VIIIから直接続いています。
龍麻と葵は連れだってマリアの居宅を訪れる。
用件は今日の朝、「学校が終わったら家に来るように」
という担任教師からの伝言をアン子から受け取ったためで、龍麻に拒む理由などないし、
葵は龍麻が呼ぶのならどこへでもついていくので、適当に時間を潰し、
マリアが帰宅する頃に合わせて龍麻の第二のアジトともいえる
彼女の家へと向かったのだった。
龍麻の家には寄らなかったので二人とも制服を着ているが、
その点に怪しいところはない。
葵は見るからに礼儀正しいお嬢様という雰囲気が漂っているし、
龍麻も、良くはないが悪くもない、
髪がやや長いところが気になる大人もいるかもしれないが、
色は染めておらず悪そうなところはないし、
話してみればより良い印象を受けるだろう。
実際、二人が並んでいるところを見れば、そう不釣り合いというところもなく、
男は舌打ち混じりに、女は幾らかの敗北感を抱いて
彼らが似合いだと認めることだろう。
だが、彼らが二人きりの時間、どれほどただれた刻を過ごしているか
知る者は少ない。
彼らは男女として必然ともいえる一線も、高校生として慎むべき境界もはるかに越え、
ほとんど欲望の赴くままに肉欲に耽り、快楽を貪っていた。
特に龍麻の方などは葵一人では飽きたらず、友人や年上の女性にまで手を出している。
今から訪れるマリアにしてからが龍麻の担任であり、
訪問の目的も教えを請いにいくなどといった模範的な行動ではなく、
昨日収穫した新たな果実を味わうという、仰天せずにはいられないものだった。
その辺りの事情は葵も知っている。
知っていてなおこの慎ましやかな顔をした少女は
龍麻に同行するのを嫌がりはしなかったし、
道中、龍麻の手をしっかり握ってしきりに話しかける際の
幸福そのものといった表情は、
淫蕩な行いすらも全て受けいれているのだと納得するしかないのだった。
新宿区内にあるマリアの家に二人が着いたのは、夕方とはいえない時間になってからだ。
それまでの時間新宿を歩き回っていた二人は、葵は満足していたし、
龍麻も、これから過ごす何時間かに思いを巡らせながらも、
彼女を満足させるだけの気配りはしていた。
「マリア先生、帰宅なさっているかしら」
「もう戻ってるんじゃないか、今日は先生の方から呼んだんだし」
マリアが自宅に龍麻を招くのは、かなり珍しい。
その前に龍麻が行くと言ってしまうからであるが、
その分だけマリアの気合いがうかがえる。
龍麻の口調からそれを察した葵の手のひらが熱を持ち、
気づいた龍麻はやや意地悪く彼女を見やった。
たったそれだけの仕種で葵は火が点いたように顔を赤らめてしまう。
ただれた関係になってからもうずいぶんと日が経つのに、
まだ初々しさを失っていない葵は、
幾人もの女性と情交を結んでいる龍麻でも一番のお気に入りだ。
それどころか葵の清楚さは男性女性を問わず惹きつけてしまうようで、
彼女とほとんど対極に位置する藤咲亜里沙や、
やはり別の意味で対極に位置するマリア・アルカードなどからも妙に気に入られ、可愛がられている。
見るからに優等生然としているのに、遊んでいる、
と自称する女子高生よりもはるかに淫らな肉の宴に参加して、
嫌がるそぶりも見せず、そのくせ淫乱の性などもなく、
毎回初々しいまでの所作で痴態を振りまくとあれば、
それも当然なのかもしれない。
恥ずかしがってはいながらも手を離そうとはしない葵に、
今日はどんなセックスをしようかと龍麻は妄想する。
幾つかの体位を思い浮かべ、それぞれにおいての腰の動かし方まで考えたところで、
まだマリアの家に入っていないことを思いだし、チャイムを押そうとした。
ボタンに手が触れようとしたまさにその時、
階段の影に隠れていた何者かが、イノシシの如く突進してくる。
その何者かは龍麻からみて、ちょうど葵が居る側から突っこんできたので、
複数の敵を相手どっても問題なく戦える龍麻も気づくのが遅れてしまう。
気配を感じて横を向いた時には、すでに敵はさらに側面に移動しており、
完全な奇襲を龍麻は被った。
「ちょっと遅いじゃないのアンタ達!」
低い、ドスの効いた声を龍麻は遠くに聞く。
声はすぐそこから発せられていたのだが、首に十本の指が食いこんでおり、
極小の時間で意識を断ち切られかけていたのだ。
どこかで葵がうろたえている。
実際は数十センチと離れていない場所にいる彼女を認識できないくらい、
龍麻は追いつめられていた。
このままでは、死ぬ――
東京を守るために日々戦っている龍麻は、
その戦いの中でさえ意識したことのない予兆を感じた。
女と見れば手当たり次第で、守備範囲もほとんど無限大の龍麻ではあるが、
遠野杏子、通称アン子はそのほとんどの範疇に入らない、数少ない例外だ。
スタイルは悪くない――第一印象がまるで違うところに見る者を運ぶので、
なかなか気づく者は少ないが、アン子の肉体は実に見事なプロポーションをしている。
顔もまあ、悪くはない――頭の回転が速いからか、
常に怒っているか怒る直前かなので、これもほとんど気づかれていないが、
理知的な眉目とすっきりした顔立ちは充分美人の範囲に入っていた。
つまりトータルで見れば全く問題はなく龍麻の審美眼に適うのである。
なのになぜ敬遠しているかというと、なにしろ龍麻は、
アン子に出会い頭の攻撃を喰らうことが非常に多いからだ。
攻撃は構わない――サディスティックな女も嫌いではないし、
そういう女を屈服させるのも愉しい。
しかしアン子の攻撃は今のところ命中率百パーセントで龍麻を襲っており、
それが地味にプライドを傷つけているのと、
なにしろコミュニケーションの最初が尻を蹴られるだの首を絞められるだのでは、好意の持ちようもないのだ。
しかも今回は首という、基本中の基本である急所を狙われ、
防御もできずダメージを受けている。
完全敗北を認めるしかなく、アン子の手首を激しくタップして
ようやく解放された龍麻は、十数秒ほどは喘ぐことしかできなかった。
「別に俺たちを待たなくても、もうマリア先生居るんだろ?
