※この作品はR-18です。

dark chain   作:SVX

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マリアxアン子と龍麻x葵です。



dark chain VIII

 陽が、不承不承闇に陣地を明け渡す時刻。

 新聞部部室に篭もり、うつろう夕陽に目もくれず、ひたすら机に向かっている少女がいる。

眼鏡と、意志の強そうな眉が知的な印象を与える彼女の名前は遠野杏子といった。

ただし彼女を遠野、あるいは杏子と呼ぶ人間はほとんどおらず、

知り合いのみならず真神學園の生徒のほとんどは彼女の名前をもじってアン子と呼んでいた。

 アン子はこの学校にただ一人の、新聞部部員である。

どうして一人なのか、最初からそうだったのか、今では覚えている人間はいない。

しかし、アン子と新聞部がイコールになってから、真神新聞は一号として滞ったことはなく、

学校新聞の癖に金を取るというあくどいスタイルにも関わらず、

毎号売り切れの記録を更新し続けていた。

そしてアン子は次回も記録更新を続けるべく、今日も仕入れたネタを整理し、

原稿を書き、レイアウトまでするという獅子奮迅の働きをしていたのだった。

「あーあ、やっと終わった……久しぶりに日の出てるうちに帰れるわね」

 いっぱしの企業人のような台詞を呟いたアン子は、若いのに凝り気味の肩を叩くと、帰り支度を始めた。

 書き終えた原稿を鞄に詰め、戸締まりを確認して廊下に出る。

 もう残っている生徒もほとんどいない校舎は不気味なまでに静まりかえっていたが、

新聞の原稿に目途が立ったアン子はどこ吹く風で軽やかに歩きだした。

 窓ガラスから射しこむ色は濃いオレンジで、もう少しすれば歩くのもおぼつかなくなるだろう。

もっとも、ほぼ毎日これよりも遅い時間に帰っているアン子は、

目をつぶっても校舎を出られるくらいには道筋に慣れていた。

だからむやみに駆け足になったりはせず、確かな足取りで廊下を進む。

 新聞部の部室は校舎の端にあり、下駄箱は反対側の端にある。

階段は二箇所にあるから、先に一階まで降りてから廊下を歩くか、

廊下を歩いてから階段を下りるか、二通りの行き方があるが、

アン子はいつも廊下を歩いてから階段を下りていた。

理由は特にない――強いて言えば、三年の教室の前を通った方が慣れている、と言った程度のものだ。

今日も何か予感があったということもなく、単に習性として三階の廊下を通っただけだった。

 自分のクラスを過ぎ、アン子は三年C組にさしかかる。

正確にはB組とC組の間、C組の後ろの扉のところで、ふと足が止まった。

「……?」

 持ち主の意思に反した足を、アン子は信用している。

取材中危ないと思ったらさっさと逃げだしてくれる快速を持っているし、

一日二十キロ近く歩いても次の日に筋肉痛を残さない孝行者でもある。

そして何より、身体の他の部分と連携して、アン子がまだ感づいていない特ダネを察知すると

こうやって警告してくれる、まさにジャーナリストになるために生まれてきたような足だからだ。

 何かが起こっている、という足の忠告を聞きいれ、アン子は気配を殺す。

息遣いも抑え、どこでなにが行われているのか、五感を総動員して探った。

まずはC組の扉の窓から、内部をうかがう。

 予感に反して、教室内には誰も居なかった。

覗いた程度では良く見えず、思いきって窓の正面から見てみるが、

そこには単なる机と椅子が、薄暗い影の中で息を潜めているだけだった。

呼吸を止め、眼を細めて左右、見える範囲を探ってみても、怪しいところは何もない。

 それでも、期待した結果が一度で得られることの方が珍しい、

と年齢に似合わぬ経験の豊富さで熟知しているアン子は、ため息すらつかず、

足音を殺してC組の前扉へと向かった。

 前扉はうっすらと開いていて、容易に中が覗けそうだ。

教室から見えないように半身を隠したアン子は、慎重に隙間から覗きこんだ。

 茜射す教室の端で、二つの人影が重なっている。

だが、それは映画の終わりに出てくるようなシルエットではなかった。

「……ッ!」

 肝の太さは自他共に認めるアン子だが、そのシルエットが演じるものの意味に気づいた時は、

思わず叫んでしまいそうになった。

 二つの影は、一方が一方の腰の辺り――股間に顔を埋めていた。

そして顔を埋めている方は女で、埋められている方は男だった。

それはアン子が初めて目にする、男女の営みだった。

 頭の中は様々な興奮がまだ沸騰して泡がぼこぼこ湧いていたが、

眼はいち早く理性を回復し、拾える情報を貪欲に収拾し始める。

すぐに思考も最低限の冷却がなされ、アン子は目の前の光景を分析した。

