※この作品はR-18です。

私たち肉便器は旦那様のおもちゃです 〜メイド娼館で調教レイプしていただきます♡〜   作:ゆっとぴあ

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[後編]好きな人ができちゃいました……♡

 二人で部屋を出て、廊下を歩く。

 

 今聞こえるのは、私たちの足音と荒い息、そして喘ぎ声。

 この三つだ。

 

「アナちゃん」

 

 そこに四個目が入ってきた。

 エミリー姉さんが、壁を背にもたれ、腕を組んで私たちを見つめている。

 顔は険しく、私たちを睨んでいるようにも見えた。

 

 普段は絶対に見せないその態度は、私の足をその場に縫い留めた。

 

「旦那様」

 

 姉さんは言葉を続ける。

 極めて事務的で、まるで感情を感じられない。

 

「棟の裏口の鍵を開けておきました。

 外にはそこから出られます。

 結界があり、私どもは出られませんが、この建物の裏手、右から五番目の窓の下、そこの結界装置が不安定です。

 壊すならそこかと」

 

「姉さん……なんで……」

 

 姉さんは私の言葉を遮るように、自分の唇に指を当て、いつものように「しー」と言った。

 

「アナちゃん、幸運を。少ないけど、持っていって」

 

 六枚の銀貨を手渡される。

 

「ありがとうございます。アナ、行こう!」

 

 ルイスくんが私を引っ張る。

 

 エミリー姉さんを横切る時、姉さんはぽつりと呟いた。

 

「旦那様、もしこの子を不幸にすれば、私があなたを殺すわ」

 

 その声は背筋をゾクリとさせる響きがあった。

 私たちは無言でその場を立ち去るしかなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 そこから先はスムーズだった。

 裏口を出て、結界を壊す。そのまま街へと逃げていく。

 

 私たちの姿は暗闇に溶け込み、誰にも気づかれることはなかった。

 

「ここまで来れば……大丈夫そうだ」

 

 ルイスくんが安堵の溜息をつく。

 

「できれば国境を越えたいけど、今は情勢的に厳しいと思う。

 ひとまず、王都の端まで移動しよう。

 王都城壁を抜ける許可証の発行にも時間がいる」

 

 夜通し歩き、朝方に小さな家に着いた。

 ここが逃亡生活の拠点になるらしい。

 

「ここがしばらくの住まいだよ。狭いけど我慢してね」

 

「ううん……すごく素敵……!」

 

 久々に見る普通の家に感動する。

 木造の素朴な作りだが、暖かみがあった。

 

「落ち着いたら、すぐにこの家を離れよう。父上が捜索の手を伸ばしてくる可能性がある」

 

「ルイスくんは大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫じゃない。捕まったら殺されるかもね。

 だけど僕はアナを逃がすためにここまで来たんだ。危険なんて承知の上さ」

 

 そう語る彼の目は決意に満ちていた。

 

「じゃあ今日はゆっくり休もう。明日から忙しくなるよ」

 

「はい……」

 

 疲労で体が重い。しかし心は充実していた。

 ベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきた。

 

「おやすみなさい……ルイスくん……」

 

「おやすみ……アナ……」

 

◇ ◇ ◇

 

 それから、忙しい日々が少し続いた。

 

 貿易商でもなければ貴族の肩書も使えない私たちは、王都の城壁を簡単には通れないらしい。

 こっそり通してくれる闇組織もあるにはあるらしいが、そんなツテもない。

 仕方なく、普通に申請を出すことにした。

 通常七日ほどかかるらしい。

 

 ルイスくんは少しでもお金を貯めようと、日雇いで仕事を始めた。

 肉体労働だが、その分実入りはいいらしい。「無駄に鍛えた体が初めて役に立ったよ」とは本人の談だ。

 

 私は女で、故にすぐに働ける仕事もない。

 だから仕方なく家に残った。

 朝早くに出て、遅くに帰ってくるルイスくんを労わりたくて、料理は腕によりをかけた。

 厨房での見様見真似であったが、自分でもそれなりにできたと思う。

 

 そんな私を、彼はいつも褒めてくれた。これまでの人生分を取り戻してやると言わんばかりに。

 

 そんな彼が、私は愛おしくてたまらなかった。彼さえいれば、あとは何もいらないと思えるほどに。

 

 彼が一日八回好きといえば、私は一日九回好きと言った。

 幸せだった。本当に毎日が楽しかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 でもまぁ、そんな都合のいい幸せが続くわけないのも、また当然であるわけで。

 

 逃亡から八日目の夕暮れ時。

 ルイスくんが仕事から帰ってきた直後の出来事だった。

 ついに発行された通行許可証を、私に見せてくれていた時である。

 

ドン!

