※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

85 / 177
エロシーンはありません。


儀式とドレス 2

「理子の判断力を信頼している」

「じゃあ、理子が他の男に抱かれてもいいんだ?」

 

 くすりと笑って理子がまた問い返す。

 

「正直、ショックは受けると思うけどね」

「……つまんない。何で問い返さないの?」

 

 ぼそりと呟いて理子が拗ねた顔をする。まあいいか、と続けて呟いてから理子はえへん、と咳払いをした。

 

「理子には決まった相手がまだいません。一度、男に抱かれたら、もしかしたらその男専用になるかも知れません。それでもいいですか?」

 

 やけに改まって理子がまた質問を重ねる。

 

「構わないよ。きっちり責任は取る。理子、僕の傍らで共に……」

 

 そこで優一郎は一度言葉を切った。

 

「戦っていく覚悟はあるかい?」

「覚悟しなきゃならないのはパパの方だよ。銀龍神は命を司るけど、刀の意味もあるんだもん。しかも切れ味抜群だよ?」

 

 くすくすと笑ってから理子が上目遣いに優一郎を見つめる。

 

「覚悟は、出来ている。この三年間、いつかこうなるという予感はあったから」

「予感なんて、そんな生ぬるいものじゃないもん。パパ、まだ理子が赤ちゃんだった頃に本気キスしたでしょ?」

 

 まだ笑いながら理子が言う。悪戯っぽい目で見つめられて優一郎は思わず頭をかいた。

 

「理は言割だからね」

「言霊の割符だもん。でも、あんなえっちなキスするなんてずるいよ」

 

 唇を尖らせてから理子がえへん、と咳払いをする。

 

「ずっと、今の理子が見えてたから」

 

 げんなりしつつ優一郎はぼそぼそとした声で告げた。はっきり言ってこの三年間、拷問を受けている気分だった。相手は小さな赤ん坊なのに、優一郎の目には今の理子の姿が見えていたのだ。どれだけ欲情したところで理子は幼い赤ん坊に過ぎなかった。

 

「鏡、出してみて。理子」

「ほいほい」

 

 軽く返事をして理子が真横に腕を伸ばす。その手の先に大きな一枚の鏡が現れた。銀色の鏡面にはよく知る顔が幾つか見えている。

 

「お義父さん、お義母さん、こんにちは」

『ぶほ』

 

 鏡に映っていた水輝が飲みかけていた茶を吹き出す。青い空間に腰掛けた水輝の横には佑が居るのも見える。にっこりと笑みかけた優一郎の耳に、ちっ、という舌打ちの音も聞こえた。

 

『いいとこだったのに』

 

 しかめ面をして水輝がぼそりと言う。

 

「お義母さん、愛妾(四倍角)の座の獲得、おめでとうございます」

 

 微笑みを浮かべたままで優一郎は鏡面に映る佑に言葉をかけた。するとうっ、と声を飲んで佑が嫌そうな顔をする。

 

「覗きはあまり褒められた行為ではないですよ。孫(四倍角)が出来たらきちんと報告しますから」

「理子もその、愛妾とかいうのになるの?」

 

 ちくちくねちねちと鏡の中の二人を苛めていた優一郎は慌てて振り返った。理子が鏡を見つめて不思議そうに首を傾げている。

 

「多輝にプロポーズしたけど、断られてしまったから」

「理子は多輝の代わり?」

 

 あどけない笑みを浮かべて理子が言葉を継ぐ。鏡の中で怒りに目を吊り上げていた佑がどことなく嬉しそうな顔をして手を叩く。

 

「必然だったんだと思う」

「答えになってないと思うけどなあ。理子、やっぱり他の男のところに行こうかなあ」

 

 唇を尖らせてそう言いながら理子がちらりと鏡の方を見る。鏡の中では水輝が苦笑を浮かべ、佑が握りこぶしを固めている。

 

「理子、僕を支えてくれるかい?」

「えー。それも答えになってないよ」

 

 渋い顔をして理子が言葉を継ぐ。それから理子は深く息を吸ってぱちんと指を鳴らした。その一瞬で鏡がかき消える。

 

「理子は玩具にされたい訳じゃない。護りたい訳じゃないし、護られたい訳でもない。理子は共犯者が欲しいの」

 

 きっぱりと言って理子は腕組みをしてふんぞり返った。

 

「それじゃあ言い直そう。僕のパートナーになってくれるかい?」

「うん。でもその代わり、パパにも強くなってもらいたいの。それでいい?」

 

 これまでから考えるとやけにあっさりと頷いて理子が言う。

 

「わかってる」

 

 優一郎は表情を引き締め、理子を見つめて頷いた。すると理子があっ、と声を上げる。何事かと緊張に身を強ばらせた優一郎の肩を理子がぽんぽんと軽く叩く。

 

「そんなに気合い入れなくても大丈夫。理子とセックスすればそれで強くなるから」

「力が増せば増すほど、それを使いこなすには技量が求められるんだ」

 

 だから。そう続けて優一郎は真面目な顔をして理子を見つめた。すると何故か理子が嫌そうに眉を寄せてため息を吐く。

 

「もうちょっとライトに考えられない? それとも理子としたくないの?」

 

 それなら別にいいけどー。間延びした言い方で理子が呟く。優一郎は慌てて首を振った。

 

「したい」

 

 素直に答えてから優一郎はもう一度、理子に鏡を出してくれるように頼んだ。

 

「さっきの出歯亀してる人たちを映す鏡じゃなくて、普通のを出してくれないかな?」

「んー。まあいいけど?」

 

 どことなく不機嫌そうな顔をして理子がもう一度、その場に鏡を出す。今度は水輝たちのところに通じるものではなく、ごく普通の鏡がその場に現れる。銀色の鏡面には白い空間と優一郎、それに理子が映し出されている。

