BL警報!!
「ほら、余所見しない」
「キスしてくれたら頑張れそう」
微笑みを浮かべた佑に水輝はわざとそうねだった。びくんと身を竦めた立城が肩越しに振り返り、涙を浮かべた目で水輝を睨む。
「水輝さんってば……。んっ」
水輝は片腕に佑を抱き、深く唇を合わせた。佑の舌を舌で撫でてからそっと顔を上げる。
「落ち着いたらまたセックスしような」
佑の耳許に囁いてから水輝は改めて立城の腰を抱えた。
「めんどくせえなあ。早く出せよ」
仏頂面をして言いながら水輝は立城のペニスを右手で扱いた。立城はもう、何を言い返すことも出来なくなったのか、俯いて肩を震わせている。
「なにしてんだ!」
不意に鋭い声が聞こえる。水輝は苦笑して声のした方を見た。奈月に看病されていた女がいつの間にか身を起こし、慌ただしく駆けてくる。水輝は女に押し退けられるままに大人しく立城から離れた。
「大丈夫か!? 立城!」
気遣う声を掛けて女が立城の乱れた服を直しにかかる。水輝はさっさと服の中にペニスをしまい、煙草を引っ張り出して唇に挟んだ。床にへたり込んだ立城はうなだれている。
「立城に何すんだよ!」
女が立城を庇うように両手を広げ、水輝を睨みつける。やれやれと苦笑してから水輝は頭をかいた。この女の名前は沙耶という。沙耶は床に転がされていた時のまま、真っ裸で水輝の前に立ちふさがっていた。
「何って、セックス」
水輝は煙草に火を点けながらのんびりと答えた。すると沙耶が息を飲んで唇を噛みしめる。その目はまるで水輝を射殺してしまいそうなほど鋭い。
「まあ、でも大してどっちも気持ちよくなかったがな。あー、疲れた」
うんざりした顔で言って水輝は自分の肩を手で揉みほぐした。沙耶が歯軋りをして水輝を睨む。
「そんなこと……ねえだろ。立城は、お前が、好きなんだから」
「ばーか。んなはずねえだろ」
煙草を吸いながら水輝は横を向いてつっけんどんに答えた。すると沙耶が驚いたような顔をして水輝と立城を見比べる。
「好いたもの同士の交わりに見える?」
傍にいた佑が優しい声で沙耶に問う。すると沙耶は困惑した顔をして視線を彷徨わせた。もしも好き合っている者同士が交わっていたなら、沙耶も止める気にはならなかっただろう。さっきの光景が沙耶の目には立城が一方的に犯されているように見えたから止めに入ったのだ。
「ほら、これで判っただろ? お前が求めるおれなんてもんは、もういねえんだよ」
「……ずるいな」
それまでうなだれて黙っていた立城がぽつりと呟く。沙耶が慌てたように振り返り、立城の背を支える。
「僕より先に成長するなんて、ずるいよ」
「あー? 阿呆か。おれがてめえのことなんざ気にしたことが、これまでに一度でもあったか?」
寝言は寝て言え、とぞんざいに言って水輝は耳の穴を指で穿った。そうだね、と微かに笑った立城が顔を上げる。
「負けたよ」
そう言った立城が傍にいた沙耶の手をそっと取る。すると何故か沙耶は急にうろたえ始めた。
「それでは、お幸せに」
にっこりと笑った佑が水輝の腕に腕を絡める。じゃあ、と踵を返そうとした水輝を立城が待って、と呼び止める。不思議に思って振り返った水輝に微笑みかけ、立城は沙耶に向き直った。
「折角だから、みんなに聞いて貰おうと思って。僕の返事を」
「何だ。愛の告白の生現場でも見せつけるつもりか?」
苦笑して水輝は頭をかいた。うん、とにっこりと笑った立城とは対照的に沙耶が慌てたように手を振り回す。
「僕は君が好きだよ。僕も一緒に居たい。愛してるよ、水輝」
「うっ」
立城が言った直後、水輝と沙耶は同時に呻いた。せりふの主の立城はにこにこと笑っている。
「いっ、いや、あの! おれの名前はだな!」
