解放感を両腕に込めて、小蒔は大きく伸びをした。
もともとテストが好きではないし、
友人達がこの時期だけは妙によそよそしくなってしまうから、その解放感は人一倍大きなものだ。
数日後の結果を思えばあまり手放しで喜ぶ訳にもいかないのではあるが、
とにかく大事なのは今、と小柄な身体のいっぱいに力をたわめ、肩に溜まった凝りを解き放った。
その拍子にあくびまで出てしまい、それを見た友人達が笑う。
照れながら、更に小さいあくびを重ねようとする小蒔の前に、
友人達の視線を遮るように一人の女性が立った。
顔よりも先に腰まで届く美しい黒髪が目に入り、小蒔は慌ててあくびを飲みこむ。
なんとなくそうさせる雰囲気が、目の前に立っている葵からは感じられたのだ。
気のせいか、とも思うのだが、表情は穏やかで、物腰にもいつもと変わったところはないのに、
彼女には友人達をも遠慮させるものがあるらしく、よそよそしさすら感じさせて顔をそむけてしまう。
一人取り残されて、別にやましいことはないのに、妙に緊張する小蒔を、黒い瞳が見据えた。
日本人は皆目の色は黒なのだけれど、その中でも特に黒い瞳。
それは全校生徒が憧れる、小蒔の自慢の瞳だった。
「どうだった?」
「うーん……まぁまぁかな」
できた、とはおせじにも言えず、ダメだった、と言うと葵が悲しむ。
だから小蒔の返事は結果に関わらず、あらかじめ定まっていたものだった。
それを予期していたのか、そう、と簡単に頷いた葵は話題を変える。
「ね、小蒔……帰り、私の家に寄らない?」
それは、何の変哲もない誘いのはずだった。
テストが終わり、解放感に浸る高校生が友人を家に呼ぶなど、
探す必要もないほど良くあることで、小蒔自身が前にもそうして葵の家に泊まったことがあるくらいだ。
なのに小蒔は、彼女の問いに穏やかならざるものを感じていた。
そう感じたのは、きっと、葵の目のせいだ。
穏やかな、しかし底知れぬ深さを秘めた情念がなみなみとたたえられた黒い輝き。
二年前からずっと見続けているその色は、最近わずかに彩りを変えていた。
小蒔だけが知り得る、小蒔だけが見ることのできる色彩。
危険な、けれどとても美しい色に、小蒔は惹かれずにはいられない。
「え? ……うん、それじゃ、お邪魔するね」
その輝きを得て立ちあがる小蒔の胸中には、自身も気づかない期待がうねり始めていた。
ティーカップにスプーンが当たる音が、静かに鳴る。
家に戻る途中も寡黙だった葵は、部屋に入ってからは紅茶を供したきり一言も口を聞いていない。
しかし、この小さな音が止んでしまったら、
何かを言わなければならないという強迫観念に捕らわれていたのは、むしろ客人のほうだった。
「……」
手のリズムを乱さないよう注意しながら、小蒔はそっと向かいに座っている親友の顔を覗う。
同じくしなやかな指に飽きることなく円を描かせている葵は、
琥珀色の液体の表面を見つめたまま小蒔の視線にも気づかない。
ただその顔は、学校で見た時よりも更に一定の方向に表情を強めていた。
その正体を、小蒔は知っている。
知っているのに口に出せないでいるのは、それではあまりにも──
だが、落ちかかった長い黒髪と伏せられた睫毛は、小蒔を少しずつその方向に引き寄せていた。
小さな透明のテーブルの下に透けて見える、きちんと揃えられた膝頭。
黒いストッキングが包むそこから目を上向けると、白いスカートが映る。
何の変哲も無いはずの光景が、小蒔の口を開かせた。
「葵、さ」
驚かせないように気を付けたつもりだったが、葵は弾かれたように顔を上げた。
卵型の頭に配置された目鼻は、それぞれの形だけでなく、
その位置も絶妙のバランスを保って置かれている。
春の陽光のような笑顔は真神だけでなく、他校の生徒からも告白を受けることがあるそうで、
真正面から見ていると、それも当然だと小蒔には思えるのだった。
その彼女が、さほど男性に興味のない小蒔の目から見ても
格好良いと思える男子生徒からの申し込みをことごとく断る理由。
それは、今ここに小蒔がここにいる理由と同じだった。
「ボクを家に呼んだ理由……だけど」
葵の整った顔が鮮やかな驚きにかたどられる。
ふりでは無いと判ってはいても、わざとらしくも感じられるその仕種に、
小蒔の胸の奥にごく小さいものではあったが、揺らめくものが宿った。
「り、理由なんてそんな大したものじゃないの。ほら、テストも」
「うそ」
口早にまくしたてる葵を遮る。
声を喉に引っかからせた、ひきつった葵の顔に小蒔が覚えたのは、快感。
本当は自分よりもずっとエッチなのに、絶対に自分からは言おうとしない、優等生ぶった態度。
葵が好きなのに変わりはなくても、それを打ち崩せるのは愉しかった。
「葵さ、ボクと……したくて家に呼んだでしょ」
「そんな……事……」
まだとぼける葵にたたみかける。
「隠してもダメだよ。葵のコトならなんでもわかるんだから」
しかし、その何気ない一言が親友をどれほど変えたか、本人でさえ知る由もなかった。
喘ぐように唇を開いた葵は、彼女らしくなく視線をさ迷わせる。
