※この作品はR-18です。

淫縁   作:SVX

5 / 7
雛乃x葵です。


淫縁 V

 鳥居は、神域と俗界を分け隔てるためにある。

そう葵は聞いたことがあった。

ならばその内側で行われる行為は、神聖なもの、ということになるのだろうか。

くすんだ朱の柱を見上げ、葵はふとそんなことを考えた。

 数日前に柱の向こうで行われた、倒錯の集い。

同性である小蒔を好いている自分を恥じてはいなかったが、

それが世の常からは外れていることもまた承知している葵は、

勢いとは言え小蒔だけでなく、この神社の娘である織部の双子姉妹とも禁断の関係を共有したことに、自己嫌悪を抱いていた。

主導権を握れなかったこと。

小蒔と共にとはいえ、彼女達の前で痴態を演じてしまったこと。

そして、既に小蒔を奪われていたこと。

彼女達がいなければ、小蒔とこのような関係になれなかったことは解っている。

しかしそれだけに、葵の情念は織部姉妹に対して穏やかならざる方向を向いてしまうのだった。

特に、妹の雛乃の方に、葵は何か恐怖めいたものさえ感じていた。

無垢とさえ言える顔立ちの奥に眠るのは、自分よりもよほど底知れぬ深い闇なのではないか。

あまり多いとは言えない彼女の言葉の端々に、葵はそういったものを感じていたのだ。

出来れば小蒔には彼女に近づいて欲しくはなかったが、そんなことを言えるはずもない。

結局今の自分には、ずるずると彼女達に従い、そのおこぼれを貰うしかないのだ。

 自嘲した葵はいつの間にか触れていた柱から手を離す。

そもそもどうしてここに来てしまったのか、それすら解らない。

彼女達への恨みつらみを再確認する為なのか、

とさすがに自分でも哀れまずにはいられないことまで考えてしまい、

こんなところを誰かに見られる前に帰ろうと踵を返そうとした葵を、

肩越しに呼びかける声があった。

「美里……様?」

 振り向くまでもなく、葵には声の正体が判っていた。

物静かな声は、まさに今思いを巡らせていた、織部雛乃のものだった。

学校帰りの彼女は当然制服で、結わえた肩まで届く長い髪に、赤い襟が似合っている。

野暮ったい真神の制服とは随分と違う印象だったが、それは着ている人間のせいかも知れず、

葵は早くも心中に穏やかでないものが芽生えるのを抑えられなかった。

だからと言って無視する訳にもいかず、とっさに社交辞令的な挨拶を交わす。

「こ、こんにちは、雛乃さん。今日は、雪乃さんは?」

「姉様は今日は薙刀部の会合で遅くなるそうです。小蒔様は?」

 正直なところ、自分が何故ここにいるのかさえ良く解らなかったから、

逆に問われ、葵は答えに詰まってしまった。

「小蒔は、今日は用事があるとかで……わ、私も用があって来たのではないのだけど」

 思わずありのままを話してしまった葵に、雛乃は小首を傾げてみせる。

芝居がかった仕種も、彼女がすると古風な趣きがあり、小憎らしさを感じてしまう葵だった。

しかし、その姿勢のまま雛乃から発せられた言葉は、そんな感情など吹き飛ばしてしまうものだった。

「そうですか。ここは寒いですから、中に入りませんか」

 小蒔はおらず、雪乃もすぐには帰ってこないらしい。

つまり、中に入るということは、自分と彼女の二人で過ごさなければならないということだった。

これが小蒔とだったなら、一も二も無く頷いただろうが、

雛乃とでは何を話せば良いか解らず、気が重くなるだけなのは容易に想像できる。

と言って断るのも大人気ない気がして、葵は黙って頷いた。

「それではこちらへどうぞ」

 鞄を両手で持った雛乃は前に立ち案内する。

その後ろを、葵は複雑な表情でついていった。

 

