※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 三部 夜の女王   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


特訓しないとなので 2

「理子。これは君のために用意した教材だ」

「ヒューマノイドについての学習時間は午後に三時間。それでいい? それ以外の時間は理子は他の人に構われたくないなあ」

 

 優一郎にそう言い返して理子は唇を尖らせた。

 

「そのあたりのペース配分は理子の自由にして構わない。これの取り扱いも理子の自由だ。必要ない時は下がるように命じればいい」

「なあんだっ。てっきり理子、ずっと一緒に居なきゃならないのかと思っちゃった。だって学校で彼氏が出来たら困るでしょ?」

 

 明るく言って理子は片目を閉じてみせた。するとドア付近に立っていた二人が同時に黙り込む。理子は身体に毛布を巻き直し、端をしっかりと挟んで留めてから歩き出した。この部屋は広く、奥には簡易キッチンなどもあるらしい。理子はよいしょ、とかけ声を掛けて部屋に置いてあったソファセットを押して移動させはじめた。

 

「お目付役か何かだと思ったの? セッティングが終われば、これは理子の命令を第一に実行するようになる。僕の命令よりもそれは優先される。理子に無断でこれからデータを引き出すことも出来ない」

「え? 何でマスターがパパじゃないの?」

 

 笑って問い掛けながら、理子は力を込めてソファを押した。じりじりとソファが動いて部屋の隅に寄る。続いて理子は硝子のテーブルを押して動かしはじめた。

 

「最初の課題はマスター登録だ。これは自慰のみで自律維持できる性質を持っているから、理子がマスターになっても維持のために手を煩わせる必要も無い」

「はあーい。じゃあ、後でやっとく」

 

 重い硝子テーブルを移動させながら理子は返事した。硝子のテーブルが隅に寄ったところで残ったソファを移動させる。広く部屋を空けてから理子はぽんぽんと手を叩いた。

 

「よし。次は、と」

 

 頷いてから理子はドアのところに立っている二人に歩み寄った。優一郎が受け取っていた何枚かの服をめくる。

 

「下着はまあいいとして……何でこんなにひらひらした服しかないの?」

 

 理子は眉を寄せて呟いた。

 

「急だったから、準備する時間が無くて。それは実は多輝のお古なんだ」

「あー……。多輝なら確かにこういうの似合いそう」

 

 くすくすと笑ってから理子は優一郎の腕の中から下着だけを取り上げた。それからまた部屋の中央に戻って二人に背を向ける。理子は身体に巻き付いていた毛布を剥がして手早く下着を身に着けた。

 

「出来れば畳が良かったなあ」

 

 そう言いながら理子はその場で何度か軽くジャンプした。手首を何度か振る。それと一緒に足首を捻る。屈伸運動を数回ほどして、前屈をする。身体を捻ったところで理子はよし、と頷いた。

 

「必要なら改装させようか?」

「んー。もしかしたらこの部屋要らなくなるかもだから、それはいい」

 

 そう言いながら理子はまた二人に近付いた。今度は優一郎の手を取って部屋の中央まで引っ張って歩く。

 

「パパはここに立ってて。あっ、ええと、沙雪さんは危ないから、ちょっとお部屋から出てくれる?」

 

 にっこりと笑って理子はドアの所に立つ沙雪に声を掛けた。すると沙雪が困惑した顔をして優一郎を見る。

 

「理子の命令に従って」

「あっ、はい」

 

 慌てた様子で頷いて沙雪が部屋から出てドアを閉める。そこで理子はえへん、と咳払いをした。

 

「避けなきゃ死にます」

 

 指を一本立てて理子はさらりと言った。

 

「了解」

 

 真面目な顔をして優一郎が頷く。うんうん、と頷き返して理子は部屋の端まで寄った。軽くその場でジャンプしながら、手の中に宝珠を寄せる。青い宝珠は理子の手の中であっという間に刀に変じた。

 

「行きます!」

 