柔らかそうな下唇を強く噛み、何かに堪えるような顔をした後に発せられた声は、
抑制しようとして失敗したもののように小蒔には感じられた。
「私……」
「なに?」
「私……ええ、小蒔、と……」
思ってもみなかった返事が返ってきて、小蒔は軽く息を呑んだ。
空耳かと思って葵を見たが、自分の一言によって一線を越えた親友は、
誘うような目つきでこちらを黙然と見ている。
その中に更に無限の階調をたゆたえ、淡くゆらめいている漆黒の瞳と、
濡れたような紅色の唇が、白い顔にあって誘蛾灯のように鮮やかに浮かんでいた。
その、息を呑むほど美しい表情に小蒔は圧倒される。
こんな顔をして迫られたら、男の子だろうと女の子だろうと夢中になってしまうに違いない。
そう思いながら、早くなる鼓動を糧にして、葵に近づく。
葵は自分が近づくにつれて目を閉じていく。
もしボクが止まったら、葵も目を閉じるの止めるのかな──
愚にもつかないことを考えつつ、小蒔は葵の肩に手を伸ばした。
制服に触れただけで快感が走る。
いやらしい気分になっているのは、葵だけではなかったのだ。
それが後から、つまり葵がそんな気分になっているのを知ったから自分もなったのだとしても、
テストが終わった直後の、それも昼日中から肌に触れるなんて──
とても、ドキドキすることだった。
唇を閉じ合わせ、もう待っている葵に、小蒔は静かにキスをした。
触れ合った唇は、やがて目に見えないほどゆっくりと結びつきを強めていく。
少しずつ広がっていく柔らかさはどちらが求めたものなのか、小蒔には判らない。
ただ、腕に触れる葵の掌と、漂ってくる髪の香りは、とても心地良いものだった。
「お願い……小蒔。服を……脱がせて」
「うん……いいよ」
四肢の力を抜き、人形さながらに身を委ねる葵に跨る。
少し前までは、考えもしなかった光景。
全校生徒の憧れである葵が、ボクに、ボクだけにして欲しがってることがある──
人形の服を脱がせるように、丁寧に葵の制服を脱がせた小蒔は、
漆黒の艶を放っている髪をそっと梳き分けた。
「ん……」
心地よさそうな声。
目を閉じ、触れるのを待っている葵に、小蒔は触れる。
白い額に。
細い眉に。
鼻に。
頬に。
陶器を思わせる滑らかな肌は、期待からか、ほのかに温かかった。
小蒔が壊れ物を扱うように触れていると、不意に抱きすくめられる。
思いのほか強い力に、小蒔は訊ねずにいられなかった。
「あお……い?」
「我慢……出来なかったの。テスト中、ずっと……小蒔にこうやって……
して欲しいって……考えて……勉強も、手につかなくて」
目を閉じ、唄うように告白した親友に、小蒔は驚きを隠せなかった。
勉強中にそういう気分になることはある。
あるけれど、小蒔の場合はあまり真剣に勉強をする訳ではなかったし、
あまり集中出来ない家庭の環境では、そんな気分になる隙もなかったのだ。
それに、彼女が自分のことを好きだと告白し、倒錯の交わりを受け入れてからも、
葵は一人でエッチなことをしたりはしないと半ば本気で思っていたのだ。
しかし、今葵は、はっきりと劣情を訴えかけている。
クラスだけでなく学校中から頼られる存在である彼女が、うっとりとしがみついている。
ひそやかな興奮に心がさざめくのを感じた小蒔は、唇をそっと舐めて訊ねた。
「葵は……ボクとどんな風にするって考えてたの」
小蒔の声が、下腹の一点に染みこんでいく。
その問いを待ち望んでいた葵は、
疼き──小蒔に対してならはっきりとそう言えるものを感じながら、
親友の、想い焦がれるひとの顔を見つめる。
細くすっきりとした顎に、良く動き、とりどりの表情を見せる口。
そして猫のようにくるくると良く動く目を、今は一箇所に据える小蒔に、唇は自然と開く。
下着が熱く潤っていくのを感じながら、葵はいかに自分が淫らであったかを訥々と語りだした。
「最初に……キス……キスを……」
「どんなキス?」
「何回も……唇の端から何回も、柔らかくて、素敵な……キスなの」
長い睫毛を伏せ、目を閉じる──閉じたふりをして、小蒔を誘う。
しかし小蒔は見抜いているのか、求めていることをしてはくれない。
ただ頬に両手を添え、そっと撫でる──それは、ある意味でより残酷な行為だった。
繊細な感覚を少しでも多く拾おうと、毛穴が開く。
皮膚の下を流れる血脈が量を増し、過敏なまでの反応を見せるようになっても、
小蒔の指はごくわずかな感触しか与えてくれない。
葵は顎を軽く上向け、更にねだるような視線を作った。
「お願い……小蒔」
頬を滑り下りてきた小蒔の指が、下唇に触れる。
少しだけ下に引っ張り、めくりながら横に。
小蒔がどんな意図をもってそうしているのかは判らないが、
粘膜の部分を滑っていく細い指に、葵は心を委ねた。
闇雲に咥え、吸い上げたくなるのを我慢していると、指は頬の内側や上顎をも擦っていく。
閉じることの許されない口の端からは、醜く唾液が伝いだした。
「あ……か……」
意味を成さない、呼吸に混じった声が、ひどくだらしない。
到底自分の発したものとは信じられない葵は、だが、その音色にすら興奮してしまっていた。