 あの日以来初めて訪れる部屋。

もちろんあの日、葵が小蒔と想いを遂げた日の痕跡など欠片も残ってはいない。

しかし何故か、それがかえって記憶を生々しく甦らせて、葵は居心地の悪さを覚えていた。

「しばらくお待ちくださいね」

 微笑んだ雛乃は部屋を出ていき、葵一人が残された。

もちろん座れば良いのだが、この部屋に馴染んでしまう気がして雛乃が戻ってくるまでは

立っていることにした葵は、あまり大きな動きにならないよう注意しつつ部屋を見渡す。

ごくシンプルな、不必要なものは何もない空間は自分の好みに似ていた。

ただしそれはあくまでも無機物に対してであって、この部屋の有機物、

今は茶を用意している彼女に対する感情は嫌悪の方が強い。

また彼女のことを考えはじめてしまった葵は、態度に出てしまってはいけないと思い、小さく頭を振った。

床に落とした視線が、一点で止まる。

自分が横たわり、小蒔の温もりを感じた場所。

初めて彼女の唇に触れ、彼女の身体の細さを味わった場所。

この畳一畳ほどのスペースを、切り取って持って帰りたいほどだった。

場所に意味などなくとも、見る度にあの日のことを思い出すことができるから。

埒も無い想像に逃げ込んでいた葵は、こちらにやって来る小さな足音を聞きつけ、慌てて表情を消した。

 盆に茶と菓子を乗せて戻ってきた雛乃は、立ったままの葵に不思議そうな表情をひらめかせたが、

礼儀正しく沈黙を守り、座るよう勧める。

「粗茶ですが、どうぞ」

 腰を下ろした葵に出されたのは、茶托ちゃたくまである湯呑みだった。

神社なのだから当然ではあるし、葵も日本茶であれ紅茶であれ気にはしない。

ただ、出されたからには飲み干すまでは帰るわけにもいかず、

葵はいささか重い気分で湯呑みに口をつけた。

 深みのある味わいが口の中に広がる。

それほど詳しいわけではない葵でも、

これが高級な茶葉を用いて淹れられたものだということは容易に判った。

舌に快い風味に気分を和ませかけた葵は、穏やかに自分を見ている雛乃に、

してやられたと気付き、心にコートを羽織る。

茶一杯でこうも簡単に釣られた自分が恥ずかしかった。

しかし雛乃はもちろん懐柔するために茶を淹れたのではないらしく、

自らも湯呑を両手で持ち、流れるような動作で口をつける。

それはそれで無視されているように思えて葵には面白くないが、

どうも彼女に関してはペースを狂わされている気がして、

ちょうど二人の真ん中に置かれている茶請けの盆に視線を逃げ込ませた。

 茶請けは煎餅だった。

音を立てずに食べることは難しいこの食物を、彼女はどうやって食べるのか、

もしかしたら無音で食べる作法があるのではないかと興味を覚えた葵だったが、

雛乃は茶請けに手をつけようとはしなかった。

 全く音を立てずに湯呑みを置いた雛乃は、葵が全く予想もしない疾さで攻撃 を仕掛けてきたのだ。

「美里様は……小蒔様のことが、お好きなのですか」

「……ええ」

 言わずもがなのことを尋ねる雛乃に、葵は軽い怒りを覚えつつ答えた。

同じ歳とは思えない落ちつきと、女性らしさを持つ彼女に接すると、

厭な部分を自覚させられ、気が滅入る。

だから、彼女とは極力会話を交わさないようにしていたのだ。

しかし今、二人しかいないこの空間では、空気さえもが彼女の味方をしているように感じられる。

恐らく雛乃も、自分が彼女を好いてはいないことは判っているだろうに、

何故話をしようとしているのか。

葵は疑問に思わずにいられなかった。

「そうですか……わたくしも、姉様のことを、お慕い申し上げております」

 それも聞くまでもないことだった。