入れてもらえばいいじゃねぇか」
首を絞められたあげくに遅いと言われて龍麻は苛立っている。
そんな苛立ちなど歯牙にもかけず、アン子は両手を腰に当てて睨みを利かせた。
周りの人間からはリーダー格として認められている龍麻だが、
アン子にはそんなものは関係ない。
彼女の人間関係は彼女の役に立つ者かそうでない者かでしか構築されず、
龍麻は後者であるので好意的である理由がどこにもないのだ。
この男たちは尋常ならざる『力』を持ち、東京を守るために戦うなどという、
どこかの伝奇小説にでもなりそうな日々を送っているのに、
同行どころか取材さえさせないなど、言語道断の極みではないか。
ゆえにアン子は龍麻に対して、憎しみに近い感情すら抱いていた。
そのアン子がいま、珍しく弱気を顔に浮かべている。
「だって……一人で入ったら、何されるか判らないじゃない」
「何されるかは判ってるだろ……さてはお前、ビビってるな?」
「なッ、なんであたしがマリア先生を怖がらないといけないのよッ、
うっさいわねッ、いいから行くわよッ!」
アン子にはマリアを怖れる充分な理由があり、それを龍麻と葵はすでに知っている。
つまり強がる必要などないのだが、葵はともかく龍麻に弱みを見せるなど
まっぴら御免であるアン子は、反射的に叫び、同時に呼び鈴を押していた。
しまった、勢いでやってしまった、と思うもすでに遅し、
玄関は明らかに訪問者を待っていたタイミングで開き、住人が姿を現した。
「フフ……来たわね。さあ、入りなさい」
現れたマリアの姿に、三人は息を呑んだ。
おそらくシャワーを浴びたのだろう。
白いバスローブを着たマリアは、妖艶などと呼びうる範囲を遥かに越え、
淫婦とすら見紛うほどだった。
真神學園の神聖な学舎で毎日一度は必ず話題にのぼる、
アイドルや女優を凌駕するプロポーションはガウンに隠されているが、
洗ったばかりのプラチナブロンドは眩しいばかりに輝いて三人を眩惑した。
彼女の家に何度も来ている龍麻と葵は多少は慣れているが、
まだ今日で二回目のアン子は英語教師の変貌ぶりにすっかり毒気を抜かれてしまい、
龍麻に腰と、ついでに尻を押されて家の中へ入れられても気づかないほどだ。
そしてそこからはマリアがエスコートの役目を引き継ぎ、
アン子の手を形容しがたい艶めかしさで取ると居間へと案内した。
そのまま寝室に連れこまれてしまいかねないほどアン子は茫然自失していたが、
意外にもマリアは居間でアン子の手を離し、代わりに葵の手を握った。
「それじゃ、ワタシ達は着替えてくるわね」
マリアは葵を伴って寝室へと消える。
取り残された二人はそれを見るともなしに見送り、同時に視線を戻した。
とにかく自分の知らないことはなんでも知っておかないと気が済まない性格のアン子は、
図らずも龍麻と目を合わせてしまったことに怒りを覚えつつも、
眉をひそめる仕種だけで済ませて説明を要求した。
「趣味なんだよ、マリア先生の。つきあう……というか犠牲にな」
苦笑いした龍麻は、勝手知ったる風に冷蔵庫を開け、
ミネラル水を一口飲んでから続ける。
「お前もすぐに誘われるよ。ま、頑張ってな」
何人もの女と関係を持ち、何の罪もないアン子をも巻きこんでおいて
反省の色も見せない悪党のくせに、龍麻の口調には妙に同情めいた哀愁が漂っていた。
当然、アン子は反発し、さらに問いただそうと試みたが、
龍麻はすぐに判ると首を左右に振るばかりだった。
仕方がないので、アン子はテーブルに片肘をつき、
そこに頬を乗せて龍麻の方を見ずに質問を変える。
「アンタ、いつからこんなことやってんのよ」
「夏休み前からはもうやってたな」
悪びれるどころか自慢げな口調に、蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られたアン子は、
ここは敵地であるとかろうじて自制し、情報収集に努めた。
「他に誰が居るのよ」
「葵だろ、マリア先生だろ、絵莉さんに亜里沙にお前で五人か」
「あたしはまだ入れないでよね! ……ってアンタ絵莉さんに何してんのよッ!!」
ルポライターである天野絵莉はアン子の憧れの対象で、
ほとんど崇拝しているといって良い。
以前、龍麻が『活動』絡みで絵莉と知り合ったとき、
ふとした拍子にそれを知ったアン子は、
龍麻の首を締めあげて紹介するよう迫ったものだった。
初対面の時は親切に応対し、将来に期待しているなどと言葉をかけられて
人生で二度しかない経験――興奮のあまり気を失ったのだが、以後接触はない。
連絡先を訊いておかなかったのは痛恨で、以後、
龍麻は露骨に煙たがって会わせようとしないので、
アン子としては卒業したら押しかけよう、と決心しても、
それ以上どうしようもなかったのだ。
それが久しぶりに名前を聞いたと思えば、
崇拝を打ち砕かれるような事態になっている。
血相を変えて立ちあがったアン子は、
いつでも龍麻の喉笛に爪を立てられる位置に腕を移動させた。
しなやかな猫科の動物というよりは化け猫の趣があるのは、
顔に険がありすぎるからかもしれない。
「いや、絵莉さんはマリア先生の紹介だったんだよ。
こういうのが好きそうなのが一人いるって」
「嘘おっしゃいッ、絵莉さんがこんなの好きなはずないでしょうッ、
どうせアンタ達がだまくらかしたに決まってるわッ!」
激昂するアン子が唾を飛ばすので、龍麻は少し椅子を退く。
その分すかさず身を乗り出し、アン子は激しく睨みつけた。
「言っておくけどな、俺は嫌がる女には手を出さないぞ。
最初に全部説明はするし、途中で嫌になったらいつでも来るのを止めればいい」
「あたしは無理やりだったじゃない」
「あれはマリア先生が先走ったんだよ。なんかお前のこと気に入ったみたいで」
「都合の悪いときはそうやって他人のせいにしてるんでしょッ、
全然信用できないわッ!」
全く話を聞く気がないアン子に、龍麻は辟易して首を振った。
一の言葉に十の反撃が返ってくるのではとても勝負にならない。
「……それなら、次に絵莉さんが来るときに、お前も来ればいいだろ。
それで本人の口から聞けよ」
「当たり前よッ、絵莉さんがあたら道を誤るのを看過なんてできるわけないでしょッ」
この時アン子は魔手に落ちた絵莉を救いだす正義の騎士に自らを任じている。