 そう宣言して、理子は鋭い息を吐いて床を蹴った。衝撃に激しい音が鳴り、じゅうたんの理子が最初に蹴った場所がごっそりとこそげる。だがじゅうたんが傷んだときにはもう、理子は優一郎の懐に飛び込んでいた。気合いを発して理子が抜刀した瞬間、優一郎が素早く身をかわす。

 

「あ、れー!?」

 

 空を切った刀を見つめて理子は素っ頓狂な声を上げた。次の瞬間、うなじに生暖かい呼気が触れる。

 

「ふにゃあ!」

 

 情けない声を上げて理子はその場にへたり込んだ。肩で息をしながら刀を鞘にしまいこむ。

 

「避けられるんじゃない、パパっ! 何でそんなところ殴られてるの!」

 

 てっきり優一郎は避けられないのだろう、と思っていた理子は喚きながら優一郎の赤くなった頬を指差した。

 

「手っ取り早く落ち着かせるために、最も簡単な手段だったから」

「もしかしてわざと殴らせたの? ……それならいいけど」

 

 唇を尖らせ、ため息を吐きながら理子は立ち上がった。もしも優一郎があまりにも鈍いなら、自分が傍にいても仕方ないし、第一それではいい男とは呼べない。だから理子は優一郎が誰かに殴られたことに気付いた後、真っ先に確かめようとしたのだ。

 

「もー……それならそうって早く言ってよねー……。無駄な運動しちゃった」

 

 ため息を吐いて理子は手にしていた刀を宝珠に戻し、さっさと器にしまいこんだ。

 

「まだ、間合いの測りが甘いね」

「うう、あの人みたいなこと言わないで」

 

 理子はうんざりした顔をして傷んだじゅうたんを見つめた。ごめんね、と小声で謝る。

 

「相手が佑なら背後を取る余裕はなかったかな。でも」

「ああもうっ! 理子が修行が足りないのは判ってるもんっ! 先生にもあの人にもいっぱい言われたしっ!」

 

 不機嫌な顔をして理子はつんと横を向いた。その直後、はらりとブラジャーの肩紐が胸元に垂れる。変な感触を覚えて自分の胸元を見た理子は悲鳴を上げて胸を腕で隠した。肩紐が千切れてブラジャーがずれ、乳房が丸出しになってしまったのだ。

 

「理子。君なら僕も佑も超えることができると思うよ」

「当然。超えなきゃお話にならないでしょ? だって自分より弱い刀なんて持っていたって意味がないもの」

 

 情けない気分を隠して理子は素っ気なく言った。理子は初めてあの二人に会ってから後、毎日のようにあの青い空間を訪れた。時間を捻ってくれる翠がいたために、あそこで随分と修行をさせられたのだ。

 

 いつもぼこぼこにされてたもん。理子は拗ねて唇を尖らせ、少し俯いた。子供だ子供だとあの二人はしょっちゅう言うのに、どうして手加減してくれないのだろう。

 

「理子。沙雪を練習相手に使うといい。それなりに手応えがあると思う」

 

 斬って壊してしまっても直せばいいし。そう言って優一郎がさりげなく理子の肩にブラウスをかける。

 

「でも、外には出られないんでしょ? ここは修行するには狭すぎるよ」

 

 難しい顔をして理子は部屋の中を見回した。なにより天井が低すぎる。空間全体を使って戦う理子にとって、天井が低いのは辛い。

 

「沙雪は基本的に戦闘用のヒューマノイドだ。戦闘用ヒューマノイドが存在するということは……」

「戦闘場も当然ある、と」

 

 優一郎が切った言葉の続きを理子は引き取って頷いた。理子はぱちん、と指を鳴らして優一郎の腕にしがみついた。

 

「パパ、大好き!」

「沙雪に確実に勝てるようになったら、僕が相手するよ」

「うんっ! 理子、がんばるねっ!」

 

 満面に笑みを浮かべて理子は力強く頷いてみせた。




理子はヒューマノイドにも触れないといけないのですが……。
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