エロシーンというほどでは……。
「ラスティちゃんって妙に不器用だよねえ。もしかして料理とかも全然?」
「うっ、まあそうだけど何か文句あんのかよ?」
「コワ。逆ギレしないでよ、そこで」
剣呑に言ったラスティに笑い混じりに答え、順は長く伸びた煙草の灰を地面に落とした。
「いいんじゃない? ラスティちゃんが出来なくても常磐さんがしてくれるんだしさ。ほら、また引いてる」
「あっ!」
焦った声を上げてラスティが勢いよく竿を上げる。それじゃダメだってば、という順の言葉も空しく、ラスティの竿の先から魚が逃げる。あと少しのところで魚を取り逃がしたことにショックを受けたのか、ラスティが餌を取られた針のついた糸を握った手を震わせる。
「あー……ええと、ほら。また頑張ればいいじゃん?」
「もう怒った!」
竿をその場に打ち捨ててラスティが立ち上がる。順は咥え煙草でそんなラスティをのんびりと見上げた。口早に小さな声で何かを言った直後、その場に淡い光の球が現れる。どうやらラスティが灯りの魔法を使ったらしい。ラスティは光の球を宙に軽く放ると、いきなり服を脱ぎ始めた。
「あらら」
シャツを脱ぎ捨て、ズボンを落とし、ブーツや靴下を慌ただしく脱ぐ。ラスティは続けざまに胸に巻かれたさらしを解き始めた。
「あのさあ。いちお、オレも男なんですけどー」
「煩い!」
魚を逃がし続けたことによほど腹を立てているのか、順のぼやきにラスティがきつい口調で返す。するするとさらしを解き、最後にショーツを脱いだラスティが元気よく小川に飛び込む。
「常磐さーん。お風呂の準備とかした方がいいと思うんだけどー」
小川に浸かり、魚を直に追い始めたラスティを横目に、順は家の方に向かって声を投げた。窓が開いていたために声はちゃんと届いたのだろう。常磐が窓からひょっこりと顔を覗かせる。
「既に準備中だ」
仏頂面をして常磐が言う。ふむ、と呟いて順は小川をちらりと見てから常磐に目をやった。
「なに。もしかしてラスティちゃんの行動は予測済み? 裸で魚と戯れてるけど?」
苦笑を浮かべて順は小川で一人騒ぐラスティを指差した。常磐が怒ったような顔をしたままで順の指差した方を見る。
「やった! とれたぞ!」
嬉しそうに言ったラスティが魚をつかんだ右手を高々と上げ、小川の中に立ち上がる。ラスティの身体にまとわりついた滴が魔法の灯りを反射して鈍く光る。順は感心しつつラスティの身体を眺め回した。
それまで窓から覗いていた常磐の顔が急に引っ込む。その直後、常磐は家のドアを開けて足早に外に出てきた。順のすぐ傍で足を止め、常磐がじっと地面を見下ろす。そこにはラスティの服が脱ぎ散らかされていた。
「ふむ」
そう呟いて常磐がラスティの服を拾い始める。おいおい、と呟いて順は呆れた顔で常磐を見上げた。
「いいの? アレ。素っ裸だけど」
ラスティは手にしていた魚を川縁に放り、次の獲物を狙っている。待てとかこらとか一人で騒いでいるラスティを順は指差してみせた。
「微笑ましくていいだろう?」
得意そうに胸を張って常磐が言う。それを聞いた順は唖然としてラスティを指差していた手を力なく下ろした。
「いや、あの、そういう問題? 子供ならそれでいいかも知れないけどさあ。男の前で裸ってのは、ちょっとどうかと……うあ」
滔々と語る途中で何気なくラスティを見た順は思わず呻きを漏らした。魚を追い回すラスティが片方の足を跳ね上げ、順たちのいる場所からラスティの股間が丸見えになったのだ。夜の暗がりの中ならともかく、今はラスティの作り出した魔法の光が周囲を照らしているのだ。
「ああうあ、ばっちり見ちゃった……」
順は疲れたため息を吐いてがりがりと頭をかいた。隣に立つ常磐が意味ありげな笑みを浮かべて順を見下ろす。
「修行が足らんな」
「アンタねえ。ダンナの前だから我慢してるオレの身にもなってよ。アンタがいなかったら即食いしてるよ? マジで」
深々とため息を吐いて順は竿の向きをさりげなく変えた。ラスティが針で傷つかないよう、出来るだけ離れたところに竿の先を向ける。
「あれを見くびらない方がいいぞ」
急に真面目な顔になって常磐が言う。ふうん、と呟いて順は苦笑を浮かべた。
「ま、ねー。正直なトコ、ちょっと食うのは無理かなあ。あれだけ光ってりゃ、食った途端にオレが破滅しそう」
小川で暴れるラスティに驚いたのだろう。水飛沫を上げるラスティの周囲から逃げたらしい魚が順の竿にかかる。よっ、と声を掛けて順はタイミングを合わせて竿を上げた。反動をつけて魚を手に取り、手際よく針を外して桶に放り込む。
「流石だな」
そう言って常磐がラスティが座っていた場所に腰を下ろす。一枚ずつラスティの服をたたみ始めた常磐を横目に見て順は思わず笑ってしまった。
「アンタ、そうやっていつもラスティちゃんの世話してんの?」
かいがいしいねえ。そう言葉を付け足した順をちらりと見てから常磐が手元に目を戻す。
「あれは俺のだからな」
「はいはい。ごちそうさま」
自慢げに言った常磐に笑い混じりに言ってから、順は再び餌をつけた針を小川に放り込んだ。それから順は釣った魚をどうするのかと常磐に訊ねた。どうやらこの魚は明日の食卓に上る予定らしい。そんな話を二人がしていた時、唐突にラスティが悲鳴を上げた。
「うわあ!」
それまで元気よく暴れていたラスティが焦ったように身を捩り、小川の中にへたり込む。小川は浅く、へたり込んだラスティは腰までしか浸かっていない。
「んー? どったの? ラスティちゃん」
咥え煙草でのんびりと釣りを続けていた順は間延びした声をかけた。きっと蟹か何かにハサミで足でも挟まれたに違いない。そんなことを考えながら順は何気なくラスティに目をやり、思わず咥えていた煙草を落っことした。
どんどん残念になっていく……ラスティ……。
なぜだ。
(作者のひとりごとです)