久しぶりに入った妹の部屋は、記憶の中のそれとは随分と違って見えた。
それが本当に変わっているからなのか、
それとも妹に対する自分の見方が変わったからなのか、雪乃には解らない。
ただ確かなのは、これから先、この部屋を訪れる機会がずっと増えるだろうということだった。
今、この場所には自分を含めて三人がいる。
自分と妹、それに自分達の親友の小蒔。
……親友と言うのは、今はもう違うかもしれない。
もちろん親友であることに変わりはないけれど、そうでないものも彼女との間には育まれつつあった。
そして、妹。
妹は……双子の妹は、未来永劫、例えどちらかが結婚したとしても妹であるはずだった。
今の雛乃を、雪乃はなんと呼んで良いか解らない。
それは踏みこんではならない領域であり、最初からそうあるべき領域でもあったから。
「姉様」
雛乃が、いつもと変わらない声で呼ぶ。
口元に浮かんでいる煙るような笑みも、十八年間ずっと同じものだった。
しかし、目は違う。
自分に対する尊敬と親愛の情は相変わらずだけれど、そこにもう一つ、
漆黒を引き立たせる濡れ羽色が加わっていた。
妹にそんな顔をされて、雪乃は困ってうつむいてしまう。
じっと見つめる熱っぽい視線が、耳朶の温度を上げ、呼吸までも支配する。
こうなることを望んでいた──その自分の内心に気付いたのは今日だが──にしても、
あまりにも急な事態の推移を、まだ完全に受け入れると言う訳にもいかないのだ。
「雪乃」
距離感のない声が、火照った鼓膜を叩く。
快活なはずの友人の声は、しっとりとした憂いを帯びていた。
顔を上げた先に待っている顔を思い浮かべると、雪乃は面を上げることなどできなかった。
妹よりも数段明瞭な輪郭を取っている思慕の情。
後輩の少女達から向けられても疎ましいだけだった瞳を、小蒔は宿しているに違いなかった。
見てしまえばきっと応えてしまうに違いないその瞳が、嫌いなのではない。
受け入れてしまうのが怖いのでも、今はもうない。
受け入れることで今までの自分を裏切ってしまうのが怖いのだった。
「やっぱり……嫌なの?」
「そっ、そうじゃない。そうじゃないんだけど」
不安に震える小蒔の声を、慌てて打ち消す。
その拍子に、じっと自分を見つめているニ本の視線と目が合ってしまった。
そこに宿る、苛烈なほどの想いに、雪乃は息を呑む。
これほどの想いが向けられていて、どうして今まで気付かなかったのだろうか。
もちろん彼女達が巧みに隠していたとしても、
全く気付かない自分はとんでもなく鈍感なのではないだろうか。
苦笑いしそうになった雪乃は、表情を隠す為に首を振った。
「なんか、まだ落ちつかなくってさ」
「良かった……ちょっと強引だったからさ、嫌われちゃったんじゃないかって不安だったんだ」
「……あれは……もういいんだ」
わずか数時間前の出来事が、記憶の遥か遠くに霞んでいる。
何とかそこまで行って引き出しを開けようとしても、
逃げ水の如く決して辿りつくことは出来なかった。
どこか自嘲気味にも聞こえる姉の声に、雛乃が臆病な表情を見せる。
ああでもしなければこういう関係にはなり得なかったと解っていても、
一時の狂熱から醒めれば、やはり無茶をし過ぎたのではないかと不安で一杯になるのだ。
「姉様……お願いです。姉様に嫌われてしまったら、わたくし……」
「大丈夫だって。嫌いになんかなりゃしねぇよ」
雪乃の言葉に嘘はない。
実際、すがるように手を握ってくる妹が、こんなに可愛いと思ったのは初めてだった。
「良かった……」
雛乃の潤んだ瞳が、ゆっくりと閉じる。
わずかに突き出された、ふっくらとした唇に、雪乃は戸惑いながらも自分の唇を重ねた。
「ん……」
手を握る力が、強くなる。
興奮した血が血管の隅々まで行き渡り、全身が異様に賦活化していた。
「……ぁ……っ」
キスをするまでが精一杯で、それ以上動く事も出来ない雪乃に、
雛乃は少しずつ顔を動かして短い口付けを放つ。
柔らかな妹の口唇が触れる都度、腰に甘い衝撃が生まれ、
雪乃の身体に刻まれたばかりの快感が甦った。
あの時は混乱していてただ身体が反応していただけだったのが、
今は余裕も生まれ、思考が溶けていくのが良く解る。
背徳の過ちを犯しているという意識はまだ残っているものの、
それ以上に暖かな感覚が雪乃を満たしていた。
「……ふ……ぁ……」
最後に、少しだけ深く口を重ね合わせた雛乃が、満足の吐息と共に顔を離す。
それをぼんやりと見送る雪乃の頭は、ゆらゆらと揺れてしまっていた。
頬を上気させて視点の定まらない視界に、やや赤みがかった黒髪が近づいてくる。
「ね、ボクも」
