※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


テンパってる理子

 どうしようどうしようどうしよう。

 

 理子はベッドに何とか優一郎を運んでからもずっと考えを巡らせていた。優一郎は苦しそうに顔を歪めて唸っている。一応、額には冷たいタオルを置いてはみたが、そんなものが効くとも思えない。

 

 迂闊だった。理子は心底自分の言動を反省して心の中で呟いた。こうしている間にも身体のあちこちが酷く痛む。恐らく優一郎のガードが一時的に消えてしまっているからだ。理子はベッドの傍に寄せた椅子に腰掛けたまま、自分の身体を強く抱きしめた。

 

 本当はあそこまで言うつもりはなかったのだ。少し優一郎をつついてすぐに部屋を出るつもりだった。そうすれば優一郎は残念な気分になり、次に会った時にはもっとはっきりと求めてくれるかも知れない。

 

 だが話しているうちに理子は我を忘れた。余計なことまで口走ってしまった結果がこれだ。うー、と呻きながら理子は身を屈めてベッドに頭を乗せた。

 

 くそー。せっかく身体が大きくなったのに、これじゃ出来ないじゃないの。理子は心の底でそうぼやいた。確かにあのまま流される形をとっていればセックスは出来たかも知れない。だが理子はそれはどうしても嫌だったのだ。

 

 ヒューマノイドのように玩具にされたい訳じゃない。かと言って、多輝のように扱われたい訳でもない。じゃあ、自分はどうしたいのだろう。理子は痛みを堪えながら考えてみた。

 

 もしかしたら自分で思うより、ずっと強く優一郎に惹かれていたのかも知れない。そんな答えを心の中に見つけ出して理子は渋い顔をした。まさか、と呟いてため息を吐く。いい男に抱かれたいだけだ。いつも思っていることを理子は思い出してみた。そう。理子は常にそう思っていた。

 

 そのはずなんだけどなあ。そう思いながら理子はのろのろと身を起こした。優一郎の額に乗せた小さなタオルを取り上げ、傍に置いた器の中につける。再び冷やしてからかたく絞り、そっと優一郎の額に乗せる。

 

 やっぱりあの人に頼もうかなあ。身体の力を抜き、出来るだけ痛みのことを考えないようにしつつ理子は脳裏に水輝のことを思い描いてみた。少し言い合いをしただけでこんな風に倒れているようでは、この先のことを考えると優一郎に酷い負担をかけてしまうような気がする。それならいっそのこと、他の男に抱かれた方がましなのではないか。

 

 かと言って、覚醒したばかりの龍神を多輝に抱かせる訳にもいかない。多輝は確かに好きではあるが、力の調整の仕方すらろくに判っていないのだ。下手にこの身体を見せたらきっと色に狂ってしまう。特に覚醒直後の龍神の身体は異性を異様に触発する。あの多輝がもしも溺れてしまったら。

 

 目も当てられない。想像をして理子は深々とため息を吐いた。由梨佳をそっちのけで寝ても覚めてもセックスしたがるのは容易に想像できる。そして由梨佳は多輝に放置されてしまったら存在が維持できなくなる。

 

 くそう。理子は自分の考えにぼやいた。優一郎が張り巡らせたこの結界から出ることは可能だ。転移は出来ないかも知れないが、物理的に壁を破壊すれば結界の芯が壊れることになるだろう。そうすれば外には出られる。だが、無理やりにそんな真似をすれば優一郎が大きなダメージを食らうことも判る。優一郎を何とも思っていないならそれも出来るだろうが、生憎と理子はこれ以上、優一郎を痛い目に合わせるつもりもなかった。

 

 ああでもないこうでもないと考えるうちに、痛みが酷くなる。きっと話をしている間もずっと、優一郎はこの痛みに耐えていたのだ。そもそもこの身体もいけないのだ。痛みを堪えながら理子は八つ当たりに近いことを考えた。この身体は確かに龍神のものだが、それ以外の特性も備えている。そのことを理子自身、生まれた時から知っていた。佑が立城の育児を拒み、由梨佳に理子が預かられたのは不幸中の幸いだった。もしも下手な者に預けられたら、今頃は力を吸いまくられ、セックス三昧の日々を送っていただろう。それほど理子の持つ特性は強い。そのため、本来なら龍神にしか感じ取れないはずなのに、何となくそれを感じた男たちが我先にと理子にラブレターを送りつけてきたのだ。

 

 だがそれらの問題を水輝なら意に介さず理子を抱くことが出来る。本人も言っていた通り、水輝は腐っても青龍王だからだ。理子も恐らく王の傍に置かれるに相応しい者と判断されるだろう。

 

「あー、もう、何でかなあ」

 

 酷い痛みに涙を浮かべて理子は小声で呟いた。涙の浮かんだ目でじっと優一郎を見つめてみる。優一郎はきっと恐がりなのだ。優一郎の持つ力は強い。だが、本来の半分ほども満たされていない。器は大きいのに中身が妙に少ないのだ。

 

 優一郎が幼い頃から周囲の者に圧倒されて育ったことは知っている。銀龍神は命を司る。命の育まれた過程が理子には嫌でも見えてしまうのだ。

 

 傷つかないようにするために、優一郎は最初から強い敵を相手にした時に退く癖がついてしまったのではないだろうか。養父の総一郎、姉だった透。彼らは優一郎のいい刺激にもなっただろうが、逆にコンプレックスを与える存在でもあった。家族として一緒に暮らしていた優一郎は嫌でも彼らと比較され、その上、養母の由梨佳はあからさまに優一郎に総一郎の面影を重ねていた。

 

 誰かの代わりになることを優一郎は極端に拒む。だから優一郎は多輝だけを手に入れたのではないだろうか。多輝は過去を知らない。そのために優一郎を誰かと比べることが出来ない。最初は立城と比べていたかも知れないが、多輝は恐ろしく鈍いし理解力が低い。だから優一郎と一緒にいるうちに二人を比較する、ということすらうっかり忘れてしまったのではないか。

 

 だが優一郎はそんな多輝を真っ先にヒューマノイドにしてしまった。逃げられるのを避けるためでもあっただろうが、優一郎は自分に自信がないのではないだろうか。確かに優一郎はヒューマノイドに執着を持っている。だがこのところの多輝の状態を考えると、実は優一郎は生身の女でもそれほど苦もなく愛せるのではないかと思えてならない。

 

「あー……いらいらする」

 

 ぼそりと呟いて理子はベッドに突っ伏した。理屈は後から幾らでもつけることが出来る。彼らのその時の心の動き、理屈では測れない部分については理子は想像することしか出来ないのだ。

 

 セックスしたいなー……。痛みに朦朧としながら理子はそう呟いた。自分でその意志を持って触れたことはないし、もちろん他の誰かに触らせたこともない。だがさっきからずっと女性器が疼いて仕方がないのだ。その部分が妙に熱くて、じりじりする。これが多分、欲情しているということなのだろう。理子は優一郎の顔の傍に腕を置き、その上に頭をころんと乗せた。

 

「パパ……。大好きだよ」

 

 一緒にお風呂に入って、身体を洗いっこして……。そうできたらいいな、と呟いて理子は意識を手放した。




理子が1人でテンパってますw
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