エピタイ通りです。
あの一件の後、清陵にある吉良瀬の屋敷ではしめやかに葬儀が執り行われた。だが用意された棺桶はどちらも空っぽだった。入れるべき遺体がなかったのがその理由だ。奈月は元々、機械の身体をしていたから例え消えても埋葬する必要はない。それにもしも棺桶に奈月の身体を入れるなどと言えば、桜が激怒したに違いない。そして佑の身体は文字通り、消えてしまっていた。そのため、二つの棺桶は空っぽのまま、葬儀が執り行われたのだ。
喪主は優一郎がつとめた。吉良瀬の当主の葬儀ということで参列者は数千を軽く超えた。誰もが悲しそうな顔をしてはいたが、その中のどれだけの人間が佑のことを知っていたのだろうか。少なくとも喪服を身に纏い、儀礼的に挨拶をして団体で屋敷に入っていった連中は佑には一度も会ったことなどないだろう。
一度にそれだけの人数が入るとなると、さすがにあの広い屋敷でも無理がある。そのため、参列者は記名をした後、二人分の棺桶の置かれた部屋にばらばらに通され、そこで焼香した後に今度は社葬の会場に移るという方法がとられた。マイクロバスを数台貸し切りにし、次々に参列者を送り出す。その作業には吉良瀬財閥の首脳陣が当たった。
葬儀の後、密かに透から電話があった。優一郎は大丈夫なのか。多輝はベッドで寝たきりではあったが透の問い掛けに何とか大丈夫だと答えた。透に言わせれば優一郎は酷く沈んでいて、覇気がなかったように見えたのだそうだ。
当然だ。だが優一郎は佑や奈月の死を悼んで沈んでいたのではない。同居人CとDによる精神攻撃を受けていたに過ぎない。多輝の意識の中にはAとBが、そして優一郎の意識にはCとDがそれぞれに寄生しているのだ。
ややこしい。多輝は苦り切った顔をして深々とため息を吐いた。その瞬間、優一郎がうっ、と呻いてまた口許を手で押さえる。
「……だ、大丈夫か?」
多輝よりはずっと痛みや苦しみに耐性があるのか、優一郎はあの件の後に寝込むようなことはなかった。まだ同居人AとBは好きなときに好きなだけ喋り、しかもその話題は気楽なものばかりだからいい。だが、同居人CとDは最初から優一郎に文句を言っているのだという。しかもそれがヒューマノイドに関する文句ばかりだというから優一郎にはさぞ耐え難いだろう。ちなみに優一郎の意識に同居している彼女たちのことも、やはり本人以外には感じることが出来ない。試しに多輝も優一郎の思惟を探ってはみたが、同居人の影や形はおろか、僅かな気配すら感じることが出来なかった。
一度、優一郎は同居人に納まった彼らのことを亡霊と表現したことがある。あの後は大変だった。同時に二人共が吐き気に襲われ、かわりばんこにトイレに飛び込む羽目になったのだ。勿論、二人とも吐けなかったという嫌がらせのようなおちもついていた。
同居人Aは自分たちは亡霊ではないという。だが姿もなく、形もなく、意識や気配を外から読むことも出来ない今の状態では、死んでいるのと同義ではないのか。そう、多輝は素直に訊ねた。
すると同居人Aは笑って言った。これでいいんだよ。その意味が多輝にはよく判らない。
あの時、水輝は死ぬのだと思った。誰に教えられた訳でもない。魔法発動の為の呪文の意味が理解出来た訳でもない。だが多輝は本能的にそう感じていたのだ。その時のことを訊ねると。
阿呆。おれが何で自殺しなきゃならないんだよ。おれはまだやらなきゃならないことが山のようにあるんだ。自慢じゃないが、周りに好きな女を侍らせて世界を豪遊するってのがおれの夢なんだよ。ああ、そうだ。侍らせる女はとびきりの美人限定な。
……などと、滔々と語り出すものだからたまらない。その時のことを思い出して多輝は遠い目をして寂しい笑みを浮かべた。何で自分が強引に、しかも無理やりに寄生されなければならないのだろう。
せめて寄生したのが逆ならこれほど苦しくなかった気がする。例えば優一郎に同居人AとBが、そして多輝に同居人CとDが寄生していれば今よりずっと楽だったのではないだろうか。そんな風に思えてならない。
ちなみにこの同居人Aは、多輝が知っていた頃と全く少しも変わりなく、優一郎が多輝を通して訊ねた質問の答えは傲慢極まりなかった。
何故、多輝に力を移したのか。
優一郎の最初のその問いに対する答えがこうだ。
『おれは苺に力をただでくれてやったつもりはない。おれのものはおれのもの、お前のものはおれのもの、ちょっと今だけ貸してやってるだけだ』
さすがにこの答えには多輝も、そして優一郎も呆れるしかなかった。そして事実、呆れた。そしてやっぱり申し合わせたように二人同時に吐き気に襲われた。
かなり長いシーンなのでぶつ切りになってます。
エピタイ通りなのですけども。