※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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ここから九章です。
確かこの章は短かったような気が……。
多分ですが。


九章
躾とか!w 1


 久しぶりに自分の目で見る地上の景色を楽しむ間もなく、水輝は真っ直ぐに目的の場所を目指して宙を飛んでいた。

 

「いいか、くれぐれも言うが、絶対に攻撃するなよ。お前たちが手を出すと洒落にならん」

 

 傍を寄り添う形で飛んでいた佑と奈月に水輝は苦い顔で言い聞かせた。

 

「わかってるわよ。大丈夫」

「はい」

 

 佑に振られた奈月が真剣な顔で頷く。ほんとかよ、とぼやきながら水輝は頭をかいた。本当ならこの二人にはあの空間で大人しくして欲しかった。が、どうせ言ってもこの二人は聞くはずがない。それなら連れて行って直に注意した方が無難だ。

 

「絶対、口出すなよ」

 

 どのみち、戦う気はない。そう言ってから水輝はひらりと地上に降り立った。佑と奈月が次々に着地する。明け方の白い光に包まれた大きな屋敷が目の前にある。水輝は無言で庭を横切り、広い玄関に辿り着いた。待ち構えていた和也が屋敷の鍵を手早く開ける。

 

「何だ。てめえらも来たのか」

 

 呆れたような顔をして和也が佑と奈月に声を掛ける。

 

「何か文句ある?」

 

 和也の案内に従って屋敷の中を歩きながら佑が小声で言う。すると和也はしかめ面をして佑と奈月を睨みつけた。

 

「話を混ぜ返すのだけはやめろよ」

 

 それだけ言ってから和也は足を止め、玄関の方へと引き返した。どうやら案内はここまでということらしい。水輝は礼代わりに和也に片手をあげてから広い階段を昇り始めた。

 

 明け方の屋敷の中はしんと静まりかえっている。屋敷の主である立城は三人が来たことに気付いている。が、止めないのは恐らく入ってもいいということだろう。

 

「今、おじさま、こんな成金趣味の屋敷に住んでるんだ……」

 

 そう言いながら佑が周囲を見回す。水輝は苦笑して辺りを見回した。確かに元居た屋敷の方が装飾も少なく、雰囲気も落ち着いていたような気がする。

 

 階段を昇り、気配を辿った先に部屋がある。水輝は二人に目配せをしてからドアをノックした。どうぞ、という立城の声が聞こえてくる。水輝は静かにドアを開けて部屋に足を踏み入れた。

 

 不意に妙な力が走る。水輝は目を細めて後を付いてきた二人を見返った。だが二人は部屋の奥から飛ばされた力を払いのけて水輝と同じように部屋に入ってくる。

 

「……人形を招待した覚えはないんだけどな」

 

 小声で呟いた立城が机から離れてゆっくりと歩いてくる。

 

「どうせ待ってろっても聞かねえしな。連れてきた」

 

 そう言って水輝は振り返ってから眉を寄せた。口許に手を当てた佑が苦しそうに肩を震わせている。どうやら笑いを堪えているようだ。こら、と小声で言って佑の頭を軽く小突いてから水輝はゆっくりと歩き出した。

 

 じゅうたんの上には裸の女が一人、転がされている。虚ろな眼差しをし、口から涎を垂らしている女を横目に見てから水輝は振り返った。

 

「お前らはそこに居ろ」

 

 佑と奈月をびしりと指差して水輝は低い声で言った。それまで必死で笑いを堪えていたらしい佑が、深呼吸をして身を起こす。

 

「ごめんなさい。つい……」

「怒ってないって。いいから、そこに居てくれ」

 

 しょんぼりとしている佑に声を掛けてから水輝は改めて立城の方を向いた。立城は唇を引き結んでかたい面持ちをしている。そんな立城の目の前で足を止め、水輝は大きく息を吐いてシャツのポケットを探った。

 

「帰ってきてくれたんじゃないの?」

「あー?」

 

 かたい声で問われて水輝は不機嫌な声を返した。引っ張り出した煙草を唇に挟み、ライターで火を点けて深く息を吸う。それから水輝は唐突に腕を振り上げ、立城の頬を平手で叩いた。手加減なしの平手を食らった立城が驚いたように目を見張ってよろける。

 

「目を覚まさせてやろうと思ってな」

「水輝さんってば、大サービスね」

 

 ぼそりと佑が呟く。そうか? と笑って水輝はちらりと佑を振り返った。刀を腰にぶら下げた佑がしかめ面をして腕組みをし、ドアに寄りかかっている。かと思うと奈月は胸の前に手を組み合わせ、はらはらとした様子でこちらを見守っている。

 

「なに言ってるの。君は僕のところに帰って」

「二発目っと」

 

 水輝はまた手を振り上げて容赦なく立城の頬を打った。身体を起こそうとしていた立城が呻きを漏らして床にへたり込む。

 

「だって、実体化したということはそういうことでしょう!?」

 

 勢いよく顔を上げた立城が声を張る。水輝は黙って立城の胸ぐらをつかまえて引き起こし、また右手を揮った。

 

「これはあの女の分だ」

「あの女って、あれは君なんだよ? だから戻らないと」

「四発目」

 

 水輝は低い声で呟いて立城に容赦ない力で平手を見舞った。同時に捕まえていた立城のシャツを離す。すると立城はまた床にへたり込んだ。

 

「水輝さんっ! やっぱり暴力はだめだと思いますっ」

 

 それまで祈るような格好をしていた奈月が声を上げる。ごめんごめん、と苦笑して水輝は振り返った。もう少しだから、と言うと奈月が目に涙を浮かべて膨れ面をする。かと思うとその隣では佑がもっとやれ、と言わんばかりに満足そうに頷いている。

 

「奈月さんの言う通りかも! 犬や猫にトイレ躾ける時でも体罰は逆効果だっていうし」

 

 ふと気付いたように佑が言う。そうかあ? と眉を寄せて水輝はまじまじと立城を見下ろした。何度も頬を打たれた立城はうなだれて肩を震わせている。ふむ、と呟いてから水輝は立城の腕をつかんで引き起こした。驚いた声を上げた立城を引きずって部屋の奥に進む。机にあった灰皿に吸いかけの煙草をねじ込み、立城を引きずってまた歩く。




ここから九章です。
やっと水輝が現実に出てきました。
とはいうものの、ですけど(汗)
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