 

 玄関の扉が乱暴に蹴破られる音が家中に響いた。

 ルイスくんが即座に私の前に立ちはだかる。

 

「アナ、隠れてろ!」

 

 玄関から複数の男たちが踏み込んできた。

 全員黒い外套を羽織り、腰には武器を携えている。

 先頭の男が低く冷たい声で言った。

 

「ルイス……ようやく見つけた」

 

「父……上……」

 

 ルイスくんの声が震える。

 

 支配人もその中にいた。醜悪な笑みを浮かべながら。

 

「こんなところに隠れていたとはねぇ……アナも一緒とは驚きだ。全く、世間知らずの坊っちゃんには困ったものだ」

 

「父上……なぜ……」

 

「なぜだと?」

 

 父親と呼ばれた男は嘲笑うように鼻を鳴らした。

 

「お前が逃げ出したと聞いた時は心底呆れたぞ。だが……まさかこんな女に心を奪われるとはな。くだらん」

 

 私はどうすればいいか分からず、ただ立ち尽くしていた。

 けど、目の前に震えるルイスくんの手があったので、それを強く握りしめた。

 

 でもできたのはそれだけだ。本当にそれだけ。

 

「この女は奴隷だ。道具に過ぎん。

 そんなものに現を抜かすとは……お前は家督を継がねばならん。帰るぞ」

 

「違う!アナは道具なんかじゃない!僕の大切な人だ!」

 

 ルイスくんが叫ぶ。

 

 思い返しても愚かなことだが、私はその時ルイスくんの服のシミを数えていた。

 これが現実だと認めなくなくて。

 シミは七つほど見つかり、洗ってあげねば、などと考えていた。

 

 いつもの癖だ。結局、この歳まで治らなかった。

 

「ほう……ならば証明してみろ」

 

 ルイスくんの父が合図を出す。

 背後に控えていた男たちが一斉に動き出した。

 

「アナ!逃げろ!」

 

 ルイスくんが私に向かって叫ぶ。

 でも私の足はすくんで動かない。

 というより、全身が金縛りのように動かせない。

 

「無駄だ」

 

 支配人が嘲るように言う。

 

「私が近くにいればこいつは動けませんよ」

 

 男たちがルイスくんに襲いかかる。

 必死で抵抗する彼だったが、訓練された兵士たちの敵ではない。

 あっという間に地面に押さえつけられた。

 

 ようやく我に帰る。こういう時、いつも致命的に思考が遅い。

 

「ルイスくん!!」

 

 悲鳴を上げる私を、支配人が冷たい手で肩を掴む。

 

「さあ、アナ。お前の居場所はうちだ。もう二度と逃げられると思うなよ」

 

 ルイスくんの顔が歪む。

 悔しさと絶望が混ざった表情で私を見つめる。

 

「アナ……!ごめん……!」

 

「ルイスくん……!いや……やだよ……そんなの……!」

 

 私の視界が涙で滲む。

 抵抗しようとしたけれど、支配人の手が肩をきつく掴み、痛みで力が抜けた。

 

「ではな、支配人。迷惑をかけた。こいつはもう店には行かせんから安心してくれ」

 

 ルイスくんの父の言葉が響く。

 

「いいえこちらこそ。これからもどうぞご贔屓に。

 次回は……そうですな、六割引とさせていただきます故」

 

「アナ……!絶対に……また……!手紙を……!」

 

 彼の言葉は途中で遮られた。兵士たちが彼を引きずっていく。

 

「やめて!ルイスくんを放して!」

 

 支配人は私の叫びを無視し、髪を掴んで無理やり歩かせた。

 

「大人しくしろ。痛い目を見たくなければな。ま、罰は確定だが」

 

 抵抗は無意味だった。

 私はただ引きずられるようにして、再びあの店へと連行されていく。

 

