羅刹の家から逃げ帰った翌日。八雲の体は、夜通し走った疲労よりも、无限の精力と、羅刹の魔力に触れたことで高まった熱に苛まれていた。
学校へ行くと、黒崎羅刹はすでに教室にいた。彼女は、昨夜の出来事などまるでなかったかのように、涼しげな表情で窓の外を眺めている。
八雲と目が合うと、羅刹は薄く笑った。その笑みには、「逃がさない」という確固たる意思と、八雲の抵抗に対する「面白さ」が混じっていた。
八雲は席に着いたが、授業に集中できない。羅刹の存在そのものが、彼の『无(ウー)』のシステムを刺激し続ける。
昼休み。
八雲は、パイや羅刹との接触を避け、屋上へと向かった。誰にも邪魔されない場所で、なんとか体の熱を冷まそうとしたのだ。
しかし、屋上の扉を開けた瞬間、そこにはすでに羅刹が立っていた。
「見つけたわ、私の逃げた无(ウー)」
羅刹は、八雲の目の前でゆっくりと髪をかき上げた。その仕草一つにも、獲物を追い詰める三只眼の妖艶さが滲んでいる。
「私を避けないで。逃げても無駄よ。あなたの体は、今、私を求めて悲鳴を上げているでしょう?」
羅刹は、八雲に向かって一歩踏み出した。八雲は、本能的に後ずさる。
「私の誘惑を退けたのは、あなたの幼馴染への愛かしら? それとも、ただの意地?」
羅刹は挑発的な笑みを浮かべた。
「でもね、藤井くん。あなたの体は正直よ」
羅刹はそう言うと、八雲の目の前で、ゆっくりと自分の指先を口元に持っていき、艶めかしく舐め上げた。
その仕草は、一瞬で八雲の理性を揺さぶる。八雲の股間に、制御不能なほどの硬さが走った。
(くそっ……! 抑えろ、抑えろ……!)
八雲は、両の拳を握りしめ、必死に痛みを耐えることで、肉体の反応を抑え込もうとした。
「可哀想に。そんなに苦しいのに、解放を拒むなんて」
羅刹は、さらに八雲を追い詰める。彼女は、自らのスカートの裾を、微かに持ち上げた。その仕草だけで、八雲の脳裏に、夜の帳の中で羅刹の家で見たシルクのガウンと露わになった肌が蘇る。
羅刹は、教師や他の生徒が立ち入らないことを確認すると、八雲に囁いた。
「ねえ、藤井くん。あなたには、時間がないのよ。もうすぐ、あの粗暴なパールヴァティーが覚醒するでしょう?」
羅刹の言葉は、八雲の胸を鋭く刺した。
「あなたは、パールヴァティーが覚醒すれば、彼女の飢餓が満たされるまで、彼女の欲望の捌け口となる。そしてまた、一週間、この無限の熱に苦しむのよ。その繰り返しの人生、本当にあなたの望む日常かしら?」
羅刹は、同情的なフリをしながら、八雲の『无(ウー)』としての宿命の過酷さを突きつけた。
「私は違う。私は、あなたの意思で、あなたの都合のいい時間に、あなたを解放してあげられる。そして、この秘密は、私たちだけのもの。誰にも知られずに、あなたは平穏な日常を取り戻せるのよ」
彼女は八雲の耳元で、甘い息を吹きかけた。
「一回だけじゃなくてもいい。私の家じゃなくてもいい。今、この屋上で、私にあなたの精を注いで。そうすれば、あなたは一時的に救われる。ねぇ、无(ウー)。早く、その熱を私にちょうだい?」
羅刹の言葉、吐息、仕草、すべてが八雲の理性を蝕んでいく。彼の足は地面に縫い付けられ、抵抗する力を失いかけていた。
八雲は、この三只眼の巧妙な誘惑と、無限の精力の苦痛という現実の重さに、押しつぶされそうになっていた。彼の前に差し出された、背徳的な救済は、あまりにも魅力的だった。