相槌の打ちようも無い会話に困り果て、時間を稼ごうと再び湯呑を手にした葵は気づいた。

雛乃は「姉様」と言っただけで、小蒔の名を言ってはいないのだ。

真意を確かめるように雛乃の顔を見ると、自分より遥かに美しい髪を持つ双子の妹は、

その手入れの行き届いた黒い絹織物をわずかに揺らした。

「わたくしがお慕い申し上げているのは……姉様だけです」

「でも、小蒔は雪乃さんのことが」

 答えながら、葵は自分が雛乃に呑まれかけていることに気づいた。

口数の少ない雛乃の考えを読み取るには、表情をつぶさに観察するしかなく、

そうすると自分がひどく幼く感じられてしまうのだ。

今も、雛乃は抗議するような葵の口調に応じることなく、眉尻をわずかに下げただけで黙している。

高まりかけた興奮を鎮めた葵は、不本意ながらも彼女が口を開くのを待った。

「ですから、それを美里様になんとかして頂きたいと」

「なんとか……って」

「例えば、快楽の虜にして差し上げるとか」

「……!!」

 率直に過ぎる雛乃の言葉に、葵は絶句する。

一体、どこをどうしたら日本人形のような美しさを持つ彼女の口から、

快楽などという言葉が出てくるのだろうか。

驚いてしまった時点で、敗北だった。

「でも……私は」

「それでしたら……わたくしが教えて差し上げます」

 更に直截さを増した雛乃に、もう立ち向かうことなどできなかった。

雛乃は最初から雪乃しか見ておらず、彼女を手中に収めるためにどんな手段をも使うと言うのだ。

狡猾に計算を巡らせ、しかも結局どれ一つ実行には移せなかった自分とは雲泥の差だった。

たおやかな目の前の女性の裡に、予想通り、あるいは予想以上の情念が渦巻いていることを知ったとき、

葵は、これまで決して好いてはいなかった彼女に対して、やや異なる感情が芽生えるのを自覚していた。

彼女の癖なのか、小首を傾げて返事を待つ雛乃の顔から視線を外し、膝の上で握った手を眺める。

内側にじっとりと汗の浮かんでいる拳は、答えを促すように微かに震えた。

「大丈夫です。小蒔様を裏切ることにはなりません。

……お互いに、心を動かしている訳ではありませんから」

自分の身体に小蒔以外が触れるのは嫌だったが、

彼女の発する言葉は、言霊が含められているかのように心を縛った。

はっきりと言いきる雛乃に、操られたかのように頷いた葵は、

異常とも言える彼女の申し出を受け、それぞれの想いを遂げるために手を組むことを了承した。

事務的に服を脱ぎ始めた雛乃につられ、葵も制服をほどく。

淀みなく露になっていく彼女の身体は、均整の取れた、

羨望のまなざしを向けずにはいられないものだった。

さらしでも巻いているのではとの意地悪い考えはもちろん外れ、淡い黄色の下着が目に映る。

取りたてて特徴がある訳でもない下着も、

テレビでしか見た事のない薄墨桜のような肌合いの彼女が着けていると随分と可憐に見えた。

あまり嬉しくない褒め言葉にせよ、真神の男子生徒に聖女などと言われることもある自分だが、

彼らも今の雛乃の姿を目にすれば、それがいかにまやかしであったか解るだろう。

好悪の念はともかく、雛乃の自然に有する美しさに惹きつけられてしまった葵は、

その眼差しに気づいた彼女が振り向くまで食い入るように見つめていた。

「……」

 束ねた黒髪が揺れ、こちらをじっと見る。

先に凝視した非礼は自分にあるのだし、

今からすることはただ見られるのなどとは比較にならない恥ずかしい行為だ。

それでも、葵は雛乃に見られることに、たまらない羞恥を覚えていた。

胸を両手で覆い、髪をも使ってわずかでも身体を隠す。

俯いた目に、白い足が近づいてくるのが映った。

「綺麗な身体をしていらっしゃいますね」

