※この作品はR-18です。

【摂理世界大系】シリーズEX(リクエストや余談の保管庫)   作:信頼できる語り手

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読者様からリクエスト頂いた短編を書きました。

わざわざ見に来たファンの方は、どうか☆9(高評価)を!


【すべ抜き】キャラエピソード
3分で分かる、マッチポンプ。


 白夢(シラユメ)蛍(ホタル)は自分の能力に絶対の自信を持っていた。

 

「凄い! 蛍ちゃんの書いた論文が有名な雑誌に載ったんだって! 校長先生が褒めてたよ!」

 

「供物学のセンコー、いつも威張ってる癖に白夢にはビビって当てられないのダセーよな」

 

「もう並みの大人じゃ太刀打ちできないでしょ。先生よりも知識あるもん。なにせ……」

 

 同級生の談笑。その先に続く言葉を予期して、彼女は無意識に唇を噛んだ。

 

「あのシズリさんに次ぐ、天才だから!」 

 

 シズリ・ラウンドノーズ。飛び立とうとする蛍の頭上を遮り、飄々と首席の座を奪った転入生。

 

「実質、首席みたいなもんだよな。シズリは美人で胸デケーけど、学校サボりまくってる不良だし。やっぱり、俺達の代表は蛍だろ」

 

「蛍ちゃん、本当に偉いよね! 孤児院出身の苦学生なのに頑張ってて! もう少し家庭環境が良かったら、1位を獲れてたかも!」

 

「それに比べて、シズリは……何と言うか不気味だよな。この前もテスト問題にミスがあったとかで、わざわざ直談判しに行ってたぞ」

 

「何それ、性格悪ぅ」

 

 黙れ、と蛍は心の中で叫ぶ。

 

 彼らは何も理解していない。シズリと蛍を隔てる絶望的な距離に気付いていれば、そんな妄言は吐けないはずだ。

 

 競争の世界で1点の差がどれだけ大きいか。神経質なまでに自分を研ぎ澄ませているシズリが、単なる怠慢で学校を休むわけがない。考えれば分かるだろうに。

 

 きっと、彼女には他にやる事があるのだ。上っ面だけの箱庭よりも優先すべき、人生を懸けるに値する壮大な目標が。

 

 ……蛍はまだ、それを見付けられていない。だから、こんな場所で足踏みを繰り返している。肌がふやけるような虚飾の栄光に浸かりながら。

 

「馬鹿馬鹿しい……」

 

 結論、それに尽きる。

 

 群れるしか能のない同級生達は、蛍が苦学生という『言い訳』を嫌っている事すら知らないのだ。何も本質を見抜けないまま、その場凌ぎで生きている。

 

 シズリは違う。彼女となら、もっと深く有意義な討論ができる。

 

「てか、シズリはもっと……」

 

「おや、僕の話で盛り上がってたのかな?」

 

 銀髪の少女の登場に、教室が静まり返った。何故か男子制服を好んで着ている彼女には、常人とは一線を画する存在感がある。

 

「蛍君、暇なら僕に付き合ってくれないか?」

 

「もう直ぐ、次の授業が始まります」

 

「ふむ……つまり、暇なんだね。良かった」

 

 シズリが『用は済んだ』とばかりに教室を出ていく。実際、蛍の性格であれば後を追わざるを得ない。既に釣り針は刺さった。

 

 自由ではあるが、無駄はない。それが、シズリ・ラウンドノーズの生き方。

 

「……そういう事になりますね」

 

 蛍は自分なりの皮肉を口にして立ち上がる。それはシズリに置いていかれたくないという、ただの幼稚な意地でしかなかった。

 

 

 

「君、供献者だろう?」

 

 供献者。アバター召喚の指輪を使ってダンジョンを攻略する、人類の守護者。

 

 一般生徒には隠されているが、彼女達の通う学校は供献者の才を持つ子供を支援する目的で創設された教育機関だ。蛍も入学時に説明を受けている。

 

「実は、僕もそうなんだ」

 

 だから、シズリが供献者だった事に驚きはない。不可解なのは……。

 

「何故、それを私に……?」

 

 供献者はトラブルを避ける為に、ダンジョン外での身バレを警戒するのが常識だ。その匿名性が脅かされる事態は、超法規的組織『仮想領域保安局(IDS)』が見過ごさない。

 

「何故って……ただの自慢さ。ダンジョン探索でそれなりの成果を上げたからね。誰かに祝福して貰いたくなった」

 

「……!!」

 

 これだ、とピンと来た。シズリほどの人物が何に時間を使っているか。まず大成しないと言われる女性供献者の身で、本気で上を目指しているのだとしたら。

 

「君、飛び級の話が来てるんだろう? おめでとう。同じ学年の首席と次席、お互いの健闘を讃え合おうじゃないか」

 

