エピタイw 通りなのですけどw
この吐き気のことを優一郎は力の反動だと言い表す。そのことには同居人たちは異論はなかったようだ。そして彼らは口を揃えて言う。このことは誰にも言うな。そして多輝に寄生している同居人は事あるごとに言うのだ。
『もしおれたちのことを誰かにばらしてみろ。お前が生まれて今日までの恥ずかしい写真のあれこれを世間にばらまくぞ。おっ、確かBの撮影した寝間着姿なんてのもあったな。苺プリントのネグリジェだったか』
ちなみに優一郎の方はもっと別のことを言われているらしい。だが多輝も優一郎も互いに何をどんな風に脅迫されたのかを言わなかった。だが今の彼らに本当にそんな真似が出来るだろうか。試しに多輝は考えを巡らせてはみたが、こいつならやりかねないという単純な結論に落ち着いた。
多輝が寝込んでいる間、優一郎はあの時に水輝が使った魔法についての分析を進めたようだ。どうやらあの時に組まれた呪文はただの呪文ではなかったらしい。そのことを突き止めた優一郎が冥界にあるという特別な書庫こもって一ヶ月。黒妖牙という冥界の王の座につく龍神のサポートを受けながら呪文をばらしてみたところ、あれは複数の段階を踏んだ複雑な魔法だったらしい。
優一郎が聞いたという、水輝が数えていた数。あれは死者が乗るためのものだそうだ。正式な名称は多輝も何度も聞いたのだが何故かはっきり聞こえなかった。それを繰り返すことにより、天界と冥界を一時的に繋ぎ、力を増幅するという作用があるらしい。
その響きを残しつつ言葉を連ねる。てんのいかずちとは文字通り、天の雷という意味なのだろう。そらのくもは空の雲、または空の蜘蛛と置き換えられる。そうして優一郎は次々に呪文を分解し、その意味を調べた。
不思議なことに同居人Aはそんな優一郎を止めなかった。もっとも、止めたところで声が聞こえるのは多輝だけだから無駄だったかも知れない。だが何故か嫌がることもなく、呪文を解こうとする優一郎を静観していた。
あの時の魔法に自分の呪文が同時に組み込まれたのだと聞くまでは、多輝はそんなものなのかなくらいに軽く考えていた。多輝はてっきり水輝が優一郎の言霊を利用したのだとばかり思っていたため、そのことを聞いて仰天した。
そんな風に慌ただしい日は続き、そして今もなお世界は荒れ模様のままだ。深々とため息を吐いて多輝は優一郎の背をそっと撫でた。
あれから一年以上の年月が流れた。龍神の生きる時間の長さから考えればたったの一年なのだろう。だが多輝や優一郎にしてみれば随分と長い一年だった。その間にほんの僅かに残っていた少年の面影が消え、優一郎は青年らしい容姿に成長した。今では多輝の身体が優一郎の両腕にすっぽりと納まってしまう。逞しいというのとも少し違うが、優一郎は前よりずっと成長した気がする。
それに比べておれは。何となくもの悲しいものを感じて多輝は自分の身体を見下ろした。今の多輝はヒューマノイドと生身の身体を不安定に行き来している。ある朝、目が覚めたら急に生身になっていたり、またある時いきなりヒューマノイドの機体に変化したりもする。だが外観は変わらないので周囲の者には多輝の身体が変化していることが判らないらしい。少なくとも優一郎や斎姫、それに由梨佳以外に指摘されたことはない。
胸も要より小さいし。多輝はその場にぺたんと座り込み、唇を尖らせて自分の胸を手で押さえてみた。要は見ているものが圧倒されるほどに胸が大きい。その中身が例え機械だとしても多輝は少し羨ましかった。おれもバストにあのボリュームが欲しい! 真剣に一度だけそう言った多輝に優一郎は困ったような顔をして似合わないからと言った。どういう意味かと訊ねたのだが、優一郎は言葉を濁すだけでちゃんと答えてはくれなかった。
乳房のサイズにまつわることをつらつらと思い出しているうちに、何故か腹立たしいものがこみ上げてくる。さっきまで苦しそうな息を吐いていた優一郎がそんな多輝を面白そうに眺めていたのだが、多輝自身はその視線に全く気付かなかった。
そもそも近頃は優一郎もあんまり構ってくれない。多輝は拗ねて唇を尖らせ、床に指先でのの字を書いた。膝を組んでいじける多輝を見ているうちに我慢が出来なくなったのか、優一郎がぷっ、と吹き出す。そこで多輝は初めて見られていたことに気付き、慌てて顔を上げた。
「なっ、何だよ! そんなに胸が欲しいのが変かよ!」
真っ赤になって多輝は喚き散らした。優一郎だって大きい方がいいだろう。恥ずかしさの余りに混乱した多輝は勝手に決めつけて何度も頷いた。乳房が大きければ触り甲斐もあるだろうし、何しろ見た目の迫力が違う。ずらずらと理由を並べ立てる多輝を見つめ、優一郎が困ったように笑う。
「多輝。世界は全てバランスで成り立ってるんだ。君の胸もね」
「なっ! じゃあ何か!? おれが胸が大きかったらバランスが悪いのかよ!?」
釈然としないものを感じて多輝は喚いた。勢いをつけて立ち上がり、微笑みを浮かべている優一郎の顔を覗き込む。上目遣いで睨みつける多輝を笑顔で見つめ、優一郎が手を伸ばす。やる気か、と身構えた多輝の頭を優一郎は優しく撫でた。
「僕は今のサイズが好みだな」
するりと腕を伸ばした優一郎が膝の上に軽々と多輝を抱え、しっかりと身体を抱きしめる。耳許に囁かれた多輝は思わず呻いて首を竦めた。呼気が耳にかかって気持ちいい。多輝がうっとりと顔を緩めかけたとき。
『あー。お取り込み中悪いんだが。ちょっと優一郎に訊きたいことがあるんだ』
「うわっ!」
唐突に頭の中に声が響く。多輝は慌てて背筋をぴんと伸ばした。どうやら何事があったかは察したらしい。優一郎が困ったような顔をしている。
寄生された状態というのは多輝の表現です。
意識に割り込んでいる、とか言うとめんどくせぇ、と同居人が思った結果です。