不幸にも脅迫されている彼女を解放できれば感謝されるのは間違いないし、
あわよくば就職先まで確保できてしまうかもしれない。
光の速さで打算を巡らせたアン子が、空想を具現化するために龍麻から
言質を取ろうとさらに一歩詰め寄る。
殺意剥きだしの鉤型に曲げられた指に、思わず龍麻がもう一歩椅子を引いた時、寝室からマリアの声がした。
「いいわよ、二人とも」
「よし、ほら行くぞアン子」
「あッちょっと、待ちなさいよッ!」
龍麻はアン子に背を向けず寝室へと入っていく。
それを追ってアン子も、鼻息も荒く部屋に飛びこんだ。
「……どうしたの?」
「いえ、なんでも」
背を向けて入ってきた龍麻に、マリアが奇異の視線を向ける。
龍麻は二人の姿を見てアン子が仰天し、
口をあんぐりと開けて立ち止まるのを確認してから、
ようやくマリアの方へと振り向いた。
アン子にはずいぶんとペースを狂わされているが、
これでどうにか普段通りに事を運ぶことができそうだ。
堂々と立っているマリアと、しきりに身体を隠そうとしている葵を
それぞれじっくりと眺め、龍麻は満足げに一息ついたのだった。
一方のアン子は一息つくどころではない。
ベッドサイドに立つマリアと葵を見て、声も出ないありさまだった。
葵は赤のビスチェを着せられている。
一見して高価そうだとアン子が思ったよりも実際にはさらに二割ほど
高価なランジェリーは、葵の持つほとんど冒しがたいまでの清純さを
一変させるという難題を見事に達成していた。
肩口からバストトップにかけては濃い色ながらも薄い生地のため、
肌はおろか乳首までがくっきりと視認できる。
下半分を支えるカップは黒く縁取られ、
乳房の大きさを強調する役目をそつなく果たしていた。
さらにバストの下端からへそまでの中心線はリボンで結ばれているだけで、
隙間から覗く肌がひどく扇情的だ。
へそのところで左右に開くデザインはガーターベルトを吊るために
一度下方へと伸びるが、そこからわき腹にかけてはふたたび上へと切れこんでいき、
ウエストからヒップを惜しげもなく解放していた。
その、下着としての役目はほとんど成していないようなビスチェの他に、
ストッキングとグローブも着けた葵は、
そのままモデルとして通用するほどの妖しさだった。
普通の高校生はなかなか着ないような葵のランジェリーではあるが、
それすらもマリアの前では霞んで見えた。
全身を覆うボディストッキング。
薔薇の刺繍が施されていて、それ以外は全て透けている。
それ以外の下着は一切身につけていないマリアは、乳首やヘアも丸見えになっていて、
しかもそれすらデザインの一部としていた。
肌の露出はほとんどないのに、これほど淫靡な服装をアン子は見たことがない。
常人が着ていたらまず変態としか思わないが、
世界美女ランキングでも上位に入るのではないかと思われるマリアが着ると、
デザインに意図された艶めかしさが全て引き出されているようだった。
「ア、アンタ達……」
二人が、たとえば世の男が好きそうな、
キャバクラだの風俗店といった類の店の女ならば、納得はできる。
可能な限り関わりあいにはなりたくないと思っても、そういう職業の女性が、
世間で一定の需要があるというのは、アン子も理解しているのだ。
しかし、目の前で片や恥じらい、片や妖艶な笑みを絶やさない二人は、
一人はアン子と同じ学校に通う生徒会長で、
いま一人はアン子に英語を教える教師なのだ。
服装一つで女はここまで変わる、という事実を目の当たりにして、
アン子は呆然とするほかなかった。
自分の着ている制服こそが正しいはずなのだが、
この場では完全に場違いとなってしまっている。
空気だの雰囲気だのといった目に見えないものはあまり重視しないアン子も、
この部屋に漂う息が詰まりそうなくらいに濃密な、
いかがわしい空気は意識せざるをえない。
大きな音を立てて唾を呑み、それを耳ざとく聞きつけたマリアが巧みに退路を塞ぐように回りこんだのにも、
彼女が背後から獲物を狙う蛇の瞳を輝かせたのにも気づかず、
両肩に手を置かれて、やっと忘れていた呼吸を始める始末だった。
「ずいぶん熱心に見ているようだけれど、遠野サンも……
こういうランジェリーに興味があるのかしら?」
「い、いえッ、あたしは……その、あの」
さりげない強制力を秘めた手にアン子は百八十度回転させられる。
より間近で見るマリアの肢体は迫力がありすぎて、
アン子の最大の武器である喋りも虚しく空気だけを吐いていた。
どこに視線を置いて喋ったらよいか判らず、アン子は忙しく眼球を動かして答える。
と、いきなり顎をつままれ、上を向かされた。
「フフ、アウターだけが女を美しくするのではないのよ。
むしろ素肌に触れるインナーこそが女を引き立てる……わかるかしら?」
「は、はい」
教卓に立つ時とは異なる輝き方をしている瞳に、アン子は魅入られてしまう。
瞳にも、マリアそのものにも昨日まで全く興味のなかったのに、
たった一日で激変した価値観は、その輝きをたいそう美しいものだと
捉えるようになっていた。
知性を重んじる職に就きたいと願っているアン子としては、
その対極にある感情に流されて物事を判断するなどもってのほかだと思いつつも、圧倒的な――不穏当な表現をするなら、
人間離れした美貌を持つマリア・アルカードに、
こんな間近で凝視されるとそれだけで力が抜けてしまいそうになるのだ。
マリアの爪先が、顎をなぞる。
冷たささえ感じさせる血の色をしたネイルは、
獲物を捕らえた蛇の舌をアン子に想像させた。
終端から口の下まで、じっくり一往復されただけで、
アン子の唇は意思に背いて開いていく。
そこから吐きだす呼気の、なんと熱いことか――
そして、それを冷却するように唇を撫でるネイルの、なんと快いことか。
昨日、学校でされた時のように、不思議な、
説明を求めてもはぐらかされてしまった力で動けなくされたりはしていない。
なのにアン子は、いつのまにか動くどころか声すら出せなくなっていた。
口をうっすらと開けたまま、何をすることも叶わないアン子は、
ぼんやりとマリアを見つめる。
心得た微笑で頷くマリアの、やけに紅い口唇の隙間に覗く犬歯が、
なぜか一瞬長く見えた。
「いい子ね……遠野サン。今度、アナタにも用意してあげるわ。
