※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


決別の日 2

「そうか……多輝が」

 

 通信が途切れ、しばらく黙った後に優一郎がそう言って微笑む。理子は何故優一郎が嬉しそうにしているのかが判らず、首を傾げた。

 

「パパ? 多輝にばいばいって言われたのに、どうして嬉しそうなの?」

「自分で考えることを始めたから。自己嫌悪で身動き取れなくなるよりも、ずっと建設的だし」

「でもそれだと偶像にならなくなっちゃうよ?」

 

 理子は少し眉を寄せて小声で言った。多輝は人々の希望のシンボルだったのだ。なのに今の多輝にはそれを感じない。それどころかある種の嫌悪感まで覚えてしまう。理子はぶるりと身震いして優一郎の腕をつかんだ。

 

「理子、どうしたんだい?」

「理子、今の多輝って好きじゃない」

 

 優一郎の問い掛けに顔をしかめ、理子は小声で呟いた。鈍くさく、人の機微にも鈍く、優一郎がいなければなにも出来ない多輝が好きだった。家族ごっこを嬉しそうにしている多輝も好きだった。由梨佳の想いにも気付かず、ただひたすらに護られている多輝は好きだったのに。理子はそう考えながら優一郎の腕にしがみついた。

 

「理子は、僕と共に来てくれるよね?」

「うん。だって理子にはパパしかいないもん」

 

 理子は頷いてぺったりと優一郎に身体を押しつけた。床にあぐらをかいていた優一郎がよしよしと理子の頭を撫でる。

 

「翠さん」

 

 ゆらりと顔を上げた優一郎が天井を仰いで声を張る。するとその場の空気が少し揺らいだ。

 

『何だ』

 

 落ち着いた男性の声がどこからともなく聞こえてくる。

 

「出立の準備が整いました」

『そうか』

 

 低い心地の良い声が答えた直後、部屋の中に一枚の扉が現れた。理子は驚きに息を飲み、まじまじと扉を見た。大きな扉にはよく判らない紋様が描かれている。

 

「斎姫。きょうまで僕なんかによく仕えてくれた。今から君が空の主だ」

 

 そう優一郎が告げた直後、斎姫の身体が光を帯びた。機械仕掛けの身体が変化をし、その場に龍神の宿体が現れる。理子は仰天して優一郎と斎姫とを見比べた。

 

「ちょっ、ちょっとパパ!? なにしてるの!? どうしちゃったの?」

 

 理子はうろたえて優一郎と斎姫を見比べた。

 

「優くん……」

「斎姫、ごめん」

 

 そう言って優一郎はそっと斎姫に唇を寄せた。斎姫の頬に口づけてから顔を上げる。

 

「僕には理子がいるから」

「だから、パパ! 説明をして! 理子、判らないよ!」

 

 理子は半泣きになりながら声を荒らげた。一体、なにが起こっているのだろう。

 

「理子。僕と正式に結婚してほしい」

「けっ」

 

 唐突な優一郎の申し出に理子は絶句して目を見張った。それから理子は眉を寄せてまじまじと優一郎を見た。

 

「結婚とこれがなにか関係あるの? パパったら、力を全部斎姫お姉さんに移しちゃって」

「ちょっと待って。まだやらなければならないことがあるから……。呉羽さん」

 

 優一郎が中空に向かって呼びかけると、その場に四人の女が現れた。一番前に立っていた女が困ったような笑いを浮かべている。理子は理知的な顔をしたその女をまじまじと見た。

 

「わたしゃ、会議の途中だったんだけどねぇ……」

 

 困ったような顔で笑いながら女が頭をかく。

 

「ごめんなさい。直ぐに戻しますから」

 

 そう言って苦笑してから優一郎が言葉を継ぐ。

 

「後始末、押しつけるようになってしまってすみません。最後まで頼るばかりで、それから……」

 