人差し指を根元まで濡れ光らせた小蒔が、ゆっくりとそれを口に含む。
小さくすぼまる彼女の唇を見ただけで、葵は下着に新たな染みを作ってしまうのだった。
「葵が考えてたよりも、ずっといやらしいことしてあげる」
小蒔の宣告は、葵にとって望みうる最高のものだった。
テストの期間中ずっと、否、寝ている時以外常に。
自分の想いが受け入れられた日から、例えそれが完全に望んだ形ではなかったとしても、
葵は小蒔への感情を抑える努力を止め、代わりに身を焦がさんばかりの情に日々身体を浸していた。
本当なら勉強すら捨て、小蒔と共に居たい。
しかし小蒔が優等生としての自分に憧れを持っていることも知っており、
その虚像を壊してしまう訳にはいかなかった。
だから一応の建て前が得られる今日まで待ったのだ。
ここで小蒔に拒まれてしまったら、狂ってしまうかもしれなかった。
既に理性の歯車を失い始めていることにも気づいていない葵は、
小蒔の言葉を絶対のものとして従う、と自らに課す。
そこに、悦びすら見出して。
「舌出して……そう」
何のためらいも無く、葵は舌を出す。
あまり綺麗ではないその表情を、自分がさせたのだと思うと、
小蒔はうなじの毛が逆立つような興奮を覚えた。
美しくぬめる桃色の舌に、自分のそれはまだ触れさせず、指を乗せる。
「あ……」
舌を通して伝わる震え。
縁をなぞってやると、もどかしげに逃れようとするが、小蒔はそれを許さない。
と言っても強引に舌を摘まむのではなく、ただ瞳に物言わせるだけだ。
別に、嫌ならイイよ──
「は……っ」
口を閉じさせてもらえない葵が、軽く息を呑んでもみっともない音にしかならない。
教師の訓告を聞き流す生徒達も、この声には黙って耳を傾けるという美しい声が、
知性の感じられない、腑抜けたものに変わっていた。
ざらざらした表面を往復させながら、小蒔の指は葵を玩ぶ。
時折呼気が喉の奥から流れてきて、指を熱する。
人差し指から少しずつ、葵そのものが染みこんでくるような感じがして、
小蒔はぞくぞくしてしまうのだった。
開かれた口。
その中の隅々までを、小蒔はまさぐる。
上顎も、頬の内側も、歯茎も、歯列も。
酷いことをしている、と思わないでもないが、雛鳥のように口を開け、
されるがままに従う葵を見ていると、欲望に歯止めが効かなくなってしまう。
それが、好き、ということなのかは解らない。
小蒔は自分では雪乃のことが好きだ、そう思っていたからだ。
しかし雛乃の家で葵に想いを告げられた時、
雪乃に対して抱いていた気持ちと、同じ気持ちが芽生えたのも確かだった。
これって、いわゆる二股ってヤツになるのかな。
エナメル質の感触を愉しみながら、小蒔はそんなことも考える。
「あぁ……」
葵がくぐもった声を出す。
そこに嫌悪の響きはなく、ただ息が続かなくなって出てしまったものなのだろう。
恥ずかしそうに、上目遣いで自分をみる葵に、小蒔は考えるのを止めた。
今は、葵と一緒にエッチなことをする──それだけで、良いはずだった。
指を舌に押しつけ、唇と一緒にくすぐってやると、鼻息が漏れる。
葵は言いつけを守り、口を閉じていない。
いい加減辛いだろう、そう思った小蒔が、
「ボクの指……咥えたい?」
舌の上に乗せたまま小声で囁くと、返事が出来ない葵は代わりに頭を上下させた。
開けたままの唇の端から、薄く唾液が伝っているのを見つけた小蒔は、
顎にかかりそうになっているそれを舐め取ると、そのまま唇を押し当てて囁いた。
「いいよ……」
しかし、葵は瞳を向けるだけで、動かない。
小蒔が促すように指で舌腹を撫でると、ゆっくりと唇が閉じていった。
程なく指が、ねっとりと包みこまれる。
指の付け根から爪先までをねぶられ、思わず声を上げそうになった小蒔は、
その不利を知られまいと葵の耳朶に息を吹きかけた。
「ふっ……ん……」
葵は心地良さそうに肩をすくめながらも、指を吸うのを止めようとはしない。
微かに笑みを浮かべた小蒔は、豊かな黒髪を梳き分け、耳に口づけた。
舌先で輪郭をなぞり、孔の奥をくすぐる。
口と耳から、葵の身体の中に触っている──そう考えると、小蒔は身体が熱くなって、
下着が濡れてくるのを感じる。
脱がなきゃ──そう思っても、今の気持ち良さを手放したくなくて、動きを止められない。
薄紅の唇がすぼまり、その中心に咥えられている自分の指を引き抜くと、
葵の舌が懸命に追いかけてくる。
逆に口の中へ押しこむと、今度は離さないとばかりに巻きつかせ、きつく吸い上げてくるのだ。
葵を意のままに操っているという、小さな快感が走る。
そしてそれを妨げることにも、快感が。
小蒔は指を吸いたてることに没頭している葵の、耳の裏側を舐める。
そこから首筋へ、肩口へ、葵の感じる場所を探して、小蒔は軟体動物のように舌を這わせていった。
「んっ……ぅぅ……」
それでも、葵は指を離さない。
離してしまったら罰を受けるとでも思っているのだろうか、
頑なに、ひたすらに細い指を口に含み続けていた。
そうなると小蒔も意地になり、右手も使って葵の身体のあちこちを愛撫する。