 シズリは自販機でブラックコーヒーを買うと、公園のベンチに腰掛けて乾杯するように掲げた。

 

 幼い少女には不釣り合いな仕草だが、不思議と背伸びをしている風には見えない。彼女は既に自然な貫禄と大人びた色気を身に付けていた。同級生達とは住む世界が違う。

 

「僕のスタイルは銃士なんだけど、運良く中衛(ガード)が病欠したユニットがあって、一時的にゲスト参加してたんだよ。駆け出しの今は、とにかく攻略実績が欲しいからね」

 

「……単騎(ソロ)での攻略はしないのですか?」

 

 蛍が思わず口を挟む。ダンジョンに関心のない現代人はいない。彼女も優等生の嗜みとして、年齢制限の範囲内で記録映像を視聴していた。

 

「ふふ、ダンジョンを1人で踏破できるのは、供献者の中でも少数の選ばれた天才だけ。もし同学年でそんな事ができる超人がいたら、僕は素直に負けを認めるね」

 

 まあ、いないだろうけど、とシズリは肩を竦める。雲の上の存在が発した自分の限界を定める言葉に、蛍の感情が大きく揺れた。

 

「選ばれた、天才……」

 

 そう言えば、座学の首位は譲らないシズリだが、こと運動競技に関しては蛍の方が好成績を納めていた。

 

 だとすれば、ダンジョン探索でなら……。

 

「ん、どうしたんだい? 君が笑うなんて珍しいね。やっぱりダンジョンに興味があるのかな?」

 

「いえ……はい、そうですね」

 

 蛍は口元を押さえる。

 

「とても、興味があります」

 

 

 

 風の噂で聴いていた。女性供献者の初探索には多くの視聴者が集まる。

 

 女性アバターがモンスターに嬲られ、泣きながら命乞いをする無様な姿は、悪趣味な層に高い需要があった。

 

「天候は晴れ。湿度は少し高め。メインモンスター、烟波種(イェッド)。癖の少ないダンジョンですね。物足りない気もしますが……最初はこんなものでしょう」

 

 蛍の幼い魂を反映した小柄な色身(アバター)──『明亜(メイア)』。艶のある黒髪と自信に溢れた顔立ちが、凛とした印象を与える。

 

 さぞ大勢の嗜虐趣味のロリコン達が、彼女の敗北に期待している事だろう。だが、構わない。実力で黙らせてやれば良いのだ。

 

「視聴者が多ければギフトツリーが派生して、新衣装も手に入れやすくなりますし」

 

 明亜の初期衣装はサラリーマンが仕事で着るような飾り気のない黒スーツである。

 

 まるで『無個性な凡人』として終わる彼女の未来を示唆しているようで、あまり好きではなかった。

 

「私が有象無象じゃない事を証明してみせます」

 

 周囲を警戒しながら進んでいく。液状のモンスターが頻出するこのダンジョンでは、建物内はむしろ避けた方が良い。隙間から次々に侵入してきて、閉所で囲まれる危険がある。

 

 とにかく、広い場所へ。蛍はアバターの操作を意識に馴染ませながら、予習した内容を思い出していた。

 

「……っ、敵……! 『懐剣』……!」

 

 不自然な赤い水溜まりを視認した瞬間、指輪から供物を捧げる。明亜(アバター)の手に短剣が出現した。

 

「ああ……っ!」

 

 液状の体を広げて体当たりしてくる烟波種を躱し、擦れ違いながら胴体を切断する。2度、3度と繰り返すと、モンスターは形を失い、マナが指輪に吸い込まれた。

 

 弱い。この程度なら、何体来ても勝てる。拍子抜けだ。仲間の手を借りる必要は感じない。その後に出現した同型のモンスターも、明亜は全て一方的に撃破した。

 

「楽勝、ですね」

 

 そう思わざるを得ない。自分はシズリの言う選ばれた側の人間だったのだ。世界ランカーにだって直ぐになれる。明亜は剣を振るいながら、充実感を覚えていた。

 

 

 

「ぁ、ぁぁ……!」

 

 明亜は自身の濡れた体を庇うように抱きながら、洋館の廊下をよろよろと歩く。

 

 綺麗な黒髪は様々な色の液体で汚され、スーツは無残に引き裂かれている。凌辱されたかの如き風体の彼女は、ひたすらに敗走していた。

 

「や、やめてぇ……」

 

 烟波種の体が足に絡み付き、うつ伏せに転倒させられると、恥も外聞もなく泣きじゃくる。

 

「やめて、ください……! もう、痛い事しないでぇ……! おねっ、お願い……!」

 

 麻痺毒でも打たれたのか、明亜の両足は思い通りに動かない。力を誇示し過ぎた彼女はモンスター達から最優先で狙われてしまっていた。

 

 仲間を犠牲にしながら、建物の近くに誘き寄せる。多数で取り囲み、1体1の戦闘に集中できない状況を作る。徹底的に甚振り、疲弊させ、確実に仕留められるまで体力を奪う。

 