 男の方は制服が黒く、顔の部分も影になっているので誰かは判然としない。

女の方も大部分が暗がりにあったが、髪型と体型は確認できた。

 ジャーナリスト志望のアン子は、一度見た人物を忘れないという訓練は日々怠っていない。

ましてシルエットの女性は真神に通っている者なら、アン子ならずとも見間違えようのない人物だった。

「嘘でしょ……!」

 人影の正体を知った瞬間、今度こそアン子は呟いてしまい、慌てて口を塞いだ。

塞いでから、今の独り言が彼らに聞こえてしまわなかったかそっと様子をうかがう。

 幸いなことに──というよりも、彼らは最初から教室の外になど関心を払っていないようだった。

数メートル離れて見ていても熱気が伝わってくるくらい、二人は情動をぶつけあっている。

その一心不乱な様が、ましてそんなことをしていること自体が、

アン子の知っているその人物とはあまりにもイメージが異なるので、

アン子はもう一度、人違いではないか目を凝らして観察したが、やはり彼女は、

C組の委員長にして生徒会長の、美里葵その人だった。

 女性が判れば、男性も予想がつく。

アン子の知る限り葵の周りに男性の影はほとんどなく、親しいとなればC組に数人いる程度だ。

その中で眼前の影と一致する体型は二人いるが、そのうち一人は天地がひっくり返っても

葵とこんな関係になる可能性はなかった。

 そして残る一人の方は、もっかのところそういった気配はなかったが、可能性としては充分にありえる。

何しろ彼は、高校三年という奇妙な時期に転校してきて、葵も含めて曲者揃いのC組にあっという間に溶けこみ、それどころか曲者たちのリーダー格に収まっているのだ。

アン子も話したことがあるが、不快感を抱いたことはないその男の名前は、緋勇龍麻といった。

 驚愕の結論を導きだしたアン子は、内心の動揺を抑えて再び観察に戻った。

 目を凝らして眺めてみると、やはり男女は緋勇龍麻と美里葵に相違なく、

思いがけぬ大スクープにアン子の心臓はかつてないほど飛び跳ねていた。

 これを記事にすれば生徒会長の大スキャンダルとして真神新聞の号外を出せるくらいのネタだ。

だが、いくら杏子でも、彼らを脅すつもりはなかった。

こんな写真で脅して唾棄すべき三流以下のゴシップ屋となってしまうのは、

真実を追究するジャーナリストを目指すアン子にとって自尊心が許さない。

けれども、神聖な学舎でこんな爛れた行為が許されるはずもなく、

「お金はさすがにマズいでしょうけど……あたしのために働いて貰うくらいはしてもらわないとね」

 龍麻は雑用兼ボディガードとしては申し分ないし、葵も真神での権力は絶大で、何かと便利だろう。

 アン子の正義の天秤は、あることはあるのだけれども、まだ一ミリグラムの誤差もないというわけでもなく、

特に自分自身の利益を秤に乗せてしまうと、針先は割とふらふらしてしまうのだった。

 とにかく、部員を二人増やすにせよ懐を季節外れの温かさにするにせよ、確たる証拠が必要だ。

アン子は愛用の使い捨てカメラを懐から取りだし、いつでもシャッターが押せるよう構えながら

二人が決定的瞬間を見せるまで待つことにした。

「それにしても……見せつけてくれるわね、まったく」

 我知らず唇を舐めまわし、アン子は囁いた。

初めて目にする男女の、それも同級生同士の営みは、眼鏡のレンズなどたやすく貫通する生々しさで眼球を虜にする。

視力があまり良くないのを呪ってしまいつつ、アン子は目を最大限見開き、

さらに可能な限り顔を扉の隙間に近づけて教室内を覗きこんだ。

 龍麻が机の上に座り、その足の間に葵が跪いている。

葵は頭を龍麻の股間に押しつけるようにしていて、何をしているのかはすぐに判った。

「フェラチオ……だなんて、美里ちゃんも大胆ね」

 虫も殺さないような顔して、と頭の中での独り言に余計な一言をつけ加え、アン子はさらに仔細に観察した。

 左手で龍麻の腰を掴み、顔を下に向けたまま、葵は動かない。

アン子が知っているフェラチオとは様子が異なるが、ペニスを奥まで咥え、

奉仕しているのは間違いないだろう。

葵の頭には龍麻の手が添えられ、時折褒めるように撫でているのが、かえっていやらしさを感じさせた。

 そして龍麻の右足は、葵の股間へと消えていた。

どこを触っているのかは一目瞭然で、葵も身体をよじったりしているが、嫌がっているわけではないのだろう。

「足で触るなんて……」

 声には出さず呟いたアン子は、図らずも自分の股間を連想した。

スカートに触れ、一度は引っこめた右手を、ひどく慎重な手つきで潜らせるのにはそれなりに葛藤もあったが、それを振り切らせたのは学園随一の優等生でもしているのだ、という事実だった。

