第三十二章:羅刹の无(ウー)と手がかり
翌日、羅刹は衰弱した体で、八雲とパールヴァティー(パイの姿)に、自身の「无(ウー)」の情報を共有した。
「私の无(ウー)の名は、『白川悠真(しらかわ ゆうま)』。人間よ。彼は、私と出会う前から、『精の質』が非常に高い特異な体質を持っていた。だから、私は彼を无として選んだ」
羅刹は、パイの姿のパールヴァティーと、八雲に向かって、憔悴した顔で続けた。
「彼が最後に目撃されたのは、『古神社の跡地』。そこは、『羅刹の力』を封じるための古い結界があった場所。彼を捕らえたのは、羅刹一族を敵視する、別の魔族に違いない」
八雲は、羅刹の無力な姿に、共闘の意志を固めた。
「わかった。悠真を救出する。だが、羅刹。お前の本性を、パイに知られるわけにはいかない」
八雲の言葉を聞き、羅刹の瞳が、魔性の冷酷さを取り戻した。
「承知したわ。協力している間は、私も『羅刹のフリ』をする。ただし、この作戦中は、あなたを貪る行為は控える。私の精が尽きる前に、彼を助け出す。さあ、行きましょう、私の救世主(ヒーロー)」
八雲は、羅刹の命を賭した誘惑と、パールヴァティーの嫉妬を乗り越え、羅刹の「无(ウー)」である白川悠真を救出する、新たな使命へと向かうのだった。
第三十三章:古神社の跡地と、敵魔族の罠
羅刹の「无(ウー)」である白川悠真を救出するため、八雲、パイ(外見は幼馴染)、そして衰弱した羅刹の三人は、夜の帳が下りた古神社の跡地へと向かった。
羅刹は、魔力の消耗を隠すため、普段より魔力を抑えていたが、その表情には無力な三只眼としての焦燥が張り付いていた。八雲は、彼女の命が尽きる前に悠真を救い出さねばならないという、新たな使命感に駆られていた。
「この先よ。私の魔力が、悠真の微かな精の奔流を感じる……」
羅刹の指差す先は、朽ち果てた鳥居と、その奥に広がる闇だった。空気は重く、八雲の『无(ウー)』としての肉体が、羅刹の魔力とは異なる、冷たく悪意のある魔力を感じ取っていた。
八雲は、パイを振り返った。
「パイ。絶対に無理をするな。異変を感じたら、すぐに俺の背後に隠れろ」
八雲がそう声をかけると、パイの瞳が一瞬黄金色に光った。性魔パールヴァティーが、八雲の隣に立つことを支配者の権利として主張したのだ。
「フン。無用な心配よ、私の无(ウー)。この程度の魔力、私と貴様の力があれば、一瞬で払い除けられるわ」
パールヴァティーはそう言い放つと、八雲の手を掴んだ。その接触は、羅刹への対抗心から来る強引な結合の合図だった。
三人が鳥居をくぐり、荒れ果てた本殿跡に足を踏み入れた瞬間、周囲の空間が歪んだ。
「来たようね、羅刹の眷属」
闇の中から、低い声が響いた。姿を現したのは、全身を黒いローブで覆った異形の魔族だった。その魔族の放つ冷たい魔力は、八雲の体内の精を凍り付かせるかのような不快感を与えた。
「貴様……夜叉(ヤシャ)族か!」羅刹が声を荒げた。
「羅刹族の三只眼め。貴様らの淫らな力は、我らが純粋な魔力の敵ではない。貴様の无(ウー)は、我らの実験体として、その特異な精をすべて差し出してもらう」
敵魔族はそう告げると、本殿の奥の祭壇を指差した。
そこには、意識を失った一人の青年が横たわっていた。その青年こそが、羅刹の「无(ウー)」、白川悠真だった。彼の体からは、微かに特異な、質の高い精が漏れ出ており、それを敵魔族の魔力が吸い上げているのが見て取れた。
「悠真!」
羅刹は、魔力を解放し、悠真の元へ駆け寄ろうとした。しかし、敵魔族が放った結界の破片が、羅刹の道を塞いだ。
「無駄だ。貴様の衰えた魔力では、私に勝てない。まして、貴様の无(ウー)は、貴様が背徳の快楽に溺れたせいで、精を極限まで浪費しているだろう?」
敵魔族の言葉は、羅刹の過去の過ちを突きつけた。