 不意にその場から女たちの姿がかき消える。光と共にその場に現れたのは四匹の獣だった。理子は驚きに目を丸くしてそれを見た。黒い獣が四匹、後ろには犬の形をしたものが、そしてさっきの女が立っていた場所にはライオンのような獣が居た。鋭い牙を持ち、黒いたてがみを生やした獣を優一郎が真っ直ぐに見つめる。

 

「黒田さん、によろしくお伝えください」

 

 そう優一郎が告げた直後、獣たちの姿がその場からかき消えた。

 

「鈴、楓、麗」

 

 優一郎が呼ぶと今度はその場に三人の女が現れた。一人は見覚えがある。あの鈴だ。が、他の二人に理子は見覚えがなかった。三人ともまるで小学生のようななりをしている。

 

「桜さんが戻ってくるまで、無理しない範囲で、最低限の支えを」

 

 優一郎が告げると三人の身体に変化が起こった。ヒューマノイドの機体を纏っていた三人の身体がゆっくりと変化し、やがてそこに成人女性が三人ほど現れる。それを見た理子はあっ、と声を上げた。あの時に見た女性たちがそこにいる。妖艶な微笑みを浮かべる女と、清楚という言葉がよく似合う女、そしてもう一人は鈴だがその身体は随分と成長していた。

 

「斎姫、彼女たちに桜さんの宝珠を預かってもらって」

 

 斎姫が優一郎の声に頷くと、身体から光る八つの珠が現れた。その珠が三人の身体に分かれて飛び込む。女たちは恭しく礼をすると、その場から音もなく姿を消した。

 

「保美、カレン、果穂」

 

 今度は理子もよく見慣れた三人がその場に現れる。メイドの格好をした保美が丁寧に頭を下げ、悪戯っぽい笑いを浮かべたカレンが片手を上げる。眼鏡をかけた博識そうな果穂が無表情で会釈をする。

 

「お呼びですか。優一郎様」

 

 微笑みを浮かべて保美が言う。

 

「既にインプット済みだと思うけど、今日からは斎姫をマスターとして、ヒューマノイドたちをまとめ上げてほしい。それから、木崎さんの調教は進んでる?」

「はい、滞りなく」

 

 そう言ってから保美がにっこりと笑う。三人がその場からかき消えた後、優一郎が中空に呼びかける。

 

「父さ……。いえ吉良博士」

 

 するとなにもなかったところに総一郎の姿が浮かび上がった。向こうの景色が透けて見える。どうやら立体映像のようだ。

 

「ご助言ありがとうございました。これからも科学の発展のために頑張りましょう」

『うむ! 優一郎。いつかまた会う事もあるだろう。成果の報告を楽しみに待っているぞ!』

 

 総一郎が力強く頷く。理子はまじまじと二人を見比べてため息を吐いた。どうやら一連のことが終わるまで、優一郎は説明をしてくれそうにない。いじけちゃおっかな、と心の底で呟いて理子は唇を尖らせた。

 

「理子。ごめん、待たせたね。僕は、この世界を去ろうと思ってる」

 

 総一郎の立体映像が消えた後、優一郎は静かな口調で言った。理子ははあ!? と素っ頓狂な声を上げて優一郎を見た。

 

「なっ、なんで!? どうして!? パパはこの世界が嫌い!?」

「嫌いとかそういう問題ではなくて、誓約者はもう、この世界では不要なんだ。害にしかならない」

「でも!」

 

 理子は優一郎の白衣をつかみ、視線をあちこちに向けた。だが斎姫は黙って静かに立っているだけだし、扉はまだ消えていない。多分、あの先に優一郎が言う違う世界があるのだろう。

 

「でも、それって変だよ! 何でパパが出て行かなきゃならないの!?」

「もうひとつの選択。世界を完全に壊す覚悟で戦うというのもあるけど、僕は理子さえ傍に居てくれるなら、そこが僕の居場所だと、思う」

 

 理子は目を丸くして優一郎を見つめた。そう言って貰えるのは嬉しい。……嬉しいのだが、何かが違うような気がする。




急に優一郎が訳の判らないことをし始めた!
……というのが、理子の気持ちなんですけどねw
説明しないからwww
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