 強い刺激を与えないよう慎重に、おそるおそる触れる。

「――ッ!」

 それなのに、驚くほど熱くなっていた下着は触れただけでひどく大きな水音を立てて、

アン子は危うく声をあげてしまうところだった。

すんでのところで自制心を発揮し、もうほとんど出かかっていた喘ぎを無理やり押し戻す。

けれども危険を招いた原因である指先を、股間から離そうとはしなかった。

それどころか中指に伝わる水気に顔をしかめつつも、湿り気がどこまで広がっているか、

確かめるようにそろそろと指を動かす。

 不快感と、それに倍する気持ちよさが、足の付け根のあたりを侵食していく。

他人の情事を覗き見ただけでこんなにも興奮するのかと驚きつつ、

こなれた動きでスリットを探り、最も気持ち良くなれる場所を慰めた。

「……ん……」

 ジャーナリスト未満として、今目の前で起きていることをきちんと目撃しなければという思いが、

アン子に二人の蜜事を真摯に観察させる。

しかしそれはアン子の身体にも劣情を蓄積させていく毒のようなもので、

徐々にアン子は男女の営みに心を奪われ、自慰に夢中になっていった。

「んんっ、んふぅっ……」

 教室の中から、小さな息漏れの声が聞こえてくる。

規則正しくはなく、むしろ無秩序に発せられる吐息は、葵の舌遣いまで想起させて、

アン子の指先は知らず同じ軌跡を辿った。

指の腹で微弱になぞらせていたのを、スリットに沿って押すように力をこめる。

官能は指先に的確に応え、アン子は徐々に全身に火照りを感じていた。

 龍麻たちがこの程度では終わるまい、というのは、予測なのか願望なのか、

アン子には判然としなかったが、二人は考えたとおり、さらに性行為を続ける。

 龍麻が何事か囁いたのか、葵が立ちあがった。

何と言ったのかは聞き取れなかったが、葵は自分から動いて龍麻とくちづけを交わし、

龍麻は当然のように葵の腰を抱いた。

龍麻の手つきはここからでも判るくらいにいやらしかったのに、葵は逃れようともせず、

龍麻が尻を触りだし、さらにはスカートの内側に手を入りこませてもキスを止めようとはしなかった。

 長く、しかし一秒たりとも目を離せない光景は、まだ続く。

アン子が見るところ、葵の方が積極的だったキスがようやく終わり、龍麻と葵は束の間顔を離した。

そこでまた龍麻が何事か言ったらしく、葵の動きが止まる。

一方で龍麻はスカートの中に入れている手とは反対の手を葵の背中に回し、

中央辺りを探るような動きをしていたが、そこで一旦止まると、今度は両手でセーラー服をたくしあげた。

「……!」

 教室内でフェラチオをしていたのだから、今更驚くことではないのかもしれない。

けれども、性行為のために素肌を露出させるというのは、やはりアン子には衝撃だった。

 全部は脱がせず、セーラー服を胸の上までたくし上げさせた龍麻は、今度はブラジャーに手をかける。

もうホックは外されていたので簡単に脱げたブラも同様に胸の上にずらし、無遠慮に乳房を撫でまわした。

 葵は乳房への愛撫は止めさせないまま、中途半端に胸を隠している。

薄暗いただ中に浮かぶシルエットはギリシアの彫刻めいた美しさで、

同性にもかかわらずアン子は魅入られていた。

同時にその美しさを冒涜する龍麻に義憤めいた怒りも抱いたが、葵はやがて跪き、さらに自らその美を汚した。

 再び龍麻の股間に肢体を投げだした葵だが、今度はそれよりも位置が高い。

龍麻の股間――性器のある場所に葵が触れさせたのは、頭ではなく胸だった。

 パイズリ、という下品な行為の名前を、アン子は一応知っていた。

この世紀末の魔都東京には、望まなくても過剰なまでの情報が、

時として濁流となって人を呑みこむまでにあふれているのだ。

その情報を生みだす立場にならんと志すアン子は、溺れないために日々収集と分析に力を注いでいたので、いわゆる「耳年増」的にそれらの事柄を知っていた。

もちろん、名前を知ったからといって、アン子はいずれ恋人ができたときにも

そんな行為をするつもりは毛頭なかったし、知識自体引き出しのかなり奥の方に放りこんでしまっていた。

 けれども、百聞は一見にしかずということわざがあるように、

見てしまえばどれほど奥の知識でも呼び覚まされる。

まして実演しているのが知人達という生々しさは、

情報の整理に長けたアン子ですら呆けさせてしまうほどだった。

 自らの乳房に手を添えた葵は、男性器への奉仕を始める。

あの胸の間に龍麻の勃起があり、それを葵は両側から圧迫しているのだ。

やはり暗がりになっていて葵の素肌をはっきりと見ることはできなかったが、

手が添えられている大きな膨らみは、アン子にもあるそれを自然と意識させた。

「ん……」

 制服の上からなぞった手を、アン子はすぐに服の内側に忍ばせる。

ブラの存在がもどかしく、自分が思ったよりもずっと興奮しているのをアン子は知った。

下腹をまさぐる動きをやや大胆なものにし、怠惰な情動に身を任せる。

ここでこんなことをしていても、何も建設的な方向には進まない。

しかし、そうと判っていても、なじみのある淫楽を手放す気にはなれなかった。

龍麻と葵がどこまでするのか見届ける必要がある、と理性を説き伏せ、

数センチの隙間の向こうで繰りひろげられる痴態を凝視した。

 眼球は指令に応えようと最大限にズームを行うが、どうしても鮮明には見えない。

初めて視力の悪さをアン子が呪った時、突然、肩に手が置かれた。

「──ッ!!」

 驚き、同時に叫んだはずなのに、声は出なかった。

その一瞬前に首に小さな痛みを感じ、急速に意識が薄れていったのだ。

何が生じたのか分からないまま、アン子は額を扉にぶつけ、そのまま気を失った。

 

 目覚めたアン子が見たものは、教室の天井だった。

はっきり見えるから眼鏡はかけたままのようだが、

唐突に変わった風景に混乱しつつ、頭を上げようとする。

 しかし、頭が、というより全身が、ひどくだるくて力が入らなかった。

一体何が起こったのか、ますます混乱する思考を、アン子は必死にまとめようとする。

すると頭上から艶のある女性の声と、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。

「また教室でしていたのね。少し不用意ではないかしら?」

「マリア先生も最初は俺たちのを覗いたんでしたよね」

「アレは覗いたのではなくて見せつけたのでしょう?

アナタも気の毒ね、美里サン。こんな男に捕まってしまって」

 女の声は足の方から、男の方は頭の方から聞こえてくる。

二人の会話と、そこに含まれた固有名詞が急速にアン子の記憶を収束させ、像を結んだ。

「ア……アンタ達、どういうことよ、説明しなさいよッ!」

 怒鳴りつけてやったつもりだったが、声はひどく弱々しかった。

それでも二人には届いたらしく、男の方が顔を覗きこんできた。

「あ、気づいたな。な、大丈夫だったろ?」

 会話の後半は別人に語りかけているようで、逆さまに映った顔は一旦離れる。

替わってアン子の視界に、眩しいほどの金髪と、それに照らされでもしたかのような白い肌の女性が映った。

「ゆっくり深呼吸しなさい……あまり興奮しない方がいいわ。

命に別状はないけれど、二、三時間は動けないはずよ」

 授業の時とは違う優しい声に、アン子は驚き、深呼吸も忘れてその女性を見た。

 この場所にいるのはいいけれど、この状況にいてはいけない女性。

龍麻たちの担任で、アン子たちのクラスの英語の授業を受け持っている教師、

マリア・アルカードがそこにいた。

「せ、先生……」

 情報は正しい判断を下すためにあるのに、新たな情報が加わって余計に混乱することがある。

こんな時、アン子は眼鏡を外して大きく頭を振ることで強引に整理するのだが、

今は頭もまともに動かせず、混乱する頭の中は容易に整理できそうになかった。

 アン子の、情報収集のための有力な装置である目には、ずっとマリアが微笑んでいる。

アン子が客観的に認めるのにやぶさかでないほど美しいマリアだが、

今はいつも授業で見るときよりも、単にきれいというだけでない、

凄みのようなものがあって数段美しく見えた。

 眼鏡がずれてしまったのか、ややピントの合わない視界の大部分に金髪を映しながら、

アン子はそんなことを考える。

眼鏡をかけ直したいが、手足はまるで動かせない。

まさか龍麻やマリアに頼むわけにもいかず、思考は混乱しっぱなしで、苛立ちが募ってくる。

この場でその苛立ちを思いきりぶつけられる相手を素早く判断し、アン子は再び叫んだ。

「さっさと事情を教えなさいよッ。かよわい乙女をかどわかすなんて、何考えてるのよッ」

「かよわい乙女って誰だよ」

「緋勇君」

 龍麻をたしなめる葵の口調に、アン子の頬はかっと熱くなる。

被害者だと思っていた葵ですら実は演者であり、

自分一人が観客であり、部外者であると直感したのだった。

 その直感を裏づける、まるで緊迫感のない龍麻の声がアン子の耳を嬲る。

「説明してもいいけど、こういう状況って映画とかであるだろ?

