切羽詰まった顔で何事かを喚きながらラスティが強引に順を店の外に引っ張り出した。オレも楽しみたいのになー、という順のぼやきを無視し、ラスティは問答無用でその場から転移し……。
今に至る。順は深々とため息を吐いて、口の端にぶら下がっていたパスタを啜った。野菜のたっぷり入ったソースの絡んだパスタを味わってから喉に落とす。
「あのねぇ。その……機関車が凄いのは判ったから。いいかげん、ご飯食べてあげなよ。そこにこわーい顔してるヒトがいるし」
そう言いながら順は常磐を顎で指し示した。すると常磐が眉間に深く皺を刻む。
「なんでお前がここに居る」
「おそっ! アンタ、今さらそのセリフですか!? オレがここに引っ張られてから何時間よ!? あ、手が震えてる。もしかして怒った?」
へらへらと笑いながら順は常磐の手元を指差した。フォークを握る右手を微かに震わせていた常磐が渋い顔で順を睨む。
「お前は判ってない! この世界には機関車なんてなかったんだ! 線路だぞ、線路! 乗客を乗せた金属製の箱が走るんだぞ!?」
常磐の問いかけを無視してラスティが目を輝かせて叫ぶ。一体、いつから機関車の話になったのだろうか。確か、たまたま商船に乗った話を振った時からのような気がする。そんなことを思いながら順はちらりと常磐に目をやった。
「向こうで乗っていないのか?」
「えっ、なにが?」
ため息混じりの常磐の問いにラスティが不思議そうな顔をして言う。順は知らん顔を決め込んで残りのパスタを食べ始めた。
ラスティ・ローズ。どう見ても青年にしか見えない、実は女性のラスティはタイラード国の守護神となる筈だった存在だった。だが様々な事情が重なり、タイラードは守護神が不在のままとなっている。そして常磐はそんなラスティの夫なのだ。
「いや……いい」
少し疲れたような顔をして常磐がぼそりと言う。ラスティはだが、そんな常磐の態度に全く気付かなかったのか、嬉しそうに機関車の話をする。ラスティ曰く、タイラード国と隣国のウルスマ国を結ぶ線路が開通したということらしい。しかもラスティはちゃっかりと開通式の機関車に乗せてもらったのだという。
「そんでー? 動力はなによ? 電気とかないんしょ?」
夕飯を食べている彼らのいる部屋を照らしているのはランプと魔法の灯りだ。木で出来た部屋の中をぐるりと見回してから順は呑気に言った。すっかり諦めてしまったのか、常磐は黙々と食事を続けている。ラスティは相変わらず食事に手をつけないまま、嬉しそうに話を続けている。
「でんきってなんだ?」
「うあ」
ストレートに訊ねるラスティはにこにこと笑っている。順は頬を引きつらせて常磐を伺った。だが今度は常磐が知らん顔を決め込んでいる。くそ、と内心でぼやいてから順はラスティに笑って見せた。
「ええとねー。石炭とかそういうので動いてるの?」
「せきたんってなんだ?」
あどけない笑みを浮かべてラスティが言う。そこで順は箸をぽとりと器の中に落とした。疲れたため息を吐きながら順はこっそりと常磐の脇腹を肘で小突いた。
「ちょっとぉ。何なの、コレ」
「聞いての通りだ」
「何でそおいうこと教えてないのさ。アンタね、エロい技術ばっか叩き込んでどーすんのさ。こーゆー、基本的なことこそ教えといてくんない?」
順は小声でぼそぼそと常磐に言った。受ける常磐も順と同じくごく小声で言い返す。
「それでは家庭教師をお願いしようか? 頼んだぞ」
「オレに頼んだらエロ技術も一緒に入れるけどいいよね? ラスティちゃん、美人だし、食ってもいいってことだよね? それって」
極々、抑えた声ではあったが順はすらすらと言った。すると常磐が横目に順を睨む。その間もラスティは不思議そうな顔をして、せきたんせきたんと呟いている。
「そうか。なるほどな」
そう呟いて常磐が不敵に笑う。順はのんびりとパスタを口に運び、サラダをつつきながら笑った。
「だってさあ。ラスティちゃんばっかし楽しんでさあ。オレがどの子にしようかなぁって、今から選ぶぞーってところで邪魔されてさあ」
色町での出来事をさりげなく披露した瞬間、ラスティが奇声を上げる。
「ばか! いきなり何てこと言うんだ!」
「えー、だってー。ホントのことだもーん」
いつものだらしない笑いを浮かべて順はそう言った。慌ただしく両手を振り回したラスティが違うからな、と必死で喚く。
「それで、どうだったんだ? 満足できたのか?」
「う、えっと、あの……」
常磐が静かに問い掛けた途端にラスティがうろたえる。順はへらへらと笑いながら代わりに答えた。
「満足ってまではどーかなあ。店のおねーさんの方は相当、気持ちよさそうだったけどね。胸とか丸出しにしてラスティちゃんに触られてたし、股間も弄られてたしねー」
「ばっ! ばっ、ばか! 何言ってんだ、変態!」
真っ赤な顔をしてラスティがひっくり返った声で叫ぶ。ホントのことじゃん、と呟いて順は唇を尖らせた。
「なるほど。技術は着実に向上しているようだな」
うんうん、と常磐が頷く。順は呆れた目でそんな常磐を眺めてからラスティに目を戻した。ラスティは真っ赤な顔をしてうろたえている。
「ねえねえ、ラスティちゃんのエロ技術、試させてよ。いいっしょ? 一発くらい」
指を一本立てて、順はにっこりと笑ってみせた。するとラスティが唖然としたように口をあけ、目を白黒させる。
「本人に聞け」
横目に順が見ると常磐が素っ気なく言う。ふむ、と呟いて順はラスティにねえねえと話しかけた。ラスティがいきなり立ち上がり、慌てたように後じさりする。
ラスティはそこまで馬鹿ではないんですけどね……。
気が付いたらどんどんこんな感じの設定になっていきました。