肩甲骨に触れ、背中から柔肌を下りていく。
少し悪戯っ気を込めて下着に指を引っかけ、尻を撫でると、葵が身を強張らせた。
「ん……んぅっ……」
喘ぎ声が指を震わせる。
増幅されて腕を伝った細やかな振動は、小蒔の身体全体をも震わせた。
「あ、おい……」
腕を葵に預けたまま、小蒔は彼女の背後に回る。
控えめな、けれどとても安らぐ髪の香りを嗅ぎながら、腹部に手を添えた。
ゆるやかに掌を押し上げ、そして戻っていく腹部。
そこから、下へと手を下ろす。
一度太腿を過ぎ、膝頭まで滑らせた手を、
そこでスカートの内側に忍ばせ、内腿を伝って戻らせていく。
指先がどこを目指しているのか判った葵の肌から緊張が伝わってきたが、
小蒔はまだそこには触れない。
動きを止め、上から下へとさすりあげる。
「……んん、っ……」
くぐもった声が、激しさを増していく。
短く切ってある爪の先で線を引いてやると、柔らかな腿が物欲しげに震えた。
吐息を葵の首筋に吐きかけながら、小蒔はじりじりと指を熱の源へ近づける。
「……っ!」
ごく弱く、触れるか触れないかという弱さで下着に指腹を押し当てた瞬間、葵の全身が大きく悶えた。
官能の熱が一度に噴き出し、背後の小蒔を包みこむ。
自分の裡にもくすぶっていた同じものが、葵の熱によって炙られて、
小蒔は背中の辺りに狂おしい情動が芽生えるのを感じていた。
葵に咥えさせていた指を引き抜き、腹部へと押し当てる。
先に右手で触れた臍から、今度は上へと。
「っあ、こ、小蒔……」
右の胸を掴む。
この時小蒔は、昂ぶる情欲に任せ、いささか乱暴な手つきで張り詰めた乳房を握った。
「あ……っん……」
少し痛いのか、葵が弱々しく手首を掴んできたが、構わずに手を動かす。
葵が身をよじると、彼女の足の間に添えた指先に、しっとりとした熱が伝わってきた。
「葵……濡れてる……ね」
確かめるまでもなく、今指が触れている秘溝は快感に潤っている。
軽く押してやると、ひどく耳に残る音が鼓膜を愛撫した。
「はぁ……っ……」
力の抜けきった吐息が快い。
指を少し動かすだけで漏れるその吐息を、小蒔は絶え間なく葵に紡がせる。
濡れそぼった密やかな裂け目を、下着の上からでも硬くなっているのがはっきりと判る乳首を撫でて。
「あ……っ、んっ……」
葵の声が不安定さを増していく。
これまでの三年近くで耳に馴染んでいた、控えめながらも芯のあるものではなく、
居場所を求めてさまようような、頼りない声。
それは小蒔の愛撫の強弱に合わせ、複雑な音色を奏でる。
背後からぴったりと身体を密着させ、首筋にくちづけて、小蒔はより艶やかな音を聞くべく葵を弄った。
「あぁ……あっ……」
葵は時折小刻みに身を震わせながら、淫らな指をただ受け入れている。
もちろん嫌なはずはないのだろうが、一方的に責めるというのは気分が良く、
小蒔は更に積極的に葵を辱めることにした。
もうおびただしく濡れてしまっている下着の、染みに沿って撫でる。
「はぁ……っ」
葵が身体を揺するたび、左の掌にたわわな重みが加わる。
どこまでも柔らかく揺れるそれを掌で握り締め、
小蒔は下腹を刺激している指を下着の中へとくぐらせた。
「んっ……!」
葵のトーンが上がる。
指を噛んで声を抑えようとする彼女の仕種を可愛いと思いながら、
小蒔は叢をかきわけ、蜜にまみれた葵の中心を探った。
這わせただけで沈みこんでいく秘裂から、
とめどなく涌き出る雫を掬い、ひっそりと息づく尖りにまぶす。
それは、小蒔が雛乃に初めて教えられた時、
立てなくなるほどの快感に襲われてあっけなく達してしまったやり方だった。
「や、ぁ……あっ……んっ……!」
ぬるぬるとした自分の体液を最も敏感な芽に塗りたくられて、葵の反応がめざましくなる。
背中を覆っていた黒髪が前へと落ちかかり、小蒔の手の甲を撫でた。
「葵……」
その美しさを隠すために、髪を伸ばしているのではないか──
そう思えるほど白い背中が浮き上がっている。
自然に魅了された小蒔は、ほんのりと温かな肌に優しく唇を触れさせた。
「んあっ──」
大きな吐息が聞こえてきた。
どうやらここが葵の好みの場所らしく、息を吹きかけただけでも敏感に反応している。
今葵はどんな顔をしているのだろう、興奮を荒い呼気に込めて葵の背中に浴びせ、
小蒔は右手の内にある芯を軽く押した。
「あぁ……っ!」
押し当てた唇に肌がぶつかり、全身から放たれた熱気が、一瞬小蒔の顔を包みこんだ。
指先からは、弛緩していく彼女が伝わってくる。
自分と較べてもあっけなく達してしまった親友の上下動する背中を、
驚きと、満足の入り混じった表情で見つめていた小蒔は、
まだ陰核を触っていた指を下着から抜き、彼女の正面に回った。
ぐったりとしている葵の頬に触れ、顔を上向かせる。
涎が滲む口からは、快感の余韻が吐き出されていた。
朱に染まった貌を見ていると、小蒔は自分でも抑えの効かない、
妖しい情動が膨れていくのを感じる。
葵なら、それを受け入れてくれるはず──そう直感しながらも、
まだ残る理性がそうすることを許さない。
