※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


買うって、そっちか!!

 話を終えた水輝は少し俯いて唇を引き結んだ。立城が黙ってグラスを傾ける。溶けかけた氷がグラスに触れる涼しげな音が静かな部屋の中に響く。

 

「今日はね。オーナーさんに話をしようと思って来たんだよ」

 

 事の全容が判ればもう用はないに違いない。そう思っていた水輝は慌てて顔を上げた。

 

「は? なんでお前がオーナーに用があるんだよ」

 

 そう言ってから水輝は立城がこの店の出資者になっていたことを思い出した。なるほど、店の経営について話でもあるのだろう。そう納得した水輝は言われるままに北原を呼んだ。北原はすぐにVIPルームに姿を現した。真っ先に立城にこの間の件の礼を言って深々と頭を下げる。互いに挨拶をし始めた二人を余所に水輝はそっと部屋を出ようとした。

 

「どこに行くの」

「は? おれはもう用がないだろ?」

 

 ドアを開けようとしていた水輝はそう言って振り返った。だが立城が少し困ったような顔をして手招きをする。もしかして自分の関わる問題でもあるのだろうか。水輝は疑問を覚えつつも大人しく北原と並んで腰掛けた。

 

「水輝を買いたいんですが」

 

 二人を前にして立城が微笑みながら言う。水輝は北原と顔を見合わせて首を傾げた。ここに来れば立城は水輝を指名しているのだ。

 

「あの? ええと、アフターとかセットとか、そういうお話……ですよね?」

 

 北原も立城の言う意味を今ひとつ理解出来なかったらしい。自信なさそうにそんなことを言う。

 

「いいえ。水輝を買い取りたいんです」

 

 お幾らでしょうか。微笑みを浮かべたままで立城がそう告げる。しばし唖然とした顔をしていた水輝は、数瞬後に叫んだ。

 

「阿呆か、お前は!」

「そ、それは他店の引き抜きという意味で?」

 

 まだ北原が現実的に物事を考えようとしている。違うのだ。立城は水輝を個人で買い取って、店からお持ち帰りしたいと言っているのだ。その意味をはっきりと理解した水輝はテーブルを乱暴に叩いた。

 

「冗談じゃねえ! 何でお前にお持ち帰りされなきゃなんねえんだ!」

「あ。そういう意味か」

 

 水輝の叫びで漸く納得したのか、北原がぽんと手を叩いて頷く。納得してるんじゃねえ、と叫んで水輝は立城を睨みつけた。

 

「言い値で買うよ?」

 

 当たり前の顔で立城がさらりと言う。水輝は怒りに肩を震わせて俯いた。何の目的で自分を買いたいと言うのかが判らない。だが怒る水輝とは対照的に北原は嬉しそうに笑った。

 

「そうですね。その方が水輝君もきっと幸せに」

「なれるか馬鹿野郎! 本人の意志を無視して人身売買すんな!」

「でもお金は払うんだし」

 

 立城が微笑みながら首を傾げる。水輝はぎりぎりと歯軋りをしてテーブルに叩きつけたこぶしを震わせた。漸く全てふさがった傷がばっくり開いてしまいそうなほど、水輝は激怒していた。

 

「お前という奴は次から次へと判らんことを……」

 

 歯軋りしながら水輝は呻くように言った。立城の要求通りセックスもした。あの件にまつわる話も吐いた。これ以上、どんな理由があって自分を買いたいなどというのか判らない。水輝は怒りにぶるぶると手を震わせて歯を食いしばった。

 

 もしかしたら嫌がらせの一環なのだろうか。真剣にそんなことまで考えてしまう。

 

 だが水輝の意志を完全に無視して二人の取引は進んだ。水輝は冗談じゃない、何でおれがと何度も叫んで抵抗しようとした。騒ぎを聞きつけた同僚たちが面白半分に部屋に覗きに来ては、何故か立城を応援する。その度に水輝は彼らを怒鳴って追い払わなければならなかった。

 

「では、そういうことで」

「はい! ありがとうございました!」

 

 営業終了。店員たちは最後の客を揃って見送るのが常……なのだが、水輝は何故か全身をロープで縛られて立城に引きずられていたので列には加わっていなかった。

 

「離せ! おれは納得してねえ!」

「お幸せにね! 結婚式には呼んでね!」

「結婚しねえ! つーか、あんたおれが好きとか言ったじゃねえかよ! 止めろよ!」

 

 喚き散らす水輝を引きずって立城が店を出る。待ち構えていた車に水輝は蹴り込まれてしまった。

 

「何でそんなに嫌がるのかな。僕のところに来れば美味しいものが食べられるよ?」

「うるせえ! 飯くらい自分で作る! ああああ、おれを戻せ帰せ離せ!」

 

 後部席に立城が乗り込んだところで車が発進してしまう。窓の向こうで元気に手を振る店員たちを恨みのこもった目で睨みながら水輝は必死で暴れた。だが全身にこれでもかというほどに巻き付いたロープは少しも緩まない。

 

「もう。諦めて大人しくした方がいいよ。暴れても無駄だから」

「うるせえな。おれの勝手だろ」

 

 ため息混じりの立城の言葉に言い返して水輝はもがいた。そんな水輝を立城がそっと抱えて動かす。怒鳴りつけようとした水輝は膝枕をされたことに気付いて目を丸くした。立城が優しく水輝の髪を撫でる。

 

「ばかだね。傷が開いても知らないよ?」

「……余計な世話だ」

 

 水輝はそっぽを向いて小声で呟いた。




エロシーンはないのですが、いろいろカオスです。
水輝は大体、逃げてるので仕方ないですねー(棒
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