 その間、私はただぼーっと、ひたすら虚空を見つめていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 店に着くと、待っていたのは容赦ないお仕置きだった。

 中央ホールの舞台上。照明が集中する中で、私は裸で立たされた。

 乳首とクリトリスにはクリップがつけられ、お尻には金属製の棒が挿入され、両足を左右に開いた状態で固定された。

 

 あ、これ……前にマリーがやられてたやつだなぁ……

 

 なんて考えながら、私はぼんやりと向かいの鏡を見つめる。

 昨日までの幸せな自分はどこへやら、そこにいるのは無様な性奴隷ではありませんか。

 

 旦那様方が私を楽しそうに目を向ける。拷問ショーにされるようだ。

 

 はぁ〜……………嫌だなぁ………………

 

 どうやら私の脳は、まだ現実を直視できていないらしい。

 これが終われば、また幸せな頃に戻れるんだとまるで信じて疑っていない。

 

 家帰ったらお皿洗って……いや待って、お鍋火にかけたままだったかな……

 

「皆様。本日のショーは、この裏切りまんこ、アナちゃんの公開お仕置きショーでございま〜す」

 

 リーナの小さく震えた声が中央ホールに響き渡る。リーナが司会をさせられるようだ。

 

 久しぶりに見るリーナの顔には、泣き腫らした跡があり、どこか絶望の色が見えた。

 

 初めてリーナとこんなに合わなかったな……よく見るともうだいぶんお姉さんだ……

 

「このメスブタは、皆様の奴隷でありながら店から逃げ出して皆様に大変なご迷惑をおかけしました。

 皆様!アナちゃんのこと、早く犯したかったですよね〜?」

 

 旦那様たちから歓声が上がる。下卑た欲望が渦巻く地獄のよう。

 

 ……なんだよこの国、こんなのが貴族なのかよ

 なんで滅びねぇんだよこの国……

 

「それではこれよりお待ちかねの電流を流しま〜す!期限?旦那様方がご満足いただけるまで、ずっとビリビリさせちゃいますよ!アナちゃん、いっぱい反省しましょうね〜」

 

バチっ

 

「お゛ぉ゛ぉ゛っっっっ!?!?♡♡♡」

 

 乳首とクリトリスに電流が流された。想像以上の衝撃に思わず仰け反ってしまう。

 

「あ゛ぁ゛っ♡お゛っっ♡い゛……い゛た゛い゛♡♡お゛ぐ♡お゛♡お゛♡お゛ほぉぉぉぉぉぉっっっっ!!♡♡♡」

 

 クリップから流れ込む電流が直接性感帯を刺激する。

 苦痛と快感が混ざり合った異常な感覚に、私は悶絶した。

 

「い゛や゛っっ!♡♡♡でんきやだぁぁっっ!!♡♡♡」

 

バチバチバチバチバチィッ!!

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っっ!!♡♡♡♡お゛ほぉぉぉっっ!!♡♡♡♡い゛ぐぅぅぅっっっ!!♡♡♡♡」

 

 激しい電流に耐えきれず、私は絶頂を迎えた。

 体が痙攣し、涙と涎が溢れ出る。

 下品な声が自然に出てしまっていた。

 まるで喉が焼け焦げているみたい。

 

「あははは♡おしっこ漏らしてる〜♡」

 

 リーナの無理やりに出してる無邪気な声が響く。

 確かに私の股間からは液体が滴り落ちていた。

 

 あーあー……女の子にこんな仕事させて……この国滅びちまえ……全員死ねよ……

 

「まだまだ続きますよ〜♡」

 

 リーナの合図で再び電流が流れる。

 

バチィッ!!

 

「お゛っっ♡♡♡お゛ほぉぉっっ!!♡♡♡」

 

 絶頂したばかりの体にさらなる電流が加わり、私は狂ったように悶え苦しんだ。

 

 旦那様方の歓声が上がる。彼らにとってはこれが最高の歓楽なのだ。

 

「今度はお尻の穴の方もビリビリさせちゃいますよ〜」

 

 リーナの言葉に従い、尻穴に刺さった棒からも電流が流れ始める。

 

 バチィッ!!

