第一階層の「満員電車の地獄」を、改蔵の底なしの性欲とウナの暴走によって突破した呉越同舟連合軍。
彼らが辿り着いた『デモンズ・オフィス』の中層階は、打って変わって静寂と冷気に包まれていた。
そこは、無機質な金属と強化ガラスで構成された、巨大な回廊だった。
床も壁も天井も、白一色。
塵一つ落ちていない清潔さは、逆に人間味の欠如を際立たせ、息が白くなるほどの冷たさと共に、侵入者たちに生理的な拒絶反応を与えている。
空気は張り詰め、足音さえも反響して不気味に響く。
そして、行く手を阻むのは、高さ数十メートルにも及ぶ巨大な鋼鉄の扉──『セキュリティ・ゲート』だ。
ブォン……ブォン……。
ゲートの上部にある巨大な赤いランプが、心臓の鼓動のように明滅している。
その前には、宙に浮く無数の『警備デーモン』が、整然と列をなして待ち構えていた。
彼らは顔を持たず、監視カメラのレンズだけが赤く光る球体の頭部と、黒いスーツ姿のマネキンのような胴体を持つ異形の管理者たちだ。
その手には、スタンバトンや拘束銃、そして「始末書」と書かれたバインダーが握られている。
「……止まれ。IDカードの提示を」
「……アポイントメントのない者の立ち入りは禁止されている」
「……不審者発見。排除プロセスを開始する。……
機械的な音声が重なり合い、空間を震わせる。
ここは、ヤシロが作り出した「コンプライアンスとセキュリティ」の地獄。
情熱や暴力といった「アナログな熱量」を否定し、全てを数値と権限で管理する、冷徹なデジタルの要塞だ。
「うわっ、なんか堅苦しい場所に出たな! 空気が薄いぞ!」
ジャスティングリーン(緑川)が身構え、鼻をつまむ。
「物理攻撃が効かなそうだぞ。あいつら、実体があるのか? それともホログラムか?」
人狼ヴォルグが鋭い爪で空を切り裂くが、警備デーモンは煙のように揺らぐだけで、ダメージを受けた様子がない。
逆に、デーモンが持つバインダーから放たれた「却下」の文字が、ヴォルグの体に直撃し、電流のような衝撃を与える。
「グオッ!? なんだこれは! 身体が痺れる!」
「……申請却下。……暴力行為は禁止されています。……ペナルティ、スタン攻撃」
ヴォルグが膝をつく。
力任せの攻撃は、ここでは「違反行為」としてシステム的に無効化され、倍返しにされるのだ。
ジャスティンレッド(赤城)も剣を振るうが、刀身が空を切り、逆に「銃刀法違反」のアラートが鳴り響く。
完全に詰んでいた。
「チッ、面倒くせえ連中だ。……これだから管理社会ってのは嫌いなんだよ」
後方の
彼は相変わらずあぐらをかき、分厚いベルベットのローブで下半身を隠している。
だが、その膝の上には、先ほどのマナではなく、ブカブカのTシャツ一枚を纏った五十嵐イスズが乗っていた。
「……おいネム、出番だぞ。お前の得意分野だろ?」
「……ん。わかってる。……めんどいけど、やる」
ヨレヨレのジャージ姿の引きこもり少女、ネムが前に出た。
彼女はアジトから持ち出したハイスペック・ゲーミングPCと、無数のケーブルを背負ったサーバーラックを展開し、その場に胡座をかいて座り込んだ。
彼女の瞳から生気が消え、代わりにディスプレイの冷たい光が宿る。
指先がキーボードの上を踊り始める。
「……リンク開始。サーバー侵入。……うわ、セキュリティ、ガチガチじゃん。……クソゲー。でも、攻略しがいがある」
タタタタタッ!