二人のキスが終わるのをずっと待っていた小蒔が、同じように唇を突き出す。
雪乃は雛乃の視線を感じつつも、まだ妹の温もりの残っている唇を小蒔にも与えた。
小蒔の薄赤のそれは帰って来るまでに冷えてしまっていて、ひんやりとした心地良さが伝わってくる。
雛乃より積極的な小蒔は頭をかき抱くように密着してきて、
数時間前の行為の名残である汗の臭いが雪乃の鼻をついた。
普段なら嫌悪する臭いも、今は心を刺激する魅惑の香りとなって鼻腔をくすぐる。
「ん…………ん……」
そして、むずかる赤ん坊のように啜りあげる小蒔の声が、幾重にも耳の中で反響する。
これまで抱いたことのない情緒的な反応を、雪乃は戸惑いつつも受け入れていた。
「えへへッ……雪乃……」
小蒔が顔を赤らめて嬉しそうに呟く。
自分と同じくボーイッシュ──この言い方はあまり好きでは無かったが──な顔が、
どきりとするほど色っぽい。
わずかに下がった目尻などは、誰にも渡したくない、と思わせるものだった。
雪乃からキスをもらった二人は、それを自慢するように口を触れ合わせる。
ただ押し当てていただけの自分とのキスとは違う、軽く音を立てながらの、情欲に満ちたキス。
最も身近な二人が愛しげに唇を触れさせている光景は夢幻的でさえあり、
雪乃は口を薄く開き、荒くなる呼吸を逃がしながらひたすらに見つめていた。
可愛らしい音を立てていた二人のキスは、次第に唇を合わせている時間が長くなっていく。
聞こえてくる鼻息にさえ雪乃が興奮していると、やがて薄桃色のものが口の間を見え隠れし始めた。
自分の時にはされなかったキスに、嫉妬めいた気持ちが湧き起こる。
「っぅ……んふっ、ぅぁ……」
ちらちらと覗いているだけだった舌が、艶かしく睦み合い始めていた。
舌腹を軽く合わせ、表面を滑らせる。
清楚な顔立ちを崩し、淫らな表情で小蒔の舌を絡め取る雛乃。
やはり整った目鼻を蕩けさせ、呆けたように応える小蒔。
二人の間で、ひとときも止まることなく舌が蠢いている。
口の周りが光って見えるのは、唾液を拭おうともせずにキスを続けているからだろう。
自分から隠すように顔を傾ける雛乃に苛立ちを感じてしまった雪乃は、
意識しないうちに自らの唇を指でなぞっていた。
目の前で波のようにくねる器官に合わせ、自らの舌で指先をつついてみる。
下から上へ、そろそろと。
舐めること自体ではあまり気持ち良くはならなかったが、
彼女達が感じている快感を自分にも重ね合わせることで、それに似たものは得られた。
スカートの裾を掴み、指を折り曲げて咥える雪乃に、小蒔が気付く。
半ば押し倒されかけていた身体を起こし、不満気な顔をする雛乃をよそに、
切なげに眉を寄せてぎこちない動きで自らを慰めている彼女に近づいた。
「ごめんね」
顔の下半分を覆うようにしている右手を握って優しく口付け、
そのまま唇を重ねてから指を抜き取った。
ぬめぬめになっている小蒔の下顎が触れ、唇が割られる。
一瞬驚いて口を閉じそうになった雪乃は、
もう少しで小蒔の舌を噛んでしまうところだったのを慌てて免れると、思いきって舌を突き出した。
すると、よほどびっくりしたのか、小蒔は顔を離して目を白黒させる。
「なッ……なんだよ」
「ううん、ちょっとびっくりしただけ」
「そ……そッか。悪ぃ」
「いいんだ。ボク、凄く嬉しいよ」
満面の笑みを湛えた小蒔は再び顔を近づけ、
子猫のようにちょこんと舌を出し、雪乃の頬の端、薄紅に色付いている器官との境界をくすぐった。
「あっ……」
雪乃が思わず口を開くとその隙間にするりと滑りこませ、
そのままたっぷりと時間をかけ、口の真ん中へと移動させる。
ここで小蒔は一度顔を離し、自分の唾液で濡れた雪乃の唇をそっと拭ってやった。
「雪乃……好き。雪乃のこと、大好きだよ」
「あ……ぅ……」
低く抑えた小蒔の告白に、雪乃は返事が出来ない。
膨大な感情が、さほど多いとは言えない雪乃の言葉の森から果実を奪ってしまっていた。
返事が無いことに少しがっかりしたのか、小蒔は眉を曇らせている。
言葉で親友の想いに応えることを諦めた雪乃は、
羞恥で破裂しそうな心臓を無視して小蒔を抱き締めた。
「んっ……雪乃……?」
遠慮も何も無い腕力に顔をしかめる小蒔に、勢い良く唇を当てる。
驚く形に開こうとする口に向かって、さっきよりは加減して舌を伸ばした。
「ぅ……ん……」
今度は逃げず包みこむ小蒔の舌に、夢中で絡める。
すぐに何も考えられなくなるほどの快感が、口の中に広がっていった。
「はっ、むぅぅ……ぁ、ふ……ぅっ、むっ」
息継ぎをしながら、渦を描くように舌をくねらせる。
自分がどれだけ卑猥な動きをしているのか気付きもしないまま、
