※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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ここから二章です。
エロシーンはありません。

切れ目(***)のところで更新したかったのですけども。
文字数がギリギリ足りなかったので、あとのを足しました。


二章
苺再び!


 そこでクイックターン!

 

「うるせえ! 人の頭の中で怒鳴るな!」

 

 多輝は涙を目に浮かべて杖を振り回した。カードによって導き出された魔法の力が巨大な魔にすっ飛んでいく。魔は冴えた青い光に討ち滅ぼされ、周辺に立ちこめていた瘴気が風に流れて消えていく。そこで多輝は漸くほっと息を吐いた。

 

 あれから随分と時間が経った気がする。今回のように強い魔が地上に現れた時、多輝は誰かが頼む前に必ず駆けつけることにしている。何故なら。

 

『さすがです、多輝様! やはり先ほどのターンが決め手でしたね!』

『阿呆。何がターンだ。結局、今日も力押しじゃないか。少しはスマートに事を片付けるということをだな』

 

 多輝の意志を完全に無視して頭の中で声が響く。多輝は杖を両手で握りしめてぶるぶると震え始めた。歯軋りをし、魔が荒らした場所に佇んで震える多輝の元に由梨佳が慌てたように駆けてくる。

 

『大体な。苺は動きに無駄が多すぎるんだよ。もっとこう、目標に迅速に寄って魔法を叩き込む方がいいだろ?』

『そうでしょうか?』

 

 震え始めた多輝を完全に無視して頭の中でやり取りが続けられる。由梨佳が心配顔で多輝の額に滲んだ汗を拭く。多輝は一応、周囲に誰もいないことを確認してから声を張り上げた。

 

「煩いぞ! 同居人AとB!」

 

 この愛想も何もない、記号の呼び名は彼らが自分たちで勝手につけたものだ。多輝が漸く起きられるようになった頃にはすっかりこの呼び名が定着してしまっていた。ちなみに同居人Aはかつての水輝とそっくりな声で喋り、Bの方は蒼と酷似した声をしている。

 

『今日は一段と機嫌が悪いな、苺。優一郎が忙しいから拗ねてんだろ?』

『多輝様……。わたくしというものがありながら』

 

 同居人Aが茶化すと、すぐ後で同居人Bがさめざめと泣く振りをする。だがそれらは全て多輝の頭の中で行われていることだ。由梨佳を始め、多輝の周辺にいる誰もこの同居人たちのことを感じることが出来ない。

 

「うーるーさーいー! っう、きもちわるい……」

 

 急にこみ上げてきた吐き気を堪えて多輝は口許を手で覆った。

 

***

 

 自分は多輝の意識に寄生しているのだと同居人Aは最初に説明をした。身体を起こすことすら出来ない状態で、多輝は二人の話を聞くしかなかった。たびたび吐き気がこみ上げ、けれど吐くことが出来ない苦しい日々が一年ほど続いた。多輝の意識は苦しみのあまり、現実と夢の世界を何度も行き来した。その中で二人は滔々と話を続けた。

 

 天界と呼ばれる世界が水輝の放った魔法に引き裂かれる。あの瞬間に多輝の身に水輝の力が強制的に流れ込んだ。同居人たち曰く、あれは必然だったのだそうだ。だが未だに多輝はそんな真似をする必要はなかったのではないかと思う。何しろ多輝はもの凄く不器用で、水輝に込められた力をろくすっぽ使えないからだ。

 

 だがそれでいいのだと同居人Aはいつも笑う。何故だと訊くと同居人Aは決まって言うのだ。

 

 へっぽこがナマ言ってんじゃねえよ。

 

 そのせりふを聞くたび、多輝は目の前にあの男が立ち、斜に構えて薄笑いを浮かべているところを想像する。だがやはり目の前には誰もおらず、意識の中で同居人Aが笑うだけなのだ。

 

 多輝が倒れている間に世の中は随分と変わってしまった。もう押さえられないと淫魔の王である学が悲鳴を上げ、それまで少しずつ漏れていた魔が一気に地上に溢れた。そう、それまででも多輝は魔が随分とはびこりだしたと思っていたのだが、事態はそんなに生やさしいものではなかったのだ。

 

 水面下で事態に対応しようとしていた者たちはこぞって表舞台に引っ張り出された。優一郎もその中の一人だ。ただでさえ忙しかった優一郎は、公の場面にも頻繁に顔を出さなければならなくなった。最早学校どころではないというのが正直なところなのだろう。優一郎はあれから一度も学校には行っておらず、留学したことにはなっているが向こうの学校にも一度も顔を出していないのだという。

 

 要は不思議とあんなことの後でも元気に魔を倒し続けている。これだけ魔がはびこり、どれだけ狩ってもきりがない事態にまでなっているのに誰にも原因を問うたりはしていないらしい。逆に一緒にいる透の方が疲れた顔をしていることが多いらしい。もしかしたら要のノリについていけないだけかも。多輝はその話を聞いて思ったが、後の事が怖いので当人たちには感想を言わないことにした。

 

 由梨佳と斎姫は相変わらず忙しくしている。斎姫は主に優一郎のサポートに回り、由梨佳は多輝のサポートについている。蒼がいなくなってしまったために由梨佳の仕事は圧倒的に増えた。だが由梨佳は嫌な顔を一つせず、いつもてきぱきと人々の誘導や結界補助などをしてくれる。手際もよく、愚痴も一切こぼさない由梨佳に多輝はいつも感謝しているのだ。

 

 立城はあの一件の後、吉良瀬当主の座に返り咲いた。だがその話があった際、立城はやけに渋っていたのだという。もう財閥に関わるつもりはないという立城を説得したのは如月泰蔵という老人だった。要の祖父である泰蔵が立城に何を言ったのかは判らない。だが立城はその後、財閥当主の座に就くことになった。

 

 あの一件の後、多輝が初めて立城の姿を見たのはテレビ画面の中でだった。報道番組の間に挟まれていた短い時事ニュースが放映された時、ちらりとその姿が映ったのだ。その頃はまだ、多輝もベッドから起きあがることが出来ず、横たわったままでテレビを見つめた。

 

 心労が重なったからだろうか。立城は随分とやつれていた気がする。無理もないだろう。急に姿を消した水輝を密かに捜していたという噂も聞いた。事の後始末をつけ、人々には当主に祭り上げられ、本来は水輝が責を取るはずのことを立城が代わりに全て処理して回っていたのだ。

 

 辛そうに見えた。だが多輝は立城を心配することしか出来なかった。何をしようにも身体は動かせなかったし、ベッドから離れた途端に酷い吐き気と頭痛に襲われる日々が続いたからだ。




苺な多輝は相変わらずです。
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