舐めまわした唇を一度噛み、ひとまず無理にその情動を封じこめた小蒔は、
まだぼんやりとしている葵にそっと呼びかけた。
「葵……イっちゃった……の?」
小蒔の呼びかけに、葵は小さく身体を震わせた。
しばらくは何も言わなかったが、やがてうっすらと開かれた瞳は、
ほとんど泣き出しそうに潤んでいた。
「お願……い……もっと……身体中に……小蒔の……あと……痕を……」
哀願する葵に、小蒔は唾を飲み下す。
押し倒し、思いきり哭かせてみたい──そんな危うい感情を抱かずにはいられない葵の貌に、
震える声で心を告げた。
「うん……いい、よ……」
葵の目の端を涙が伝う。
しかし、それが顎まで流れるところを、小蒔は見ることができなかった。
汗ばんだ手が耳朶に触れ、顔を引き寄せる。
薄く開かれた紅から逃れる術を、小蒔は持っていなかった。
「……ん……」
舌が絡み合う。
一度達した葵と、何度でも彼女を達しさせたいと想う小蒔は、
遠慮を捨てて唇を貪り合っていた。
舌だけを卑猥に突き出し、深く交える。
味覚を得る為の器官に、快感を染みこませながら、ただひたすらに。
犬のように開けた口からは苦しげな呻きが漏れ、
小鼻も一杯に膨らませて息を吸っていて、タイプは異なるものの紛れもない美貌も、
見る影もなかったが、二人は構わず舌を吸い、唇を食んでいた。
小蒔の舌が葵の歯を滑っていく。
「ぅ……」
微かな鼻息が上唇をくすぐる。
舌先を尖らせ、硬くして歯の隙間すら探るような小蒔のそれは、
もはやキスとは呼べないかも知れなかったが、葵の顎には砂山のように快感が積もっていった。
顔を傾け、口の中深くまで舐めようとする小蒔にその身を委ねる。
こんな風にみっともなく口を開け、唾を滴らせながら交わすキスを、葵は異常だとは思わない。
むしろ自分の、決して他人には見せることのない痴態を晒すことに、深い陶酔すら抱いていた。
そして小蒔がそんな自分に興奮し、
彼女の裡にある淫らな欲望を加速させていくことをしたたかに計算してもおり、
自らの振舞いが、彼女を絡め取る糸であることを承知の上で、それを周到に張り巡らせているのだ。
小蒔を手中に収めるためなら、どんな方法でも採る──それが、雛乃に焚きつけられた、葵の覚悟だった。
「んふぅ……あう……っ」
薄い小蒔の舌を、蔦のようにねぶっていく。
雛乃に教えられ、悔しいながらも恍惚としてしまったキスを、葵はする。
あくまでも主導権は彼女に与えながら、小蒔を自分に夢中にさせる為に。
肩を掴んでいる小蒔の手に、じんわりと力が篭るのが愉しい。
葵は身を乗り出してきた小蒔の背中に腕を回し、逃れえぬ穴の底へと彼女を引き込んでいく。
「ん……ッ」
甘く濡れた温もりが、口を塞ぐ。
ずっと求めていた快感。
小鼻を膨らませ、小蒔の香りを鼻腔一杯に吸いこみ、葵は舌を委ねた。
口内を探ってくる舌に、しっかりと絡みつかせる。
脳が痺れるほどの愉悦に、葵はもがこうともせず溺れていった。
「う……んむ……っ……」
ぴったりと張りついた小蒔の舌が、表面を擦っていく。
離れそうになって慌てて葵が舌を伸ばすと、
それを待っていたかのように先端だけを突ついて玩ばれる。
喉元を滑り落ちていく快感に、肩に篭っていた力を奪われると、葵の頬を不意に涙が伝った。
悲しいのか、それとも嬉しいのか──
もう考える力も薄れてきて、葵は伏せた睫毛をそっと持ち上げる。
間近にある親友の顔。
膝立ちになり、身を乗り出すようにして顔を被せ、愛してくれている小蒔。
彼女の短い髪が肌をくすぐると、葵は天にも昇るような気持ちになれるのだった。
「葵って……いつのまにこんなにエッチになったの? それとも昔から?」
伝う唾液を指先で掬い取り、小蒔が薄く笑う。
葵は親友の問いに答えようと頭を巡らせたが、
脳裏にはもやがかかっていて記憶を辿ることが出来なかった。
まだキスの余韻が残る口を開けたまま、瞳で解らない、と答える。
返ってきたのは、夢のようなキス。
額に、鼻の頭に、頬に、顎に、唇に。
軽く、短いキスはいつまでも続き、顔の全てに小蒔の感触が広がっていく。
抑えきれない悦びが、抑えきれずに弾けた。
「ん……っ!」
上唇をついばまれた瞬間、葵は不意に達した。
無意識に身体を支えていた力さえ失い、ぐったりと崩れ落ちる。
「葵……だいじょうぶ?」
「ええ……平気」
気だるげに答えた葵は、身体を離そうとする小蒔を抱きとめる。
生気に満ちた瞳を、今は潤ませている小蒔は、その目を細め、葵に口づけた。
「あ……ん……」
ためらわずに絡みあう舌。
身体を押しつける小蒔と、小蒔を抱き締める葵。
二人はほとんど身動きもせず、ただ舌だけを用いて快感を貪りあった。
舌が、溶けたチーズのように糸を引く。
長く、深いキスを終えた後も二人は見せつけるように舌を出し、
お互いの顔を濡らす唾液を掬いとっていた。
伸びてくる舌を捕らえ、先端を甘く食んだ小蒔は、
カーテンの隙間から射しこむ光に照らされた葵の顔に、新たな欲望を抱いた。
もういかに小蒔でも制服の上にコートを羽織らないと寒い季節であるのに、
今、小蒔は下着すら必要としないほどの火照りを感じている。
