「おっ、俺は、そういうのはちょっと」
「えー。どうせ妊娠しないんだからさあ。一発やるくらいいいじゃん? 常磐さんにはかなわないかもだけど、オレもけっこ上手いよ?」
まだ赤い顔をしているラスティに順はにこやかに言った。うう、と呻いたラスティが首を横に振る。
「えー。ケチ」
「な、何でいきなりそういう話になるんだよ! 俺は機関車の話をだな!」
「だから動力は何よって訊いたじゃん」
急に話を戻したラスティに合わせ、順はもう一度同じことを訊ねた。するとラスティがほっとしたような顔をしてから得意そうに胸を張る。
「魔法だ!」
「……それって魔法の力で走るって事?」
あちらの世界とは違うかも知れないが、何らかの方法で強い火を炊いて走るのだとばかり思っていた順は訝りを覚えて眉を寄せた。するとラスティが力強く頷いて胸をこぶしで軽く叩いてみせる。
「そうだっ。凄いんだぞ! 缶炊き担当の魔法士が居て!」
「……待って」
皺を寄せた眉間を指先で強く押さえながら順は呻いた。それまで自信満々に喋っていたラスティが順が言ったままに黙る。変なところで素直だな、と胸中で呟いて順はざっと考えを巡らせた。
「ええと、つまり。その魔法士は機関車を走らせるためにずっと炊きっぱなし?」
「いや、担当の魔法士は複数居るから交替で」
「つまり、魔法士が力を使い続けないと機関車は停まるって事?」
「そう」
何度か質問した後、順は呆れた顔をして力なく首を振った。
「それってめちゃくちゃ効率悪そうじゃん」
「なっ、なんでだよ! 缶炊きの魔法士になるには特殊免許が要るけど、志望者は多いんだぞ!」
「いや、そうじゃなくて。魔法士を雇う効率じゃなくてね。機関車を走らせるってことの……ああもう、判ったよ! ラスティちゃんにそういう話をさせようとしたオレが悪いってことだね!」
説明するのが面倒になり、順は一方的に喚いた。そんな順の隣に座っていた常磐が深々とため息を吐く。一人、ラスティだけが不思議そうな顔をして首を傾げている。
「確かにえっち方面の技術叩き込む以外に楽しみなんてなさそうな……」
ラスティに聞こえない程度の小声で順は呟いた。
「家庭教師がいきなり匙を投げるな」
「……アンタ、めんどくさいからってこっちに振らないでくんない? オレだって楽しそうなエロ専門のがいいに決まってんじゃん」
漸く食事をする気になったのか、ラスティがいそいそと元の席について食べ始める。常磐がそんなラスティに暖炉にかけられた鍋から温かいスープを注ぐ。常磐はラスティにスープの器を渡してから元の席に着いた。
「仕事をしない奴を居候させる義理は無いんだが……」
「うわあ、いきなりシビアなこと言うね、アンタ。まあでも、ここがダメなら余所をあたるよ」
呑気に笑いながら順はそう言葉を返した。すると常磐が難しい顔をする。もしかしたら常磐はちゃっかりとこの機会にラスティに基本的なことを覚えさせようとしているのだろうか。そんなことを思いながら順はちらりとラスティに目をやった。不思議なことにラスティの食事のマナーはまともなのだ。なのにどうして一般的な、しかもごく基本的なことだけが抜け落ちているのだろう。
そういえば。順はふと、気が付いて話しかけた。
「ねえねえ。ラスティちゃんってさあ。水輝ちゃんの宝珠なんだよね?」
「ああ、そうだけど?」
俺は気に入らないけどな。しっかりと文句を付け足してラスティが頷く。ふむ、と呟いてから順は何気なく言葉を継いだ。
「水輝ちゃんねえ。死んではないけど、けっこヤバくなってると思うんだよ。ラスティちゃんは何ともないの?」
からん、と食器が触れる音がする。握っていたスプーンを器の中に落としたラスティが呆然とした顔をしている。そんなラスティをしばし見つめてから、順は隣の常磐に目をやった。すると常磐も多少は驚いた顔をしている。どうやら常磐は感情があまり顔に出ないタイプらしい。ということは、もしかしたらかなり驚いているのだろうか。
「嘘だろ?」
しばしの間の後にラスティが笑いのようなものを浮かべて言う。だがその笑いは引きつっていて、とてもにこやかと呼べるものではなかった。
「マジだよ。向こうで水輝ちゃんがでかい魔法を撃っちゃってね。天界、冥界もかなりダメージ食らってたから、術展開した水輝ちゃんも反動食らってる筈だよ」
詳しい経過は判らないけどね。そう付け足して順は大皿からサラダのお代わりを取り分けた。
「でも、こっちには何も映ってない!」
ラスティの顔色が見る間に悪くなる。ふうん、と呟いて順は果実から絞ったという少し酸味のあるジュースを取った。グラスに入った乳白色のそれを数口ほど飲んでから改めてラスティに言う。
「こっちは向こうの世界と繋がってるんだっけ。でも、こないだまで壊滅してた人たちもやっと復活したばっかでしょ?」
一時、ラスティたちを始めとする守護神たちを除き、ここの住人は消されてしまった。それは奈月のふとしたひと言がきっかけだった。だが今では彼らも総一郎の手により蘇っている。ここにいる常磐もそんな中の一人だ。
「何か理由があってこっちへの転写が遅れてるのかもねぇ」
ぼんやりと考えながら順はそう呟いた。ラスティや常磐が気付いていなかったとなると、他の守護神たちもあちらの世界の動向には気付いていないだろう。確かにここに来るまでに出会った二人の守護神も何も言ってはいなかった。
「ラスティがなんとも無いということは問題ないのだろう」
しばしの間を置いてから常磐が静かな口調で言う。まあね、と笑って順はジュースを飲み干した。
魔法で缶炊きし続けるのはちょっと……w
フツーの魔法士は死にますよ?w
ラスティの感覚がおかしいのです。