみに未だに北原を始め、店の従業員たちは立城の正体を知らない。
あっという間に準備は整った。元々、水輝は好かれていたこともあって同僚たちはすぐに話に乗ってきたのだという。その話を聞いた水輝は呆れるあまりに見舞いに来た同僚の幾人かを張り倒した。
水輝が入院していた病室に紫藤が現れたのは、それから三日後だった。紫藤はばつの悪そうな顔をして水輝と別れたいと言った。どうやら紫藤は早急に組の建て直しをしなければならなくなったようだ。もっとも、あんなことの後なのだから建て直しはどうあっても必要だっただろうが。
「大親父殿にえらく叱られてな。男妾にうつつを抜かすなと絞られたよ」
そんなことを言って紫藤は苦い笑いを残して水輝の許を去っていった。病室を出際にちゃっかりとたまには遊びに来いと言えるのが、きっと紫藤の懐の深さなのだろう。
立城にはあれから会っていない。もしかしたら立城は最初からこうなることを読んでいたのだろうか。水輝はそんなことを思いながらちらりと自分のロッカーに目をやった。ソファに腰掛ける水輝の傍ではまだ同僚たちが話を続けている。
ロッカーには刀が納まっている。立城に返しそびれているのだ。
「そろそろ開店だよ。準備して」
北原が控え室に顔を覗かせる。それぞれに返事をして立ち上がる同僚たちと同じように水輝も腰を上げた。部屋を出ようとした水輝を北原が呼び止める。
「あの……後で」
少し頬を染めて北原がぼそぼそと呟く。水輝は眉を寄せて北原に顎をしゃくってみせた。すると北原が覚悟を決めたように頷いて、かたく目を閉じる。
「ぼくとセックスしよう!」
「オッケー。上がったら行く」
廊下を行く同僚たちが口笛を吹く。水輝は苦笑を浮かべて北原に片手をあげた。
いらっしゃいませ、と最初の客に揃って頭を下げるところから営業は始まる。同伴で出勤してきた同僚が女連れで席に着く。水輝は折れた左腕を首から吊ったまま、右手だけで器用に客の酒を注いだり、煙草に火を点けたりした。怪我をしている水輝に客たちは揃って同情してくれた。そんな客たちに水輝は大丈夫ですからといつものように営業用の笑顔を向けた。
店内の最奥にあるVIPルームは立城専用ということになっている。だからあれから誰もあの部屋には入っていない。だが同僚たちは仕事が終わるとその部屋もしっかりと掃除する。いつ、立城が来ても大丈夫なようにだ。
その日の仕事が終わり、水輝は約束通りオーナー室を訪れた。まだ北原は気弱なところがあるが、あの日のことが少しは自信に繋がったらしい。部屋を訪れた水輝を笑顔で迎え入れる。
「あのね、水輝君。これは言わずにおこうと思ったんだけど」
セックスの後、二人で後始末をしてから北原が改まって言う。椅子を勧められて腰掛けた水輝はぶっきらぼうに何だと訊いた。
「ぼくは水輝君が好きなんだ」
「知ってる」
出された茶を憮然とした面持ちで啜る。そんな水輝を北原は驚きの目で見た。いつからだろう。北原の視線に好意以上のものが含まれていると気付いたのは。だが水輝は自分からはそのことを口にしなかった。
「あの、水輝君は……その……」
「ごめん。おれ、オーナーの気持ちには応えられねえ。セックスだけなら出来るけどな」
水輝ははっきりとそう返事した。すると何故か北原がそうだよね、と言って微笑みを浮かべる。何だよ、その笑いは。水輝は不機嫌な顔で北原に問い掛けた。
「だって水輝君はほら」
「ほら、じゃねえ! あんたまであいつらと同じこと言うつもりか!?」
怒りを込めて睨みつけるが北原はにこにこと嬉しそうに笑ったままだ。けっ、と喉の奥で言って水輝はしかめ面をしたまま茶を飲み干した。
「だってお似合いだと思うし。あ、ちょっと、水輝君!?」
「うるせえ! 今度言ったらしばく!」
水輝は大股でオーナー室を出て乱暴に扉を閉めた。扉の向こうから北原が楽しそうに笑う声が聞こえたが、水輝はそれを無視することに決めた。
日が巡り、やがて本格的な夏が訪れる。暑いな、とぼやきながら水輝は急ぎ足で歩いた。今日はどういう気紛れなのか、バスが随分と遅れてしまったのだ。おかげで水輝は遅刻する羽目になっていた。
夕暮れに鳴く蝉の声がする。水輝はバスのロータリーから電車のホームに向かった。会社帰りの人々がホームに溢れている。今日はやけに人が多いと思ったら、電車まで気紛れを起こしているらしい。電車の到着時間が遅れているという案内がスピーカーから流れる。水輝は舌打ちをして携帯端末を取り出し、店に電話を入れようとした。
携帯電話ってまだ書いてある……書いた時期的にそーなんだけども……。
目に付いたらついつい修正してます。
目に付かなかったらそのままです……。