雪乃は底の無い淫楽の海へと身を沈めていった。
雪乃が舌に痺れを覚え始めた頃、見計らったように小蒔が顔を離した。
「ヘヘッ」
最後の最後まで舌先を触れ合わせていた小蒔は、濡れ光る唇をゆっくりと舐め回す。
肩で息をしながらそれを見ていた雪乃は、さっきまでここにあったものを求め、
ふらふらと顔を近づけていった。
「姉様……」
雪乃がやって来るのを待ち構えている小蒔を押し退けるようにして、雛乃が割って入る。
妹に、口を開いた、だらしない表情を見せてしまったことに気づいた雪乃は、
皮膚の下に沸騰した血液を流しながら顔を急停止させた。
「姉……様……」
空気に乗せた瞬間に溶けてしまいそうな声と共に、情欲に染まった瞳が近づいてくる。
長い間すぐそばで見続けてきた瞳に、こんな彩りがあると知らなかった雪乃は、
まばたきもせずに見つめ返した。
「姉様……ずっと……ずっと、お慕い申し上げておりました」
「雛……」
幼い頃にだけ呼び合った名前で、妹の名を呼ぶ。
大きく目を見開いて動きを止めた雛乃が、次の瞬間飛びついてきた。
「姉様っ!」
「わ、ちょ……んっ」
「姉様、姉様……」
スカートの裾が乱れるのも構わず姉を押し倒した雛乃は、夢中でキスを求める。
顔中に柔らかな跡を残されて、雪乃がたまらず逃れようとすると、息のつまるようなキスをされた。
「んッ……ふッ、ぅ……」
雛乃は口の中で淫蕩にさ迷う粘質の塊だけでなく、手足をも己の半身に絡めつかせている。
小蒔の身体とは違う種類の心地良さに、雪乃の筋肉は弛緩することで悦びを表わした。
雛乃の鼻息が、わずかに空気を震わせる。
小蒔よりも遥かに激しく、口内を犯し尽くすようなキス。
想いの全てをぶつけるような雛乃を、雪乃に拒む術などなかった。
両腕を雛乃の背に回し、紫がかってさえ見える黒絹の髪を撫でてやろうとする。
しかし、妹は姉のほんの少しの身じろぎでさえ許さず、重心を巧みにずらして抑えつけた。
「ふッ、うッ……む……」
手首を掴まれ、指までしっかりと握られる。
締めつけられてどくどくと脈打つ指の付け根が、何故か心地良かった。
緩みきった雪乃の口から、どろどろに濁った唾液が糸を引く。
それはかなり長い間、へその緒のように双子の姉妹を繋ぎとめていたが、やがて悔しそうに切れた。
「姉……様……」
「雛……」
焦点の合わない瞳でお互いを映していた二人は、名前を呼ぶことで小さな波を迎える。
それは気だるげに眠る為の波ではなく、更に溺れる為の波だった。
大きく息をする姉の、上下動する胸を見つめた雛乃は、
喉に塊をつっかえさせたまま制服のスカーフに手をかける。
その肩を、後ろから掴まれた。
小蒔を嫌いな訳ではもちろんないが、最も大切な姉との間に割って入られ、
雛乃がわずかな疎ましさを感じつつ振り向くと、
目の前で行なわれていた淫戯が飛び火した小蒔が太腿をよじっていた。
「雛乃……ボク……もう……」
全身から牝の臭気を立ち上らせている小蒔を、姉から遠ざけるように抱き、キスでごまかす。
しかし、親愛の情を露にして肌を擦りつけてくる彼女に、
姉との睦み事はしばらく中断せねばならなかった。
「ね……雛乃……。いつもみたいにしてくれる?」
「もちろんですわ、小蒔様」
何のことだか判らない雪乃の目の前で、小蒔は制服を脱ぎ始める。
小柄で、肉付きの薄い身体には、やはりそれ相応にしか胸の盛りあがりも無い。
それなのに、雪乃にとっては同級生の、唯一人を除いて誰よりも女性を意識させるものだった。
「ブラも……外した方がいい?」
「そうですね。縛ってしまったら、外せなくなってしまいますものね」
「うん……そうだよね。ね、雪乃……外してくれる?」
「え? あ……あぁ」
頷いてしまってから慌てても、もう小蒔は期待に満ちた瞳でこちらを見てしまっている。
他人の下着を外してやるなど、友人同士の遊びでもしたことの無い雪乃は、
自分のものなら普段散々にしているのに、失敗してしまうのではないかと奇妙な怖れを抱いた。
助けを求めて妹の方を見ても、普段通りの微笑みに戻った雛乃は動こうとはしない。
仕方なく、起きあがった雪乃は正面から──本当はこれでは意味がない──小蒔の背中に腕を回した。
なんていうことのない動作のはずだったのに、小蒔の使っているシャンプーの香りを吸いこんだ時、
ちょうど抱き締める格好になっていることに気付いてしまった。
「! ──っ」
どうしてそうするのか判らないまま、小蒔の肌に触れないように、
心持ち身体を離して下着に手をかけるものの、手が震えてしまってホックを外すことが出来ない。
それは余計に小蒔を意識することになり、幾度か二人の肌が触れ合った。
