闇に閉ざされた路地裏で、性魔パールヴァティーによる『无(ウー)』の儀式が始まった。
八雲の肉体は、彼女の魔力と本能的な熱に完全に支配されていた。黒い翼が光を遮り、二人の世界を外界から隔離する。
「怖がらなくていいわ、愛しい最初で最後の贄。お前はこれから、誰よりも特別な存在になるのだから」
パールヴァティーの声は、快楽と支配欲に満ち、八雲の耳奥で甘く響く。
彼女の黄金の瞳が、八雲の全身を舐めるように見つめた。その視線だけで、八雲の体内のすべてが透けて見えているようだった。
「お前の精は、すぐに枯渇する。しかし、私のために無限の精を生み出す器へと変質させる」
パールヴァティーはそう告げると、八雲の唇から離れ、体全体で八雲を押し付けた。彼女の灼熱の肌が、八雲の肌に触れるたびに、魔力が刻印されるような激しい熱が走る。
彼女の指先が、八雲の胸の中央、心臓の鼓動が最も激しい場所を捉えた。
「契(ちぎ)りの刻印(インクルーシブ)」
パールヴァティーが静かに呪文を唱えると、彼女の指先から、黒く輝く魔力の光が発せられた。その光は、鋭利な刃物のように八雲の皮膚を貫き、心臓へと到達する。
「ぐっ……!」
八雲は窒息するような激痛に襲われた。心臓が、まるで内側から握り潰されるかのように軋む。
「これは、魔力の回路を組み込む作業よ。お前の生命力すべてを、私の欲求を満たす精液生成へと直結させる」
彼女の魔力は、八雲の体の深い部分、生殖を司る根源へと侵入していく。
激しい熱と痛みが、八雲の腰のあたりに集中した。精巣の奥底で、何かが爆発し、再構築されるような感覚。従来の射精で失われるはずの精力を、瞬時に無限に回復させる、異質なシステムが体内に構築されていく。
八雲の視界は、走る激痛と、パールヴァティーの魔力の光で、白と黒に塗り潰された。彼の魂が、肉体から引き剥がされ、彼女の魔力に染め上げられるような感覚。
「お前はもう、ただの人間ではない。私の『无(ウー)』、精を枯渇することのない、私の永遠の糧」
儀式の核心は、二人の肉体の結合によって達成された。八雲の根源に達したパールヴァティーの魔力が、彼の体内の回路を一気に繋ぎ変える。
「解放(リリース)」
パールヴァティーの悦びの叫びとともに、魔力の奔流が八雲の体内を駆け抜けた。
その瞬間、八雲の体内にあった枯渇の恐怖が消え去った。代わりに、全身の血潮が湧き立つような、満ち溢れる精力の感覚。彼の肉体は、熱を帯びた精液を無限に生み出し続ける、生きた宝珠へと変貌したのだ。
激しい魔力操作の疲労で、パールヴァティーは荒い息を吐いた。彼女の黄金の瞳は、満足げに八雲を見下ろす。
「ふふ……これで、お前は私のもの。永遠に尽きることのない、私だけの『无』」
八雲は喘ぎながら、自らの体に起こった異変を悟った。心臓のあたりには、熱い痣のような魔力の刻印が残っている。もう、彼は普通の人間ではない。
儀式は完了した。八雲は、無限に精を供給できる『无(ウー)』となった。
そして、その膨大な精力の供給を受けた瞬間。
パールヴァティーの肉体の飢餓感は、一気に満たされていった。黄金に輝いていた彼女の瞳が、急速に色を失い、元の澄んだ黒へと戻っていく。背中にあった黒い翼は、霧となって消散した。
「あれ……? やっくん……わたし……どうしてここに?」
そこにいたのは、魔性の性魔ではなく、困惑した様子の綾小路パイだった。彼女の顔には、魔性の記憶は一切残っていない。ただ、初めての行為の熱と、見覚えのない路地裏の冷たさに戸惑っている。
八雲の腕の中で、幼馴染は不安そうに震えていた。
「どうしたの、やっくん……? 顔色が悪いよ……」
パイは、自分が街の男達を襲い、八雲を无に変えたことなど、知る由もなかった。
八雲は、パイを抱きしめた。その体は、もう灼熱の魔力ではなく、いつもの幼馴染の温かさだ。
彼は知っている。彼女の体の中に、危険な性魔パールヴァティーが潜んでいることを。そして、自分が、その魔性の飽くなき性欲を、一人で満たし続けなければならない『无(ウー)』となったことを。
八雲の、无尽の宿命が始まった。