 嫌味かと思ったが、表情からすると本心であるようだった。

褒められたことへのこそばゆさから、束の間反応に戸惑うと、雛乃が二の腕に触れてきた。

「……っ」

 触れるか触れないかのぎりぎりのタッチですっと撫でた指先は、

帰りは爪の甲で滑るように戻っていく。

そのエナメルの質感に意識を奪われているうちに、雛乃が身体を寄せていた。

「あ……っ」

 柔らかく巻きついた雛乃の肌は、こすれあうだけでも静かな快感をもたらしてくる。

その質感といい、まさしく絹の感触だった。

肩口へと移り、ブラのストラップの上をさ迷う指先は、

細い布地の上を行きつ戻りつしながら、少しずつそれを降ろしていくのを葵は感じとっていたが、

この程度で声を上げるのも恥ずかしく、雛乃のするに任せた。

 すると雛乃はそんな葵の反応を試すように一度指を止め、殊更に時間を与える。

下唇を噛んで受け入れる悔しさに耐えた葵は、雛乃が何故そうしたのかを考える余裕までは無かった。

思考と理性を、欲望に屈しさせる。

自分で選ぶということ、考えた末に受け入れるということが、どれほど快楽の糧になるか、

そして、少しずつ誘導し、引きずりこんでいく悦びを、

雛乃は葵に身を持って教えようというのだった。

 ストラップが肩から落ちる。

それが露にした肌の面積など微々たるもので、

まだブラそのものが外れた訳でもないのに、葵は既に裸にされてしまったような感覚に陥っていた。

わずかに残る線状の跡をなぞられて、羞恥は更に炙りたてられる。

目を開けていることができず、噛んだ唇と合わせて渋面を作った葵は、すぐに失策を悟った。

感覚のひとつを閉ざしたことにより、他の感覚が鋭敏になってしまったのだ。

 ストラップを外した雛乃の手はそのまま腕を下り、指を絡め取る。

四本の指で動きを抑え、親指の腹で掌から指先までを丹念に撫でていく。

目を開いていればくすぐったいだけで済んだかもしれないそれは、

研ぎ澄まされた感覚によって微かな性感となって伝わってきた。

このままではいいようにされてしまうと危険を感じた葵だったが、

雛乃がこちらを見ていたらと思うと目を開けることはもうできなかった。

 左手からもたらされる気持ち良さを少しでも抑えようと努めて意識を他に向けていると、今度は右の腰に感触がある。

湾曲にぴったりとあてがわれた手は、曲線を愉しむように振り子の動きをし、そこで一度掌が離れた。

しかしすぐに指だけが戻ってきて、先端の部分だけを触れさせて撫でてくる。

背中と横腹の境目付近をなぞられた葵は、そんな部分がひどく敏感なのに戸惑いを隠せなかった。

身体を洗う時以外はほとんど触れることの無い部分は、

縦に触られると身をよじりたくなるような感覚を与えてくる。

それがほの温かい指でされているとなれば気持ち良さはいや増し、

葵は気取られないように身体を強張らせざるを得なかった。

しかし、雛乃に見逃してもらえるはずもなく、

すかさず指腹で辿った軌跡を、爪の甲でもう一度なぞりあげられる。

「ぁ……ん……」

 正確に同じ所を辿る指に儚い抵抗もあえなく潰え、葵はついに声を漏らしてしまった。

耳を塞ぎたくなるような声が、部屋に響き渡る。

少なくとも葵にはそう聞こえ、それほど大きな声でなかったとしても、

雛乃の耳にも届いていないはずはないのに、彼女は全く反応を見せない。

それどころか、葵が自分でも知らなかった性感帯のひとつからあっさりと離れてしまった。

皮膚を弄んでいた感覚が遠のき、葵は無意識に目を開く。

「……っ」

 しっとりと濡れた黒色の珠が、至近から輝きを放っていた。

身体の快楽に溺れかけていたことを見透かすような瞳に、葵は一瞬で何も考えられなくなる。