「んっ……くすぐったいよ」
「わ、悪ぃ」
「いいよ……そのかわり、ボクにも雪乃のブラ、外させてよ」
雪乃が答える前に、小蒔は制服の内側に手を潜り込ませてもぞもぞと下着をまさぐる。
「ま、待てって……」
「へへッ、もう外しちゃったもん。ね、雪乃も脱ごうよ」
「オ、オレはもうちょっと後でいいよ」
「ダメ。はい、雛乃」
小蒔が呼ぶ前に、もう雛乃は姉の背後に回りこんでばんざいの格好をさせている。
抵抗はしてみたものの、二人の放つ妖しい雰囲気に挟まれてしまって逆らえるはずもなく、
結局、小蒔のブラ一枚さえ脱がせないうちに、雪乃は制服とブラの両方を脱がされてしまっていた。
上半身裸になってしまった雪乃は、両腕で胸を隠す。
普段はどちらかというと自信ありげに胸を反らしている雪乃が背中を丸めているのは、
雛乃と小蒔をどうしようもなく興奮させた。
「あ、あんま見んなよ」
「ね、まだ脱がせてもらってないよ」
小蒔の言葉に仕方なく頷いた雪乃は、再び両腕を伸ばす。
そこにすかさず、前と後ろから二本の腕が乳房へと伸びた。
「ひっ……! や、やめ……あっ」
二つの乳房を仲良く分け合った雛乃と小蒔は、それぞれの手付きで雪乃の膨らみを撫でまわす。
「だめ……だめ、だっ……て……んぁっ、やぁっ」
小蒔は掌全体で押し潰すように、雛乃は下から持ち上げるように。
しっとりと汗ばんだ手が熱を帯びた肌を滑り、雪乃は敏感に反応してしまう。
「エヘヘッ、あったかいね、雪乃のおっぱい」
「姉様……気持ちいい……ですか?」
「はぁ……ぅ……ん……いい……きもち……いい……」
絶え間無く送りこまれる胸からの刺激に、もう限界だと心が悲鳴を上げる。
それなのに身体は、淫楽を覚えてしまった身体はもっと求めて止まないのだ。
「ふッ、ぅ……んん、んふぅ……」
指に軽やかに乳房の表面を踊らせながら、小蒔は唇を貪る。
たやすく絡めとることが出来た舌には涎があふれていて、
先に雛乃によって官能の奥深くへと導かれていた少女は音を立てて親友の体液を飲み干した。
その雛乃は、想い焦がれていた姉の、ほっそりとした背中に吸いついている。
浮き上がっている背骨の上辺に蛭のように唇を吸わせ、
そこから自らの手がまさぐっている姉の右胸の背中側の位置へと、
片時も唇を離さないまま這わせていった。
「あ……ふ……むっ……ん……」
今日ほころび始めたばかりの花は、たちまちに咲き誇り、
濃密な果汁を吐き出す淫花となって雛乃の前に生けられた。
それは魂を分けた写し身である雛乃にはわかっていたことではあったが、
蕾のままで咲かないのではないかと言う危惧もあったのだ。
しかし今、姉は願いに応え、自分の前に艶なる姿を曝けだしている。
雛乃の悦びは、狂気に近い程深かった。
その狂気を身体に留めておけず、指の中で可愛らしく震える可憐な尖りを軽く潰し、引っ張る。
「うくっ! ぁ、ぁ……ひ……な……」
突然訪れた痛みに身体をびくりとさせてもなお健気に自分の名を呼ぶ姉に、
更に想いが荒れ狂ってしまった雛乃は、肉付きの薄い背に歯を立てた。
「痛っ……!」
噛みこそしないものの、歯型が残るよう顎に力を込める。
容易には判らない場所に刻印を残せたことで、ようやく荒ぶる心は鎮まっていった。
「はぁっ……はぁっ……」
うって変わって優しく胸を揉みしだいてやると、小蒔がキスを終える。
完全に力が抜けてしまったのか、雛乃の掌に柔らかな重みが加わった。
「えヘヘッ……結局、脱がせてくれなかったね」
からかうように雪乃にそう囁いた小蒔が、自分で下着を脱いで手を後ろに回し、互いに肘を掴ませる。
「ね、雛乃……お願い」
求めに応じた雛乃は、慣れた手付きで細い手首に紐を通した。
数分とかからないうちに、小蒔の両腕はしっかりと結わえられてしまっていた。
「きつくないですか?」
「うん……平気」
小蒔は背中を反らし、どう見ても平気では無さそうだったが、
雛乃は尋ねておきながら答えを確かめようとさえしなかった。
もっとも小蒔も窮屈そうに肩をすぼめていても、決して嫌そうにはしていない。
目の前で繰り広げられたあまりに鮮やかな変貌に、雪乃は完全に声を失ってしまっていた。
雪乃の視線を感じて、小蒔は目を伏せる。
「……ボクね、こうやって……縛ってもらうの、好きなんだ」
小蒔の言葉が、雪乃の脳裏で幾度も反響していた。
縛られることで快感を得る愉しみ方がある、ということは漠然とした知識で知ってはいたが、
それはあくまでも男性側からの女性を縛る愉しみだ、と思っていた。
もう禁じられた世界へと入りこんでいた雪乃だったが、
身近な友人がこのような、普通ではない嗜好を持っていることに計り知れない衝撃を受けていた。
