※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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100話

 季節は巡り、柔らかな陽射しが降り注ぐ季節。

 世界を灰色に染め上げた『強制業務停止』の悪夢から数ヶ月が経過していた。

 人々は石化から解き放たれ、再び満員電車に揺られ、残業に追われ、しかし以前より少しだけ「休むこと」や「楽しむこと」に貪欲になった日常を謳歌していた。

 

 そんな平和な日本の、とある片隅。

 開発から取り残された古い住宅街に建つ、ツギハギだらけの木造古民家。

 悪の組織・極東支部のアジトである。

 

 六畳一間。

 そこは、季節外れのこたつを中心とした、酒池肉林の魔窟と化していた。

 

「ますたー、あまい。……ぺろぺろ」

「ああんっ! メイちゃんズルイですぅ! 私の場所ですぅ!」

 

 こたつの中心、主である黒野改蔵は、すでに埋もれていた。

 彼の右腕にコアラのようにしがみつき、二の腕を甘噛みしているのはサキュバス怪人メイ。

 そして左腕を独占し、改蔵の肩に頬ずりをしているのは小悪魔マナだ。

 二人は片時も改蔵から離れようとしない。

 トイレに行く時も、風呂に入る時も、そして寝る時も、常にこの「定位置」を死守しているのだ。

 

「……おい、メイ。歯を立てるな。魔力ならさっきあげただろ」

「たりない。……おかわり。……ちゅ」

「もう! マスターを齧らないでください! ……マスター、私の頭撫でてくださいぃ。尻尾の付け根もぉ」

 

 改蔵は両手の自由を奪われながら、器用に足の指でリモコンを操作していた。

 平和だ。

 世界を救った英雄()の姿とは到底思えない、堕落の極みである。

 

 ドタドタドタッ! 

 ガララララッ! 

 

 そこへ、玄関の引き戸が乱暴に開け放たれた。

 

「マスタ──ーッ! ただいまぁぁぁッ!!」

 

 飛び込んできたのは、トップアイドル・石川カスミこと、魔人ミスティだ。

 彼女は煌びやかなステージ衣装のまま、息を切らして玄関に倒れ込んだ。

 テレビで見せる完璧な笑顔はどこへやら、その顔は禁断症状に震え、瞳は完全に濁っている。

 

「はぁ、はぁ……! 収録、長すぎ……! もうダメ、ガス欠……!」

 

 彼女は床を這いずり、改蔵のもとへ殺到する。

 そして、マナとメイの間──つまり股間──に顔を埋めようとする。

 

「早く……! 注入して! 濃いやつ、満タンにお願い!」

 

「ギャーッ! オバサンが来たですぅ! シッシッ!」

 マナが尻尾でミスティを叩く。

「わたしのえさ。……とるな。シャーッ」

 メイが威嚇する。

 

「誰がオバサンよ! 私は国民的アイドルよ! ……あぁん、もう我慢できない! いただきまぁす!」

 

「待ったー! そこはウナの指定席だもん!」

 

 さらに背後から、ピンク色の弾丸が飛んできた。

 ウサギ怪人のウナだ。

 彼女は「戦闘員A」としての任務を完全にボイコットし、一日中アジトに入り浸っている。

 バニースーツ姿のまま、改蔵の背中にドスンと馬乗りになり、腰を高速でグラインドさせ始めた。

 

「マスターはウナの椅子なの! 今日こそ子作りするの!」

「重い! 降りろウサギ!」

 改蔵が呻くが、ウナの怪力には勝てない。

 前後左右、そして上から。

 改蔵は完全に美少女怪人たちに包囲され、身動きが取れなくなっていた。

 

 そんな喧騒をよそに、押し入れの襖がスッと開いた。

 中は青白いLEDライトで照らされ、無数のモニターが並ぶ要塞と化している。

 

「……うるさい。配信に乗る」

 

 ネムがヘッドセットをつけたまま顔を出した。

 その隣には、ハッカー怪人のクルミも並んで座っている。

 二人は前回の戦いで意気投合し、今や最強の「引きこもりゲーマーコンビ」として、アジトの押し入れを占拠していた。

 

「……あ、リスナーさん。これ、環境音(ASMR)だから気にしないで」

「……今日の晩御飯、ピザ頼んでいい? 経費で」

 彼女たちは完全にここを実家として認識しているようだ。

 

「おや、随分と賑やかですねぇ」

 

 玄関から、妖艶な香りと共に二人の美女が現れた。

 医療怪人レンと、イソギンチャク怪人ユキだ。

 彼女たちは今や、再建された悪の組織本部の医務室と慰安室を取り仕切る、「裏の女帝」として君臨している。

 

