あ。機械で股間で会話なので、エロといえばエロ?
ドアがノックされる音が聞こえる。理子は枕に顔を埋めたまま黙っていた。だがノックはしつこく聞こえてくる。理子は仕方なく返事をした。すると部屋のドアを開けて沙雪が顔を覗かせる。
「あの、斎姫さまがこちらにまもなくいらっしゃいます。多輝さまから、連絡が入ったそうです」
「多輝ならパパに繋げばいいでしょ」
理子は枕に顔を埋めたままで沙雪に返事をした。優一郎があれから倒れてしまったことは聞いている。力を一気に消耗し過ぎて今は眠っているのだ。
「あの優一郎さまは……」
そう沙雪が言いかけたところでドアが大きく開き、今度は槙花が現れる。理子は気配に気付いてのろのろと顔を上げた。槙花は腕に優一郎を抱えている。
「それでは、私は下がります」
そう言った沙雪が部屋を出て行ってしまう。代わりに槙花は腕に抱きかかえていた優一郎を理子の隣にそっと下ろした。失礼します、と言ってから槙花も部屋を出て行く。理子は泣きはらした目でぼんやりと優一郎を見た。
「パパ。多輝から連絡きたって」
そう言って理子は優一郎の肩をつついてみた。が、優一郎はぴくりとも反応しない。あれだけの力を一度に消耗してしまったのだ。もう少し休まなければ起きられないだろう。理子はため息を吐いてまた枕に顔を伏せた。
理子……。そばに……。微かな優一郎の声を聞いて理子は慌てて顔を上げた。が、優一郎は眠り続けている。どうやら寝言だったらしい。理子はそっと息を吐いて枕にまた顔を押しつけた。
「判ってるもん。パパは多輝も大事なんだもん。理子だって多輝のこと好きだもん」
小声で呟いて理子は枕を握りしめた。
僕は……理子とともに……。君にもわたさない……。小さな優一郎の呟きを聞いた理子はぎょっとしてまた顔を起こした。優一郎は眉間に皺を刻んで難しそうな顔をしつつ寝言を言っている。
「一体、どんな夢見てるんだろ、パパ」
少し笑って理子は優一郎の眉間に指を当て、少し押さえて皺を伸ばそうとした。パパ、大丈夫だよ。と囁きながら触れているうちに、優一郎の顔から険しいものがゆっくりと消える。
ほどなく部屋のドアがまたノックされる。理子が返事をすると斎姫が部屋に入ってきた。ぺこりと頭を下げた斎姫に合わせて理子も何となく頭を下げた。これまでに何回も見かけているはずなのに、何故か新鮮な気がするのはきっと会っている場所にせいだろう。これまで理子が斎姫と会ったのはここより上の階層だけだ。
「理子ち……理子さま、多輝さまより通信が入っています」
「前みたいに呼んでくれていいのに」
理子はそう言ってからベッドを飛び降りた。斎姫が軽く会釈をして床に座り、腿を開く。理子は言われるままに斎姫のクリトリスを操作した。
「理子さま、制御ありがとうございます。あと、呼称については理子さまが命じられるならば変更いたします」
よほど恥ずかしいのだろう。斎姫が顔を俯けて言う。だが理子には斎姫の心の動きがよく判らなかった。うーん、と唇に指を当てて首を捻る。
「だって理子、様って言われるようなことなにもしてないもん。斎姫お姉さんがそう呼びたいんならいいけど……」
斎姫の股間は人とは随分かけ離れている。あちこちの部品はむき出しになっていて機械だということが一目で判るのだ。クリトリスもまるでボタンのような形をしていて、生身のそれとは随分手触りも違う。理子は斎姫の前にしゃがみ込んで指先でクリトリスをつついてみた。
「メカクリトリス勃起レベル2。音声出力切り替えます」
斎姫の股間から声が響く。理子は首を傾げてまじまじと斎姫の股間を覗き込んだ。
「主として敬うようにとの、優一郎さまのご命令ですので……」
「わあ! 綺麗!」
股間から響いてくる声と連動し、斎姫のクリトリスが光って色が変化する。
「イコライザーみたい!」
理子ははしゃいだ声を上げて何度も頷いた。
「わたしは股間部のみでコミュニケーション可能なように改造されています。カメラやマイクも取り付けれていますから」
「あ、そういえば多輝から通信だっけ。どうすればいいの?」
股間から響いてくる斎姫の声に頷いてから理子はそう訊ねた。