どうせ死ぬんだから冥土の土産に教えてやろうか、って」

 アン子の今の位置からでは龍麻の顔が良く見えない。

本気で言っているわけではないにしても、覗き見をしていた杏子に対して

いい印象はもっていないのは間違いなさそうだ。

圧倒的に不利な状況ではあったが、このまま命乞いをするなどプライドが許さないアン子は、

せめて一矢報いようと反撃を試みた。

「別に訊かなくたってわかるわよ。アンタが美里ちゃんとマリア先生をたぶらかしたんでしょ」

「あー、大体当たってるな」

 悪びれるでもなく認めた龍麻に、アン子は二の句が継げなくなってしまった。

 三年次の四月からこの真神學園にやってきた、やや季節外れな感のある転校生は、

その出自とは関係なく、瞬く間に校内の人気者になった。

男女問わず、どころか真神の聖女とまで呼ばれる美里葵とも、

彼女を知る者は皆一様に驚くほど親しくなり、

人物の判断基準が同級生より数段厳しいアン子でさえ、

龍麻に関しては悪くない評価を下していた。

それが化けの皮が剥がれてみれば、生徒会長と女教師を手籠めにしているという、

俗悪な小説でも滅多にお目にはかかれない悪党だったとは。

「でも無理やりにはしてないぜ。別に脅迫してるわけでもないし」

「そんなの判ったモンじゃないわよ……!」

 とっさに反発しつつも、アン子は龍麻の言うとおりなのだろうという気がしていた。

覗き見していた限りでは、葵の方が龍麻に尽しているようだったし、

マリアにしても態度に嫌悪は見られない。

教え子二人が性行為をしていて、その場に出くわした教師がいるにも関わらず、

教室内にそういった負の空気は流れておらず、

ともすれば騒ぎ立てている自分の方が悪いのではないかという錯覚さえアン子は一瞬抱いたが、

もちろんそんなはずはない。

龍麻たちの方こそ非常識であり、少なくともこの場においては自分の方が正しいのだというアン子の理性は全く正しいものだった。

 けれども、その正しさは何の役にも立たない。

アン子は今、教卓に供物のように寝かされたまま身動きも取れず、

最大の武器であるカメラすら構えることができないのだ。

命の次に大事なカメラの所在と、それを使って身近にあったこんなゴシップを撮れないふがいなさに、歯ぎしりせんばかりに自分に腹が立つアン子だった。

「まあ、口でどれだけ言ったって信用しないよな、アン子は」

「当ッたり前でしょッ。あたしはこの目で見たものか写真しか信じないんだからッ」

 一秒でも時間稼ぎをすれば、誰か通りかかってこの異常を発見してくれるかもしれない。

とにかく今自由なのは口だけなので、アン子はそれを最大限活用するしかなかった。

「ねえ……龍麻。遠野サンのことなのだけれど」

 マリアの口調が変わったのに、アン子は気づいた。

授業の時とは違う、蜘蛛の糸のような、耳朶にまとわりついて離れない熱を帯びた声。

自分に向けられた声色ではないのに背筋がぞくりとしてしまい、アン子は必死に自制する。

 それを知ってか知らずか、マリアの白い手が伸び、アン子の頬に触れた。

「いいですよ、マリア先生のお好きに」

 会話が飛んでいる――何か聞き落としてしまったのだろうか?