 

「お゛おっっ!!♡♡」

 

 強烈な刺激に私は絶叫した。肛門が痙攣し、腸内を灼かれるような感覚に襲われる。

 

「お゛っ♡お゛ぐぅぅっっ!!♡♡♡」

 

 私は白目を剥きながら痙攣を繰り返す。

 頭の中は真っ白になり、ただ苦痛と快感の波に溺れるだけだった。

 

 それからの事はよく覚えていない。

 

 気づけば五時間ほど放置され、旦那様たちも呻き声を上げるだけの私に飽きたのか、誰も私を見ていなかった。

 リーナも旦那様に連れ去られたのか、既に舞台にいない。

 ただ涎と小便を垂れ流し、ビクビク震え続ける他なかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 お仕置きは四日間続いた。

 私そのものへの使命料の返却と違約金、捜索の費用とそれに伴う経営の空白。

 店に大きな損害を出した私に、もう逆らおうなどと思えないほど徹底的に。

 

 電流拷問の次の日は、男性用トイレに縛り付けられた。

 旦那様が来ればその小便を飲んで処理し、ご希望があればその尻穴を舐めて綺麗にした。

 

 その次の日は壁尻にされ強制奉仕。

 性器と口、前後からレイプされ、尻を叩かれ、抵抗できない見せ物にされた。

 

 最後の日は公開オナニーショーだった。

 中央ホールで、観衆の前で全裸でオナニーさせられながら罵倒された。

 

「アナちゃんってオナニーでそんな汚い声出しちゃうんだ〜?普通の女の子ってこんな声出しながらしないよね?♡」

 

「あ゛っ♡お゛っ♡いき…ぃます♡♡♡い゛ぐぅぅっっ!!♡♡♡♡」

 

 乳首を捻り潰すように摘みながらクリトリスを擦る。あまりの快感に腰が跳ね上がる。

 

「イクっ♡♡イぃぃ……っっ♡♡♡♡くぅぅゥぅ゛う゛!!♡♡♡♡」

 

 絶頂の瞬間、股間から大量の潮を吹き出してしまった。脚はガクガクと震え、体を支えるのでやっと。

 旦那様からは嘲笑と拍手が送られる。

 

「じゃあ最後に皆様に一言!旦那様方を裏切ってごめんなさい!」

 

 リーナが私に謝罪を促す。

 もう逆らう気力なんてどこにもなかった。

 お仕置きは成功と言えるだろう。

 

「う……お♡……裏切って……おお゛っ♡……ごめんなさいぃ……♡」

 

 震える声で謝罪の言葉を述べる。その間も手の動きは止めてはならない。

 

 ようやく解放され、自室に戻ることを許された。

 

 部屋に戻ると、そこは無惨な有様だった。

 机の引き出しは全て開け放たれ、衣服は床に投げ捨てられている。

 僅かな私物も散乱し、まるで嵐が過ぎ去った後のように見える。

 

 とは言っても、私物なんて三つしかない。

 服類と、小さな花瓶と、素朴なティーセットだけだ。

 

 私は無言で膝をつき、散らばった服を拾い集め始めた。

 指先が震えるが、止められない。丁寧に畳んでいく。

 ほとんど無意識の行動だった。考えることを拒んでいるかのように。

 

「アナちゃん……」

 

 背後から聞き慣れた声がした。振り返るとリーナが立っていた。

 彼女は恐る恐る近づいてくると、「手伝うよ」と言って床のハンカチを拾い上げた。

 

「ありがとう……」

 

 小さな声で答えるのがやっとだった。

 リーナは黙って部屋の片隅を整理し始める。

 しばらく二人の衣擦れの音だけが部屋に響いた。

 

「あれ……?」

 

 やがてリーナがベッドの下を覗き込み、何かを見つけたようだ。

 そういえば、もう一つ私物があったか。

 

 彼女が引き摺り出したのは一冊のノートだった。

 

「これ……」

 

 表紙には拙い字で『問題集』と書かれている。

 彼が私のために作ってくれた特別な一冊。

 

 彼からそれを受け取ったとき、私は覚えたばかりの文字でその題を記した。

 「褒めてもらいたい」という、たったそれだけの想いで。

 

 私の体がカッと熱くなって、ブワッと産毛が逆立った。

 

