近親警報!
機械なので苦手な方は避けてください。
仲良く手を繋いで寝室に入ったところで理子はぴくりと眉を上げた。どうやら優一郎も同時に気付いたらしい。理子は唇を尖らせて拗ねた顔をした。
「せっかくこれからパパといちゃいちゃしようと思ったのに!」
優一郎が張り巡らせた結界を誰かが乱暴にノックしている。理子は苛々とその気配を探った。結界を煩くノックしているのは、どうやら優一郎がさっき作り出したあの青年らしい。あの青年の名は真也というのだと、理子は後で聞いた。
不意に部屋の中に真也が現れる。優一郎が引き寄せたらしい。理子はまじまじと真也を見た。真也は何故かとても機嫌の悪そうな顔をしている。
「父上、また、お会いしましたね」
優一郎がにっこり笑うと、余計に真也の顔が険しくなった。
「俺はごめんだったんだがな」
憎まれ口を叩いてから真也は口早に言葉を継いだ。
「預かってきた伝言だ」
そう前置きした真也が仏頂面で言う。多輝、可哀想に。ひとりぼっちで泣いているよ? 僕とした約束を反故にするつもりなのかな。それを聞いた理子は目を見張ってばい菌、と呟いた。
「父上、わざわざありがとうございました。そうだ、父上にお礼の品を差し上げたいのですが……」
「礼の品?」
真也が嫌そうな顔をして言う。理子はまじまじと真也を見て首を傾げた。優一郎が作ってから今までの間、それほど時間は経っていない。なのに真也の持つ力は格段に上がっている。
ふと、真也が少し表情を緩める。
「紫が居るな、ここに」
どこかほっとしたような口調で言ってから真也が優一郎を見る。その目はさっきまでとは違い、どことなく笑っているように見えた。
「差し上げます。というか、彼女を救ってください。どうやら、このまま消滅することを望んでいるようなのです」
「おお、なかなかいい仕事するじゃねえか」
何故か嬉しそうに言って真也が優一郎の頭をよしよしと撫でる。それを見た理子は疑問を首を捻った。何故、真也は紫が死にかけているというのに嬉しそうなのだろう。口許にはにやにやと笑いを浮かべているのだから、言っていることは嘘ではないのだろう。
「あ、あの、父上?」
もしかしたら怒られると思っていたのだろうか。優一郎が伺うような顔をして言う。だが真也はやけに機嫌良く頷き、優一郎の頭を少し乱暴に撫でた。
「紫、すげえ嫌がるだろうなあ……。うわあ、想像するだけでたまんねえ」
さっきまでの態度とは一転し、真也は嬉しそうに言ってから優一郎の首に腕を回して脇に引き寄せ、頭を片手でがしがしと撫でた。パパ、大丈夫? 理子が心配して声を掛けると優一郎は少し顔を上げて目で頷いてみせた。
「ほら、何してんだよ。とっとと案内しろ」
自分で優一郎の頭をがっちりと抱えていたくせに、真也がやけに偉そうに言う。優一郎は困ったような顔をして乱れた服を整えた。
「こちらです」
そう言って優一郎は先に立って歩き出した。寝室を出る優一郎に真也が従い、その後を理子は追った。よく判らないが、真也は紫がヒューマノイドになってしまったことを喜んでいるらしい。しかも紫が死にかけているというのにやたらと嬉しそうだ。
紫が休んでいるのは保持ベッドがある部屋だ。やはり紫の命の灯火には翳りがある。ドア越しにそれを見て取った理子は少しだけ顔を曇らせた。優一郎がドアを開け、真也が中に入った瞬間、紫が悲鳴を上げる。
「へえ。ちょっと見ない間に随分いやらしい身体になったな」
笑いながら真也が声を掛けると、それまで死んだような目をしていた紫がはっとしたように息を飲んだ。
「いや! 見ないで!」
「おーお。作り物のナニがよく通ってら」
紫の機械仕掛けの膣に出入りするディルドを見下ろし、真也がくすくすと笑う。それまで黙って二人を見ていた理子は思わず小さな声を漏らした。
翳りが少しずつ消えている。紫の命を示す銀色の灯火に混ざっていた翳りが少しずつ減っていく。
「嫌! やめて! もういや! 嫌なのお!」
それまで黙りこくって死んだように横たわっていた紫が暴れようとする。だが手足がベッドに固定されているために思うように動けないらしい。
「機械で緊縛か。びしょ濡れだぞ、紫」
「父上、制御用のマニュアルです。一応、解りやすく製本したつもりですが」
優一郎が差し出した薄い紙の束を真也が受け取る。
「悪いな。何から何まで世話になっちまって」
「真也! やめてったら! わたし、こんな身体で、生きられない!」
悲鳴を上げて紫が身を捩る。理子はゆらりと手をあげて紫を指差した。
「うん。さっきまではそうだった。でも今は違う」
当たり前の顔をして言った理子を紫が驚いたように見る。理子は紫の命の灯火をもう一度確認してうん、と頷いた。
「良かった」
ほっとした顔をしてから優一郎がベッドに付いているスイッチボックスを操作する。
「とりあえず、ディルドの抽送を停止しますね。これがマスター登録用のスティックです」
保持ベッドを操作してから優一郎は手を宙に差し伸べた。その手の中に禍々しい紫色のスティックが現れる。優一郎はそのスティックを真也に差し出した。おう、と返事した真也が紫の足許に回る。
「似合いの色じゃないか」
「いや! やめて、真也!」
スティックと紫を見比べてにやにやと真也が笑い、紫が悲鳴を上げる。理子は不思議に思って首を傾げた。紫は口ではああ言っているが、大して嫌がっていない気がする。
「ほら、いつもみたいに言えよ」
「嫌だってば!」
泣きじゃくりながら紫が身を捩る。ほー、と感心した声を漏らしながら理子は腕組みをした。
「嘘吐け。濡れまんこに棒きれを突っ込んでくださいって言えよ!」
「いやあ!」
何度も首を振って紫が叫ぶ。理子は何となく不思議なものを見る気分で二人を見つめていた。何となく傍に立つ優一郎の手を握る。すると優一郎は何故かぎくりと肩を竦めた。
「どうしたの? パパ」
「えっと、その、いや。うん。理子が気にならないなら……」
戸惑ったような顔で理子を見やり、優一郎が消え入りそうな声で言う。理子は不思議に思って首を傾げた。二人がそんなやり取りをしている間にも真也が紫を鋭い声で叱咤する。
えーと、紫と真也は双子の兄弟でして。
いえ、兄弟だった? のかな? なので、一応、近親警報を出しておきました。
書いてから、真也はここまで鬼畜だったっけか?w と思った気がします。