一瞬とはいえ頬に意識を逸らしてしまったことをアン子は悔やんだ。

無駄を承知で訊くべきか、という逡巡は、しかし、すぐに霧消した。

「フフ……遠野サン、アナタに教えてあげる……女の悦びを」

 落ちかかるマリアの金髪に、アン子は危険を覚えた。

薄闇に浮かぶ凄艶な笑顔に、彼女は本当は教師ではなく、夜に生きる存在ではないのかと。

何の根拠もない、他人から聞かされたなら妄想だと一刀両断するに違いない想像を、

しかしアン子は否定できなかった。

「せ……先生ッ、あたしそういうのは」

「大丈夫よ……怖がることはないわ。女同士の方が、ずっと深い快楽を得られるのよ」

 言いながらマリアはアン子の太股をなぞりあげ、スカートをたくしあげていく。

その指先は驚くほど冷たく、アン子の肌に過剰な刺激をもたらした。

「ひゃッ……ん……!」

 火照った肌に感じる刺激は、人の肌にしては冷たすぎるマリアの指の温度に疑問を生じさせることさえ忘れさせる。

思考に割りこむ鋭利な感覚は、それが持続することで少しずつ思考そのものを侵食していくのだ。

アン子はジャーナリスト候補生として理性を保とうと試みるが、

マリアの指先はあまりに優しく、あまりに冷たく、気がつけば下半身に意識を寄せてしまう有様だった。

「フフッ……可愛いわね、張りがあって、柔らかくて……食べてしまいたいくらい」

 それは戯れ言であるはずなのに、奇妙に真剣味を伴っていて、アン子の背筋を冷たい汗が伝う。

マリアの教師にしては少し濃すぎる口紅の隙間に何か白いものが見え、

さらに怯えるアン子だったが、それは一瞬で消えてしまい、

見えたものが真実なのかどうか、確かめる術はなかった。

 そうしているうちにもマリアは大胆に指を操り、アン子の下腹部の感覚を支配してしまう。

アン子は特に感じやすいというわけではなかったが、マリアの手戯は眠っていた性感を引き出すには充分すぎる巧さで、

直前まで自慰をしていたのもあって、今まで経験したことのない快感を味わわされていた。

「や……だ……ッ、先生ッ、やめ、あ、んッ……!」

 膝から上が消えてしまったかのような浮遊感。

触れられているのかどうかさえ判らない微細な愛撫は、アン子の口から言葉を奪った。

やわやわと、けれども決して意識を逸らさせない指は、徐々に疼きの中心を目指している。

そうと判っていても、あるいは判っているからこそ、アン子は叫べなかった。

「随分濡れているわね、遠野サン……アナタ、結構オナニーが好きなのかしら?」

「……ッ!」

 英語教師に赤裸々な指摘をされて、アン子は絶句してしまい、

それによって指摘が事実であると認めてしまっていた。

 初めは原稿が進まないストレス解消で始めたオナニーは、今やほとんどアン子の日課となっている。

減るものではないし誰かに迷惑をかけるわけでもない。

そもそも誰に知られる類のことでもないのだ、と高をくくっていたのが、

いきなりこんな形で白日の下に晒されて、アン子はプライバシーを暴かれる辛さを身をもって知ることとなった。

「別に恥ずかしがることはないのよ。好きでもない男に安売りするよりはよほどいいわ……でも」

 下着の上からスリットをなぞっていたマリアは、ついに手をかけ、脱がせてしまう。

薄紫の下着が隠していた花園は意外に慎ましく、育て方次第では美しい花が咲くかもしれない。

縮れの少ない恥毛を撫でるマリアの微笑は、どんな肥料を与えようかと思案しているようにも見えた。

「これからは寂しくなったらワタシのところにいらっしゃい……可愛がってあげるわ」

 マリアの誘いにアン子は乗らなかった。

同性愛志向がなかったからではなく、抵抗さえ許されずに下着を剥ぎ取られ、

最も恥ずかしい部分をまじまじと見られた上に触られて、いかに頑丈なワイヤーで編まれている精神の糸も、さすがに切れかけていたのだ。

「やッ、あ……! ひゃぅっ、あ、ぅ、んぅんッ……」

 軽やかに踊るマリアの指先に合わせて、アン子の口から、

彼女を知る人間からは想像もつかない悩ましげな声が流れだす。

 微笑を浮かべたままマリアは、咲きはじめた花の初々しさを愛でるように繊手を操り、

アン子を快楽の深みへと連れていった。

「い、嫌ッ、先生止めてッ……!」

 こんな状況で感じるわけがない、と思っていたのが、

マリアの技巧のすさまじさに翻弄されてしまう。

自分でさえ知らなかった感じる場所を次々と引きだされ、アン子の腰は彼女の意思によらずひくついていた。

「ヴァージンのいい匂いね……可愛いわよ、遠野サン」

 スリットの浅いところに指を浸し、なぞりあげる。

そうして蜜をあふれ出させてから、ヴァギナの形を意識させるように指先を操り、

アン子の見えないところでどこまでも辱めていくマリアの顔には、

サディスティックな笑みが貼りついていた。

 葵のように清純な少女を弄るのも愉しいが、遠野杏子のように知的な少女を恥辱で追いつめていくのも、また格別の愉しみがある。

人の世に潜伏して幾百年、セックスなど軽蔑していたマリアだが、

知ってみればなかなかに味わい深いものがあった。

「ふぁッ……あ、ん……先生っ……!」

 普段は記者を気取って取材対象を探し、獲物を見つけるや否や肉食獣のように食いついてくるアン子も、こうなっては形無しだ。

自身、何度も辟易させられたことのあるマリアは、意趣返しのつもりもあって、

アン子を少し苛めてやるつもりだった。

「日本語では、オマンコ、だったかしら……フフ、遠野サン、アナタのオマンコ、

もうびしょびしょになっているわよ。龍麻と葵のセックスを見て、そんなに興奮したのかしら」

「そ、そんなっ……違いますッ、あたしそんなッ」

「激しいものね、龍麻は……当てられてしまうのも仕方がないわ」

 アン子の必死の反論に耳も貸さず、マリアは無防備な秘唇を撫でる。

動きを封じられたアン子の身体にあって、そこだけが愛撫に応え、

別の生き物のようにひくひくと蠢いていた。

 指を濡らした愛蜜を、愛おしげに口に含んだマリアは、今度はその唇をアン子の秘唇に寄せる。

赤く、長く、そして厚い舌を、淫靡に先端だけ動かし、紅くぬめる洞の中に挿しこんでいった。

「ひッ、あ――ッ!!」

 動かぬはずのアン子の肢体が、びくりと跳ねあがる。

その拍子に飛沫いた愛液がマリアの、染み一つない頬を汚したが、

美貌で知られる英語教師はそれを拭おうともせず、新たな刺激を囚われの少女に与えた。

「うッ、ふッ、駄目ェッ……んあッ、ああんッ……!」

 クリトリスを舌腹で強くねぶってやると、身体が雷に打たれたように震える。

マリアはアン子を麻痺させただけで、感覚を増大させたりはしていないのだが、

もとから感じやすいのか、アン子は哀れなほど悶え、快楽に苛まれていた。

 制服の中に手を入れ、乳首をも弄りながら、マリアは容赦なくアン子を責める。

「さあ、イキなさい……何度でも、欲望の導くままに」

「やあ……ッ、ぁ、ん――ッッ!!」

 敏感な淫芽をいいように転がされて、あえなくアン子は絶頂を迎えた。

四肢の動かぬまま、腰だけが何度もうねり、宙を突く。

それはここにいる四人の中で最も場慣れしている龍麻でさえ息を呑むような痴態だった。

 だが、マリアはまだ前菜を食したに過ぎない。

「はぁッ、はぁ……ッ……! ひッ、やッ、やめてッ……!」

 ようやく呼吸が落ちついたアン子に、新たな淫楽が襲いかかる。

続けざまの刺激は苦痛をもたらし、アン子は本心からの悲鳴を放った。

 けれどもその悲鳴は、笑顔を浮かべたマリアが、妖しく唾液に輝く舌を垂らし、

アン子の唇を塞ぐことでかき消えていくのだった。

 