「触らないで!!返して!!」

 

 思わず声を荒げてリーナに飛びついた。

 

「あっ……ごめん……」

 

 慌ててノートを手渡すリーナ。

 受け取った瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。

 

「う……うぅ……うぁ………ぐぅ……」

 

 しゃっくりが止まらない。

 喉の奥から濁った音が漏れる。

 

「返して……返してよ……私の……」

 

 呟きながらページをめくる。

 

 整然と並んだ例文、几帳面なルイスくんの字。

 解答欄には、拙い私の文字が並んでいた。

 たくさん間違えて、悔しくて、申し訳なくて、こぼしてしまった涙の跡。

 間違いすら、あの頃は幸せだった。

 

「う……うぅっ……ひぐっ……ひっく……うぁぁぁぁぁん……っ!!」

 

 ついに声を上げて泣き出してしまった。子どものように。

 嗚咽が止まらない。肺が痙攣するように震える。

 

「やだよぉ………返してぇぇ……ぅうああああぁぁぁぁん……!」

 

「アナちゃん……」

 

 リーナは何も言わず、私の震える体を抱きしめてくれた。

 彼女の腕の中で私はさらに泣きじゃくった。

 胸元を濡らす涙も気にせず、リーナは黙って私の頭を撫で続ける。

 

 頭の奥に、ルイスくんの声が浮かんでは、波のように消えていく。

 柔らかな声色、笑い方、ペンを握る仕草。

 彼に勉強を教わったあの日々。

 紅茶を飲みながら、他愛もない話を交わした私たちの家での一週間。

 

 思い出をたぐるたび、心のどこかで何かが崩れていく。

 それでも、私は手放せない。

 もう二度と届かない声を、何度も何度も、胸の内で呼び戻してしまう。

 

「ぐっ……ぐぅ……うっ……ぁぁぁぁぁ……ぁぁぁんっ!!!」

 

 長い時間をかけて泣き続けた。

 涙は枯れ果て、代わりに乾いた咳が出るようになっても、リーナは離れなかった。

 

 ようやく呼吸が落ち着いてきたころ。

 

「……ありがとう」

 

 蚊の鳴くような声でお礼を言う。

 リーナは微笑んで頷いた。

 何も言わないのが逆にありがたかった。

 

 彼女は立ち上がり、「また来るね」とだけ告げて部屋を出て行った。

 パタンと閉まる扉の音が、妙に耳に残る。

 

 ひとり残された部屋は、以前よりもずっと静かに感じられた。

 片付けられた小物が並ぶ机に、ぼんやりと目を落とす。

 心は空っぽのままなのに、体だけが疲労を訴えてくる。

 

 枕元に転がった問題集をそっと抱き寄せると、そのままベッドに横になった。

 ルイスくんの匂いなどもう微塵も残っていないのに、彼の温もりを探すように、ぎゅっと腕に力を込める。

 

「……………ぐぅ……」

 

 もう一度だけ、嗚咽が漏れる。けれどそれはすぐに収まった。

 

 やがて瞼が重くなり、意識がゆっくりと沈んでいく。

 夢を見る資格などないと知りながら、私は深い眠りに身を委ねた。

 暗闇の中で、あの懐かしい笑顔が霞んでいくのを感じながら。

 

◇ ◇ ◇

 

 二日後のことだった。

 

「ばたん………きゅぅ………」

 

 旦那様のセクハラに耐えるといういつもの仕事が終わり、糸が切れた人形のように部屋のベットで寝転がっていると、誰かがドアを叩く音がした。

 

「アナちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 エミリー姉さんの声だ。

 慌てて立ち上がりドアを開けると、彼女は周囲を警戒するように廊下を見回しながら入ってきた。

 

「見つからないようにね」

 

 姉さんは低い声で囁きながら、懐から封筒を取り出した。  質素だが上質な羊皮紙でできている。

 

「これをあなたに」

 

「これは……?」

 

「ある貴族の家の使用人の方が私にこっそり預けていったの。あなた宛てだって」

 

 エミリー姉さんの瞳には複雑な光が宿っていた。

 

「私も詳しくは知らないわ。ただ『アナという子に必ず渡してください』って言われただけ」

 

 封筒には何も書かれていない。

 裏返しても差出人の名前はない。

 