何もかも脱ぎ捨て、葵の肌を感じたいという欲求が、小蒔の指先を葵の肩へと躍らせた。
「ブラ……外していい? 外すね」
ストラップに沿って背中に腕を回し、ホックを外す。
淡い紫の布地が包んでいた膨らみは、
その大きさにも関わらず、支えを失ってもほとんど形を変えていない。
見るからに柔らかく、そして母性を象徴するような隆起に、小蒔は手を添えた。
硬さなど微塵も感じられない、ただただ柔らかいだけの乳房を、
親指の腹でくまなく撫でていく。
焦る必要もなく、ただゆっくりと。
「ん……」
葵が声を漏らす。
穏やかな呼吸の中に混ざっているそれは、小蒔の指をそっと押し上げる。
その上下動でさえもが心地良い小蒔は、
目を閉じ、腕をだらりと下げて身を任せている葵の反応を覗いながら、
指腹を頂へと近づけていった。
「っ……」
葵の反応が少しずつ変わっていく。
より敏感な場所に触れられているからなのだろう、時折身体が小さく強張っている。
しかし、そうされたがっており、そうしたくても、小蒔はまだそこには触れない。
薄く色が変わっている部分の周りを、やんわりと撫でるだけだ。
弱すぎる愛撫に、葵が胸を突き出してくる。
はっきりと快感を求めているその仕種に、小蒔は薄い笑みを浮かべると、
胸の先端で膨らんでいる部分に、唇をすぼめてくちづけた。
「あ……」
葵が声を上げると、乳首が唇を柔らかくくすぐる。
柔らかな彼女の身体にあって、異質に硬く、そしてなお柔らかい膨らみ。
自分のそれとは異なり、唇の先で軽く押しただけでも愛らしく揺れる頂を、
小蒔は時間をかけて口に含んだ。
「葵はさ、どんな風にされるのが好き? こんな風?」
舌で乳輪をなぞり、乳首を転がす。
「それとも、こんな風?」
唇で胸の先を咥え、弱く吸いたてる。
わざと音を立て、口の中で溜めた唾を塗りまぶしながら、乳暈から乳首の窪みまでを、
余すところなく舐めてやると、葵は嬉しそうに喉を鳴らした。
「あぁっ! ん、ふ……」
硬く張り詰めた頂に、今度は軽く歯を当てる。
二度、三度と噛み、葵が刺激に慣れた頃に、強く吸ってやった。
「……っ!」
肢体が大きく仰け反り、甘い香りが広がる。
鼻腔一杯に吸いこんだ小蒔が、それが口に含んでいるものの味かと錯覚してしまうほどの良い匂い。
それを吸いこむことは、彼女とひとつになることのような気がして、小蒔はもう一度胸を吸った。
「あ……小蒔……」
揺らめく声。
それもまた、身体に染み入っていく。
耳を通り、喉を通り、身体のあらゆる管を通って腹の下に集まっていく、葵。
それは泣いてしまいそうなほどに心地良い感覚で、小蒔はまた胸を吸った。
「はぁ……っ」
同じ強さで吸うと、同じだけの香りが漂ってくる。
違ったのは、快感に抗うだけの力をなくしてしまった葵が、小蒔にもたれかかってきたことだった。
「葵……?」
「小蒔……小蒔っ」
三年間で何度呼ばれたか判らない名前。
でも今呼ばれた名前は、それまでのどれとも違う音で小蒔の胸に響いた。
温かな胸の谷間に顔を埋め、小蒔は想う。
三年間、葵が自分に抱いていた気持ちを。
三年間、自分が葵に抱いていた気持ちを。
ごめんね──滲んだ涙を肌に押しつけると、静かな鼓動が聞こえてくる。
葵の背中をかき抱いた小蒔は、ゆっくりと彼女を押し倒した。
葵の足から下着を抜き取る。
愛撫の間もずっと履いていたままのそれは、小蒔の手の中で卑猥な音を立てるだけの布地と化していた。
水分を含んでべっとりと濡れている下着からは、思考を奪うような匂いが漂ってきて、
瞬間、小蒔はぼうっとしてしまう。
葵が潤んだ瞳でこちらを見ているのに気づかなければ、下着を口に押し当ててしまっていたかもしれない。
愛想笑いを浮かべて下着を彼女の脱いだ服のそばに置いた小蒔は、
やや性急に待っている彼女の傍らに横たわろうとした。
しかし、葵はキスをしようとする小蒔を優しく押し留める。
「小蒔も……脱いで」
「あ、う……うん」
葵がじっと見ている中で服を脱ぐのは相当に恥ずかしかったが、
葵も既に裸になっているのだから、と小蒔は一思いに下着まで脱いだ。
葵と同じくらい湿ってしまっていた下着にも驚きはしなかったが、
それを知られるのはさすがに抵抗があり、さりげなく畳んだ制服の下に入れると、
親友とは違いがあり過ぎる身体を、隠すように密着させた。
「っ……はっ……こま、き……」
「うん……葵……」
葵の身体はとても昂ぶっていて、温かかった。
熱気に眩む小蒔の太腿に、湿った感触が伝わってくる。
しかも、葵は足を絡め、腰を動かしてしきりにその部分をさすってくるのだ。
「……」
積極的な葵の行為に、小蒔は声も出ない。
しかし、やがて悪戯っぽい笑みを浮かべた小蒔は、自らも足を巻きつかせた。
「エヘヘ……気持ち、いいね」
ぎゅっと腿で挟みこみ、刺激を与えると、
葵もすぐに応じて、程よい強さで下腹部に快感が満ちていく。
蕩けた笑みを浮かべながら、小蒔は葵に唇を寄せていった。
「あ……ん……」
裸でするキスは、そうでないキスよりもずっと気持ちが良かった。
