最終決戦
ズシン!
突然玉座の間の天井が崩落し、漆黒の羽根を撒き散らしながら羅刹が姿を現した。彼女の六枚の翼は怒りで震え、黄金の瞳には底知れぬ憎悪が燃え盛っている。「見つけたわね……八雲くん」
彼女は水晶棺を指さし哄笑した。「素晴らしいわ!やっぱりお師匠様は貴重な宝を隠していらしたのね。これを開ければ魔界は私のもの!」
「やめろ羅刹!」八雲が叫ぶも彼女は聞き入れない。「邪魔をするなら容赦しないわ!」
その右手から放たれた黒い炎が水晶棺に向かって一直線に迸る――
だが次の瞬間――
リリアーナが放った雷撃とパールヴァティーの雷霆が正面から衝突し爆音と共に黒炎を打ち消す。「させません!」リリアーナが前へ出る。「主君の命令は棺を守ること!」
「邪魔よ!」羅刹が唸る。
双子の赤髪淫魔が左右から挟撃する。「紅蓮刃舞!」二つの炎刃が十字に交差して羅刹の動きを封じる。
「主君!今のうちに説得を!」
「わかった!」八雲は走り出すが、羅刹の背後に控える七大罪王の亡霊たちが行く手を阻む。「ちっ……!」八雲は舌打ちしつつ拳を構えた。
一方で淫魔たちとの戦いは熾烈を極めていた。アクエリアスの水刃が羅刹の翼を切り裂き、ライラの旋風が視界を奪う。だが羅刹も負けてはいない。「小賢しい!」彼女が地面を叩くと瘴気が奔流となって淫魔たちを押し返す。
「主君……早く……!」リリアーナの声が苦悶に染まる。既に彼女のドレスはところどころ焦げ、腕には深手を負っていた。だがそれでも彼女は微笑んで言う。「大丈夫……私は主君の盾ですから……」
他の淫魔たちも同様だ。赤髪の双子ルルとナナは息を切らしながらも炎刃を振るい続け、アクエリアスは全身が傷だらけになりながらも海神の槍を掲げている。
八雲はその姿を見て歯を食いしばった。(みんな……俺のために……)
胸が張り裂けそうになる思いを抑え込み、ついに羅刹の眼前へ辿り着く。「羅刹!話を聞いてくれ!」
「何を聞く必要があるというの?」羅刹が嘲笑う。「私はもう決めたのよ。全てを手に入れるって!」「違う!お前が本当に欲しいのは力じゃないはずだ!」八雲は一歩踏み出し距離を詰める。「お前は……俺を求めているんだろ!?」
羅刹の黄金の瞳が大きく見開かれる。その一瞬の隙を突いて八雲は懐からあの写真を取り出した。「ほら……これを見るんだ!」
フラッシュバックのように過去の記憶が蘇る――二人で街を歩いたこと。初めて出会った雨の日。互いに抱き合った夜のこと……。羅刹の表情が次第に歪み始めた。
「やめて……思い出させないで……!」「思い出せ!それが真実だ!」八雲は写真を羅刹の眼前に突き付ける。「お前が本当に欲しかったのは……支配なんかじゃなく……俺自身だったんじゃないか!?」
「違う!!」羅刹が絶叫と共に両手を振り上げる。しかし動きは鈍く、八雲を掴むことはできない。「私は……私は……!」
彼女の身体から溢れる黒いオーラが徐々に薄れていくのが分かる。淫魔たちも攻撃を止め、固唾を飲んで見守っている。
「羅刹……」八雲が優しく語りかける。「俺はお前を責めたいわけじゃない。ただ……一緒に帰ろう。みんなでお前の罪を償おう。そして……また笑ってくれよ」
「でも私は……多くの命を奪った……」羅刹の声が震える。「もう戻れないわ……!」
「戻れるさ」八雲は力強く断言した。「罪は償えばいい。俺がずっと側にいる。絶対に離れない。約束する」
その瞬間――
羅刹の身体が光に包まれ始めた。背中の六枚の黒翼が白く変わり、黄金の瞳から涙が溢れ出す。ゆっくりと地面に膝をつき、「本当に……良いの?」と掠れた声で尋ねた。
「ああ」八雲が手を差し伸べる。「もちろんだよ。おかえり……羅刹」
彼女が恐る恐るその手を取ると同時、水晶棺の方でも異変が起こった。
リリアーナが呪文を唱えながら棺に手を添える。「今なら行けます!支配核だけを取り出し結界核を解除します!」「急いでくれ!」
リリアーナの魔力が棺に流れ込み、水晶が淡く輝き始める。そして――
ガシャン!
大きな音と共に水晶棺が開き、中から淡い金色の光球が浮かび上がった。同時に床に埋め込まれていた無数の魔方陣が展開し、結界核と思われる紫の光が消失していく。「成功です!」リリアーナが安堵の吐息を洩らす。
解放された支配核
金色の光球が天井近くまで浮上し、静かに脈動している。パールヴァティーが感嘆の声を上げた。「これが……魔界を統べる支配核か」だが次の瞬間、彼女の顔が険しくなる。「む……?これは……」
光球から放たれた一筋の糸のような光が八雲の胸へと伸びてくる。そして心臓のあたりで絡み合い一体化していく感覚。
「ぐっ……!」八雲が膝をつき呻く。「主君!」リリアーナが駆け寄り支えようとするが、「大丈夫だ」と八雲は手を挙げて制した。「俺の中に……何かが入ってくる」
支配核を宿したことで八雲の体内で魔力が暴走寸前に膨れ上がる。六人の淫魔たちは慌てて彼の周囲に円陣を組み結界を張った。彼女たちの額からは汗が滝のように流れる。「主君が……完全に融合してしまう……!」リリアーナの顔が恐怖に歪む。
だが八雲は苦しみながらも笑みを浮かべた。「いや……違う。これは……受け継ぎだ」