「通信1と書かれたスイッチが点滅しているはずです。それを押してください」
「はーい」
理子は斎姫の股間を見つめ、操作用のパネルを指で操作した。スイッチを入れるとほどなく由梨佳の声が聞こえてくる。
『理子さん、こんにちは。そちらは無事?』
「ママ! うん、理子は元気だよっ! ママも元気?」
にこにこと笑いながら理子は頷いてみせた。斎姫の股間から響く由梨佳の声は相変わらずとても落ち着いている。
『よかった。私も、多輝くんも元気よ。それでは多輝くんに代わるわね』
そう由梨佳が言った後、今度は斎姫の股間から多輝の声が聞こえてくる。
『理子、あのな。ちょっと聞いて欲しいことが』
「多輝。さっきパパの力を弾いちゃったのはどうして? パパ、疲れて眠っちゃってるよ?」
これまでと同じように理子はあどけない口調で訊ねた。すると多輝がうっ、と声を詰まらせる。
「あのね。理子ね。そういう態度はよくないと思うの」
『そ、そうか。ごめん、おれが悪かった』
急に多輝が謝る。理子は驚きに目を見張って息を飲んだ。これまでの多輝ならここで言い返していたような気がする。苛立ちに任せてついつい多輝を責めてしまった理子は驚きに唖然となった。
『えーと、それでな。実は、由梨佳と結婚しようと思って』
ぼそぼそと聞き取りにくい声で多輝が言う。理子は呆然としたままで斎姫の股間を見下ろした。この間までの多輝と違う。優一郎の許で魔と表面的に戦い、人々のアイドルになっていた多輝じゃない。
気持ち悪い……。理子はぼそりと呟いた。すると斎姫の股間から多輝の戸惑いの声が聞こえてくる。
「多輝じゃないみたい」
『そうか? おれはおれだと思うけど……』
「だってパパのこと傷つけたり、ママと結婚したいなんて変!」
理子はこぶしを握り、声を震わせてそう言った。おいおい、と多輝が困ったような声を漏らす。理子はぐっ、と歯を噛みしめて立ち上がり、ベッドに眠る優一郎の身体を揺さぶった。
「パパ! 起きて! 多輝が変なこと言うの!」
『理子? おーい』
離れたところに座る斎姫の股間から多輝の声が響いている。だが理子は構わず優一郎の身体を揺すり続けた。
「理子っ!」
唐突に優一郎が目を開け、理子を抱きしめて口づけする。突然のことに理子は目を白黒させた。落ち着いていた性欲が口づけしたことでむくりと起きあがる。理子はうっとりした顔をし、夢中で優一郎と口づけを交わした。
「ぱぱぁ……」
潤んだ目をして理子はことんと優一郎の胸に頭を預けた。
「んっ、理子? あれ? 僕は……」
『おーい、誰もいないのかー? いないなら切るぞー』
戸惑った優一郎の声と、斎姫の股間から響く多輝の声が重なる。すると優一郎が理子を抱えたままで慌ただしく起きあがった。
「多輝!」
優一郎が理子の手を引いて斎姫に近付く。どうやら声を拾ったらしい。げ、と多輝が呻くような声を漏らす。
『なんだ。優一郎も居たのか』
そう言った多輝の声はさっきまでと比べて随分とかたい。
「どうやら気絶していたみたいだ。理子とだけ話があるなら席を外そうか?」
『いや。理子にはさっき言ったからもういい』
優一郎にかたい声音で答えてから、多輝は間を置いてまた同じことを言った。
『おれ、由梨佳と結婚することにしたから』
斎姫の前に膝をついて身を屈めていた優一郎の表情が凍り付く。理子は隣に座って優一郎の様子を伺ってから顔に嫌悪の感情を浮かべた。
「多輝、変なの。さっきからこんなことばっかり言ってるの」
多輝は偶像だ。人々の希望となるアイドルに中身は要らない。なのに今の多輝はやけに生の気配がする。
「そう……なんだ、おめでとう」
拍子抜けしたように優一郎が言う。すると斎姫の股間から多輝の低い声が響いてきた。
『たくさん、人が死んだ。人じゃないものも、たくさん死んだ。おれの知ってた優一郎は絶対、そんなことはしない』
理子は少し目を細めて斎姫の股間を見た。もう、自分のよく知るあの多輝はいないのではないか。そんな気がしてならない。
「そうだね。僕のせいだ」
『おれはそういうことをする奴は我満ならない。もう、これっきりだ』
そう言ったかと思うと、通信は唐突にそこで切れてしまった。
長かったので切りました。