※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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98話

 世界の頂点、『デモンズ・オフィス』最上階。

 そこは今、終末の嵐が吹き荒れる極限の戦場と化していた。

 

「……消えなさい。……休みなど、与えません」

 

 大悪魔怪人・ヤシロが、玉座からゆっくりと立ち上がり、その細く白い腕を天に向けて掲げた。

 彼女の背中にある、ボロボロに傷ついた六枚の翼から、どす黒い漆黒の魔力が噴出する。

 それは、単なる物理的なエネルギー波ではない。

「未読メールの山」「迫りくる納期」「理不尽なクレーム」「終わらない会議」「誰からも認められない孤独」──現代社会の病巣が生み出した、人間の精神を内側から腐らせる呪いの具現化だ。

 

 ゴォォォォォォォッ!!! 

 

 黒い暴風が、呉越同舟連合軍を襲う。

 物理的な衝撃もさることながら、心の隙間に冷たい泥水を流し込むような、絶対的な絶望感が彼らを打ちのめす。

 

「ぐわぁぁぁッ! 重い……! 身体が、鉛のように……!」

 最強の人狼ヴォルグが膝をつく。岩をも砕く筋力を持ってしても、「精神的な重圧」は支えきれない。

「くっ……! 私の剣が……届かない……!」

 聖剣姫キリハが必死に剣を振るうが、ヤシロの周囲に展開された「ATフィールド(絶対拒絶領域)」に阻まれ、火花を散らすだけだ。

 

「無駄です。……あなた達の攻撃は、全て『想定内』のトラブル。事務的に処理します」

 

 ヤシロが冷徹な目で指先を振るうたびに、ヒーローたちが、怪人たちが、不要な書類のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられていく。

 圧倒的な力の差。

 彼女は、この歪んだ世界そのものだ。個人の力で抗える相手ではない。

 誰もが、終わりの予感に震えていた。

 

 だが。

 

 その絶望の嵐の中を、たった一人の男が、腹巻に手を突っ込んだまま、ペタペタと歩いていた。

 

「……ったく。風が強くて、寝癖がさらにひどくなるじゃねえか」

 

 黒野改蔵である。

 彼は防御魔法など使えない。身体能力も、休日にゴロゴロしているだけの、少し腹が出た普通の中年男性のそれだ。

 ヒーローたちのような鍛え上げられた肉体も、怪人たちのような異能も、何一つ持っていない。

 だが、彼だけは倒れない。

 なぜなら、彼の周りには、彼がこれまでに「(欲望)」を注ぎ込んできた、最強の「盾」たちが存在したからだ。

 

「させないわよ! アンタなんかに、神主様は渡さない!」

 

 五十嵐イスズが、改蔵の前に立ちはだかり、両手を組んで祈りを捧げる。

 彼女のTシャツ姿の背中から、純白のオーラが放たれる。

 それはヤシロの黒い呪いを中和する「浄化」の光だ。

 巫女としての祈りと、愛する男を守りたいという母性にも似た献身が、鉄壁のバリアとなって改蔵を包み込む。

 

「……邪魔です。……排除」

 ヤシロが眉をひそめ、無数の黒い槍を虚空に生成する。

『業務命令・即時解雇(インスタント・ファイア)』。

 ヒュンッ! ヒュンッ! 

 鋭利な槍が、イスズのバリアを貫通し、改蔵めがけて射出される。

 

「マスタ〜! 危ないにゃ〜!」

 

 その鋭い切っ先を、一匹の猫が、目にも止まらぬ速さで弾き飛ばした。

 猫怪人ミヤだ。

 彼女は獣の本能で槍の軌道を読み切り、自らの爪と、そして小さな身体を使って改蔵を守ったのだ。

 

 ザシュッ! 

 一本の槍が、避けきれずミヤの肩を掠める。

 鮮血が舞う。

 

「っ……! 痛いにゃ……!」

 ミヤが顔をしかめ、よろめく。

 

「ミヤ!」

 改蔵が足を止める。

 

「大丈夫にゃ! マスターは止まらないで! ……私は、野良猫だから、しぶといの!」

 ミヤは血を流しながらも、ニカっと笑った。

 彼女にとって、改蔵のアジトは初めて見つけた「帰る場所」だ。

 こたつと、ご飯と、撫でてくれる手。そして、温かい体温。

 そのかけがえのない日常を守るためなら、傷つくことなど怖くはない。

 

「ミヤちゃん! 止血します! アドレナリン、全開! ドーピング許可!」

 

 医療怪人レンが滑り込み、ミヤの首筋に躊躇なく注射器を突き立てた。

 ブスリ! 

