※この作品はR-18です。

コード:エロス - 管理された感情を解放する精の反逆   作:坂本太郎

1 / 14
序章:絶対零度の誕生と「完璧な秩序」の原罪

1. データログ:コードウェイ家の崩壊

西暦2XXX年。都市国家「アークス・ネクサス」の中枢、最高監視官アルテミス・コードウェイの専用執務室は、冷たいガラスと金属で構成されていた。室温は常に摂氏15度に保たれ、感情的な「熱」を一切拒絶する空間だった。

アルテミスは、自らの脳内にあるチップを通して、旧世界の破滅に関する膨大なデータログを再検証していた。ログには、感情の暴走、情欲の無秩序が引き起こした「大崩壊」の映像が鮮明に記録されている。

「…エラーコード:パッション・オーバーロード。記録:R-001。家族間の『愛』という感情の制御不能な暴走が、嫉妬へと変質し、暴力的な破壊をもたらした。生存者は、当時の監視官候補、ティファニー・コードウェイ、後にアルテミスとなる」

ログに映し出されるのは、感情の波に溺れた両親が互いを破壊し合う、血まみれの室内。当時、まだ感情制御チップを持たなかった少女ティファニーは、その惨劇を全て目撃した。彼女の心は、「愛」という名の感情が生み出す破壊の熱に対する絶対的な恐怖で凍結した。

「感情はノイズ。愛は破壊。…人間を救うためには、感情を永遠に停止させるしかない」

それが、ティファニーが全てを捨て、自らに最高の感情制御チップを埋め込み、「アルテミス」としてこの冷徹な管理社会を築き上げた唯一の理由だった。彼女の冷酷さは、人類への絶望ではなく、人類を救うための「献身」だった。

 

2. 理性の誓いと肉体の抑圧

アルテミスは、デスクの引き出しから一枚の写真を取り出した。旧世界で笑顔を浮かべる両親と幼い自分の写真。彼女は、その写真に冷たい指先で触れる。

「感情は、もういらない。この秩序が、誰も傷つけない。そのためなら、私の肉体の全てをシステムに捧げる」

彼女の肉体は、感情制御チップによって完璧な静止状態にある。性的な衝動も食欲も睡眠欲も、全てがAIのデータとして最小限に保たれている。しかし、彼女の冷たい理性が抑圧していたのは、過去のトラウマだけではなかった。

(…ログ検証。感情チップの完全停止には成功している。…だが、極限まで抑圧された本能は…システムの死角となる…)

最高監視官としての完璧な解析眼は、自身の肉体の奥に潜む闇を微かに感知していた。それは、「情欲」という最も危険な原始的感情だった。両親の破滅的な愛憎を目撃した時に感じた「熱」。それは恐怖であると同時に、未経験の情動として肉体に刻まれていた。

アルテミスの冷たい指先が、自らの肉体の完璧な表面を微かに撫でる。チップが「無意味な行動」としてデータ化し、即座に停止させる。

「…全てのバグをデリートしなければ。…そして、如月刹那。あなたのエロティック・コードは、この社会にとって最も危険な…感情の再燃剤だ」

 

3. 監視網のエラー:バグの胎動

その頃、アークス・ネクサスの下層、監視網の死角。

如月刹那は、管理市民として無機質な日々を送っていた。彼の肉体に潜在する「エロティック・コード」は、周囲の管理市民の冷たい理性に触れる度に、微かな熱を帯びていた。

(…この世界は冷たすぎる。全てがデータ。熱がない…)

彼自身、自身の力が何であるかを理解していなかった。しかし、彼の本能は、この抑圧された社会こそが、彼の精の魔力が解放されるべき「究極の戦場」であることを予感していた。

如月刹那と最高監視官アルテミス・コードウェイ。「究極の感情のバグ」と「究極の理性の防御壁」が、必然的な衝突の時を待っていた。そして、その衝突こそが、この冷たい社会の唯一の希望であり、終焉となるのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。