幼馴染はオトコノコ〜男の娘なんて好きじゃない〜 作:脊髄反射
福田先生の挨拶が終わると、
通常日程が始まるまでの日程の確認や、授業時間割の確認、教科書販売の確認など、
必要な事務連絡が続いた。
いよいよ新しい生活が始まるんだ、という実感がムクムクと膨らんでいく。
全ての説明が終わると、先生は言った。
「じゃあ最後に、みんなに一言ずつ自己紹介してもらって、それから学校内の見学をして今日は解散になります!」
教室に走った一瞬の緊張を気にする様子もなく、出席番号順に自己紹介していくよう陽気な声で指示がとぶ。
毎年繰り返される、お決まりのやりとりなのだろう。テンポ良くことが進んでいく。
出席番号は男女混合の名前の順になっており、
出席番号1番、教室の一番左前の席に座っていた女子から自己紹介が始まった。
俺の前に座るノリの軽い男子が、盛大にかました挨拶をキメてくれた後(遠藤和希でェーす☆)、
順番が回ってきた俺は、緊張を押し殺しながら立ち上がった。
「お、岡島亮(おかじまりょう)です。小、中とバスケやってました。高校でもバスケ部に入ろうと思ってます。よろしくお願いします」
一礼してから席に着くと、パチパチと拍手が起こる。
拍手の音からして、何とか無難にこなせたのだろうと思えて、ふっと肩をなで下ろした。
前の席の男子(遠藤☆)がニコニコとこちらを見ている。何だよ。
その後も淡々と自己紹介が続いていく。
自分の番を終えた俺は落ち着きを取り戻し、余裕を持ってクラスメイトたちの挨拶に拍手を送っていた。
そして、順番が回ってきた女子が立ち上がった。
あ、さっきの子だ。
不意打ちで目が合ってしまった女の子。
改めて見ると、一瞬だけ目で捉えた印象は間違っていなかったようだ。
うわ。可愛い。
先ほどまでは都会の子だから可愛いのかと思っていたが、
一通りクラスメイトの女子たちを見た今となっては、どうやら彼女が特別であったらしいと分かる。
自分とは不釣り合いな存在。これまでもこれからも自分とは交わることのない人種。
それなのになぜだろう。
不思議と嫌な感じがしない。何というか、懐かしさ?のような。
彼女の話を聞いてみたいと思うような。
彼女が口を開く。
「宮野蛍(みやのほたる)です」
少し鼻にかかった、甘ったるくゆったりとした声だった。
しかし、何かが頭の奥の方で引っかかる感じがする。
みやのほたる? どこかで聞いたことがあるような......。
「中学までは○○県にいたんですが、制服が可愛かったのと、季節とか性別に関係なく制服を着られる校風が素敵だなと思って、この高校を受験しました」
うちの高校には特殊な校則があり、制服の完全ジェンダーフリーが認められている。
女子であってもスラックスを履いていいし、逆に男子がスカートを履くことも許される。
更には、夏服や冬服への移行期間というものが設けられていないので、
各自がその日の気温や体感によって、制服として認められているブレザー、カーディガン、ベスト、シャツなどの組み合わせを自由に行って良いものとされている。
また、制服自体のデザインも人気が高く、それを目当てに他県から入学してくる子も多いと聞く。
そこまではよくある、というか違和感のない話だった。
クラスメイトたちも俺も、おーそうなんだねぇ、くらいの感じで聞いている。
「僕は可愛いものがとっても大好きなので、可愛いもの好きな人がいたら、是非仲良くなりたいです!」
一瞬の違和感。
ん? 僕?
「あと、あんまり重く捉えて欲しくないんですけど、僕は男です」
彼女がそう言った瞬間、教室中の全ての音が空気に分解された。
それは嫌悪でも拒絶でもない、ここにいる全員の脳みそが急速にデータを処理するのに全集中した結果の空白だった。
きっと自転車のサドルの代わりに、グツグツ煮えたキムチ鍋が置いてあったらこんな感じになるんだろうな。←どういうこと?
「これからどうぞ」
彼女が上半身をこちらに向けながら言う。彼女と目が合う。
目が合う? なぜ? いや、彼女は間違いなく俺を見ている。
「よろしくお願いします♡」
彼女は頭を右に傾けながら、目を細めてニコッと笑った。