打鍵音がマシンガンのように響く。
ネムは物理空間ではなく、電脳空間から警備システムにハッキングを仕掛けたのだ。
「……排除対象を確認。サイバー攻撃を検知。……攻撃開始」
警備デーモンたちが一斉にネムに照準を合わせる。
無数のレーザーサイトが彼女の眉間に集まる。
「させないわよ。……ねえ、私たちと遊びましょ?」
「どーっちだ? 本物はどっち?」
双子人形怪人、マリーとルイーズがデーモンの前に立ちはだかった。
二人は手をつなぎ、クルクルと回転する。
すると、彼女たちの姿がブレて増殖し、数十人の双子が通路を埋め尽くした。
『
「……エラー。ターゲット多数。識別不能。……AかBか、判断できません」
警備デーモンのカメラが激しく明滅し、混乱する。
実体と幻影が入り乱れる双子のダンス。
規則正しい警備システムにとって、彼女たちの「気まぐれ」と「混沌」は最悪のノイズだった。
「フフ、こっちよ。……あーら残念、ハズレ」
マリーがデーモンの背後に現れ、そのカメラアイを手で目隠しする。
「視界不良。……再起動を要求。……システムダウン」
さらに、そこへ黄金の輝きが降り注ぐ。
「ブヒャヒャヒャ! 世の中、金で開かない扉はないブヒッ!」
金策担当の四天王、ミミガーだ。
彼は懐から、ヤシロの呪いにも屈しない「魔界金貨」を大量に取り出し、バラ撒き始めた。
「ほらほら、ボーナスだブヒ! 残業代だブヒ! これでコーヒーでも飲んでサボるブヒ!」
チャリン、チャリン、チャリン!
金貨が床に落ちる音が、無機質な回廊に響き渡る。
警備デーモンたちの動きが止まった。
彼らはプログラムされた存在だが、「利益」を追求する企業の概念も組み込まれている。
目の前の「臨時収入」というバグに、処理が追いつかないのだ。
「……賄賂、検知。……受領プロセス、承認。……警備レベル、低下。……見て見ぬふりモードへ移行」
デーモンたちが武器を下げ、金貨を拾い始める。
金欲という最も人間臭い欲望が、冷徹なシステムを内部から腐敗させていく。
「……よし。ファイアウォール、突破。……管理者権限、奪取中。……あと少し」
ネムがニヤリと笑う。
巨大なセキュリティ・ゲートのランプが、赤から黄色へと変わり始める。
その攻防の背後。
本隊の輿の上では、また別の、より深く、より背徳的な「ハッキング(侵入)」が行われていた。
「……神主様。力が入りすぎていますよ。もっとリラックスして……委ねてくださいね」
五十嵐イスズが、改蔵と向かい合わせになり、彼を抱きしめるようにして座っていた。
彼女が身につけているのは、改蔵から借りたブカブカの白いTシャツ一枚だけ。
下着はつけていない。
その裾から伸びる白く柔らかな太ももが、改蔵の腰にしっかりと絡みついている。
そしてローブの下では、彼女の秘所が、改蔵の剛直を深く、優しく飲み込んでいた。
「……くぅッ。イスズ、お前……中は熱いくせに、顔は涼しげだな」
改蔵がイスズの豊かな胸の谷間から声を絞り出す。
マナとの行為が「刺激的な情事」だったとすれば、イスズとのそれは「聖なる奉仕」であり、同時に「背徳的な安らぎ」だった。
彼女はゆっくりと、あやすように腰を揺らす。
その動きは波のように滑らかで、改蔵の理性をとろとろに溶かしていく。
「だって、私はこのアジトの『巫女』ですから。……神主様の荒ぶる魔力を鎮めて、平和な力に変えるのが私の役目ですもの」
イスズが慈愛に満ちた瞳で微笑み、改蔵の汗ばんだ頭を優しく撫でる。
その手つきは、子供を寝かしつける母親のようであり、同時に男を骨抜きにする情婦のようでもあった。
彼女の体内では、改蔵の剛直が脈打つたびに、完璧に計算された収縮運動が起こり、快感を増幅させている。