顔中に血が行き渡り、あらゆる部分が熱を帯びて、もう少しで叫んでしまうところだった。

 動揺する葵を制するように、腰に触れていた雛乃の手が回りこみ、抱く格好になる。

密着する肌の温かさに言葉を失くし、身を強張らせる葵に、瞳と同じ色をした囁きが滑りこんできた。

「お座りに、なりませんか」

 提案を受け入れたつもりはないのに、葵の身体はすとんと落ちてしまう。

だらしないところを雛乃に見せたくないのに、全身に全く力が入らない。

雛乃の手を掴み、自分でもどうしたいのか解らない抵抗を見せる葵は、

背後から優しく抱きしめられ、たちまち動きを封じられてしまった。

「覚えてください。ご自分の身体の……どこが感じるかを」

腹部に添えられた手が、ゆるやかに円を描く。

臍を中心にして、マッサージのように弱く力を加えながら動く雛乃の手に、

葵は奇妙な安らぎを感じていた。

背中に触れる胸からの心音がそれを増幅させ、安らぎから心地良さへと移ろっていく。

だから雛乃の左手が右の乳房に触れた時、葵は思わず深い吐息を漏らしてしまっていた。

「あぁ……」

 無意識に膨らみの表面を這い回る感覚を追い、

それが遠ざかったことで初めて溺れてしまっている自分に気づくありさまだった。

「おね……が、い……」

 乳房にぴったりと押し当てられている雛乃の手は、それ故に動きも大きくはない。

そのもどかしさが、葵に彼女らしくない、不明瞭な懇願をさせてしまう。

しかし指先は止まらない。

あるいは彼女の懇願の先にあるものを知っているのか、

まろやかな曲線の上をじりじりと動く指先は、白い下着の縁を滑り、決して止まりはしなかった。

「ふ、っ……ゃ……」

 皮膚をくすぐられ、葵の背中の、雛乃の乳房が触れていない部分に官能が芽生える。

意思によらず漏れ出てしまった声は、赤面せずにはいられないほど大きく、

はしたないものに聞こえ、葵はたまらず自分の指を咥えた。

「ん……ふぅっ!」

 唇が指を含んだまさにその時、首筋にぞくりとしたものが疾った。

雛乃が、心を動かしている訳ではないから構わないと言いきった唇を、首の付け根に押し当てたのだ。

抵抗しないのを良いことに、やんわりと吸い上げてくる。

ぞわぞわとうなじの毛が逆立つのを感じた葵はむずかるように首を動かしたが、

唇は蛭のように吸いついて離れなかった。

「は……ぁ……」

 ただ吸うだけでなく、時に食むように動く唇が与える愉悦に、背が反ってしまう。

極限まで湾曲した上体が元の位置に戻った時、葵の耳に硬質の音が聞こえた

やや間を置いてそれがホックが外された音だと判った時、既に下着は取り払われていて、

代わりに雛乃の手が胸を覆っていた。

「素敵な胸ですね。大きくて、美しくて」

 自らの言葉を確かめるように乳房を擦る雛乃の手は、わずかに冷たい。

それが火照った肌に快くて、葵は手を払いのけるタイミングを失ってしまっていた。

五本の指で胸全体を摘まれ、掌を浮かせて乳首を軽く刺激される。

その感触はあくまで柔らかく、繊細なもので、

葵の背は再び、今度は逃れるのではなく、求めようと反りかえった。

追い求め、ようやく得ることの出来た甘い痺れは、しかしすぐに遠ざかってしまう。

「ぁ……」

 ねだるような、嬌声。

声を出してしまわないようにと噛んでいた指は、あさましい欲望の前には何の役にも立たなかった。

羞恥に全身を内から灼かれた葵は、せめて雛乃が今の声を聞いていないようにと願う。

その、祈りにも似た願いは、しかし通じなかった。

一瞬の凪の後、胸を摘んでいた指が離れる。

解放された感覚は、すぐに、より鋭敏さを増して戻ってきた。