しかし。
両の手首を結わえられ、小ぶりな乳房を晒けだしている小蒔の表情の、なんと美しいことか。
身体が思い通りにならないことに、はっきりと恍惚を見出している少女は、
見ているだけで疼いてしまうほど綺麗だった。
「スカートも……脱がせて」
妖精の囁きのような声が、雪乃を虜にする。
上半身は裸で、下半身はスカートを履いているというのは相当にふしだらな格好であるが、
小蒔に請われてその布地をも雪乃は剥ぎ取った。
肌に映える、飾り気のない下着。
小蒔はスカートを脱ぐのを手伝う為に体育座りのように足を前に投げ出していて、
余分なぜい肉などひとかけらもない、
すらりと伸びた腿の付け根の染みまでがはっきりと雪乃には見えた。
「すげぇ……濡れ……てる……」
小蒔の髪が垂れ下がったことで、雪乃は自分が恥ずかしい台詞を口走ってしまった事を知る。
「ごッ、ごめん、そんなつもりじゃ」
「……ボクね」
顔を上げた小蒔は、いつもは勝気に吊りあがっている眉尻を目一杯下げて陶然と告白した。
「ボクね、ずっと……雪乃や雛乃とこんな風になれたらいいな、って思ってたんだ。
それが叶ったから、ボク、もう……ずっとこんななんだよ」
「小蒔……」
「……ね、触って」
ぺたんと足を付けて膝を折り曲げた、いわゆる女の子座りをしている足が徐々に開いていく。
両足の間の、獲物を誘いこむ罠のように漏斗状に狭まっていく空間を、
雪乃の手は迷いを見せつつも着実に小蒔の身体へと近づいていった。
いやに長く感じられた数十センチほどの旅を終え、水分が溜まっている中心に触れる。
ほんの少し指が触れただけで水音がするほど、そこは潤っていた。
「んっ! ぁぁ……気持ち……いい……」
恥ずかしげもなく快楽を口走る小蒔に、指先も大胆な動きをとっていく。
炙りだしのように浮かび上がる秘裂を、何度も何度もなぞり、こすりあげると、
指先に触れるぬかるみの熱が、耳朶まで伝わってきた。
「ふっ……く……あぅ……ん、ゆ、きの……」
前かがみになった小蒔が、おでこを腕に乗せる。
二の腕にずしりと重みが加わっても、雪乃は愛撫する手を止めることは出来なかった。
指先は今や、水分を吸って薄くなった生地を小蒔の中に押しこんでいる。
はじめはひそやかな溝でしかなかった部分が、全てを呑みこむ淫口へと変貌を遂げたのだ。
下着越しにでもはっきりと判るその割れ目に、指を挿れるのはまだためらわれて、
雪乃は逃げるように指を動かす。
「はぁ……ぁ……んっ!」
それが期せずして、秘唇の上辺、敏感な肉芽がある縁を弾いてしまった。
大きく肢体を震わせた小蒔は、やや恨めしげに加害者を見る。
「ダメ……だよ……もっと、優しくしてよ」
「ご、ごめん」
「……でもね……凄い……よかった……よ」
再び腕に頭を乗せた小蒔は、明らかに続きを待っていた。
だから、雪乃は肘の辺りを小蒔の唾液が伝うのを感じながら、それに応える。
「はっ、っ……んふぅ……」
気をつけて、今度は弱すぎるほどの感触で女性の芯を撫でる。
雪乃は、姉への想いから早くに目覚めた妹と違って、性を意識することにずっと罪悪感を感じていた。
もちろん女子校であればそういう話はいつでも耳に入ってくるものだし、
経験がどうした、男がどうしたと騒ぐ友人は日毎に増えていた。
それでも雪乃は性欲の処理に困るということも特に無かったし、
やり方が良く判らないということもあって同世代の少女の中でもかなり淡白な方だった。
だから、クリトリス自体は知っていても、それがこれほどまでに敏感な箇所だとは思いもしなかったのだ。
今、小蒔は自分の指のほんのわずかな動きで感極まって身体を震わせている。
やや遅い性への好奇心を目覚めさせた雪乃は、飽くことなく女性の神秘を探っていた。
夢中になって親友の身体をまさぐる雪乃の背中に、重みが加わる。
「姉様……わたくしも……わたくしも、姉様のことを想って……」
背中全体に、温かな肌が触れる。
自分の背中で押し潰されていくものと、その先端にある小さなしこり。
妹がいつのまにか一糸纏わぬ姿になっていることを、雪乃は間違いようもなく感じとっていた。
「雛……」
「姉様……」
雛乃は想いを寄せる姉を誰にも渡すまいとするかのように、雪乃の腹部に腕を回す。
本当は折るほどに抱き締めたいのをこらえ、代わりに先ほど触れられなかった、
姉の心臓がある側の乳房を繊手で覆った。
雪乃はまだ親友の身体に対する興味を満足させてはいなかったが、
雛乃がしっかりとしがみついて身体が動かせない。
困ったように小蒔を見ると、小さく頷いた小蒔は自らバランスを崩し、後ろに倒れこんだ。
