見慣れない天井が見える。理子はぼんやりと目を開けてのろのろと身を起こした。
「ええと、今日は何曜日だっけ」
時間割はなんだったかな。寝ぼけた頭で思い出そうとして、理子は何となくベッドを降りようとした。だが足を伸ばしたところで奇妙なことに気付く。何ですぐに床がないのだろう。
「あれ?」
こんなにベッド広かったっけ? そんなことを思いながら理子は欠伸をして頭をかいた。どうも寝起きは調子が出ない。そういえば今日は日直ではなかっただろうか。つらつらと考えを巡らせて理子は眠い目を擦った。
「もー……たきー。きがえー」
いつものように声を掛けてみるが返事がない。あれ? と呟いて理子は改めて周囲を見回した。だがいつも見える筈の学習机がない。それにタンスもない。おまけに部屋の中には多輝の姿がない。
「あーれー?」
なのに何故か、ベッドの傍には優一郎が立っている。理子は首を傾げてから優一郎に膝で寄った。
「おはよお、ぱぱー」
寝ぼけたまま、理子はぴったりと優一郎に抱きついた。だが妙だ。優一郎の背中に回した自分の左右の手が重なってしまう。いつもなら届かないのに。そう思いながら理子は首を傾げた。
「おはよう。理子。よく眠れたかい?」
「うん、ねむれたよー。でも変な夢みちゃった」
夢の中で理子は優一郎に抱かれていた。そのことを思い出して理子はくすくすと笑った。いつかそうなったらいいなと思っていたから夢に見たのかも知れない。
「理子、今日から数ヶ月の間、君にはこの地下の結界内で暮らしてもらうことになる」
「ほえ?」
結界。心の中でそう呟いてから理子は何となく優一郎から身体を離した。そういえば何で自分はここに居るのだろう。ここは自分の部屋じゃない。確か優一郎の寝室のはずだ。寝ぼけた頭で考えていた理子ははっとして我に返った。
「あっ! ああっ! ごっ、ごめんなさいっ」
理子は慌ててその場に正座して優一郎に頭を下げて謝った。そうだった。昨日、自分は覚醒したのだ。その後で優一郎に抱かれたのだ。あれは夢ではない。が、理子はその後で説教を食らった。迂闊に真名を口にした理子をベッドで正座させ、優一郎は一時間ほど理子を説教したのだ。そのことを思い出して理子は恐る恐る顔を上げた。
「理子は同じ失敗はしないから。大丈夫」
「ほんとに怒ってない?」
どきどきしながら理子は優一郎を見上げた。だが優一郎の顔に怒りはない。そのことに理子はほっと息を吐いた。胸に手を当ててからはたと気付く。
「っきゃああああああああ!」
自分が裸だったことにやっと気が付いて、理子は慌てて毛布をたぐり寄せた。慌ただしく自分の身体に巻き付ける。
「部屋を用意してある。そちらに移動しよう」
毛布にくるまった理子を優一郎が軽々と抱き上げる。理子は大人しく優一郎の腕の中で身体の力を抜いた。
「パパのお部屋じゃないの?」
結局、理子は真名以外のいい呼び名を思いつけなかった。やっぱり昨日までと同じようにパパと呼ばれた優一郎が苦笑する。
「もちろん、当分の間、夜は毎日僕のベッドで一緒に寝ることになると思うけど」
「夜だけ?」
くすりと笑って理子は優一郎の胸に頭を預けた。毛布からはみ出した銀色の髪がさらりと肩からこぼれ落ちる。優一郎は寝室を出て廊下を行きながら困ったように笑った。
「昼は君のベッドで休憩することが多いかもしれないね」
「ふふ。パパってば正直」
くすくすと笑って理子は軽く優一郎の胸を叩いた。寝室の隣の部屋のドアを優一郎が開ける。理子は隣なんだね、と頷いてみせた。
その部屋はやけに広かった。ベッドもさっきの寝室にあったものとサイズは変わらない。だがその部屋にはクロゼットやドレッサーも設えられていた。奥にドアが幾つかあるから、恐らくシャワールームなどもついているのだろう。
「すごーい。ホテルみたい」
理子ははしゃいだ声を上げて優一郎の腕から飛び降りた。ずれそうになった毛布を慌てて胸元に寄せ、部屋の中央まで歩く。
「気に入って貰えたなら嬉しいよ」
優一郎がそう言って頷いた時、部屋のドアがノックされた。返事をすると一人の少女が顔を覗かせる。
「優一郎様、理子さまのお召し物をお持ちしました」
優しい面立ちの少女がドアのところで深々とお辞儀をする。理子は不思議に思いながら優一郎と少女とを見比べた。この少女はヒューマノイドだ。特有の波動を読んだ理子にはそのことがすぐに判った。
「理子さま、私、沙雪と申します。この地下に理子さまが住まわれる間、身の回りのお世話をさせていただきます。その後、学校に通う時にはお伴させていただく事になっております」
そう言って沙雪と名乗った少女が頭を下げる。そうなの? と首を傾げてから理子はにっこりと笑って頷いた。
「こちらこそよろしくおねがいします」
丁寧に挨拶を返して理子は沙雪と同じように頭を下げた。
「理子さま、あの、お顔を上げてください」
困ったような顔をして沙雪が言う。理子はすっと頭を上げてからにっこりと笑った。
「でもね? 理子、着替えたりとか、身体を洗ったりとか、ごはんを食べたりとか、そういうことは一人で出来るよ? 学校にも一人で行けるし、だから平気だよ?」
にこにこと笑いながら理子は次々に言った。すると戸惑ったような顔をして沙雪が優一郎を伺う。
特訓というか訓練というか?