指先が乳房の中央で小さな円を描く。

薄く色づいている麓を掠め、その中心にある突起には決して触れず。

「っ……んっ」

 前よりも近く、そして遠い刺激。

掌で膨らみを下から支え、人差し指のみでもどかしい愛撫を行う雛乃に、

葵の意識はそこのみに集中していった。

敏感な部分に触れられることを待ち望み、わずかな刺激でさえも逃すまいと皮膚がさざめく。

しかし、雛乃の指はコンパスででもあるかのように正確に同じ円を描き、

本能的な快感が眠る蕾には皮一枚ですら触れてこない。

求めて与えられない刺激に葵が諦めかけた頃になって、唐突にそれは与えられた。

爪が、乳首を引っ掻く。

「くっ……ぅ」

 散々に焦らされていた感覚が、一度に噴き出した。

ひとたび狙いを定めた爪先は、今度は執拗なまでにそこのみを弄ぶ。

小さかった部分はたちまち膨らみ、可憐な果実となった。

二本に増えた雛乃の指先が、逃げ惑う果実を挟み、転がす。

「はぁ……ぁ……」

 硬く張り詰めた果実は、もぎ取られそうなほど揺らされても、ただ歓喜に震えるのみだった。

自分で触れた時などとは比較にならない気持ち良さに霞む意識に、雛乃の声が響く。

「乳首も、お好きなのですね」

 紡がれる言葉に、葵は酔わされていた。

耳朶に唇を触れさせながら囁かれると、そうだったのだ、と

考えるよりも先に身体が受け入れ、悦びに哭いてしまう。

もう片方の胸も同じように責められ、

同じようにしこらされた胸先がもたらす愉悦にわなないていた葵に、新たな刺激が訪れた。

腹に添えられていたはずの雛乃の右手が、内腿を割ろうとしていた。

既に半ば以上も快楽に浸っていた葵も、とっさに身を強張らせ、

最も密やかな部分に触れさせることだけは阻止しようとする。

「力を、抜いてください」

 さっきは酔うほどに快かった声が、微妙に変質していた。

丁寧な口調の奥に潜む、鞭のような響き。

全身に回っていた酔いも一瞬で覚まされ、葵は言われるがままに力を抜いた。

「そう……良い子です」

 冷たい口調は幻の如く失せ、うってかわって幼児を褒めるように雛乃は言う。

普段なら反発を覚えずにはいられないであろう語調。

しかし葵はこの時、開かれた足の間を羽毛のように撫でる雛乃の指先に再び酔いつつ、

そこに新たな酔いが加わるのを感じていた。

身体を直接触られるのとは比べ物にならない強い成分は、葵がその正体に気付く前に溶け、

皮膚がもたらす快感の中に紛れこんでしまう。

しかしそれは消え去った訳ではなく、葵の裡に確かな根を張り、心の一部となっていったのだった。

葵が不意に感じた戸惑いめいたものの正体を探るのを邪魔するように、

足の隙間に落ちた手が、膝から内腿の付け根までをなぞっていく。

程よくついた脂肪は微弱な愛撫にさえ震え、葵は、じわりと下半身を包む愉悦に浸っていた。

もう雛乃の触れる場所全てが気持ち良く、身体の中心から染み出す疼きとに、内と外から苛まれる。

下着は、今更脱いでもどうしようもないほど濡れていた。

その事実を雛乃の指によって教えられた葵は、一度は開いた足を、また閉じる。

単純に湿った布地の気持ち悪さからであったが、

雛乃の小さな手は太腿の間をするりとくぐり抜けて下着の中心を捉えてきた。

「あっ……ぁ」

 女性の溝をなぞる指に、いやでも形を認識させられる。

これ以上無い羞恥を煽られた葵だったが、触れられている部分ははしたなく熱を帯びていった。

「や、ゃぁ……っ」

「感じやすいお身体なのですね。小蒔様もお喜びになると思います」

「小蒔……が……?」

 突然出された親友の名をぼんやりと口にした葵は、わずかに考えた後、恐る恐る口を開いた。