胸の先や、とろとろに濡れた足の間を太腿に擦りつけると、特に。
「ん……」
満足気な呼気を、唇の間から静かに漂わせた葵に、小蒔はもう一度キスを放ってから身体をずらす。
顎の裏に、首筋に、鎖骨に、目に付くところ全てにくちづけながら、下に。
自身の重みでわずかに潰れていながらも、なお綺麗に上向いている乳房は、特に念入りに舌を這わせた。
「小蒔……」
「美味しそうだよね、葵のおっぱいって」
「いや……んっ」
葵はどう答えても、ちょっと吸ってやっただけで簡単に息を詰まらせる。
それが面白くて、小蒔は麓から頂に至るまでを、いつまでも玩んだ。
「はっ、はぁ……ぅ、んぁ……っ」
今にも破裂しそうに膨らんでいる乳首を指腹でくすぐると、葵の呼吸が不規則なものになっていく。
もしかしたらこのまま胸だけでも達してしまうかも知れなかったが、
小蒔はひとまず愛撫を止め、更に下を目指すことにした。
身体の中心にある、縦長の割れ目の周辺をなぞる。
葵はここも弱いのか、小さく身動きしたが、しかしすぐに、無理やり動きが止まる。
いかにも快感を堪えているような仕種に、小蒔はいじらしさを覚えるのだった。
臍を過ぎると、すぐに顎に繊毛が触れる。
多分唯一彼女の身体の中で、彼女らしくない部分。
そこを葵が気にしていると知っているから、小蒔はじっくりと眼を凝らした。
視線が注がれていることに気付いた葵は今更のように叢を隠そうとするが、
小蒔は太腿にキスを落とし、叢をさすって足を開かせる。
「いや……い、やぁ……」
現出した光景に、小蒔はため息さえ出なかった。
膝を折り、これ以上なく卑猥に晒された陰部は黒々とした叢が覆っているが、
彼女の身体から湧き出した雫によってそこここが煌いている。
そしてその雫を生み出す源である秘裂は、今や薄くとば口を開け、切なげにひくついていたのだ。
黒い繊毛の隙間から覗く、生々しいピンク色の肉は、直截的な興奮となって小蒔の脳を犯す。
親友の媚態に愛液を太腿に伝わせて、小蒔はのそりと葵の股に顔を近づけた。
「いやぁ、止め、て……お願い、そんなところ……汚い……わ……」
身体の一点を凝視しようとする親友に、葵は懇願した。
半ばは本心だったが、同時にそら恐ろしい興奮も臍の下辺りに溜まっていく。
そして容量を超えた分が、小蒔の見ている穴から染み出していくのだ。
とめどなく溢れだす蜜をせき止めるように葵は両手で淫裂を隠す。
小蒔はそれをどかせようとはしてくれない。
「葵……見せて」
ただ、それだけ。
命令でも強制でもない、ただの依頼に、しっかりと覆われた門扉が開かれていく。
小蒔の見ていない足の指を折り曲げて恥ずかしさに耐え、葵は親友に全てを見せた。
「すご……い……」
下腹を豊かに覆う黒い草叢は、女性器だけでなく、
その後ろにある孔までも隠そうとするかのように茂っている。
美貌だけでなく、スタイルも理想的なものを有する葵にとって、
ほとんど唯一とも言って良い外見上のコンプレックスがここであった。
下着の上からでも盛り上がって見えてしまうのではというくらいの恥毛を、
葵は着替えの際に気づかれてしまわないよう苦心していたこともある。
それを親友だからとは言え、否、親友だからこそ、
曝け出すことは、恐ろしいまでの情動を葵の裡に波打たせた。
小蒔が、見ている。
目を閉じていてもはっきりと判る、熱い視線。
それを意識する時、葵は己の身体が喘ぐのを、はっきりと感じる。
「少しだけ……臭い……するね。葵の……におい」
鼻息すらかかる距離で、小蒔が見ているもの。
一糸まとわぬ姿でそこを見せている自分。
葵は様々な想いに耐えながら、足を一杯に開き、腰を気づかれないくらい小さく浮かせて、全てを見せた。
かすかに聞こえてきた小蒔が息を呑む音と共に、皮膚を何かが撫でていく。
小蒔の指ではないそれは、淫裂を伝い、尻の間へと垂れていった。
それに小蒔が気づいているか──いないはずがない、目の前で蜜を吹きこぼしたのだから──
その、新たに加わった想いは、葵の身体をおかしくさせていく。
もう冬も差し迫っているというのに肌を熱く燃え上がらせ、息苦しさを覚える。
身体の内側では何か途方もないエネルギーが暴れまわり、勝手に手足を動かそうとしていた。
「……はぁっ……」
風船のように膨らんでいくそれを抑えきれず、一度だけ口を開け、大きく吐き出す。
しかし声が出ないようにと気をつけたはずのそれは、部屋全てを満たすように響き渡った。
「あお……い……」
小蒔の掠れた声に羞恥を底知れず煽られて、どうしたら良いか判らなくなった葵が、
ただカーペットを握り締めていると、不意に呼吸を奪われた。
小蒔の指先が、陰唇にかかっていた。
反射的に出掛かった拒絶を、喉でせき止める。
彼女がそうしたいのなら、拒んではいけない──葵は自らに課した制約を思い出したのだ。
葵は唇を噛んで、羞恥と快楽の狭間に己をたゆたわせた。
そっと花弁に触れる蝶に、花は蜜を与える。
だがその目的は、己の写し身を彼方へと運んでもらう為ではなく、蝶を絡めとる為だ。
その為に花は、己の深くへと蝶を誘いこむ。
