※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


そろそろ仮名は無理だと思う

「はい。最新のデータを……!」

 

 そこで優一郎が言葉を途切れさせる。多輝は訝りに眉を寄せ、地図の中のとある場所を指で指し示した。

 

「なあ。この最後の点、何でここだけ青なんだ?」

 

 印は赤や黄色などの鮮やかな色ばかりが使われているのに、その印だけがやけに暗い青をしている。いや。青と言うよりは群青だろうか。

 

「今の龍神は、生存本能に従って、かつての龍神とは完全に違う存在へと変化しました」

 

 おれの質問は無視か。多輝はモニタ画面を押さえたまま、ぼそぼそと呟いた。だが何故か同居人Aまでが多輝の質問を無視し、そうだなと答える。だがその声は多輝が通訳しない限りは優一郎に届かない。多輝は釈然としないものを覚えつつも優一郎に同居人の声を伝えた。

 

「誓約者も、ハンターも、龍神の変化を止められなかった。それらの存在は龍神との接触によって別の存在へと変化するか、消滅してしまいました」

 

 群青の印が点滅している。多輝は難しい顔をしつつも優一郎の話すのを黙って聞いた。頭の中で同居人Aが苦笑する。

 

『そうだな。今はもう、龍神にかつての面影はない。まあ、それはお前たちもよく判っているだろうが』

「あー、もう! おれを挟んで難しい話をするなっ」

 

 文句を垂れつつも多輝は真面目に同居人Aの言ったことを優一郎に伝えた。優一郎といい、同居人Aといい、何でこう難しい話をしたがるのだろうか。意味がさっぱり理解出来ない多輝は不満いっぱいの顔でモニタ画面から手を離した。

 

「罪辱と相反する属性のみで造られていて、干渉は不可能だと思われていた魔が、変質してきているんです」

『ふむ? まあ、奴の一件もあるしな。おれも気になってはいたんだが』

 

 多輝の文句や愚痴を無視して二人の話は進んでいく。多輝はため息を吐いて優一郎の机に寄りかかり、同居人Aの言うことを逐一通訳した。

 

「多輝、ごめんね」

 

 話の合間に優一郎が申し訳なさそうな顔で詫びる。多輝はふん、とそっぽを向いていいから話を続けろと素っ気なく言った。

 

「本来なら、浄化の属性のみで構成された魔によって、もう地上は埋め尽くされていたはずなんです」

『計算ではそうなっていたということか? それとも今気付いたということか?』

 

 茶化すような口調で同居人Aが言う。それを多輝が伝えると優一郎は苦笑のようなものを浮かべた。

 

「あの騒動直後の予測です」

 

 ふと、真面目な顔になって優一郎が言う。同居人Aはしばし黙っていたが、やがて重々しく口を開いた。

 

『せき止めていたモノがなくなったからな』

 

 意味が判らない。多輝は眉を寄せながらも優一郎にその言葉を伝えた。

 

「ええ。最悪の予測では、イナゴのように溢れて、世界は数日で浄化される可能性さえ指摘されていました」

『ところがそれだと都合が悪い奴が居たわけだ』

 

 軽く笑って同居人Aが言う。多輝は多輝なりに二人の話を理解しようと懸命に考えを巡らせてはみた。が、どう考えても意味がまるで判らず、二人の会話が暗号にすら思えてくる。

 

「Aさんもでしょう?」

 

 笑う優一郎に同居人Aがまさか、と笑い返す。うんざりしつつも多輝はどこまでも真面目にそのことを優一郎に伝えた。出来れば間に自分を入れずに二人だけで話をして欲しいのだが、同居人Aがこの状態ではそうも言えない。苛々と机を指先で弾きながら多輝はしっかりと同居人Aの笑い方まで優一郎に伝えた。

 

「学さんの勘違いと、自己犠牲に近い努力も、最悪の状況を覆した要素の一つですね」

『あいつの性格はよく知ってるからな。っと、この言い方だとおれがやったみたいじゃないか』

 

 困ったな、と同居人Aが笑う。だがすぐに同居人Aは低く真剣な声で言った。

 

『奴らは一つ勘違いをしているんだ。おれはいつも変わらない。いいか? 古いコンピュータゲームとかがあるだろ。あれを思い出せ。自キャラが動いているように見えて、実は画面の中央から一つも動いていないってことがあるだろ?』

 

 周りの景色の方が動き、まるで自分の操作するキャラクタが動いているかのように見える。同居人Aの話の中でその部分だけ多輝は理解出来た。これまで幾つものゲームをやってきたが、古いゲームになればなるほどその傾向が強い。その話を多輝が通訳すると優一郎は頷いて話の続きを促した。

 