「嫌われ……ない、かしら……いやらしい、って」

 背後で雛乃は笑ったようだった。

小さな空気の流れが、葵の項をくすぐる。

「小蒔様は、少し臭いがきついものがお好きなのですよ。例えば、汗ですとか」

「汗……?」

「はい。他にも、腋や、恥ずかしい所の臭いが」

 初めて知る、親友の性癖。

この時葵の中では、雛乃に、自分の知らない小蒔を知っているという嫉妬よりも、

彼女に素直に相談したいという気持ちの方が勝っていた。

心持ち身体の力を抜き、彼女に預けるようにして更に尋ねる。

「わ、私……濃い、し、たくさん、濡れ……て……おかしく……ないの……かしら」

「大丈夫です。小蒔様はきっと、そちらの方がお喜びになりますから」

 断言する雛乃に、葵はおとなしく頷いた。

来た時には考えられないことであったが、葵は今、雛乃に頼っていた。

小蒔を手中に収めるという目的のためだけでない、

自分の知らないことを数多く知っている彼女にすがりつきたいという、

ある種の依存めいた感情が芽生えいたのだ。

「雛乃……さん……」

 呼びかけた声に応じるように、動きを止めていた雛乃の手が、下着の中へと忍びこんでくる。

それを止める力は、もう葵には無かった。

 コンプレックスを抱く恥毛を通り過ぎた指先に、

淫らな蜜を吐き出す泉の水辺を軽く触れられただけで、どうしようもなく甘い痺れが疾ってしまう。

様子を窺うように周縁を幾度かなぞった指は、やがてゆっくりと泉の中へと身を沈めてきた。

「あっ……あぁ……」

 小蒔の愛撫に較べて、雛乃のそれは、より大胆で、的確だった。

最も敏感な女芯が眠る秘裂を二本の指でくつろげられ、露になった部分を中指でゆっくりとなぞり回す。

敏感な粘膜のとば口だけを愛撫され、葵は思わず腰を揺すってしまっていた。

身体の芯から、淫らな蜜がこぼれ出るのを抑えられない。

小蒔のことを想う時にだけ濡れるはずだった自分の身体は、

いともたやすく快感に屈してしまっていた。

「だ、め……」

 これ以上は、流される。

快楽を求める心が、止まらなくなってしまう。

だから葵の懇願は半ば以上本気だったが、もたらされる快感は止まらなかった。

わずかとは言え身体の中に入ってきた指は、敏感な粘膜を掻き回す。

それも、拒絶するには少しだけ足りない、絶妙な弱さで。

「う、んっ……ん……」

 自分でも判るほど熱い呼気を吐き出しながら、葵は悶える。

既に胸や首筋で充分に高められていた官能は、性器への直接の愛撫で一気に彼女を覆いつくした。

加えて雛乃の指先は、自分や小蒔が触れた時よりも遥かに繊細なタッチで責めてきて、

直接炎で灼かれているかのような狂熱をもたらしていた。

その雛乃の指が、葵の秘められた場所を探る。

知り尽くした動きですぐに包まれた肉珠を見つけた指は、

厳重に隠す繊毛をより分け、もちろん葵自身以外は誰も触れたことのない

ひそやかなその部分を、すっと撫であげた。

「んくぅ……っ」

 これまでとは違う、電気そのものを流されたような痺れに、葵の肩が震える。

それは指先が通りすぎた後も残るほどの痺れだったのに、

それが消え去る前に、二度目の刺激がまだその姿を隠したままの肉珠に加えられた。

「ひっ、あッ」

 たまらず腰を引くが、背後には雛乃がおり、いくらも動かすことは出来ない。

すぐに逃げ場を失ってしまった葵に、雛乃の容赦の無い責めが始まった。

ねっとりと擦るだけだった指が、硬く閉ざされた扉を上から叩く。

細やかな打鍵は、一打ごとに葵の理性を削りとっていった。

「っく……んっ」

 腕をだらりと垂らし、快感に張った胸を切なげに震わせて感じている葵に、

普段の理知的な面影は無い。