花自身の美しさと、芳しい香りを以って。
「葵……」
黒い覆いの狭間にひっそりと息づく桃色の園に、小蒔は思わずため息を漏らしていた。
現実離れした親友の美貌にあって、生々しい肉感を有する今見ている部分。
しかもそれは自分のものより遥かに濃い茂みを以って隠されているのだ。
開いている陰唇からその下のすぼまりまでをも覆う豊かな陰りは、
いやでもそれが隠しているものを意識させる。
両手で淫らな蜜を吐き出し続ける裂け目を押し広げた小蒔は、その果肉に舌先を伸ばした。
熱いうねりが口の中に流れこんでくる。
「しょっぱくて……なんか……」
葵の味がする──とは言えず、複雑な形を見せる襞に沿って舐めていく。
「んうっ、こ、ま……小蒔……ぃっ」
切羽詰った様子の葵の声が、頭上から聞こえた。
同時に柔肉が迫ってきて、きつい香りに鼻腔が侵食される。
葵が、腰を突き出してる──小蒔には、口の周りが蜜で濡れてしまったことより、
親友がこれほどまでに快楽を求めて媚態を晒すことの方が驚きだった。
しかし、秘唇からは新たな雫が次々とあふれだしており、
彼女の欲望に嘘偽りのないことを示している。
ならば、小蒔のすることはひとつだった。
「あッ……あぁぁ……」
鼻先を埋め、溢れる蜜を啜り上げ、舌に掬えるだけ掬い取った蜜を、
受粉させるように葵の、慎ましくも剥き出しになっている突起に塗りたくる。
「んっ、んぁぁ……ッ」
悲鳴と共に、身体が忙しく跳ねた。
その度にこぼれる淫らな熱気を、耳朶で吸収しながら、小蒔はしっかりと太腿を抱え、
なお葵の秘めやかな溝を探り続けた。
「葵……そんなに気持ちいいの?」
親友のあまりの感じ方に、からかうつもりで小蒔は尋ねる。
すると葵は、恍惚に染め抜いた、小蒔がどうしようもなく好きな色の瞳を向けて答えた。
「ええ……小蒔に触れられているだけで、私……おかしくなってしまいそうに気持ちいいわ」
手入れの行き届いた、紫色にも見えることがある長い黒髪を頬や額にほつれさせた、夢見心地の表情。
深い愛情と、それにも劣らない淫情が浮かんでいるその顔を見ていると、小蒔の背筋を震えが走る。
雛乃や雪乃に対してとはわずかに異なる、より危険な情動。
「あおい……そんなこと言うと……ボク……止まらなくなっちゃうかもしれないよ」
身を起こし、聞き間違いがないよう、耳元で囁く。
返ってきたのはやはり耳元への、しかし一字一句はっきりとした声だった。
「前に言ったでしょう? 私は、小蒔と一緒なら……何処にだって行けるって」
「あ……お、い……」
「小蒔……」
充足感に満たされて、二人は抱き合った。
強く、きつく、足の指先にまで神経を漲らせて。
その中で唯一二人が動かした、髪を梳き、背中を撫で、
お互いが手に入れたものを確かめるようにまさぐる掌は、
やがて葵の方が先に目指す場所へと辿り着いた。
「あッ……葵……っ」
先を越された小蒔が、掠れた声で訴える。
しかしあてがわれた細い指は、焦らすように秘裂の上をさ迷った。
「やだ……ボク……も……」
葵に触れられて初めて、もう自分に余裕が全くないことを知った小蒔は、
負けじと彼女の足の間に手を添える。
「あッ……んあぁっ……」
「小蒔……っ、はっ、んッ……!」
音もなく沈みこんだ指先は、それを不満とするかのように激しく水音を立て始めた。
そして二つの水音は共振して、更に大きな淫音へとなっていく。
「うぁ、き……もち……いいよ……葵ぃっ」
「私も……お願い、もっと……んくっっ」
小さな指先に、身体全体を掻き回されているようだった。
指がほんの少し深く入るだけで頭の先にまで気持ち良さが走り、
爪が媚肉を軽く引っ掻くだけで口から快感が呼気の塊となって弾ける。
「葵……んッ、んううッ」
濃密な匂いが鼻を塞ぎ、蕩けた舌が口腔を犯す。
快楽に打ち震え、二人は涙すら流しながら、
お互いがもたらす以上の愉悦を相手に与えようと激しく蜜壷をかき混ぜた。
「う、あ……ッ、あ、お……!!」
「はぁっ、んッ、あっ……!! あぁ……ッ!!」
身体中を巡る快感を、受けとめようともせず爆ぜさせる。
ひといきに扉を開けた二人は、全身を苛む狂悦に、声すら出せずに果てた。
「あ……あッ……!!」
「ぁ……っぅ……」
びくり、と大きく全身を震わせる葵と、腰の辺りだけを小刻みに揺らす小蒔。
まるで違う達し方ながら、二つの波は、
それがひとつから分かたれたものであるかのように彼女達を浚っていった。
その後も服を着ることもせずに横たわり、時折シーソーのように互いを求め合った二人も、
今は静かに抱き合っているだけだ。
全身を覆う気だるさに浸かり、時折肌を撫でる微弱な快感を愛でている葵に、
望んだ以上の恍惚を与えてくれた小蒔がそっと話しかけてきた。
「ね、葵」
「何、小蒔」
「んーん……なんでもない」
小さく首を振った小蒔は、満ち足りた笑顔で身を寄せてきた。
親愛の情も露な彼女の頬に、葵は想いを押し当てる。
しかし、小蒔を抱きとめ、茶色の短い髪を撫でる葵の口の端には、
本人ですら気づかないくらい小さな、小蒔とは別種の笑みが浮かんでいた。