 マリアがアン子を籠絡している間、龍麻もぼんやりしていたわけではない。

友人が教師によって犯されているところを、無言で見守っている葵の身体をまさぐったりしていたが、葵の肌はいつになく熱く、

汗ばんでいたので、そのまま挿入することにした。

 後ろから葵を抱き、勃起したペニスを太股に擦りつける。

愛液はもうそこにまで伝っていて、いきなり挿れても問題はなさそうだった。

「アン子の奴、お前のフェラ見てオナってたんだってよ」

「そ、そんな言い方しないで……」

「でもお前もアン子がクンニされてるの見て濡らしてるんだから、おあいこだよな」

「違うの、私、アン子ちゃんが……!」

 よほど恥ずかしいのか、いつになく激しく反論する葵だが、

龍麻が下着に手を入れ、動かぬ証拠を指先に掬って見せつけてやると、途端に黙ってしまった。

「ほら、挿れてやるからもう少し足開けよ」

 両の太股をペニスで叩きながら命じると、諦めたのか、葵はおずおずと足を開く。

龍麻はさらにアン子が寝かされている教卓に手をつかせ、尻を突きださせると、

スカートを無遠慮にまくりあげ、染みというよりもびしょ濡れになっている下着をずらし、いきなり挿入した。

「ああぁんっ……!」

 フェラチオを中断させられたことでむしろ飢えていたのか、葵はすぐにだらしない喘ぎを発し、尻を揺すった。

相変わらず締まり具合がたまらない淫洞に、龍麻は力強い抽送を行う。

葵の腰を捉え、肉がぶつかるほど激しく突いてやると、葵は身も世もないように髪を振り乱し、牝の悦びに哭いた。

「あンっ、あうぅっ、あぁンッ、あぁ、駄目っ……!」

 直前まで気遣っていたアン子のことさえ眼中にないようで、腹を貫く男根の熱さに酔いしれ、

肢体をいっぱいに反らせて悶える。

 すっかり躾られた媚肉の、快い収縮を愉しみながら、さらなる淫虐を思いついた龍麻は、

やや抽送の速度を緩めると、葵の顔をアン子に近づけさせた。

「ほら、感じてるところをアン子に見せてやれよ」

 何度か絶頂を迎えさせられ、なおマリアに責めたてられているアン子は、意識も朦朧としている。

普段、人の倍は動くのではないかというほど酷使される口も、

今は腹から上ってくる呼気を吐きだすのに必死で、抗議さえできないアン子は、

時々息を詰まらせながら、いっときとして中断しない快楽にほとんど溺れている状態だった。

 そこに、いきなり葵の顔が突きだされる。

真神の生徒の誰に聞いても、間違いなく筆頭に挙げるだろう美人である葵の、快楽に染まった顔。

初めて見る友人の淫らな表情に、アン子は置かれた状況も忘れて魅入った。

「やっ……! 嫌っ、見ないでアン子ちゃん……!」

 さかんに首を振る葵の顔は、左右だけでなく上下にも揺れている。

それが何を意味しているのか、今のアン子には理解できた。

頭上で響く激しい音も、その音が響くたびに葵の顔が苦しげに歪むことも。

「美里……ちゃん……」

 化粧なんてしなくても近隣の学校からも見に来る男がいるくらいの美貌がまだらな朱に染まり、

卵形の滑らかな肌のあちこちには皺が寄っている。

顔だけを見たらどれほど酷い仕打ちを受けているのだろう、と思ってしまうが、

絶え間なく発せられる声はアン子でさえぞくぞくしてしまうほど甘く、

熱い吐息の塊が何度も落ちかかってきた。

 耳を通らず、顔の皮膚から浸透してくる淫らな呼気は、アン子の身体をも熱し、染めていく。

少し曇ってしまった眼鏡の向こうがわで喘いでいる葵と自分を半ば同化させかけて

慌てて頭を振るアン子を、さらにマリアまでもが責めたてた。

「フフ……」

 肩幅程度に開かれた足の間に陣取ったマリアは、匂いたつ淫花の香りをたっぷりと鼻腔に吸い、

スリットに舌を這わせる。

着ているベストと同じ真紅の舌は、的確に女の弱いところを探りあて、

甘美な痺れをアン子に与えた。

「あぅ、先生ッ……! あッ、あんッ、あぁあッ」

 剥かれたクリトリスを舌で包みこむようにねぶられ、たまらず叫ぶ。

自分のものとも思えない蕩けた声にアン子の羞恥は一層高まり、

それがまた快感を、気の遠くなるような快感をもたらした。

 下腹の一点から弾けた熱が、全身に広がっていく。

自分で触れたときとは比較にならないその熱は、しかも立て続けに発生するのだ。

特ダネのためなら何時間でも張り込める忍耐力も、この、

内側から衝きあげる情動に対しては何の役にも立たなかった。

「んッ、あぅッ……あ……ッ、あぁぁッ……!」

 吸いついて離れないマリアの舌に、アン子は翻弄される。

身体が動かせない分、快感は内側を駆け巡り、かろうじて自由になる口から少しでも熱を吐きだすのが精一杯だった。

 しかし、下腹から生じる熱は、吐きだすよりも圧倒的に多い。

マリアの愛撫は乱暴でこそないが、アン子の許容できるそれよりもずっと長く、間断ないのだ。

押しあげられ、一度着地することも叶わず再び連れ去られ、

アン子は奇妙な浮揚感を抱きつつあった。

 一人でするときは、どれだけ激しくても、浮きあがったりはしない。

落ちる感覚はあるのだが、だからといって飛んだような気分には、一度としてならなかった。

それが、マリアに愛撫されてからは、体重がゼロになったかのような気持ちよさが続いている。

このまま、もう少しこの気持ちよさを感じていたい。

いつのまにかそう思いはじめているアン子だった。

 そんなことを思っているアン子の頭上で、葵の動きが止まる。

それを感知する余裕はすでにアン子にはなかったが、その理由はすぐに身をもって知ることとなった。

「アン子ちゃん……」

「……!!」

 葵の唇が触れる。

同性と、逆さまに、そして――初めての。

幾つもの異常な状況が、何重もの衝撃となって触れた唇から全身を苛む。

特ダネを掴んだ瞬間でも、身に危険が及んだ時でさえも早まることのない鼓動が、

恐ろしいほどの早さでアン子の胸を叩いた。

しかも鼓動は頭の中に心臓を持ってきたかのような激しさで鳴り響き、あらゆる思考を蹴散らす。

生まれて初めてと言って良いくらい、アン子は自失していた。

 さらに葵の舌はアン子の唇を舐め、機関銃にも負けない、