後でサイズを計ってあげるわね」
契約は完了した、とばかりにマリアは唇を触れさせる。
紅のルージュと濃い、脳にいつまでも残る香りが、アン子を抱きすくめた。
「う……ン……」
マリアの舌が、すぐに入ってこようとする。
昨日の官能が唇に蘇って、アン子に拒む術はなかった。
長く、肉厚の塊はたやすく口腔の奥にまで到達し、
触れるもの全てに快感を植えつけていく。
舌以外に触れることができない場所を、自分以外の舌に触られて、
アン子の理性は一足飛びに崩れていった。
「んッ……ふぅ……」
キスすら初めてだったのに、たった一日で口は快楽を覚えこんでしまった。
一晩かけて口の中のあらゆる部分を舐めまわされた結果、顎を動かすだけで、
喋ろうとするだけで快感が身体をまっすぐに落ちていき、
下腹に溜まっていくようになってしまったのだ。
おかげで今日一日、アン子は友人から心配されるほど口数を減らし、
もちろん新聞部としての活動など全くできなかった。
英語の授業はなかったのが幸いだった――もしもマリアの視線を少しでも感じたなら、
たちまち肉体は昨夜の火照りを思いだしてしまっただろうから。
マリアの舌に、いつしかアン子も応じている。
覚えがいい、と褒められた昨日の夜の記憶は、まだ生々しく残っていた。
英語の発音の練習のように舌を動かしてみせたマリアは、
そのまま顔を近づけ、アン子に実技を練習させたのだ。
それに先立つ三十分で、すっかり蕩かされていたアン子は、
逆らう気力もなく同じように舌を出し、マリアのそれに絡めた。
マリアはこの分野でも優秀な教師であることを示し、アン子はその日のうちに、
キスに関してはマリアに合格点をもらえるまでに上達していた。
けれども、合格というのはあくまでも基準を通過したにすぎないことを、
アン子は思い知らされていた。
容赦なく口をこじ開け、歯を、歯茎を蹂躙するマリアのキスに、
アン子は全くなすすべがない。
立つ力はとうに抜け、マリアに抱きしめられてようやく立っているありさまだ。
だからマリアが優しくベッドに押し倒したとき、
抵抗する余力などどこにもありはしなかった。
「フフ……可愛いわよ、遠野サン」
「あ……せんせ、い……」
光と影が彫りの深いマリアの顔立ちを妖艶に縁取る。
下から見上げるアン子には、きらめく金髪は支配者の証に見えるとでもいうのか、
龍麻を蹴り、殴り、首を絞める勢いは毛ほどもなく、
借りてきた猫よりもおとなしくなっていた。
唇の色と同じ、紫に近い紅の爪が、顎をなぞる。
その動きにはどんな命令も含まれてはいなかったのに、
アン子は少しずれてピントが合わなくなってしまった眼鏡を直そうともせず、
自分から供物を捧げるように唇を突きだした。
「ん……っ……」
想像していたよりもずっと冷たい唇が、快い刺激をもたらす。
まだ唇は開かない――マリアの肉厚の舌に、
力強くこじ開けられる快楽を知ってしまっているから。
断固たる拒否ではない、ほんの少しのわがままは、しかし見透かされていて、
マリアはキスを仕掛けておきながら、アン子の望むようには舌を挿れてこない。
駆け引きをするには経験が不足しすぎているアン子は、唇の圧力が弱まると、
矢も盾もたまらず自分から閉ざした門を開け、マリアを招きいれた。
「ん、ん――ッ!」
ベッドに身体が押しつけられると同時に、口腔への凄まじい圧力がアン子を襲う。
意思を持った粘塊は一瞬でアン子の口を塞ぎ、内部を蹂躙した。
「んんっ、ッは、あ、うッん――」
喘ぎ声さえ支配される。
唾液を孕んだ舌が淫靡な柔らかさを口の中のあらゆる場所に植えつけていく。
昨夜の記憶が悦びを倍加させ、心を蕩かしていく。
下腹の一点に火が点り、小さく身をよじろうとするが、
押さえつけられた四肢にマリアをはねのける力などなく、
かえって舌を吸われてしまった。
「は、はふ、はぁ……はっ……」
昨日までキスも知らなかったというのに、たった一日で快楽を覚えこまされた舌は、
マリアの口の中でどろどろにねぶられてあえなく降伏する。
敗軍を待っているのは、陵辱と蹂躙――
アン子はむしろそれを望むかのように舌を差しだしたのだった。
眼前で始まった二人の女性による快楽の宴を、龍麻と葵は声もなく見ていた。
教師と教え子、女性と少女、近しい知人同士、それに外国人と日本人。
どのような切り口で見ても興奮をそそられずにはいられない組み合わせである。
卑猥な音自体を武器にするかのような激しい吸引と、
弛緩しながら時に感電したように震える制服。
アン子に跨って舐め溶かすようなキスを続けるマリアには、
こうした光景はかなり見慣れている龍麻も劣情をかき立てられるし、
同じ歳の少女があっという間に快楽の虜になっていくさまを、
やはりこうした光景を見慣れているはずの葵は頬を鮮やかな紅に染めて眺めていた。
「凄いな、マリア先生……あのアン子がさっきから一言も喋らねえ」
本気で感心して呟いた龍麻が、同意を求めて葵を見る。
常によく気がつき、龍麻の言うことなら何にせよ聞き入れる少女は、
ぼんやりと口を開いたまま答えようともしていなかった。
苦笑しつつ龍麻は葵の腰に腕を回し、軽く引き寄せる。
たいして力は入れていなかったのに葵はふらふらと寄りかかり、
潤んだ瞳で龍麻を見上げた。
しどけなく開かれた唇は貪られるのを待っているかのようで、
これを味わわずにおくのはいかにももったいない話だ。
もう少し女教師と教え子による禁断の戯れを見ていたかった龍麻だが、
身体の向きを変え、優しくくちづけた。
「ん……」
葵が嬉しそうに首に腕を回してくる。
自分が今どんな服を着ているのかいつ思いださせてやろうかと、
純情な高校生のように甘いキスをする葵に応じながら考える龍麻だった。
龍麻と葵が情熱的なキスへと移行した頃、
マリアとアン子はようやく最初のキスを終えようとしていた。
キス、といっても途中からはマリアがほとんど一方的にしていたもので、
アン子は長く厚い舌にただただ翻弄されていたにすぎない。
口の周りに貼りついた白く濁った唾液を、マリアが丁寧に舐めとる。
若い人間の体液は男でも女でも美味だが、肌の滑らかさは女性、
それも日本人の娘に勝るものはない。
口の周りから耳に至るまで舌を這わせ、近頃ではずいぶん減った、
化粧気のない張りのある肌を堪能したマリアは、