ただ貪欲に、もたらされる快楽だけを貪る姿はそれでさえも美しかったが、

突然その表情が変化した。

より苦しげで、そして淫靡に濡れた瞳。

雛乃のたおやかな指先が、

その見た目からは想像など決して出来ない淫らな動きで女芯を表に晒したのだ。

もちろん雛乃はそれで済ませるはずもなく、

包皮の下で硬く膨らんでいた小さな芽をすぐに弄びはじめる。

上から触れたことはあっても、直接触れられるのは初めての葵にとって、

それは強すぎる刺激だった。

「ひんッ、い、やぁ……ッ」

 葵の拒絶は、本心ではあった。

熱い血が流れ込んでいる、自分でも見た事の無い秘められた部分をとろとろと触られると、

目の前が滲み、何も考えられなくなってしまうのだ。

これ以上痴態を見せたくないというのは当然の思いではあったが、

同時に、小さな突起を撫で回す指の感触をも葵は追ってしまっていた。

呼吸に混じっていく快感の中で、雛乃の声が流れこんでくる。

「中と……ここと、どちらがお好きですか」

「そ、こ……そこの方が……いい……わ……」

「どこ、ですか」

 言わせようとしている。

 言ってはいけない。

 言ってしまいたい。

いくつもの思考が、理性をかき乱す。

それでも葵はよく耐えていたが、言わされようとしているその部分を軽く指で潰された時、

自分ではもうどうにもならない奔流が口から流れ出てしまった。

「ク、リ……トリス……クリトリスが、気持ち……いい……ひっ、あ……っ!」

 言えたことへの褒美のように、剥き出された陰核が転がされる。

その言葉を発することが気持ちいいと、刷り込まれる。

「んっ……ふ、うっ……!」

 快感を押し殺すことが出来なくなり、大きく身体を震わせた葵を、一際強烈な刺激が襲った。

雛乃が、口にしたことで更に感度が増したようにさえ思えるクリトリスを、

微弱な力ではあるが押し潰したのだ。

「ひ、ん……っ!」

 腰が歓喜に打ち震える。

何かで見た限りではごく小さな突起でしかないはずのそこは、

下腹を溶かし、更には全身をも支配していた。

「あぁ……あぁぁっ……!」

 再び雛乃が上から力を加えた時、葵は全身から何かが噴き出るような快美感に見舞われた。

自慰の時とは較べ物にならない深い陶酔が、下腹部から脳へと駆けのぼる。

強張らせた身体を弛緩させるのさえが心地良く、葵は、二度目の他人の手による絶頂を迎えたのだった。

 

 雛乃が離れても、まだ愛撫が続いているような微弱な疼きが消えない。

鼻からだけでは足りず、口を開けて酸素を吸いこんだ葵は、

流れこむ冷たい空気に助けられ、どうにか服を着ることができた。

「美里様なら、きっと小蒔様を虜におできになると思います」

 雛乃の言葉に、葵はぼんやりと頷いていた。

ただ一方的に痴態を晒してしまっただけのような気がするが、

こんなことが何かの役に立つのだろうか。

しかし、静かな微笑を湛えている雛乃を見ていると、そうなのかもしれない、と思ってしまう葵だった。

「お願い、今日のことは」

「解っております。小蒔様には秘密にいたしますから。そのかわり」

「……ええ、雪乃さんにも言わないわ」

「よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げる雛乃に見送られて、葵は鳥居の外へ、穢れた俗界へと戻る。

最後に葵がもう一度振り向くと、雛乃はまだ立って見送っていた。

頭を下げるか迷い、結局何もしないで歩き出す葵の下腹に、濡れた下着がまとわりつく。

それは、不快な感触ではなかった。

 

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