アン子の強力な武器である言葉を紡ぐこともできない口の中に割って入ろうとしてくる。

「……ッ!」

 ぞくりとする情動に我に返ったアン子は、反射的に口を閉じ、侵入を防いだが、

葵は手慣れた様子で唇に愛撫を始め、こじ開けるのではなく自然に開かせようとする。

ぬらぬらと動き回る粘質の感覚は顎の筋肉から力を奪っていくようで、

アン子は思い通りに動かぬ頭を懸命に振って逃れようとした。

「ん……ふ……」

 けれども、それは最初から負けが決まっていた戦いだった。

身動きはできず、下半身はマリアに責めたてられ、級友のセックスを間近で見せられて、

理性が保つはずなどなかった。

 葵はそれが同性の唇であることなど知らぬかのように愛おしげに舐める。

これまで喋るが九割、食事が一割で、その他の用途など考えたこともなかったアン子の口だが、

何度もついばまれ、ふやけるほどに舐められ、甘い情動が目覚めつつあった。

「あ……う……」

 くちづけは想像していたより遥かに甘美だった。

雑誌の甘ったるい読者投稿を鼻で笑いながら読み飛ばしていたアン子も、認識を改めざるを得なかった。

もっと触れたい、もっと重ね合わせたい――

こんな異常な状況でも、そんな風に考えてしまう。

それほど葵のキスは情愛にあふれていて、

もしかしたら彼女は本当は自分のことが好きなのではないかと錯覚してしまうアン子だった。

「美里……ちゃん……」

 うつろなまま掠れる声で名を呼ぶと、葵はその柔らかな唇をぴったりと押しあててくる。

そのまま舌を滑りこませてきた葵を、アン子は遂に受けいれた。

「んっ……んッ……!」

 口の中を舐められるのは、もう充分に驚いたはずのアン子に、さらに新たな驚愕をもたらした。

ゆっくりと、けれど確実に中に入ってくる葵の舌は、今まで食べたどんなものとも違う感触だった。

耳の裏側が粟立ってしまうような、口腔以外の場所まで侵食される感覚。

おぞましさと紙一重ではあるけれど、確かにそれは、とろけるような気持ちよさだった。

「は……ふっ……」

 葵の熱く、甘い吐息が流れこんでくる。

あの葵がこんな声を出すのかというほど淫らな、淫らとしか言い表せない呼気が、

口腔に充満し、気道を落ちていった。

「んふぅ……ん……ん……っ、あぁ……」

 葵の舌がもたらす快美感に、アン子もいつしか舌を伸ばす。

触れあった舌同士はまだこんなに気持ち良くなれるのかというほど柔らかく、

すぐにアン子は葵に誘われるまま舌を絡め、唾液を擦りつけあった。

「あ、あぅ、美里ちゃん……」

「アン子ちゃん……」

 名前を呼ばれるだけで、ゾクゾクしてしまう。

女同士なのに、という嫌悪はそこにはなく、アン子は歯の裏側にくすぐったいものを感じながら、

葵の名を呼び、呼ばれて応えた。

唇を触れさせて、あるいは口の中で。

アン子は初めて味わうキスの甘さに、溶けるほど酔いしれた。

 後ろから葵を突く龍麻は、アン子が静かになったのを敏感に嗅ぎとっていた。

いくらアン子といえども、マリアの技巧と葵の魅力には抗いきれなかったようだ。

普段あれだけやかましいアン子が、教卓の上でぐったりとして美女二人に弄ばれているというのは

なかなか劣情をそそる構図で、龍麻は抽送を止め、葵の膣内から屹立を引き抜いた。

「あ……」

 物欲しげな声を発した葵が、アン子とのキスを止めて振り返る。

その仕種に満足した龍麻は、右腕で葵の腰を抱え、左手は葵の右足を持ちあげると、

生々しくくつろげられたままの淫唇に、今度は正面から挿入した。

「あぅっ……!」

 ぬかるみはたやすく肉茎を受けいれ、少し急激すぎたのか、葵は眉をしかめ、強くしがみついてきた。

嗜虐心をそそらずにはおかない表情に、龍麻は乱暴に腰を突きあげた。

「あっ……はぁっ、緋勇君……!」

 こんな体位で犯されてさえ健気に名を呼ぶ葵に、龍麻の血液は股間の一点に凝集する。

啜り泣く葵を壊れてしまえとばかりに、いきり立つ男根を渾身の力で葵の中心に撃ちこんだ。

「ひぅ……ッ、あぁッ、んはぁぁっ!」

 膣奥まで突きこまれ、葵は濁った悲鳴を続けざまに放った。

学舎には全くふさわしくない淫声が、たゆたい、くすぶる。

三年C組の教室内は、異様な淫気に満ちつつあった。

 龍麻が葵を立ったまま犯し、教卓の上に寝かされたアン子はマリアに禁断の扉を開かされようとしている。

性の宴に巻きこまれた友人を初めは気遣っていた葵も、片足を抱えた龍麻に突きあげられ、

ひとりで立っていることさえできずしがみついている有様だった。

「あぁっ、あ、緋勇……君っ、駄目、駄目っ……!」

 しっかり抱きついているくせに、そんな台詞を口走る葵に、龍麻は容赦のない抽送を繰りかえす。

制服もそのままに、片足を抱えあげられ、長い髪を振り乱して悶える優等生の姿は、

どこまでも龍麻の加虐心を加速させた。

「ほら、アン子にもっと聞かせてやれよ、お前のよがり声を」

 繋がったまま一度机の上に葵を座らせた龍麻は、両足を抱えて葵を持ちあげる。

「あんッ……んぅッ、許してっ……!」

 自身の体重で膣のより深くまでペニスを迎えた葵は、もはやアン子のことなど頭の片隅にもない様子で、

龍麻に揺すられるまま口をだらしなく開き、喘ぐばかりだった。

 愛液でどろどろになっている膣内は、乱暴なストロークにも葵に痛みを与えることはなく、

この体位でなければ届かない奥を抉られて、葵は半ば失神しかけている。

そこで龍麻が抽送を緩め、顔を寄せると、葵はほとんど本能的に唇を重ね、舌を交えた。

「んふぅっ……ふっ、はッ、緋勇君……!」

 身体を大きく揺らされ、くちづけがままならなくなっても、舌だけでも絡めようと伸ばす。

びちゃびちゃという品のない音を響かせ、クラス誇りの委員長は数多の体液で床を汚した。

 すらりとした肢体を屈め、白い足のほとんどを剥きだしにして、葵は龍麻にしがみつく。

赤ん坊がするような格好は、均整の取れたプロポーションの葵がすると滑稽にすら見えるが、それは卑猥さと隣り合わせのもので、龍麻に抱っこされた葵は、自身の重みでずぶずぶと挿ってくる肉茎に、

