「僕はうそは吐けないよ。理子」
「愛にも色んな形があるのっ! 親子の愛もあるし、友達の愛もあるし、色んなのがあるのっ! パパは理子を子供と思ってるもん! だから離して!」
理子が優一郎の腕から逃れようと、嫌がって身を捩る。優一郎は腕をぱっと解いて理子を解放した。唐突に力を緩めたことに驚いたのだろう。理子がその場によろける。
「わかった。君が納得するまで、少し時間を置こう。隣の部屋にいるから、抱いて欲しくなったら呼ぶこと」
「残念でした! パパにはもう訊いてやらない!」
泣きそうに顔を歪めて理子がパジャマの上衣をめくり、背中に手を回す。はっとして目を見張った優一郎が止める間もなく、理子は背中に回していた手を身体の前に突き出した。
一枚のカードが理子の手に握られている。
「理子にとって、僕はあくまでパパなんだね」
傷ついた顔をして優一郎はぽつりと呟いた。落胆したため息を吐いた優一郎を理子が涙の浮かんだ目で見つめる。
「名前がそんなに重要!? 優一郎って呼べば気が済む!? でも、それでもパパは理子のことは子供だと思うでしょ!?」
泣きながら理子が凄い剣幕でまくし立てる。
「だから、最初から思ってないってば。君こそ、水輝さんの事を父と呼ぼうとしなかったのは、結局、水輝さんのほうがいいからなんでしょう?」
「パパにずっと抱かれたかったんだから仕方ないじゃないっ。お父さん、いくーっ! っていうより、ぱぱ、いくーっ! って言った方が燃えるんだから!」
ぐしぐしと鼻を啜りながら理子が一気にそう吐き捨てる。それを聞いて優一郎は眉を寄せて額を指で押さえた。考えを巡らせてから優一郎は頭を抱えた。
「猫がきっちり剥げてくれてよかったかも」
「なによっ!」
完全にヒステリーを起こしているのだろう。鋭い声で叫んで理子が大きく息を吸う。だが優一郎はその隙に理子が握っていたカードをひょいと取り上げた。
「あっ!」
「持ち主に返しておくね」
にっこりと笑って優一郎は軽くカードを放り投げた。慌てたように伸ばした理子の手の先でカードが消える。優一郎はきちんと多輝の許にカードが戻ったことを確認して頷いた。
「それで、結局、理子は僕の何が不満なわけ?」
「セックスはしたいけど、愛がないのは嫌!」
意地悪い笑みを浮かべて訊ねた優一郎に、理子がやっぱりこれまでと同じように言い返す。
「どうすれば、その理子の言う、愛、の存在を証明できるの?」
「急に身体が大きくなったから愛してるって変だもん」
唇を尖らせて理子が鼻を啜る。まだ納まらないのか、理子はずっと泣きっぱなしだ。
「それじゃあ、もう証明のしようが無いってこと?」
「その手段を考えるのも男の仕事だもん。理子はずうっとパパに大好きって伝え続けてたのに」
膨れ面をしたままで理子がまたそっぽを向く。
「パパ大好きって言われたら、父親として好かれてるんだと思うよね。普通」
あんな発想してるなんて予測しろっていうほうが無理だって。優一郎は口の中でそう続けた。ちゃっかりと聞き取ったのだろう。文句ある!? と理子がヒステリックに叫ぶ。
「言霊の裁定者のくせに! そういうところだけ手抜きなんだもん! ずるいよ!」
不満一杯の顔をして理子が優一郎を睨みつける。そういえば確かに理子の口にした、大好き、という言葉だけを抜き出してみたことはない。だが、頭にパパとついていればまとめて考えるのが普通なのではないか。そうは思ったが、優一郎は理子の怒り具合を見てそれは言わずにおいた。
「理子はやっぱりまだまだお子様だよね」
「パパに言われたくない。だってパパはちゃんと欲しいものを欲しいって言えないもん。ほんとはこっそり、理子のことも誰かに押しつけちゃえって思ってるんだ」
涙をパジャマの袖で拭って理子がそう言い返す。
「誰に? だったらカード奪わないで理子がここから逃げるの放置しておけばよかったよね」
「理子の処女を食いたいだけ? したことないから試してみたいの? でも残念でした。理子はいつでもここから出られます」
よほど怒っているのか、理子は目を吊り上げて優一郎を睨んだままでずらずらと並べ立ててみせた。
「理子。僕は言葉を武器とする。でもそれは諸刃の剣なんだ」
「だからなに?」
険しい顔をしたままで理子が言い返す。
「ごめん……。限界かも、理子の言葉痛くて」
でも、自業自得か……。そう苦笑して優一郎はその場に片膝をついた。理子がえっ、と驚きの声を上げて慌てたように優一郎に寄る。大丈夫? と心配顔をして理子が優一郎の背をさする。
「理子、本当に好きだから。嘘じゃないから」
ぐらりと優一郎の身体が傾ぐ。背を撫でていた理子が悲鳴を上げて優一郎の身体を腕で支える。優一郎は理子の身体に寄りかかりながら意識を手放した。
ゆういちろうはたおれた。