※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

84 / 177
エロシーンはありません。


儀式とドレス 1

 水輝の応援は聞こえていなかったが、優一郎はベッドに身を起こした格好のままでちらちらと理子を伺っていた。手を出したいのは山々なのだが、何しろ理子はこのまま抱いたら嫌いになると宣言している。きっとここで強引に抱きにかかったら嫌われてしまうだろう。そう思うと優一郎は眠る理子にどうしても手が出せなかった。

 

 理子は苦しそうに顔をしかめて唸っている。この間までは子供だと思っていたのに、今の理子はどこから見ても女にしか見えなかった。

 

「覚悟、決めるしかないか……。槙花、沙雪」

 

 優一郎は中空に向かって名を呼んだ。するとどこからともなく二人の少女がその場に現れる。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 揃って言って二人が深々と優一郎に頭を垂れる。槙花と呼ばれた少女は、あの事件の前に水輝に殺されてしまった元メイドだ。そして沙雪は理子と同じくらいの年頃の容姿をしている。二人は優一郎が作り上げたヒューマノイドだ。

 

「例のドレスのデザインできてるよね?」

「はい。デザイン画は仕上がっております」

 

 そう言って槙花が頷く。その隣に立つ沙雪が言葉を継ぐ。

 

「材料の方も既に揃ったと、先日連絡も入りました」

 

 二人がそれぞれに言うのを聞いて優一郎は頷いた。

 

「場所は……よし」

 

 頷いて優一郎はその場に材料を引き寄せた。優一郎の力を受けた布や糸が組み合わさり、あっという間にドレスの形になる。理子の身体のサイズに合わせたドレスがふわりと宙を漂い、優一郎の手元に落ちる。白い絹で出来たドレスを見つめて優一郎はよし、と頷いた。

 

「あの……僭越ですが優一郎様。それは多輝様にお贈りになるのでは?」

 

 戸惑った顔をして槙花が言う。

 

「違う。これは万一の事態に備えて用意していたものだから」

「はあ、左様ですか」

 

 不思議そうな顔をして槙花がちらりとベッドを見る。ベッドに寄りかかって目を閉じている理子はまだ苦しそうな顔をしている。その身体にまとわりついているパジャマは子供用のものだ。ぴったりと身体にパジャマがまとわりついているため、突っ伏している理子の胸の形が、横から見てもよく判る。

 

 優一郎はそっと身を寄せて理子の唇に唇を触れさせた。唇を介して治療の力を理子に送る。そうしつつ、優一郎は理子の身にまとわりついていたパジャマを消し去った。うーん、と眉を寄せて呻いた理子が難しそうに身じろぎをする。

 

「とりあえず、抑えておいた方がいいな」

 

 そう呟いて優一郎は横から理子の股間に手を伸ばした。その瞬間、理子が顔をしかめて身を捩る。

 

「うーん……パパの……パパの……パパのばかー!」

 

 寝言なのだろうか。だが、そう思った時には優一郎は理子の鋭い肘打ちを食らっていた。ぐっ、と呻いて腹を押さえてベッドに倒れた優一郎の許に、慌てたように槙花と沙雪が駆けてくる。だが理子はやっぱりベッドに突っ伏してうーんうーんと唸っている。

 

「理子。起きて」

 

 優一郎様、ご無事ですか。そう口々に心配する槙花と沙雪を制し、優一郎は理子に声を掛けた。眉を寄せて目元を擦った理子が寝ぼけた顔をしてゆっくりと身を起こす。その瞬間、優一郎はうっ、と声を飲んで硬直した。

 

「なあにぃ? もう朝?」

 

 瞼を擦る理子の胸は露わになっている。乳房が丸出しになっていることにはまだ気付いていないのだろう。理子がぼんやりとした目で優一郎を見つめる。

 

「理子。えっと、そこに服を用意したから、着替えて」

 

 優一郎は理子から視線を逸らして小声で言った。服、と呟いて理子が首を傾げる。

 

「服……ふく……」

 

 寝ぼけた口調で呟いて理子がのろのろと自分の身体を見下ろす。次の瞬間、理子はけたたましい悲鳴を上げて腕で胸を覆い隠した。

 

「何で理子、裸なの!? パパ、もしかして!」

 

 一気に目が覚めたらしい。理子が鋭い声で言って優一郎を睨みつける。

 

「身体を締め付けていたから、脱がさないわけにはいかなかった」

「そんなこと言って! 理子が寝てる間に触ったりとかしなかった!?」

 

 きつい口調で言いながら理子がベッドに置かれた服を取り上げ、自分の身体を隠そうとする。出来れば着て欲しいのだがと思いながら優一郎はちらりと理子を見た。

 

「唇にキスした」

「それだけ?」

 

 低い声で言って理子が疑いの眼差しで優一郎を見る。優一郎は少し俯いて理子から目を逸らした。今の理子を見ていると何だか堪らなくなってくるのだ。

 

「あと、フェロモンの分泌と過剰な欲情を一時的に抑えるための術をかけた」

「あ、どうりで」

 

 険しい表情を消し、理子が納得したように頷く。くるりと表情を変えて理子はにっこりと笑った。

 

「ありがと、パパ。楽になってる」

 

 一転して機嫌良さそうに言ってから理子は立ち上がった。手にしていた服を見た理子がはしゃいだ声を上げる。

 

「これ、着ていいの?」

 

 優一郎は理子に頷いてみせた。槙花と沙雪に手伝ってもらいながら、理子がドレスを身に着ける。下着を着け、スカートをふんわりとさせるためのパニエを重ね、ドレスを身に着けた理子がにっこりと優一郎に笑みかける。