キツすぎず、ユルすぎず。
彼の形を記憶し、吸い付くように馴染む『極上の鞘』。
「……んっ……。神主様、大きくなって……。私の奥を、小突いてます……」
イスズの吐息が熱を帯びる。
Tシャツ越しの背中には汗が滲み、肌が透けて見える。
輿の上には甘い、発酵したような、家庭的でありながら淫靡な雌の香りが漂い始める。
「ふふ。イスズさん、献身が過ぎますねぇ。数値が振り切れてますよ」
横を歩くレンが、カルテに書き込みながら笑う。
「『自己犠牲』も立派な依存症です。……まあ、治療が必要なのは、その献身を受け入れすぎている院長の方ですが」
「マスター。……バブみ?」
メイが不思議そうに改蔵を見る。
「……まあな。ある意味、最強の幼児退行プレイだ。……くそっ、イスズ! そこ! 擦り上げるな!」
改蔵がイスズの胸に顔を埋め、深呼吸する。
そこにあるのは、絶対的な安心感と、それを裏切るような背徳感。
この相反するエネルギーが、ネムのハッキング能力をブーストさせる「魔力」となって供給される。
「……魔力供給、安定。……回線速度、爆上がり。……神主パワー、すげえ」
ネムのPC画面に、「Download 10000%」の文字が踊る。
改蔵たちの「情動」が、デジタルの壁を物理的に溶かしているのだ。
無機質な空間に、人間臭い「熱」が感染していく。
「……神主様。そろそろ、我慢できません……。全部、私の中に『奉納』してください……」
イスズが改蔵の首に腕を回し、耳元で囁く。
その言葉は、巫女としての祈りのようであり、同時に快楽を貪る女の懇願でもあった。
彼女の瞳が潤み、トロンと蕩けている。
Tシャツの裾が捲れ上がり、結合部から溢れ出した愛液が、改蔵の太ももを濡らしている。
「おう……! たっぷり納めてやるよ! 平和のために、な!」
改蔵がイスズの豊かな腰を両手で掴み、下から突き上げる。
ズプンッ!
最も深い場所、子宮口をノックする。
「あぁぁぁんッ! 神主様ぁぁぁ! 熱いのがぁぁ! 来ますぅぅぅ!」
イスズが絶叫し、エビ反りになる。
その瞬間、彼女の身体が光り輝いた。
ドピュッ! ドピュルルルッ!
改蔵の魔力が、白濁した奔流となって彼女の胎内へ、そしてネムのPCへと流れ込む。
カチッ。
ネムがエンターキーを叩き込んだ。
ズズズズズズ……!!!
バチバチバチッ!
巨大なセキュリティ・ゲートが、けたたましいアラート音と共に強制開放された。
電子ロックが火花を散らしてショートし、重厚な扉が左右に開いていく。
制御を失った警備デーモンたちが、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
「……セキュリティ、ダウン。……『管理者権限』、ゲット。……勝った」
ネムがVサインを作る。
「ふぅ……。いい汗かきましたわ。……ちゃんと、中和できましたね」
イスズが改蔵の胸でぐったりとしながら、満足げに微笑む。
その表情は、聖女のように清らかで、しかしどこまでも淫らだった。
「開いたぞ! 今だ、突入!」
赤城が叫ぶ。
道は開かれた。
もはや、誰も彼らを止めることはできない。
「行くぞ野郎ども! 中層階クリアだ! 次はもっと高いところへ行くぜ!」
改蔵が(イスズと繋がったまま)号令をかける。
輿が揺れ、イスズが「んあっ♡」と可愛い声を漏らす。
こうして、鉄壁と思われたセキュリティエリアも、ハッカーの指先と、巫女の
次なる戦場は、上層階『ストレス・フロア』。
そこでは、陰鬱な精神攻撃が待ち受けている。
だが、連合軍には「最強のエンターテイナー」たちが控えていた。