『あれと同じだ。おれは昔っから少しも変わっていないし動いてもいない。動いてるのは周辺の景色なんだよ』

 

 静かな声音で同居人Aが語る。それを聞いて多輝は難しい顔をした。

 

「水輝さん。相対的に見れば、それは動いているんですよ」

 

 優一郎がにっこりと笑う。多輝は思わずげっ、と声を漏らした。優一郎がはっとしたように口を覆う。

 

 だが何故か吐き気が来ない。多輝は恐る恐る優一郎と顔を見合わせた。

 

『おれが動いているように見えるかどうかは問題じゃない。おれが動いていると思いこんで、自分が動いていることに気が付かない奴がいるってことだ。……おい、蒼! 起きろ!』

 

 唐突に同居人Aが声を張る。するとそれまで黙っていた同居人Bが寝ぼけた声を漏らした。

 

『何事ですか。おやつの時間とか?』

『寝ぼけてんじゃねえ! 奴が動いた。後を付けろ』

『……相変わらず人使いの荒い……』

 

 ぶちぶちと文句を言った同居人Bの気配が多輝の意識の中から唐突に消える。多輝は呆然として目を見張った。

 

「ごめん! 僕が悪かった、だからやめろって、うわっ」

 

 多輝ははっとして優一郎を見た。優一郎は同居人の誰かに意識の下で小言でも言われているのだろうか。慌てた声を上げる優一郎を同情の目で見つめ、多輝は深々と息を吐いた。

 

「おい、なんか同居人Bが消えたんだけど」

 

 頭をかきながら多輝は歯切れ悪く優一郎に言った。するとそれまで何やら懸命に言い訳をしていた優一郎がはっとしたように多輝を見る。

 

「動いてくれたんだ」

 

 ほっとしたような顔で優一郎が言う。だが多輝の頭の中で同居人Aの不機嫌極まりない声が響く。

 

『あれは始末できるとして、問題はその後か。まあ、恐らく連れ出されるだろうが』

 

 独り言のような同居人Aの呟きを多輝は正確に優一郎に伝えた。

 

「とりあえず、その後どう動くか、ですね?」

『ま、おおよその見当は付いてるけどな。こら、苺。ぼけっとしてないでとっとと身体を貸せ。そして優一郎を女にしてあいつらを呼び出せ』

「は!?」

 

 唐突な同居人Aの言い草に多輝は素っ頓狂な声を上げた。怪訝そうな顔をする優一郎にごめんと詫びて、多輝はそんな真似できるかと小声で呟いた。

 

『お前らはしたい時にしまくりでいいだろうけどな! おれはいいかげん、欲求不満が溜まってるんだよ! いいから抱かせろ!』

 

 ぎしりと身体が軋むような音を立て、多輝の腕が意志を無視して勝手に動く。多輝は慌てて右腕を左手でがっちりとつかみ、動きを制した。そんな多輝を優一郎が訝りの目で見つめる。

 

「多輝どうしたのっ! うわっ!」

 

 優一郎が慌てた声を上げてその場に立ち上がる。椅子を蹴倒して立ち上がった優一郎は急にいたずらっぽく笑ってみせた。

 

「ふうっ、奪取成功」

 

 そう言ったかと思うと優一郎が自分の胸に手を突っ込む。何がなんだかさっぱり判らず、多輝は唖然と優一郎を見守った。その間にも多輝の右腕は意志を完全に無視して優一郎の方に向かって動く。

 

 優一郎の身体の輪郭が溶ける。やがて短かった髪が伸び、体つきが細くなり、その場に女性の姿の優一郎が現れた。唖然と見ていた多輝の身体がいきなり勝手に動き、優一郎を抱きしめる。

 

「待て! こら、乗っ取るな!」

「他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られちゃうわよ」

 

 それまでの優一郎とはまるで雰囲気が違う。多輝は慌てて優一郎から離れようとした。だが身体がどうやっても動かせない。

 

『いいから貸せっつってんだろ!』

「いーやーだー!」

 

 喚いて首を横に振る多輝の背に優一郎が腕を回す。これは優一郎だけど優一郎じゃない。そう自分に言い聞かせて多輝は懸命に逃れようとした。

 

『お、そうだ。この間、蒼が苺のパンチラ写真のことを自慢してたぞ。大人しくしないとばらまく』

「うっ」

 

 動揺した多輝は抵抗するのを忘れ、ついつい気を抜いてしまった。その瞬間、多輝の意識は闇に沈んだ。入れ替わりに多輝の身体を乗っ取った同居人Aを、多輝は闇に落ちながらめいっぱいに罵倒した。




優一郎がうっかり名前を呼んでも吐き気は来ず。
蒼という名前も呼んでいるのでいいのでしょうw
そしてとうとう我慢が出来なくなった同居人Aですww
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