 

「綺麗なドレス。パパ、どう? 似合う?」

 

 その場で理子がくるんと回ってみせる。

 

「とっても、似合うよ」

 

 優一郎は理子に頷いてにっこりと笑った。深々と頭を下げた槙花と沙雪がその場から姿を消す。二人を元の場所に送り返してから優一郎は理子に歩み寄った。優一郎は力を寄せて自分の身に着けていた服を変えた。白いタキシードを着た優一郎を理子が不思議そうな顔をして見る。

 

「どうしたの? パパ。もしかしてこれからお出かけするの?」

 

 理子はドレスだし。そう呟いて理子が自分の着ているドレスを見下ろす。理子のドレスにはたっぷりとフリルがあしらわれている。

 

「地下の中だけどね。誓約の間へ行こう」

 

 そう言って優一郎は手を差し出した。不思議そうな顔をして優一郎の手を見つめた理子が、何故か急に嫌そうな顔をする。

 

「パパ? 何を企んでいるの?」

 

 腕組みをして理子がふんぞり返る。

 

「理子に交際を申し込みたい」

「……何で?」

 

 眉を寄せて理子がぼそりと呟く。それから理子は余所を見ながらため息を吐いた。

 

「そういうのって、理子と心が通じ合ってからなんじゃないの? って、また身体が痛くなる?」

 

 急に不安そうな顔をして理子が訊ねる。

 

「大丈夫。きっちりガードしてるから」

「そうじゃなくてパパがってこと。理子、パパが痛い思いをするのは嫌だなあ……」

 

 小声で呟いて理子がしょんぼりと肩を落とす。抱き寄せたい衝動を堪えて優一郎は理子にもう一度、手を差し出した。

 

「理子。そんなに僕のことが信じられない?」

「パパは大好きだけど……」

 

 困ったような顔をしてから理子がおずおずと優一郎の手を取る。

 

「けど、何?」

「いざ付きあうってことになって、セックスの相性が合わなかったらどうするの?」

 

 しっかりと優一郎の手を握って理子がそう訊ねる。優一郎はそれを聞いて思わずくすくすと笑い出した。もう、と拗ねた顔をして理子が優一郎を睨む。その頬はほんのりと赤く染まっていた。

 

「耳年増なのはもう解ったから。ずいぶんと本質からずれた質問してるって、自覚ある?」

「だって気持ち良くないのは嫌だもん! どうせするんなら、どっちも気持ちいい方がいいでしょ?」

 

 つんとそっぽを向いて理子が言う。

 

「つまり、身体の相性を確かめるために、交際を申し込むよりも先に抱けってそういうこと?」

「そうじゃないけどぉ……」

 

 難しい顔をして理子がぼそぼそと言う。理子は諦めたようなため息を吐いて判った、と頷いた。

 

「今は抑えてるけど、術が解ければ性衝動で頭の中が一杯になってしまうと思う。そうなる前に、理子に正式に交際を申し込みたかったんだけど」

 

 僕の考え方っておかしいかな? そう言って首を傾げた優一郎を見つめ、理子は唇を尖らせた。

 

「パパってば理子を舐めすぎっ。セックスはしたくなるけど、我慢出来るもんっ」

 

 そう答えて理子が目を落とす。ずるいよ、というごく小さな呟きが聞こえ、優一郎は思わず苦笑した。銀色の綺麗な髪を見ていると触れたくなる。いや、それだけではない。理子の身体のどこでも触れてみたい。そう感じる。だが今は理子の放つ覚醒時特有のフェロモンは抑えているはずだ。そう思いながら優一郎は笑みを潜めてまじまじと理子を見た。

 

 俯いていた理子が顔を上げて優一郎を見つめる。そこで理子は不思議そうに首を傾げた。

 

「どうしたの? パパ、顔が赤いよ? 誓約の間に行くんじゃないの?」

「そうだね。急ごう」

 

 慌てて頷き、優一郎は理子を連れて部屋から転移した。静まりかえった広々とした空間に二人が現れた途端、周囲が灯りに照らされる。真っ白な広間で優一郎は改めて理子と向かい合った。

 

「理子。僕とつきあってくれるかい?」

「嫌って言ったらどうするの?」

 

 てっきり、はいかいいえで答えるとばかり思っていた理子がさらりとそんなことを言い返す。優一郎は瞬きをして眉を寄せた。

 

「理子に振り向いてもらうためにもっと努力する」

 

 真面目な表情で答えた優一郎を見つめ、理子が困ったような顔をする。

 

「理子が他の男と付きあったら?」

「僕以上の、理子の眼鏡に適う相手が居るなら。かまわないよ」

 

 優一郎はにっこりと笑ってみせた。すると理子がえー、と不服の声を上げる。

 

「パパ以上の男ってそんなにいないと思うけどなあ」

 

 そう言ってから理子は肩を竦めた。

 

「他の男に抱かれたらどうする?」

 

 また理子が質問をする。それを聞いて優一郎は内心、首を傾げた。そういえば理子は気絶する前に妙なことを言っていた。確か怒って理子は言ったのだ。パパにはもう訊いてやらない。あれはもしかしたら怒って発作的に言ったのではなく、理子は元々、人に問い掛けるという特性を持っているのではないだろうか。考えてみると理子はこれまでに何度も優一郎に質問を投げかけている。




エロ単語は出てきたりしますが、エロシーンはありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。