 

「今の自分の姿、まだきちんと見てなかったでしょう?」

「見なくとも大体の予想はつくけど」

 

 困惑した面持ちをして理子が頭をかきながら鏡に向き直る。優一郎はそんな理子の肩を背後からそっとつかみ、理子を軽く押した。つられて歩いた理子が鏡に近付く。

 

「どう? この姿がずっと見えてたんだけど、やっぱり変態呼ばわりする?」

「理子、パパのこと変態呼ばわりした? ずるいとは言ったと思うけど」

 

 それにしてもやっぱり美人よね。鏡を見つめて理子が自画自賛する。優一郎はうっ、と詰まって視線を彷徨わせた。

 

「いや、それは、えっと」

 

 よく考えたら理子は言っていなかったかも知れない。密かにそのことをずっと思い悩んでいた優一郎はうろたえた。さっき気絶した合間に見た夢にこの姿をした理子が出てきて変態呼ばわりしていたのだ。

 

「それにしても美男美女よね。多輝もなかなかいい男なんだけど、あの天然振りがちょっと……」

 

 好き放題呟いて理子が困ったような顔をして頭をかく。

 

「多輝には僕が必要だけど、由梨佳さんも必要だから」

「いいこと教えてあげようか、パパ」

 

 鏡越しに優一郎を見つめて理子が意味ありげに笑う。優一郎は鏡に映る理子をじっと見つめた。

 

「なに?」

「多輝は子供は産めないよ。多輝はね。人々の希望だから、アイドルだから」

 

 アイドルはトイレも行っちゃいけないし、ましてや子供なんて産まないの。そう言って理子がくすくすと笑う。

 

「うん」

 

 少し寂しいものを感じながら優一郎は頷いた。薄々は気付いていた。多輝は魔と戦うマジカルプリンセスイチゴとして活躍はしているが、実際のところ、多輝が相手にしているのは確実に勝てる相手だけだ。だが人々はそんな多輝の姿に感動を覚え、共感し、そして生きる希望を見出す。それは理子が言い表したアイドルに近い。

 

「だから多輝にはえぐいことは出来ない。アイドルは汚い仕事は出来ないの」

 

 そう言ってから理子が振り返る。背伸びをした理子が素早く優一郎の唇を奪う。唐突に口づけを受けた優一郎は驚きに目を見張った。

 

「理子。発情期の間、君はここから出られない。その間、パートナーとしてお互いに必要なことを情報交換しよう」

「ここってこの広間?」

 

 ぐるりと周囲を見回して理子が不思議そうに言う。それから理子は悪戯っぽく笑って優一郎を上目遣いに見た。

 

「それにセックスはしないの?」

「この広間も含めた、地下の結界内。特殊結界を張った目的が君を閉じこめることじゃ無いのは解ってるよね?」

「まあ、今の理子が外に出たら危険だし」

 

 でも、と呟いて理子が不満顔をする。

 

「セックスはー? 理子、ずっとしたかったのに」

 

 唇を尖らせて理子がつんと横を向く。今すぐにでも押し倒したい。だがそれを堪えて優一郎は苦笑をした。

 

「そろそろ、効果が切れるころだと思うんだけど」

「だからっ、セックスはしないのって訊いてるのにっ」

 

 にっこりと笑った優一郎を睨んで理子が声を荒らげる。

 

「理子はヒューマノイドじゃないんだから、セックスしたくなってもすぐにあんあん言ったりしないの!」

 

 まくし立ててから理子がそっぽを向き、やっぱり外に出ようかな、などと口走る。

 

「理子」

 

 呼びかけて優一郎は理子を引き寄せた。腕に抱いて唇を合わせる。今度は理子は抵抗せず、大人しくされるがままに唇を開いた。舌を絡ませながら理子が優一郎の背に腕を回す。

 

「えっちなキスだ」

 

 唇を離したところで理子がくすくすと笑って言う。

 

「ヒューマノイドじゃないからこそ、ゆっくり手順を踏んでいかないとね」

 

 そう言いながら優一郎は理子の背をそっと撫でた。やっとつかまえた。そんなことを思いながら優一郎は少しずつ撫でる場所をずらしていった。頬をほんのりと染めた理子が時折、ぴくりと身体を震わせる。

 

「パパが触るところ、ぜんぶ気持ちいい」

 

 うっとりとした面持ちで理子が呟く。優一郎は笑みを浮かべて理子の唇をもう一度塞いだ。つたないながらも理子が優一郎の舌に舌を絡ませてくる。優一郎は片手を理子の胸にそっと伸ばした。

 

「んっ!」

 

 軽く眉を寄せて理子が小さな声を上げる。服越しに理子の乳房をやんわりとつかんで優一郎は顔を上げた。うなじに細い息を吹きかけると理子が可愛い悲鳴を上げて身を竦める。

 

「やっぱり、パパってえっち」

 

 理子が困ったような顔で笑う。優一郎は理子の柔らかい髪を指で退け、耳朶を軽く歯に挟んだ。

 

「はう、力入らない」

 

 優一郎に耳を攻められたところで理子の身体からくたりと力が抜ける。優一郎は微笑みを浮かべて顔を上げ、脱力した理子の身体を両腕に抱き上げた。

 

「寝室へ、行くよ」

 

 そう声を掛けて優一郎は理子を見つめた。くくく、骨抜きにしてくれるわ。身体に力が入らないくせに理子がそんな強がりを言う。優一郎はくすくすと笑いながら寝室に向かって歩き出した。




あ。エロシーンはありません。と言ってもキスシーンはありましたねw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。