 鼓動が速くなる。まさか……そんなことがあるのだろうか。

 指先が震える。

 

「ありがとうございます……」

 

 か細い声で礼を言うと、姉さんは私の肩に手を置いた。

 

「注意して。支配人様にバレれば大変なことになるわ」

 

「はい……気をつけます」

 

「じゃあ、私はこれで」

 

 エミリー姉さんはそっとドアを閉めると、足音を忍ばせて去っていった。

 私は封筒を胸に抱きしめたまま、しばらく動けなかった。

 

 おそるおそる部屋の奥へ進み、ベットに腰掛ける。心臓が早鐘を打つ。

 期待と緊張が入り混じった奇妙な感覚。指先が震えながら封を切る。

 

 中には便箋が入っていた。

 几帳面な筆跡で書かれた、子供にも分かりやすい簡潔な文章。

 

「ルイスくんの字……」

 

 思わず声が漏れた途端、涙が零れ落ちた。便箋に染みが広がる。

 急いで涙を拭い、文字を追い始めた。

 

『愛するアナへ

 

 アナ、元気でいるだろうか。酷い罰を受けていなければいいんだが。

 

 まず、謝らせてほしい。僕のわがままに君を巻き込んだことを申し訳なく思っている。

 許してくれないかもしれないが、それでも謝りたい。僕の浅慮で、君を傷つけてしまった』

 

「ふふっ、なに言ってるんですかルイスくん…」

 

 笑みが漏れる。幸せを教えてくれた彼に感謝こそすれど、怒りなど抱くわけがない。

 私がどれだけ彼に感謝しているか、私は彼に伝えきれなかったようだ。

 彼との逃亡で後悔があるとすれば、それだけだ。

 

『父の怒りは凄まじかった。

 僕は家督を継ぐことを条件に命だけは救われた。一人息子だからね。

 今後二度と店には行かせないと父は言っていたよ。

 まあそうだろうね。父の顔に泥を塗り、家名にもヒビを入れたんだから。

 

 今、僕は軟禁状態だ。なにをするにも監視が入る。

 この手紙を届けるのも、それなりに細い橋だった。おそらく、次はないと思う。

 足掻いてはみるけど、これ切りだと思ってほしい。

 

 だが聞いてくれ。僕は諦めていない。

 どうしても君を諦めたくない。

 

 方法は今は思いつかない。でも、なにか方法はあるはずだ。

 

 それまで辛抱してくれ。必ず迎えに行くから。必ずだ。

 

 アナ、僕の人生で最も美しい月明かり。

 いつまでも君を想っている。

 

 愛を込めて ルイス』

 

 読み終えたとき、全身が震えていた。

 

 喜びと安堵と、もう取り戻せない時間の痛みが、すべて一度に押し寄せてきて、私から根こそぎ呼吸を奪った。

 

「ぐっ……ぅ……うっ……」

 

 嗚咽がこぼれる。

 嬉しくて、ただ嬉しくて、どうしようもなく涙があふれる。

 

 便箋を胸に抱きしめた。

 そこに彼の香りはない。けれど確かに、彼がここにいた。

 

「そうだ……返事を……!」

 

 慌てて机に向かう。

 残った紙に、震える手で書き始める。

 

 私、今なら手紙書ける……!

 いっぱいルイスくんと練習したもん……!

 

『ルイスくんへ

 

 お手紙ありがとうございます。とっても嬉しいです。

 

 私もルイスくんを諦めていません。必ずまた会いましょう。

 待っています。ずっと待っていますから。

 

 愛を込めて アナ』

 

 短い文章だが、今の私には精一杯だった。

 

 涙で滲んだ文字がインクに乗り、震えながらも確かな線を描く。

 今これを彼に届ける方法はない。

 それでも、迎えにきてくれた時に渡せるよう、私は書き続けようと思う。

 

「待ってるよ……ルイスくん……」

 

 呟いた言葉は誰にも届かない。それでも良かった。心の中に留めておくだけで。

 

 明日からはまた店の仕事が始まる。

 何をされるか分からない恐怖と興奮にされされながら。

 

 でも今夜だけは。この手紙を胸に抱いて眠ろう。

 次の逢瀬を夢見ながら。




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