アン子が支配下にあることを確かめるとシロップのような声で命じた。
「遠野サン……腕を上げなさい。そう……いい子よ」
なぜマリアの指示に従ってしまうのか、制服を脱がされながらアン子は考える。
そこで龍麻と葵も見ているのに、マリアに囁かれると
従わなければならない気が首の後ろからするのだ。
きっとマリアの神秘的な蒼い瞳に魅了されているんだわ、
と結論を出すアン子の首筋に、
今はもう塞がりかけている二つの小さな孔があることを本人は知らない。
ただただマリアの美貌と技巧に堕落させられてしまったのだと信じているのは、
おそらくは幸福なことなのだろう。
「素敵なバストね……きっとランジェリーが映えるわ」
現れた稜線をなぞりながらマリアが微笑んだ。
ただし微笑む前、制服を脱がせた直後に、秀麗な眉目を数瞬曇らせている。
アン子の着けている下着があまりに安っぽく、
またサイズも一見して合っていなかったからだ。
せっかくの素体もこれでは台無しで、美しい女性にはそれにふさわしいランジェリーをまとう義務があると考えているマリアには許し難いことだったのだ。
もっとも、結局マリアは自分が選んだランジェリーを着させたいのだから、
事前に何を着ていようと実は関係ないのだが。
「美里サンも素敵だけれど、アナタも同じくらいに素敵よ、遠野サン」
「あ、あたし……そんな」
マリアに真っ向から見つめられて、アン子はしどろもどろになっていた。
胸を隠そうとした右腕も一度のキスでたちまち力を失い、
されるがままに左腕と一緒に頭上に掲げられてしまう。
「フフ、まだ自分の本当の魅力に気づいていないのね……
安心なさい、ワタシがこれから遠野サンを輝かせてあげるわ」
龍麻あたりが口にしたなら、鉄拳を一通り叩きこんだあとに
寝言は寝てから言いなさいと止めをさすこと間違いなしのうわついたセリフも、
人外の魅力を有するマリアが言うと、媚薬のように耳を快くさせる。
「さあ、力を抜いて……全てをワタシに見せなさい」
「あ……ァ……!」
小さく喘いだ、それがアン子の最後の自由意思だった。
片手でアン子の両腕を拘束しているにも関わらず、
マリアは易々と邪魔な下着を取り払う。
サイズの合っていなかった下着から解放された乳房が歓喜に揺れ、マリアを歓迎した。
「本当に素晴らしいわ……どんなランジェリーが似合うかしら、
ボンデージなんかもいいかもしれないわね」
「ボンデージって、あの……ムチとかロウソクとかの」
「フフ、そうね。一般にはSMプレイをするときの服装という認識でしょうし、
それも間違ってはいないわ。
けれど、光沢のあるレザーは肉体のラインを余すところなく浮かびあがらせる……
遠野サンのカラダなら、ゾクゾクするような美しい起伏が浮かぶでしょうね」
顎から首筋へ、さらには乳房を経て腰へ、
滑っていったマリアの指先がスカートのホックを外す。
見せつけるように眼前で開閉する唇と、会話の合間ごとに挟まれるくちづけが、
アン子をもがかせもしなかった。
「で、でも……キツかったりするんじゃ」
「自由になった肉体を自分の意思で閉じこめるのも、やがて快感になるわ」
巧みに誘導されていることに気づかないまま、アン子はマリアの提案を承諾した。
すぐにマリアが褒美の熱いキスを与え、
さらにこの部屋で二番目に色気のない下着に触れる。
そこはすでにおびただしく湿り気を帯びていて、
軽くなでられただけでアン子は切なげに身を震わせた。
「想像して感じたのね……いい子よ、いつも、
どんな時でもワタシのことしか考えられなくしてあげる」
アン子はおよそ彼女らしからぬ受け身の瞳でマリアを見た。
新聞のために常にアンテナを張り続ける必要がある彼女にとって、
一人の人間に夢中にさせられてしまうのは困る。
けれども一方ではそれをよしとする自分も居て、
破滅的な倒錯に身を堕としてみたいと思いもするのだ。
「アナタのこと、気に入っているのよ……学校では一番に」
「え、あ、あの、美里ちゃんは」
「もちろん可愛いわ……けれど、ワタシはアナタの方が好み。
それに、あの子は龍麻のモノだから」
一番、という言葉が琴線をくすぐる。
アン子は新聞以外の分野で一番になったことがなく、こんな状況であってさえ甘美な響きをそれは持っていた。
それに、これだけの美貌を持つマリアにこんな近くで愛を囁かれて、
理性を保てというほうが難しい。
肘から腋へと滑っていく艶めかしい舌の軌跡を、
いつしか追いかけているアン子だった。
籠絡されつつあるアン子の横では、葵が龍麻の愛撫を受けている。
龍麻は下着をすぐに脱がせてしまうような無粋なことはせず、
視覚的な効果をたっぷりと鑑賞しつつ女体を堪能している。
男の欲望をかき立てる、ただその一点のためにデザインされたランジェリーを着せられた葵は、
龍麻の手が際どいところを通るたびに身体をくねらせはするものの、
腕から逃れようとはせず、むしろ愛撫に身を任せるようにしていた。
「マリア先生凄えな。アン子もう濡れまくってるぜ」
「……」
下品な物言いに目を伏せる葵だが、龍麻に顎を掴まれ、
無理やりにベッドの方へと向けられてしまう。
エロスの化身のようなマリアと、彼女の毒牙にかかって普段の溌剌さなど
見る影もないアン子という近しい者の組み合わせはいささか刺激が強すぎるらしく、
葵の呼吸はいつになく荒かった。
龍麻はそれを見逃さず、彼女が求めるよりもわずかに足りない弱さで
全身をくまなく撫でていった。
「あ……あぁ……」
清純な美貌に淫らな表情が滲んでいく。
彼女を知る者がどれだけ否定したとしても、
葵の肉体は女の悦びをすでに知りつくしていて、
なお貪欲に淫楽を求める魔性の肉体だった。
龍麻の愛撫で股ぐらを濡らし、アン子が倒錯の悦びを教えこまされている姿を見て、さらなる発情の糧としている。
後ろから勃起したペニスを押しつけ、さらに発情の糧を与えてやりながら、
龍麻は一足先に淫らな宴もたけなわとなっているベッドに葵を導いた。
「ほら、少しマリア先生を手伝ってやれよ」
促されるままに葵はベッドに乗り、同級生のところへと近づいていく。
その時アン子はすでにマリアの洗礼をたっぷりと浴びせられていて、
目の焦点も合わない始末だった。
「アン子ちゃん……」
「み、美里ちゃん……」