真っ赤な顔をした沙耶が助けを求めるように水輝を見る。水輝は頭をかいて苦笑した。
「別に同姓同名の存在がないわけでなし。別に名前くらいいいんじゃねえか?」
そう言ってから水輝はなあ、と佑に同意を求めた。
「み、ず、きさん、お幸せにね」
「おお、幸せにな。水輝」
にっこりと笑った佑に合わせ、水輝も微笑んでみせた。くすくすと笑う立城の手をしっかりと握ったまま、沙耶がうろたえたように視線を彷徨わせる。
「さてと。もう片方をどうにかするか。あっちはちょっと難儀そうだがな」
よし、と気合いを入れ直して水輝は頷いた。すると床に座って沙耶をからかっていた立城が声を掛ける。
「優一郎くん?」
「ああ。下手すりゃ最終奥義使うっきゃねえなあ……」
「出来る限りはサポートするよ?」
それに、誤解も解かないと。そう言って立城が顔を曇らせる。水輝はそんな立城に苦笑してみせた。
「お前らは子供の世話をしてやれ。せっかく、やっと想いが通じ合ったのに……って、さむっ! ああ、言ってて口がかゆくなる」
途中でせりふを止めて水輝は苦い顔をした。
「人のこと言えないくせに」
そう言った佑が水輝に抱きつく。いや、自分のはいいんだ、と佑に言ってから水輝は振り返って奈月を呼ぼうとした。
が、何故かそこに奈月の姿がない。
「奈月!?」
「さっき、翠が来てたわよ」
気付いてなかったの? そう言って佑がまじまじと水輝を見る。ついつい近頃、気配に慣れ親しんでいたために注意するのを忘れていた。
「まあ翠なら……安心できないが、いやでも」
水輝は眉を寄せてぶつぶつと口の中で呟いた。出来るだけ早く優一郎を止めなければずれは酷くなる一方だ。
「とりあえず、奈月さんは水輝さんが思ってるよりはずっとしっかりしてるし。優一郎のほう行きましょう。なんかまた無茶なことやってるみたいだし」
「そうだな」
水輝は難しい顔をしたまま頷いた。そんな水輝に立城がふと声を掛ける。
「そう言えば……なんて呼ぼうかな……ああ、青龍王。あの時に使った呪文を覚えている?」
どうやら水輝という呼び名を自分の女房専用にするつもりらしい。立城がそう言って首を傾げる。水輝はああ、と頷いて胸の中であの時に組んだ呪文を反芻した。
「ずっと気になっていたんだけれど、光の公女は佑のことだよね?」
「ああ、そうだが?」
早く優一郎のところに行った方がいい、と判っていつつも水輝は真面目な顔で頷いた。
「あっ! そういうことか! なるほど!」
「ってこら。何でお前が先に納得するんだよ」
しかめ面をして水輝は佑の額を指先でつついた。考えるような顔をしていた立城が小声で言う。
「夜の女王というのが奈月さんだよね?」
「だからそれが何だよ!」
「夜の女王……世の女王じゃない?」
水輝を真っ直ぐに見つめて立城が言う。そこで水輝は顔を強ばらせた。
「あー!!」
「そういえば、さっきの翠、なんだかいつもと雰囲気違った気が」
少し考えるような素振りをして佑が頬に手をあてがう。水輝は真っ青になって握り固めたこぶしを震わせた。
「でもそういうことなら、幾ら青龍王でも止めるのは無理じゃないかな」
くすりと笑って立城が言う。水輝はぎしぎしと音がしそうなくらいぎこちなく首を動かして立城を見た。
「ストップ。水輝さん、優一郎が先。っていうか、翠の後を追跡するのなんて不可能でしょう?」
「そうそう。早くしないとこの国も沈みかねないからね」
佑に続いて立城が言う。水輝は顔を強ばらせたまま、二人の顔を見た。そんな水輝を佑がずるずると引きずって歩き始める。ショックに呆然となって佑に引きずられる水輝に立城と沙耶が笑顔で手を振っていた。
立城が仕方ないなー、と諦めました。
でもって奈月が掠われ(?)ました。