 ピンク色の怪しげな薬液が注入され、ミヤの傷口が瞬時に塞がり、瞳孔がカッと開く。

 

「シャァァァッ! 元気100倍にゃァァァッ! まだまだいけるニャ!」

 ミヤが超高速で戦線に復帰し、残りの槍を全て叩き落とす。

 

「院長! 行ってください! 後方の回復(ケア)は、私が全て引き受けます! 貴方は前だけ見ていてください!」

 レンが叫ぶ。

 彼女の白衣はボロボロになり、ナースキャップは飛んでいたが、その瞳は狂気的なまでの使命感に燃えていた。

 彼女にとって、改蔵は最愛の患者であり、守るべき病院(アジト)の院長。彼が無傷でたどり着くことこそが、彼女の「医療」の完成なのだ。

 

「……任せたぞ、ヤブ医者!」

 改蔵は再び歩き出す。

 一歩、また一歩と、玉座へ近づいていく。

 彼の足取りは重いが、決して止まらない。

 

「……なぜ。……なぜ、貴方は倒れないのですか?」

 ヤシロの表情に焦りが混じる。

「貴方には何の力もない。ただの人間でしょう? なのに、なぜ私の『虚無』に飲み込まれない?」

 

「簡単なことだ、ヤシロ」

 改蔵は笑った。

 その笑顔は、どこにでもいる、だらしないオッサンのそれだった。

「俺は空っぽじゃねえからだ。……俺の中にはな、こいつらがくれた、面倒くさくて、暑苦しくて、でも最高に気持ちいい『熱』が詰まってんだよ!」

 

 ドォォォォン! 

 

 改蔵の身体から、赤、ピンク、白、紫……様々な色が混ざり合ったオーラが噴出した。

 それは、アジトの女たちとの日々の情事によって蓄積された、膨大な「愛」と「性欲」のエネルギーだ。

 何も持たない男が、ただひたすらに愛し、愛された結果手に入れた、借り物の、しかし最強の力。

 

「マスター! いけぇぇぇッ! わたしの『好き』も、持っていってぇ!」

 小悪魔マナが、後方から魔法で援護射撃を行う。ハート型の弾幕が黒い嵐を中和する。

「マスターのにおい、だいすき! やなやつ、ぶっとばせ! 全部たべちゃえ!」

 サキュバス怪人メイが、ヤシロの魔力を周囲から吸い取り、無効化する。

 

 彼女たちの想いが、改蔵の道を作る。

 一歩進むたびに、黒い霧が晴れていく。

 

「……来ないで。……来ないでください! 私に……近づくな!」

 ヤシロが叫び、最大出力の魔力を放とうとする。

『無限残業・精神崩壊波(エンドレス・ワーク・ブラスト)』。

 世界を終わらせるほどの絶望の波動。

 

 だが、それは発動しなかった。

 改蔵が、既に彼女の目の前に立っていたからだ。

 暴力的な速さではない。

 ただ、彼女が「孤独」に怯え、躊躇した一瞬の隙に、彼が間合いを詰めたのだ。

 

「……あ……」

 

 ヤシロが見上げた先には、汗まみれで、鼻毛も少し出ている、ニヤニヤと笑う、どうしようもない男の顔があった。

 

「よう、社長。……顔色が悪いぜ? ちゃんと寝てんのか? クマがひどいぞ」

 

 改蔵は拳を振り上げなかった。

 代わりに、広げた両腕で、ヤシロの華奢な身体を抱きしめた。

 

 ギュッ……。

 

 温かい。

 ヤシロの思考が停止した。

 攻撃されると思っていた。否定されると思っていた。

 だが、彼女を包んだのは、圧倒的な「体温」と、汗と加齢臭と、ほのかなおでんの匂いが混ざった、「人間の匂い」だった。

 それは、彼女が長い間忘れていた、生々しい「生」の感覚だった。

 

「……な、何を……! 離して! 汚らわしい!」

 ヤシロが暴れる。

 だが、改蔵の腕は万力のように彼女を逃がさない。

 鍛えていないはずの腕だが、「離したくない」という執着心が、彼に馬鹿力を与えていた。

 

「暴れる元気があるなら大丈夫だな。……でも、もう終わりだ」

 

 改蔵は、ヤシロの耳元で低く囁いた。

 その声は、甘く、粘り着くようで、内臓に直接響くような魔力を帯びていた。

 

「残業は終わりだ、ヤシロ。……俺がたっぷりと、『有給()』を与えてやる。拒否権はねえぞ」

 

 改蔵がヤシロの顎を強引に持ち上げる。

 抵抗しようとする彼女の唇を、自身の唇で塞いだ。

 

 チュッ……! 

 

「んぐッ……!?」

 

 それは、ただのキスではなかった。

接続(コネクト)」。

 改蔵が持つ、唯一にして最強の「性魔術」の奥義。

 唇を通して、彼の中に蓄積された膨大なエネルギーを、相手の中に強制的に流し込む儀式。

 

 ドクンッ!!! 