葵は恭しいほどの態度でアン子の頬にくちづけ、そこから舌を這わせる。
その甘美な舌遣いもさることながら、学校で最も優秀な葵がまるで召使いのように接するという事態が、アン子の興奮を途方もなく高めた。
葵はきっと、マリアか、あるいは龍麻に命じられているから
そういう態度を取っているだけなのだ。
そう解釈してみても、自分のようにただ言葉を勢いよく吐きだすだけではない、
聞く者を自然と従わせてしまうような声を紡ぐ唇に、肌を吸われ、
それ自体を使って愛撫されると、ろうそくの炎にも似た何かが、
腹の奥底にぽっと灯ってしまうのだ。
他人に見られるわけではないその炎が、しかし極めて恥ずかしいものに思われて、アン子は目を伏せる。
けれども伏せた視線の先にあるのは扇情的な下着をまとった美少女の妖艶な姿であり、
隠したいはずの炎はさらに燃え広がってしまった。
「ね、美里ちゃん……あたしも、触っても……いい?」
「ええ、もちろんよ、アン子ちゃん」
真神學園でも随一の美少女に至近距離で微笑まれて、アン子の中で何かが弾けた。
ため息をつかずにいられない白い肌を仔細に観察し、次いで触って確かめる。
まるで研究対象のような触り方に葵は困惑したが、アン子は真剣であり、
眼光がネタを追うときのものに変わっていた。
「正直言って一回触ってみたかったのよね……変態扱いされるから言わなかったけど」
乳房はともかく腋やへそにまで顔を近づけるアン子の激しい鼻息がくすぐったくて、葵はさりげなく関心をそらせようとする。
「でも、アン子ちゃんも綺麗よ」
「美里ちゃんじゃなきゃ嫌みとしか聞こえないわよ」
だが、「真神の聖女」の力をもってしても興味を抱いてしまったアン子から逃れるのは難しく、
未来のジャーナリストはついに舌でも感触を憶えようとする。
「はあ、改めてみると犯罪的な胸よね……そりゃ聖女って呼ばれもするわよ」
「ア、アン子ちゃん……あんまり、同じところばかり、触ら、ないで……っ」
「そういうわけにはいかないわ。この際だから美里ちゃんのカラダ、
とことんまで調べさせてもらうわよ」
「あ……ん、待って、お願い、もう少し優しく……!」
すっかり乗り気になったアン子に、葵は救いを求めてマリアを見る。
「駄目よ、遠野サン……今日はアナタの歓迎なのだから」
「ひゃ、ん……!」
アン子の顎を掴んだマリアは、有無を言わさぬ強引さで唇を奪い、
口腔を掻きまわした。
たちまちアン子は釣り針にかかった魚のように肢体をひくつかせ、おとなしくなる。
マリアに目で促された葵も再びアン子の身体に触れはじめ、
アン子は二人から洗礼を受けることとなった。
「ふむッ、ふ……!」
果敢にもアン子はなお何か言おうと試みるが、マリアの舌技はそれを許さない。
酸素を求めて喘ぐアン子に最低限の呼吸だけさせ、
後はまたたっぷりと唾液を乗せた舌で、バターを塗りこむように口の中を犯した。
喋ろうとするアン子の舌の動きさえ利用して、
キスというよりも口を使ったセックスに耽る。
顎をつままれ、開かされたアン子の口は、
有史以来はじめて喋る機能を完全に停止させていた。
「は……あ……ッ、あぅ、んあ……」
マリアは乱暴ではないが容赦なく責めたて、アン子に休む暇を与えない。
口唇のあらゆるところを陵辱しながら、下半身にも手を伸ばし、
まだマリア以外の他人が触れたことのない秘裂をなぞりあげるのだ。
「あぅッ、う、んッ……!」
すでに淫水をたっぷりと湛えるヴァギナは、マリアの指先に過敏に反応し、縁から粘液をしたたらせる。
新鮮な若い女性の体液を指に掬った吸血鬼は、血に対してと変わらぬ恍惚を浮かべ、自らの舌先に乗せた。
「フフ……美味しいわね、アナタのジュース」
「う、あぁ……い、や……」
羞恥に全身を炙られたアン子は、言葉を吟味することなくそのまま声に出してしまう。
それが一層の恥ずかしさを呼び起こし、知性派を自認する彼女が、
赤ん坊のように首を振るしかできない。
「昨日もそうだったけれど、とても量が多いのね。淫乱なのかしら?」
マリアが発した言葉は、銛さながらにアン子に刺さった。
こんな状況に置かれていても、自分は他の三人とは違う、無理やり連れて
こられたのであって、こんなことを好きでやっているわけではないのだ、
と心のどこかで思っていた。
だが、淫乱というキーワードはアン子の心を外から深く貫き、
どこかにあった言い訳を粉々に砕いた。
「ち、違、あたし……」
「いいのよ……全てを解きはなって。本当のアナタを見せなさい」
「ひッ、あ――!」
紅の口唇から甘い毒を注ぐマリアが、同時にクリトリスを刺激した。
切れかけの電灯のように明滅する意識が、徐々に暗の方が長くなっていく。
それは瞼を射す陽の熱さではなく、閉じさせる夜の心地よい優しさで、
アン子はこれまで経験したことのない柔らかさの枕に深々と頭を沈めた。
するとすかさずマリアが覆い被さり、
長いキスでアン子を一層の深みに引きずりこむ。
鋭い知性を感じさせる少女の瞳が快楽に潤んでいくさまに淫靡な笑顔を向け、
その滑らかな頬を艶めかしく舐めまわすのだ。
「う、あ……せん、せ……」
「フフ、口を開けなさい……そう、いい子よ」
だらしなく口を開けたアン子に、マリアは溜めた唾を与える。
受けとったアン子が飲みほすのを確かめると、再び口を開けさせ、
今度は舌を入れて唾液を捏ね、飲ませた。
「あう、っぷぁ……ん、んぅ……」
幾度も唾液を注がれ、アン子の意識は朦朧としている。
はっきりしているのは唾液が喉を滑り、胃に落ちたときで、
まるで下腹を通じて抽出されたようにとろりと愛蜜がしたたった。
身体を縦に貫く熱が、こんなにも快いものだなんて。
アン子はもっと気持ち良くなりたいと思い、夢中でマリアにしがみついた。
マリアの肉体は人肌にしては少し冷たいような気がして、
こんな快楽の最中であっても、アン子は持ち前の好奇心を浮かびあがらせかけた。
ただ、それはやはり一瞬のことで、火照った身体にはかえって気持ちいいのと、
マリアが美しい蒼色の瞳で微笑みかけたので、すぐに疑念はどこかへ沈んでしまった。
「さあ……愉しみましょう、遠野サン」
アン子は襲いくる快美な激流に、流される方を選んだ。
マリアにしがみついていれば、遭難することはないのだと信じて。
