見知らぬ草原に佇んで多輝はぼんやりと周囲を見回した。
気が付いたらここに居た。近くには硝子張りの大きな建物がある。多輝は生ぬるい笑みを浮かべて背後を振り返った。白衣を着た由梨佳が話をしているのは優一郎の育ての親の総一郎だ。
なんか複雑。多輝は心の底で呟いて思わず苦笑した。今の由梨佳は総一郎のことを覚えてはいない。総一郎も由梨佳をかつての妻とは扱っておらず、一研究者として対してくれているようだ。
いや、だからって何でおれはこんなところに居るんだ。ぼそりと呟いて多輝はぐるりと周囲を見回した。広い草原の向こうには森も見え、近くには小川も流れているらしく、耳を澄ますとせせらぎの音も聞こえてくる。どこにでもありそうな風景のはずなのに、ここは間違いなく異世界なのだ。
真剣な顔で何事かを話し合っていた由梨佳が総一郎に会釈をして駆けてくる。
「多輝くん、どうしたの?」
由梨佳がにっこりと笑う。多輝はもう一度周囲を見回してから由梨佳に目を戻した。
「あー……と、おれは確か、カウチで寝てたと思うんだけど」
順に案内されたリゾートホテルの部屋で寝ていたつもりだった。なのに目が覚めたら草原のど真ん中に放り出されていたのだ。
「修行するなら、ここがいいって透さんが」
ためらいもなく言って由梨佳が頷いてみせる。善は急げということだろうか。だがせめて移動する前にひと言欲しかった。心構えも準備も何もなく、はっきり言ってパンツ一丁でこんなところに立っているのはとても無様な気がする。心細い顔をした多輝を由梨佳が渋い顔で見る。
通信を介して聞いた話だが、優一郎と理子はどこか別の世界に行ってしまったのだそうだ。水輝と佑もそれに付いていったらしい。様々な災害に遭った人々のうち、生きていた者は次々に救出されているそうだ。新しく生まれた陸には調査団が向かったらしい。
魔は相変わらず地上に現れては人々を脅かしている。今はとてもかなわなくても、いつか真正面から向かっていけるようになりたい。魔だけではなく、他の脅威からも人々を護ることが出来るようになりたい。
「そ、だよな。修行するなら早くした方がいいよな」
つらつらと考えを巡らせてから多輝は頷いた。そんな多輝に由梨佳も力強く頷いてみせる。
「今、こちらの世界は向うに比べて時間の流れが早いそうなの」
「え、そうなのか?」
どうやら二つの世界の時間の流れが違うらしい、ということを多輝は由梨佳の言葉から知った。考えてみるとこれまで自分は何も知らなかったのだ。全てを優一郎に任せていたのだと改めて知り、多輝は少し顔を曇らせた。
「多輝くん。優一郎さんがどこかへ旅立ったことは聞いているわよね?」
「ああ。順って奴から聞いた」
電話を掛けてきた時の順の軽い口調を思い出しながら多輝は頷いた。
「はっきり言えば、彼はあなたに寄生してたのよ。Aさんたちもそう。あなたが拒絶すれば寄生虫は消えるしかないわ」
理子さんの言葉はある意味正しかったわけね。そう告げて由梨佳が嗤いを浮かべる。多輝はしばし由梨佳を見つめてから、ぽつりとそうか、と言った。
もしも最初から友達になれていたら、状況は違っていたのかも知れない、と時々考える。恋人どころか友達にすらなれず、情報を手に入れることを拒絶した自分はきっと彼らのことを個人として認めていなかったのだろう。
だがそれももう過ぎた話だ。今さら言っても取り返しはつかない。多輝は空を見上げてから由梨佳に微笑みかけた。
「修行、するか?」
「ええ。強くなるわ。すぐに」
「そっか」
多輝は笑みを浮かべて由梨佳に頷いた。
ぎりぎり1,000字は越えてました(汗)
足りないかと焦ったんですよね。あぶないあぶない。
自分で読み返してみて、あーーー、と思いました。
由梨佳はこんなこと言ってたのかw