その瞳に誘われるまま、雪乃もその上にのしかかる。
短い頭髪をほつれさせたまま、小蒔は悩ましげに囁いた。
「いいよ……ボクのこと、好きに……しても」
言葉が、身体を支配する。
何をどうすれば良いのか判らないまま、雪乃は横たわる少女の小ぶりな胸を掴んだ。
「ああっ! ぅ、あ……」
「わっ、悪い。加減とか、判んなくってよ」
「ううん……いいんだ……ね、もう一回今のやって」
「で、でも」
「平気……だから」
小蒔から、求めた、ことだ──免罪符を手にした雪乃は、遠慮無く膨らみを絞る。
「あうっ……! ぁ……」
嫌がっていない。
「はっ……ん、そ、れ……」
悦んでいる。
痕が残ってしまうくらい強く掴んでも、口を淫らに綻ばせ、
肌を快楽に色付かせる小蒔を、もっと蹂躙したいと思った。
寂しそうにたたずんでいるもう片方の乳房に吸いつく。
乳を与えるための器官を、赤ん坊だった自分がそうしたように思いきり吸い、
今の自分がそうしたいように上下の歯で噛み立てた。
「や、あ……! あ……!」
身体を一杯に仰け反らせ、小蒔が喘ぐ。
それでも雪乃は乳首を離さず、口の中に捕らえ続けた。
「い、た……痛いよ、雪乃……っ」
とうとう痛みに耐えかねた小蒔が懇願する。
恐怖さえ混じったその声に慌てて口を離した雪乃は、
怯えた表情で自分を見つめる小蒔にうろたえてしまった。
「わ……悪ぃ」
「……」
「本当に……悪かったよ。なんか……抑えが効かなくなっちまってさ」
「……キスしてくれたら、許してあげる」
「……え?」
「はい」
さっさと目を閉じた小蒔に、困惑しながらも雪乃は唇を重ねる。
雪乃が顔を離そうとすると、唇を咥えて離さず、
結局かなり長い時間キスをさせられる羽目になってしまった。
それでも途中からは積極的に応えた雪乃が顔を離した時、
スカートと下着は脱がされてしまっている。
そして剥き出しになった臀部には、雛乃が唇を寄せていた。
もちろん雪乃は止めさせようとはしたのだが、
身体を起こそうとすると小蒔に唇を引っ張られて出来なかったのだ。
女性らしい丸みはあるものの、全体に小さく締まっている尻を、雛乃は思うままに吸っていた。
口を一杯に開けて肉を食み、ねっとりと唾液を塗りたくる。
ぬめぬめと表皮を滑る粘質の液体のくすぐったさに、雪乃は身をよじって妹を離そうとした。
すると、雛乃は目線だけを上げて姉に応え、それから尻を解放する。
丸く開いた口が、雪乃には何故だかとてもいやらしく感じられた。
自分の唾液で白く輝く丘を撫でながら、雛乃は侵略の場をもう一人の少女に移す。
未だ残されている最後の砦に手をかけ、脱がされていることを意識させつつ足首から抜き取った。
姉よりは濃く、自分よりは薄い叢。
そしてそれが隠す、穢れ無き谷。
これからなされることへの期待に薄く色づき、誘うように開いている襞を両手で押し広げる。
「んっ……」
両手を縛られている小蒔が、雛乃がしやすいように腰を浮かせると、待ちきれない蜜がこぼれた。
それを舌で掬った雛乃は、開いた秘唇の頂点で慎ましげに収まっている柔突起に乗せてやった。
「んあぁっ! あ……」
一層大きく腰を突き出し、身悶える小蒔。
雛乃はそれに逆らわず一度顔を離し、腰が落ちつきを取り戻したところで再び同じ場所を舌で突ついた。
「ひっ、ん……あはぁ……ぁ……ひんっ」
二度、三度と責めあげ、身体の反応が追いつかなくなったところで本格的にねぶり始める。
身体を動かすことでいくらかは逃がしていた快感をそのまま受けることになって、
小蒔は嬌声に悲痛なものを混じらせていった。
「こ……まき……」
目を硬く閉じ、魚のように口を開閉させる親友に、雪乃は気遣わしげに髪を撫でる。
しかし、つい今しがたまで甘いキスを交わしていた小蒔は、それを跳ねのけるように首を振った。
「おい……」
「も……っと……」
「え?」
半ばは妹に聞かせるように語尾を強めた雪乃に、信じられない声が重なる。
耳を疑った雪乃だったが、答えはすぐに返ってきた。
「お願い雛乃、もっと……もっと強く……ううぁあっっ! そ、そう……それ……」
切羽詰った声色で、最も敏感な柔芽への刺激を求めてくる。
頬は薔薇色から深紅へと変わり、汗と唾液を撒き散らして快楽を表現する小蒔に、
雪乃はすっかり気圧されてしまっていた。
それでも、健康的な肢体を悩ましくくねらせる小蒔から目を離せない雪乃は、
下腹が熱く疼いてしまうのを抑えることが出来ない。
そんな姉の状態を、本人よりも確かに把握していた雛乃は、小蒔への責めを緩めて言った。
「姉様も、舐めてもらってはいかがですか?」
「舐めて……って」
口の周りをてらてらと濡らしての妹の台詞に、雪乃は絶句する。