マリアの合図を受けて、葵はアン子への愛撫を再開させた。
葵はマリアほど情熱的ではないにせよ、同級生の肉体に奉仕するのを厭わない。
龍麻とは最も深い関係にあり、その情欲を一身に受けるのみならず、
彼の周りに集う女性からも何らかの形で愛されてしまう彼女は、
しかし淫欲に塗れたようには一切見えない聖女の貌を絶やすことはなく、
新たな契りに自然に順応していた。
肌理の細かな白い肌と、理想的なプロポーションを備える彼女はマリアのお気に入りでもあり、
毎回彼女が選んだ下着を着させられている。
今日は赤の、彼女自身が選んだなら一生選ばないようなデザインの
ランジェリーを身にまとい、アン子と肌を重ね、
この部屋に居る者は例外なく淫らなのだと証明していた。
「アン子ちゃん……」
「う、あ、美里、ちゃん……!」
優に掌に余るサイズの乳房を愛おしげに揉む。
先端の蕾にくちづけ、甘噛みし、優しく吸いたてる。
龍麻に命じられての奉仕であるのに、
葵がアン子に接する態度は恋人に対するそれと変わりない。
相手を感じさせることに主眼を置いた、うやうやしいまでの愛撫は、
口うるさいアン子でさえも黙らせた。
「あ、んっ……!」
かすかな反応の違いも見逃さず、アン子が望む刺激を与える。
わき腹や腿の内側など、アン子自身も知らなかった性感帯を次々に探りあて、
同級生の理性を溶解させていった。
「だ、駄目ぇ、美里ちゃん待って……っ」
「うふふ、アン子ちゃんって感じやすいのね」
マリアと葵に責められて感じない人間などこの世に存在しないと思われるが、
葵は無意識にアン子を言葉でなぶる。
そしてマリアによって秘密の扉を開けられてしまったアン子は、
初歩的な言葉責めでも如実に反応してしまうのだった。
「ちがっ、あたし、そんなんじゃ……!」
「フフ、そうかしら? 美里サンの言うとおり、
とっても感じやすいように見えるのだけれど」
「違うんですッ、これは……あぅ……!」
「まだ素直になれない悪い子には、おしおきが必要かしらね」
アン子の下半身に陣取ったマリアは、すでに力など全く入らない両足をたやすく開かせる。
色気のあるとは言いがたい、水色のパンティが包み隠す部分は、
マリアの指摘が正しいことを証明していた。
染みというのももはやおこがましいほどに濡れている下着を、
マリアは軽く押さえつける。
くっきりと浮かびあがった卑猥な縦裂に、蒼い瞳を好色に輝かせると、
口を大きく開けて呼気を浴びせた。
「ひゃう、っん……!」
強烈な、けれど物足りない刺激に、アン子の腰が跳ねる。
この部屋に入ってからずっと、普通ではない興奮状態に置かれていたアン子は、
ようやく最も敏感な部分を愛撫されたことで、一気に肉体が反応した。
そのためマリアの息が吐息というには冷たかったのにも気づかず、
甘美すぎる愛撫をもう一度受けたいとそればかりを考えていた。
「さあ、足を開きなさい……アナタのいやらしい部分を、ワタシに全て見せるのよ」
微妙にマリアの口調が変わったことに、アン子は気づかなかった。
鼠蹊部に添えられた手が意志に反して足を広げさせたのだと信じて疑わなかった。
「あ……うあ……せん、せ……」
アン子の足が大きく開く。
大きなベッドはどこまで開いても足が落ちてしまうことはなく、
それがアン子に判断を誤らせた。
気がつけば蛙のような格好をしていて慌てて閉じようとするが、
いつのまにか片足が葵の足に巧みに挟みこまれて固定されている。
そしてもう片方はマリアの、火照った肌にたまらない快美感をもたらす冷たい手に押さえられていて、やはり動かせなくなっていた。
「ま……待ってっ……!」
いくら恥じらいが薄いアン子といえども、
最も恥ずかしい部分をこうまで晒けだしてしまっては恥ずかしくないわけがなく、
しかもアン子の羞恥心は昨日のうちにマリアによってずいぶん育てられている。
「フフ……やはりワタシの見る目に間違いはなかったわ。
こんなにして……いけない子ね」
「そッ、それは、美里ちゃんが……」
とっさに葵を犯人に仕立てあげようとするアン子だが、
真横にいる当人に哀しげな目をされてそれ以上続けられず進退窮まってしまった。
「遠野サン」
「はッ、はいッ」
「アナタにはまだ色々と教えなければいけないようね」
字面だけ見れば指導に熱心な教育者の鑑である発言者は、
瞳の蒼を好色で異様に乱反射させ、色気のない下着に爪を立てる。
何気ない動作で切り裂かれた下着はたちどころに役目を失い、
布きれとも呼べない雑布に変わってしまった。
さらにマリアは容赦なくショーツを引き裂き、
彼女にとって何の興趣もそそらない布を取り去る。
「ここはこんなに素直なのに、どうしてかしらね」
現れた秘裂をなぞる手つきはうってかわって優しい。
もちろんその優しさはアン子にとっての優しさとはならず、
すでに充分にほぐされたその部分は、ほんの触るていどの微弱な愛撫でも
脳髄にまで痺れを走らせてしまう。
「ん、うぅっ……!」
昨日受けた鮮烈な洗礼を肉体が思いだし、過敏な反応を始める。
調べ尽くされた弱い場所を撫でられるたび、かけたままの眼鏡の内側に火花が瞬いた。
「アン子ちゃん、危ないから眼鏡を取るわね」
「だ、だめ……取っちゃ、だめぇ……」
「どうして?」
「眼鏡……取ると……顔……可愛くないから……」
アン子は抱えていたコンプレックスを吐露したにすぎない。
眼鏡を常用しなければならないほど視力が悪い人間は、
眼鏡を外すと眼がきつく見えてしまうのだ。
ところがそばにいる二人には、アン子の意図は全く伝わらない。
「ううん、アン子ちゃんは可愛いわ。だから……ね?」
葵はアン子の抵抗の意志をあっさり押し流す微笑で応じ、
マリアは瞳を興奮で乱反射させて、ヴァギナへの本格的な愛撫を始めた。
若い女性のかぐわしい芳香を存分に嗅ぎながら、
閉じている秘唇をじっくりとくつろげる。
にちゃり、という粘り気の強い液体が立てる音が室内に響き、
部屋にいる四者に四様の疼きを与えた。
「い、いや……ぁ、駄目……ぇ……」
なかでも最も刺激を受けたのは他ならぬアン子で、
自らの身体からこんなにいやらしい音が出てしまったことに、
常の知的なふるまいも失って、暴れださんばかりだった。
「アン子ちゃん……」
そしてその恐慌は、葵に眼鏡を奪われたことでさらに悪化してしまった。