 

 ヤシロの心臓が激しく跳ねた。

 冷え切っていた彼女の体内に、灼熱のマグマのような熱量が流れ込んでくる。

 それは、マナの純粋な恋心。

 イスズの深い母性。

 メイの貪欲な本能。

 レンの狂気的な執着。

 ミヤの野生の信頼。

 そして何より、黒野改蔵という男の、底なしの「生への執着」と「性欲」。

 

「ん……ぁ……! 熱い……! 何これ……! 身体が……溶ける……!」

 

 ヤシロの目が見開かれる。

 彼女の中の「虚無」が、流れ込んでくる極彩色の「感情」によって塗り潰されていく。

 黒いインクを入れたコップに、大量の真水を、いや、熱湯を注ぎ込むように。

 溢れ出し、薄まり、やがて透明に、そして熱く染まっていく。

 

「受け取れ! これが俺たちの『福利厚生』だ! たっぷり味わえ!」

 

 改蔵は唇を離さず、さらに深く舌を絡めた。

 ヤシロの硬く閉ざされた歯列をこじ開け、口腔内を蹂躙する。

 唾液が混ざり合い、魔力がスパークする。

 彼女の抵抗が、次第に熱を帯びた反応へと変わっていく。

 

「んんーッ! んむッ! はぁッ! ……やだ……! 変になっちゃう……! 頭が……真っ白に……!」

 

 ヤシロの膝から力が抜け、改蔵にしなだれかかる。

 ドレスアーマーの隙間から、湯気のような蒸気が立ち上る。

 彼女の青白かった肌が、人間らしいピンク色に染まっていく。

 

「まだだ! まだ足りねえだろ! お前の空洞、全部埋めてやる! 残業代もボーナスも、身体で払ってやるよ!」

 

 改蔵はヤシロを軽々と抱きかかえ、そのまま玉座へと押し倒した。

 革張りの椅子がギシギシと音を立てて軋む。

 そこはかつて、孤独な魔王が世界を呪いながら座っていた場所。

 だが今は、男女が本能をぶつけ合う、祭壇へと変わっていた。

 

「見せつけてやるよ! 世界を救うのは、いつだって裸の付き合いだ!」

 

 改蔵がステテコを乱暴に下ろす。

 ヤシロのドレスを寛げる。

 露わになったヤシロの肢体は、雪のように白く、美しかったが、人形のように冷たかった。

 だが、改蔵の熱い手が触れるたびに、そこから火が点いたように熱を持っていく。

 

「……あ……。私……こんな……。見ないで……」

 ヤシロの瞳が潤み、トロンと蕩けていく。

 彼女は知らなかったのだ。

 肌と肌が触れ合う温もりを。

 誰かに求められ、満たされる喜びを。

 仕事以外のことで、こんなにも心が揺さぶられることを。

 

「行くぞヤシロ! 魂の結合だ! 受け入れろ!」

 

 ズプンッ!!! 

 

 改蔵が、一気に貫いた。

 物理的な結合と、霊的なパスの完全な開通。

 

「あァァァァァァァァッ!!!」

 

 ヤシロが絶叫し、弓なりに反り返る。

 彼女の背中の翼が、バサァッと大きく広がり、黒い羽根が舞い散る。

 そして、その羽根が空中で光の粒子へと変わり、虹色に輝き始めた。

 呪いが解け、祝福へと変わる瞬間。

 

「熱いッ! いっぱい来るッ! 誰かの想いが……! 命が……! 私の中にぃぃッ! 埋まっていくぅぅ!」

 

 彼女の子宮を中心に、爆発的なエネルギーの渦が生まれる。

 それは破壊の力ではない。

 再生と、創造の力だ。

 

 パァァァァァァッ!!! 

 

 玉座の間が、まばゆい光に包まれた。

 その光は天井を突き破り、デモンズ・オフィスの外へ、灰色の空へと伸びていく。

 天を衝く光の柱。

 

 下層で戦っていたヒーローたちも、その光景を見上げた。

 

「……暖かい光だ」

 赤城が呟く。

「……ヤシロの魔力が、浄化されていく……」

 キリハが剣を下ろす。

 

 光の中で、改蔵とヤシロは一つになっていた。

 腰を打ち付けるたびに、世界を覆っていた灰色の雲が晴れていく。

 喘ぎ声が響くたびに、石化した人々の心臓が再び動き出す。

 

「あへぇッ! すごい……! 私、生きてる……! 感じてる……! 仕事より、気持ちいいぃぃッ! もっと、もっとぉ!」

 

 ヤシロは涙を流しながら、改蔵にしがみついた。

 もう、魔王の顔ではない。

 ただの、愛に飢え、快楽に溺れる一人の女性の顔だった。

 

「おう! 当たり前だ! これが生きるってことだ! 楽しめ!」

 

 改蔵は吼え、最後の力を振り絞って腰を叩きつけた。

 

「全部持ってけェッ! 退職祝いだァァァッ!!」

 

 ドピュッ! ドピュルルルッ! 

 魂の奔流が、ヤシロの最奥に解き放たれる。

 

 カッ──────!!! 

 

 世界が白く染まった。

 圧倒的な「生」のエネルギーが、ヤシロの虚無を完全に埋め尽くし、溢れ出し、世界中へと降り注いでいった。

 それは、長く苦しい月曜日が終わり、待ちに待った休日が訪れる瞬間のような、

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