強烈に疼きを揺さぶるその提案を実行するには、小蒔の顔の上に跨らなければならない。
まだ、今日この禁断の世界に足を踏み入れたばかりの雪乃には、とても出来ない格好だった。
「いいよ……雪乃、ボクに……雪乃の、舐めさせて」
しかし、淫欲に瞳を潤ませきった少女は、名案とばかりに懇願する。
数時間前にされたばかりの記憶が生々しい感覚となって思い出され、
遂に雪乃はゆるゆると腰を持ち上げた。
無言のまま小蒔の顔に跨り、腰を落としていく。
「ほッ、本当に……いいのか?」
「うん……お願い」
小蒔の顔から数センチのところで、雪乃は最後のためらいを口にした。
答えた小蒔の熱い呼気が、潤む秘部にかかる。
そこから槍を突きこまれたような愉悦が、一気に残りの距離を詰めさせた。
「ふッ、ん……んむぅッ」
どうしようもなく恥ずかしい思いと、親友を蹂躙しているという興奮が、淫らな滴となって腿を伝う。
そして、息苦しげな呻きが収まるにつれ、舌が身体の内側まで入ってくるようになった。
「ひっ、ぁ……うぁ……」
手で雪乃を抑えつけることの出来ない小蒔は、舌を目一杯に伸ばして雪乃の中を掻き回し、
時折腰が近づいたとみるや、すかさず吸いついて激しい淫撃を加える。
「くぁ、ん、んっぅ……っ、や、ぁ……」
意識が飛ぶほどの官能を受けて、たまらず雪乃の上体が反りかえった。
わずかに浮かせていた腰が落ち、全体重が小蒔にかかってしまう。
「んっ、むぐっ……う」
足の間から聞こえるくぐもった悲鳴に、雪乃は慌てて腰を浮かせた。
すると、雛乃に両肩を掴まれて抑えつけられてしまった。
「むううぅっ! あ、ぐ……」
再び、さっきよりも大きな叫び。
けれど、雛乃の手は力強く肩を抑え、更なる重みを小蒔に与える。
「ひ、雛……ん……」
「小蒔様は……こういうのがお好きなのです」
妹の言葉に親友を思う気持ちは潰え、悦楽と嗜虐の邪心が取って代わる。
熱く膨らんだ陰唇を更に強く押しつけ、自らの欲望にのみ従って親友の顔を汚した。
雛乃の言葉どおり、小蒔は抵抗する様子もなく、健気に奉仕を続ける。
いつしか雪乃もそれに合わせ、自らの感じる部分を舐めさせようと腰をくねらせていた。
淫楽に溺れる姉を妖艶な微笑みで見つめていた雛乃は、
小蒔の左足を持ち上げ、大きく晒け出された秘唇に自らのそれを重ねる。
淫汁に浸かりきった二つの恥裂が、歓喜の音を立てて混じりあった。
「ふっ、んんーっ!」
擦りつけられるクリトリスが、鋭すぎる悦びを小蒔に与える。
雛乃によって開発された秘豆は、主を見分けたかのように限界までしこり、
雛乃の同じ部分とじゃれあう。
身体をびくびくと痙攣させながら、それでもなお、
小蒔は腰を振り立てて自らを追い詰めていた。
雛乃から与えられた悦びを、雪乃に伝える。
もっとも、そんなことをしなくても、雪乃ももう、
何も考えられなくなるほどの快楽の海にすっかり溺れていた。
親友の身体の上で、妹と唇を重ねている。
そして体内には、二つの舌が。
倒錯に身を委ねる心と、身体を蝕まれていく身体と、それぞれの快感が雪乃をたやすく押し流す。
「ふぁ……ぅぷ、うう……ぁ、はっ」
吸いつくような動きで口の中をまさぐる妹にしがみつきながら、
いつしか雪乃は足を大きく開き、股間をはしたなく小蒔に押しつけていた。
「んっ、ぐ……っぷ、ぁ、はっ」
むせながらも、一滴でも多く淫滴を口にしようと舌をくねらせる小蒔。
その吐息が、舌先が、的確に雪乃を追い詰めていく。
「オ、レ……あぁっ、も、ダメ……だ……め……っっ!」
全身にくまなく淫感を植えつけられた雪乃は、肢体をわななかせて達した。
つい先日までは全く知らなかった、迸る絶頂。
雛乃と小蒔に教えられたこの魔悦を、雪乃は陶然と貪る。
あたかも、これまで抑えてきた分を取り戻すかのように。
「姉……様……わたくし……も……っ!」
そんな姉に同調するように、雛乃も果てを迎える。
雛乃の絶頂は姉のそれとは違い、どちらかと言うと姉の媚態を見てのものだった。
充分に快楽をその身に受けながら、それを表現する術を知らないように見える姉。
それをじっくりと教えこんでいける、そう考えるだけで、
雛乃は何度でも絶頂を迎えることが出来た。
深く、長い絶頂の最後の一瞬までを味わい尽くした雪乃は、
自分がどこにいたか思い出して慌ててどいた。
「気持ち……良かった……?」
どこか放心したように尋ねる小蒔に、恥ずかしさが甦った雪乃は小さく頷く。
「へへ、良かった。ボクもね、雪乃と雛乃に……乗っかられてるんだ、って思ったら……」
そこで言葉を切った小蒔は、