「やっ、やぁっ……!」
視界がぼやけた動揺で、アン子は赤ん坊のように首を振る。
見る方も動揺してしまいかねない、醜態といっても良い姿だったが、
葵は落ちついてアン子の頬を撫で、優しくあやした。
「大丈夫よ、アン子ちゃん」
「あぅ……」
この異常な状況下にあっても、葵の笑顔は性別を問わず見る者を惹きつける。
調子が悪くてぜんまいが一瞬止まった人形のように固まったアン子に、
葵は当然の行為とばかりにくちづけを与えた。
「ん……ん、ぅ……ん……」
唇どころか心までとろかすような熱く甘いキス。
マリアの生気を根こそぎ吸うような激しさはない、
けれどもベクトルは同じ口唇の触れあいに、昨日焚きつけられて、
まだ完全に消えてはいなかった熾火がじわりと熱を帯び始める。
「美……里、ちゃん……」
「アン子ちゃん……」
アン子は自分からキスを求めた。
性急な舌は優しくあやされ、コントロールされる。
じんわりと長い時間続く快感はたちまちアン子を魅了し、
口腔深くに入ってくる葵の舌をあるがままに受けいれさせた。
学園一の美少女の舌は、その美貌からは想像もつかぬ淫らな動きで歯をくすぐり、舌先を絡めとる。
あまりに快美なぬらりとした感触に、つられてアン子が舌を伸ばすと、
すかさず唇で咥えられ、輪転機に挟まれた紙のように引きこまれてしまうのだ。
「はッ、ひゃ……」
他人の唇のなまめかしさにくらくらしながら、アン子は夢中で葵にしがみつく。
葵の口の中で舌先をくすぐられ、軽く歯を当てられると、
モラルやら羞恥やらといったものが粉々に砕け散った。
「み、みひゃほ、ひゃん……」
「フフ、素直になってきたわね、遠野サン」
「ひぇ、ひぇんへ……んぷッ……!」
感覚がなくなりかけたところでようやく解放されたアン子の舌は、
息を継ぐ暇もなくマリアに奪われる。
喉の奥まで掻きまわされるような錯覚を覚える長くて厚い舌に、
アン子はなすすべがない。
昨夜の暴力的なまでの快楽を細胞が思いだしてしまえば、
あとは堕ちるだけだった。
「あぅ、あ、あんッ、やら、あッ……!」
「可愛いわ、本当に。いいのよ、もっと感じなさい……ほら」
強い香水の匂いに包まれて、アン子は酩酊する。
マリアの指先が巧みに包皮を剥きあげ、ピンク色の肉芽を転がすと、
彼女の身体は哀れなくらいに痙攣した。
「気持ちいいでしょう? でも、まだこんなものではないのよ……
これからじっくりと教えてあげる」
その言葉に含まれる意味もわからぬまま、アン子は溺れる。
マリアに、そして葵に、二人の美女に優しく、
あるいは激しく責めたてられて、小刻みに腰をくねらせ、
大きな水たまりをシーツに作った。
「ひんッ、だめ、そこ、せんせ……やめてぇっ……!」
「イキなさい……何度も、何度でも、ワタシがイカせてあげる……!」
「あッ、あ、うぅッ……! らめ、ほんとに……ほんとにあたし……!」
「そういう時は何と言えばいいか、昨日教えたでしょう?」
鞭のようにしなやかな鋭さを持った声がアン子を撃つ。
それは緋勇龍麻に対しては絶対無敵ともいえる強さを誇るアン子を、
屈服させてしまう魔力を秘めているのだ。
「さあ、言いなさい……!」
圧力を強めた命令と同時に、マリアはピンク色の柔突起を掻く。
精神と肉体の双方からの責めに、アン子の頭の中で何かが弾けた。
「んゥッ……! イク、イ、ク――ッッ!!」
けたたましい絶叫を放ってアン子は絶頂を迎える。
その痴態は女のこういった場面を見慣れている龍麻でさえ驚き、
生唾を飲んでしまったほどだった。
成熟ぶりはわずかに葵に及ばない、しかし充分すぎるほどに発育した肉体が、
わがままに振り乱れる。
腰が浮き、沈み、また浮いて、四肢でマリアを跳ねのけるようにして、
身体を襲った快楽の波濤に身もだえした。
たった一日で女の性を教えこまれてしまった秘裂が意志を持っているかのように襞をうねらせ、
飛沫をあげる。
「うッ……は……ふゥ……ッ……」
強烈な絶頂は時間にすれば長くはなかったが、
身体を満たした快感は容易には去らないらしく、
アン子は大きく開いた足もそのままに、腰をひくつかせていた。
そしてマリアはまだアン子を解放するつもりはないようで、
頬や首筋に繊細なタッチのキスを落としている。
「凄えな……」
同級生の痴態と、彼女をここまで変えた教師の手腕に感心した龍麻は、
もう一人の同級生が熱っぽい瞳で見上げているのに気がついた。
「なんだ、葵もあんな風にして欲しいのか?」
「……」
葵は答えず、代わりにやみくもに抱きついてくる。
彼女の体熱に欲情を感じた龍麻は、アン子の隣に葵を押し倒した。
数十分後、ベッドの上の様相は凄まじいものがあった。
マリアに容赦なく責められ続けたアン子は、
身体中をあらゆる体液にまみれさせて半ば気を失っている。
その隣では葵が、龍麻にやはり容赦なく犯され、
これも幾度となく絶頂を迎えさせられて糸の切れた人形のように龍麻にしがみつくばかりだった。
「うッ……あぁっ――!!」
絞りだすような悲鳴を放った葵は、そのまま気を失ってしまう。
彼女を横たえた龍麻は、まだアン子に覆い被さっているマリアに苦笑した。
「そんなに気に入ったんですか? アン子のこと」
正直アン子が苦手である龍麻には、マリアがそこまで執着する理由がわからない。
だが、とどめとばかりに濃厚なキスを放ち、アン子が力尽きたのを見届けたマリアは、
龍麻を見ると大きな口を妖艶に開く。
深紅に彩られた三日月の端には、白く尖った歯が覗いていた。
「ええ、気に入ったわ。彼女の血はとても美味しいし、
何より処女というのが申し分ないわ」
マリアの正体を思いだした龍麻は、納得すると同時にアン子に少しだけ同情した。
吸血鬼に目をつけられた人間は、まず逃れられない。
もう少し早く出会っていれば、彼女の人生を軌道修正してやれたかもしれない。
だが吸血鬼と共に歩む人生が悪いと決まったわけでもなし、
血を吸われることによって暴力的な性格に変化が及べば、
あるいは良き出会いとなるかもしれないのだ。
そうなればめでたしめでたしというわけで、
満を持してアン子の首筋に牙を突きたてるマリアと、
その下で悩ましげにうめくアン子の将来に幸あれと一秒だけ祈った龍麻は、
悪い影響から遠ざけるように葵を抱きよせたのだった。