 強者は対策されるのだ。殺し合いの場に立った事のない彼女は、そんな当たり前の事を知らなかった。

 

「やぁ……やだぁ……!」

 

 口、耳、膣。あらゆる穴に液体が侵入しようとする。

 

 明亜は必死に拒んだ。内側から体が破裂して死ぬ光景を想像し、恐怖で涙が溢れる。

 

 しかし、非力な女性アバターの抵抗には限界があった。ついに彼女の動きが止まり、無防備な姿を晒してしまう。

 

「ぉ゛……!」

 

 死ぬ。液体に首と四肢を絞められた明亜の瞳から、光が消えかける。

 

「……っ! 『懐、剣』……!」

 

 意識を失う直前、明亜の体は無意識に動いていた。彼女を突き動かしたのは、生存本能だったのかもしれない。はたまた、怒りか誇りか。

 

 何にせよ、それは優等生として生きてきた白夢蛍が初めて見せる、思考を捨てた裸の衝動だった。その結果は迅速に、明確に現れる。

 

「ぁ……」

 

 空振り。蛍は選ばれた人間ではなかった。

 

 力が抜ける。視界がぼやけ、意識が遠退く。苦しい、苦しい、苦しい。……悔しい。

 

 そして、場違いな明るい声が響いた。

 

「ああ、やっぱり。……良いね、君」

 

 

 

 銀髪の女騎士が拳銃を抜く。数発の弾丸が明亜を避け、モンスターだけを襲った。

 

「実のところ、候補は何人かいたんだよ。前衛(レイド)は現在の実力じゃなくて、伸び代で選びたかった」

 

 烟波種が騎士に殺到する。閉所での多対1。まるで手本を見せるように、彼女は華麗に舞った。ただの1体も、その身を濡らす事はできない。

 

「凄い……」

 

 明亜は見惚れてしまった。彼女は戦場を支配している。野生の流儀に呑まれず、理性と思考でダンジョンと向き合っているのだ。

 

「同学年でダンジョンを単騎攻略できる人間はいない。そう言ったね。でも、ごめん。僕だけは例外なんだよ。『中身』が特殊なんだ」

 

 銃声が止む。

 

「さあ、ここからは有料サービスだ。君も供献者なら、対価を捧げて交渉する事だね」

 

「お、お願いします。私を助けてくださ……」

 

 土下座をしようとした明亜の顎が、ロングブーツに蹴り上げられた。

 

「痛っ……!」

 

「ハズレ。自分から価値を落とすような真似をしちゃ駄目だよ。明亜君、僕はね」

 

 2人の視線が合った。

 

「──『折れない剣』が欲しい。だから、君に目を付けたんだ。この氷頭(ヒズ)の名を世界ランキング1位に輝かせる為に」

 

「それは、ダンジョンに対する恐怖よりも重い目標なのですか……?」

 

「重いよ。命よりも重い」

 

 即答。ただし、適当に答えたわけではない事は、氷頭の瞳を見れば分かった。

 

 ダンジョンは難易度に関わらず、殺意の塊。立ち向かうには強固な信念が必要で、きっと氷頭も何かを抱えているのだろう。

 

「……私にはどうしても敵わない相手がいます。とりあえず、その人に実力を認めさせる事が今の目標です」

 

 声に出して宣言し、明亜は立ち上がる。

 

「あ、そっちは気付いてないんだ。露骨に匂わせたのに……意外と鈍い? 頭が働いてないんだろうけど、視野の狭さは今後の課題だなぁ」

 

「……何か?」

 

「いや、別に」

 

 こほんと咳払いして、氷頭は銃を握り直す。

 

「君を解放してあげよう、明亜君。僕が中衛(ガード)としてカバーするから、好きに暴れてくれ」

 

 モンスターが再び集まってくる。明亜は顎を引いて構えた。

 

「常識なんか気にしなくて良い。これから君が従うべきは僕の指示だけだ。返事は?」

 

 

 

「氷頭様、お時間でございます」

 

 黒髪の女執事が主に声をかける。明亜の着用していたスーツは裾が割れ、燕尾服(テイルコート)に変化していた。

 

「ああ、探索を再開しようか。ふふ、そう言えば、このダンジョンは明亜が初めて潜った場所に似てないかい?」

 

「……さて、どうでしょうね」

 

 澄ました顔で惚ける明亜に、氷頭は苦笑する。

 

「雷雅(ライガ)というアバターが、私達より先を探索しているようです」

 

「直ぐに抜いてやるさ。僕達──『シヴァルリク・オース』がね。そうだろう?」

 

「はい、勿論でございます」

 

 何1つ、異論はなかった。




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【摂理世界大系】シリーズで早く更新して欲しいのは?(目次ページに作品リンクあり)

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