聞いていた雪乃が思わずぞくりとするほど色っぽい吐息をしてからうっとりと呟いた。
「それだけで、イっちゃった」
その小蒔の傍らに横たわった雛乃が、愛蜜で汚れた顔を舐めて綺麗にしている。
妹が舐めているのは自分の体液だと気づいて、雪乃も慌ててそれにならった。
「雪乃も……してくれるの?」
「だ、だって……オレが……汚しちまったんだしよ」
「……ありがと。でもね、ホントはちょっと……このままでもいいかな、って思ってるんだ。
あ、でも、雪乃が綺麗にしてくれるんなら、そっちがいいけど」
「小蒔様、わたくしでは嫌なのですか?」
「そ、そんな訳ないじゃない。もう、雛乃はすぐそういうこと言うんだから」
小蒔は目を閉じて、想いを寄せる少女達との会話を愉しんでいる。
時々身じろぎしているのは、くすぐったいからだけでなく、
手に体重がかかって苦しいからのようだった。
「なぁ、手」
「いいんだ……ボク、こうされてるとね、雛乃のものになってるんだって感じがして好きなの」
雛乃の、もの──小蒔の言葉は、鋭いいかづちとなって雪乃を撃った。
単に自由が効かない被虐というだけでない、身体を、そして心を捧げる悦びがあることを、
この時雪乃は理解したのだ。
自分を見つめる淫らに蕩けた顔に、自分を重ね合わせる。
オレも、こんな気持ち良くなれるのか──
「姉様も……縛ってさしあげましょうか?」
「! オ、オレは……」
口の中でどろどろに粘った唾を飲み干す。
自分が小蒔と同じようにされて悦ぶのか興味もあったし、
もしそうだとしても、この二人にならそれを知られても構わないと思った。
「……痛く、ないんだよな」
それは質問ですらなく、はっきりと縛って欲しいと言うのが恥ずかしかったから、
そう回りくどい言い方をしただけだった。
「大丈夫です。……それでは、手を後ろに回して頂けますか?」
雛乃の声がうわずっている。
それは、初めて耳にする妹の声だった。
起きあがった雪乃が手を後ろで組むと、随分と急いた様子の雛乃が手首に縄を通す。
こんな縄、いつのまに用意したんだろう──ぼんやりとそんなことを考えていると、
縄が締め上げられ、肩に小さな痛みが走った。
しかしそれは大きなものにはならず、すぐに慣れる。
代わりにやって来たのは、「雛乃が解かなければ解けない」という、
うぶ毛が総毛立つほどの甘い被虐だった。
「……出来ました」
軽く手首を動かしてみても、意外としっかりと縛られていて解ける気配はない。
そして、少し足を開いて座らないとバランスが取れない
元来雪乃は指図をされるのがあまり好きではなかったが、
自由を奪われるというのがこんなに甘美なものだと初めて知った。
──初めてではない。
数時間前にも同じように縛められた時、既に心のどこかで感じていた。
だから、今もさほど抵抗無く倒錯の淫戯を受け入れることが出来た。
自分と同じ領域に足を踏み入れた雪乃を、小蒔が歓迎する。
武道少女の面影を微塵も感じさせない、儚げなたたずまいは、
見ているだけでへその下を熱く火照らせるものだった。
「これで雪乃は……雛乃と、ボクのものだね」
「雛と……小蒔の……」
「うん。それでボクは、雛乃と雪乃のもの」
「小蒔が……オレの……」
「なんか……ドキドキしてきたね」
窮屈な姿勢のまま、子供っぽい微笑みを浮かべる小蒔を見た時、雪乃の中で何かが弾けた。
緩く開いていた膝を擦り合わせ、もどかしい刺激を自らに与え、
満たされないものを求めて妹を見る。
「オレ……オレ……ん……っ!」
「あれ雪乃、もしかしてイっちゃったの?」
「だって……」
まさか想像しただけで達してしまうとは思わず、雪乃は真っ赤になって下を向くしかなかった。
しかし、自分と小蒔が共に雛乃に傅く光景は、
ぼんやりと思い浮かべただけで強烈な快感となり、新たな蜜をこぼさせる。
漂う性臭は、強烈な催淫剤となって小さな部屋の、小さな一角に集う少女達を蕩かした。
「雪乃って……本当は凄いエッチだったんだ」
「わたくしの姉様ですもの、ね」
「あ……ぅあ……雛乃……小蒔……」
とろんとした目で小蒔を見る雪乃は、金魚のように口をぱくぱくとさせるしか出来ない。
その唇に、雛乃がねっとりと舌を這わせる。
「姉様……」
「雛……オレ……」
「はい……姉様はもう、わたくしの……ものになられたのですよ」
「っ! う、ぁ……」
顎を掴まれ、涎がぽたぽたと落ちる。
痛みは、感じなかった。
「ボク……ボクにも……ちょうだい……」
起き上がれない小蒔の許に顔を寄せた雪乃は、不自由なまま舌だけを伸ばしてぺたぺたと絡める。
その上から、雛乃が舌をまぶしてくる。
淫らな縁に結びつけられた少女達の影が、やがてひとつになっていった。