赤ん坊の無垢とは対極の淫悦を貪っていた。

「あぅん……あ、あ、あっ、あ、あぁ――!」

 絶頂はすぐそこまで近づいている。

ほどなく龍麻が与えてくれるであろう最高の幸福を、葵はわずかたりとも逃すまいと、

最後の力を振り絞って龍麻に抱きついた。

 葵を軽々と抱きかかえる龍麻は、全能感に酔いしれながら葵を追いつめていく。

天を向く怒張に女陰を挿し、ぐいと突きあげるのは、まさに神と一体化するかのような恍惚だった。

女を哭かせ、ものにするという根源的な支配欲に、腰はそろそろ爆発しそうだ。

葵を降ろした龍麻は、ふらふらになっている身体を支え、教卓に手をつかせると、再び後背から犯した。

「あふっ……う、あ、んう、ああんっ……!」

 すでに何度か絶頂を迎えている葵は、息もたえだえになっている。

龍麻にもそれほど余裕はなく、葵の、細やかな収縮を始めている膣壁に、

もはや技巧も何もない、ただ力任せに打ちつけるだけの抽送を繰りかえした。

「あぅッ、緋勇君、緋勇君っ、私っ、も、うっ、あぁッ、あぁ――!!」

 教室中に響き渡る声で、葵が果てる。

その快い悲鳴をトリガーとして、龍麻もこらえていた絶頂を解き放った。

狭い膣内に思いきり射精する、牡として最高の至福を存分に味わう。

さらに腰を密着させ、全ての精液を葵の中に注いでから、ゆっくりと龍麻はペニスを引き抜いた。

「うぅッ……あぁ、ん……」

 胎の中に熱い飛沫を注ぎこまれて、葵は最後の痙攣をする。

ぐったりと崩れおちる葵を抱きとめながら、龍麻は隣で行われている、

もうひとつの媚宴を思いだし、そちらに視線をやった。

 アン子にも、終わりの刻が近づいていた。

マリアによって下半身はいうまでもなく、葵にも劣らない大きさと美しさを備えた乳房もさんざんに責められ、しかも級友のセックスをすぐそばで聞かされているのだ。

理性を保っていられるはずもなく、とうに暴力的なまでの快楽に髄まで犯され、何度となく達していた。

「はぁッ……あぅ、んんッ、やぁッ――!」

 金属質の悲鳴が弾け、消える。

気持ち良い、良すぎる快感に、我を忘れて悶えるアン子は、自らの放つ喘ぎで束の間我に返った。

けれどそれは一呼吸するかしないかのうちに、マリアの肉感的な唇で封じられ、

再び絶頂までの数分間、意識が霞んでいく、その繰りかえしだった。

「うぅ、んうぅっ……はぁッ、あぁんッ……」

 ねぶられ尽した舌は、もはやそこにあるのかどうかすらわからないほど感覚が失せている。

マリアの舌に、あるいは唇に触れることでようやく取り戻せる感覚を、アン子は求め続けた。

先ほど交わした葵とのキスとは全く違う、根元から引っ張りだされるような、けれど段違いの快感。

口の中をまさぐる舌と、苦しくなった息を鼻から吸う時に嗅ぐ香水の匂いが、アン子を酩酊させる。

どうせ身体は動かないのだから、身を任せていればいい。

胸や秘唇をたえず触りつづけるマリアの手にも、いつしか反発の気持ちはなく、

敏感なところを違わず触ってくれる繊手を待ち望むようにさえなっていた。

「あぅん……あ、あ、あっ、あ、あぁ――!」

 ひときわ大きくなった葵の声が聞こえてくる。

聞くだけで下腹が熱くなるのはアン子だけではなかったようで、

アン子の耳元に顔を寄せたマリアの囁きは、はっきり興奮しているのが伝わってきた。

「フフ、美里サン、イクみたいね……アナタもイキなさい、遠野サン……!」

 耳筋を素早く舐めあげたマリアは、クリトリスへの責めを激しくする。

求めるよりも遥かに大きな快感が、一気に刺激を受けているところから膨らんできた。

それはあっという間に身体全体へと広がり、もう何度目かもわからない浮揚感となった。

「ッあ、う、せん……せッ、嫌ッ、あたしッ……!」

 アン子は叫んだ――自分の意思によらず。

そして包まれた――途方もない、身体がバラバラになってしまうかというような恍惚に。

赤く濡れたマリアの唇を至近に見たのを最後に、アン子は記憶を失ったのだった。

 

「おはよう、緋勇君」

「ああ、おはよう」

 夜は幾人もの女性を侍らせる龍麻も、朝の早い時間は普通の高校生と変わらない。

校門のところで葵から挨拶を受け、確かに人好きのしそうな笑顔で応じた龍麻は、そのまま二人で教室へと向かった。

 道すがら、龍麻が昨日の顛末を語る。

「昨日、あれからマリア先生、アン子を連れて帰ったんだってよ」

「え……?」

 龍麻の口調は実にさりげなく、はじめは意図を把握しそこねた葵も、

すぐに気づいてみるみる顔を赤くした。

龍麻と異なり眠気を引きずるような生活は送っていない葵には、

ブラックのコーヒーよりも強烈な話題だったようで、その後もしばらく言葉が出てこない。

 龍麻が次に葵の、一滴だけ垂らしたミルクのように、控えめながら好奇心がわずかに滲んだ声を聞いたのは、廊下を歩いて教室を一つ通り過ぎてからだった。

「それで……?」

「さあ、でもマリア先生も結構容赦ないからな、今頃アン子死んでるかもな」

 物騒な冗談に葵はますます顔を赤くする。

 それを横目で見た龍麻はこの時間、空いてる場所はどこかあっただろうかと算段を始めた。

さすがに教室は危険なので、どこか特別教室辺りで――

画家も顔負けの正確さで頭の中で校舎を描いていると、いきなり尻をひどく蹴とばされた。

武術もそれなりに修めている龍麻が、まるで気配を察知できず、ぶざまに吹っとばされて振り返ると、

そこには腰に手を当て仁王立ちしている遠野杏子その人がいた。

「ア、アン子……」

「誰が死んだんですってェ」

 赤い布を見た闘牛もかくや、というほど鼻息を荒くしたアン子は、

龍麻と、彼を助け起こすふりをして背後に隠れた葵ともども、指を突きつけて弾劾した。

「アンタ達、昨日はよくも親友を酷い目に遭わせてくれたわね」

 誰が親友だ、と龍麻は葵に目で問うが、葵から返事はない。

そもそも酷い目に遭わせたのは自分たちではなくてマリアなのだが、

多くの女に手を出し、その全員と上手くやっている百戦錬磨の龍麻でも、

今のアン子を言いくるめられるとは全く思えなかった。

 逃げるにしても葵を置いてはいけず、進退極まった龍麻は、

せめて致命傷は避けようと鞄をたぐり寄せる。

アン子が腰を落とし、右足を軽く引いて構えるのが見えたからだ。

武術を修めている龍麻には、その構えが理にかなっていて、狙いもきちんと定まっているのが良くわかる。

鞄だけで、防げるだろうか――

生唾を飲み下し、龍麻はその瞬間に備えた。

 しかし、走る、蹴るという能力においては真神一かもしれない健脚は、

予想に反して振りかぶられはしなかった。

「今日、マリア先生の家に来なさいって。美里ちゃんもよ」

「――え?」

「いい、伝えたわよッ!」

 闘牛士を仕留められなかったのが不満な牛のように、足を踏みならしてアン子は去っていく。

「……」

 その後ろ姿が見えなくなるまで追っていた龍麻と葵は、

短い伝言の意味を噛みしめると期せずして顔を見合わせ、

アン子を一晩でここまで変えたマリアの手腕に、慄然とする他ないのだった。




読み返すと結構好きな話でした。
まあでもハーレム的には一度に3人までが限界ですね、書く側としても。
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