「本部の仕事が早く終わったので、来ちゃいました♡」

 レンが巨大な注射器を置く。

「院長。今日の検診のお時間ですよ? 前立腺のマッサージ、念入りにしましょうね。……ウナちゃん、どきなさい。そこは私の診察台よ」

「私も混ぜてちょうだい。……最近、若い男の精気じゃ物足りなくて」

 ユキが舌なめずりをして、改蔵の足首に触手を絡ませる。

 

「おじさーん! 見て見てー!」

 

 さらに、窓から双子の人形、マリー&ルイーズが飛び込んできた。

 彼女たちの手には、自分たちを模した可愛らしいぬいぐるみが握られている。

 

「私たちのグッズ、今月の売り上げナンバーワンよ!」

「バカ売れ。印税ガッポガッポ」

 彼女たちは組織のマスコットキャラクターとして大ブレイクし、その可愛らしい見た(とドSな言動)で、世界中に新たな信者を増やしていた。

「だから褒めて。頭撫でて。あと充電して」

 双子が改蔵の膝の(マナとメイの上)に強引に座り込む。

「重いですぅ! 潰れるですぅ!」

「くうきよめ。……じゃま」

 

「にゃ〜ん。ただいまにゃ〜」

 

 最後に、猫怪人ミヤが縁側から入ってきた。

 口には大きな(どこかの家の池から獲ってきた錦鯉)をくわえている。

 彼女は自由気ままな野良猫ライフを楽しみつつも、食事と寝床は必ずここに戻ってくるのだ。

 ミヤは魚を置くと、人間の姿に戻り、改蔵の足の間に丸くなって喉を鳴らし始めた。

 

 六畳一間。

 人口密度、限界突破。

 美女、美少女、怪人たちがひしめき合い、その中心にいる改蔵を取り合っている。

 熱気と、甘い匂いと、喧騒が渦巻くカオス。

 

「……おーい。誰か醤油取ってくれ。……あと、誰か俺の酸素を確保してくれ」

 

 改蔵は窒息寸前だった。

 だが、その顔は満更でもない。

 

「はい、どうぞ神主様」

 

 台所から、エプロン姿の五十嵐イスズが現れ、甲斐甲斐しく醤油皿を差し出した。

 彼女は、マナやメイのように四六時中改蔵にへばりつくわけではない。

 だが、このカオスな空間において、全員の胃袋と、そして改蔵の下半身の健康を管理し、このアジトを「機能」させているのは彼女だ。

 

「神主様、顔色がよろしいですね。昨夜の『ご奉仕』が効いたみたいで良かったですぅ」

 

 イスズは、天然なのか計算なのか分からない、とろんとした瞳で微笑んだ。

 彼女にとって、改蔵の世話をすることと、夜の相手をすることは同義だ。

 ご飯を作るように精を搾り取り、洗濯をするように身体を清める。

 羞恥心など微塵もない、完璧な「世話人」兼「情婦」である。

 

「今日は人数が多いですねぇ。……お鍋、一番大きいのにしましょうか。精力がつくように、マムシとニンニクも入れちゃいましょうねぇ」

「……お前、俺を殺す気か?」

「あら、死なせませんよぉ。搾り取れるうちは、生かしておきますから♡」

 イスズがクスリと笑う。その笑顔は、聖母ではなく、男を骨抜きにする魔性の女のそれだった。

 

「だな。……あと、もう一人来るぞ」

 

 改蔵が言った直後。

 

 ガララッ! 

 

「こ、こんにちは……! お野菜、持ってきました……!」

 

 玄関に現れたのは、麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いた健康的な女性だった。

 かつての大悪魔怪人、ヤシロである。

 彼女は会社をきっぱりと辞め、アジトの近くの耕作放棄地を借りて、農業を始めていた。

 陽の光を浴びて少し日焼けした肌は健康的で、目の下のクマも消え、以前の病的な美しさとは違う、生命力に溢れた輝きを放っている。

 

「おお、来たか元社長。今日の収穫は?」

「はい! トマトとキュウリと、あとナスが立派に育ちました!」

 

 ヤシロは泥のついた野菜が入った籠を差し出し、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに微笑んだ。

 その視線が、改蔵と合うと、彼女の顔がポッと赤くなる。

 あの「儀式」以来、彼女もまた、改蔵の「濃厚な魔力」なしでは生きられない身体になってしまった一人だ。

 野菜を届けるというのは口実で、本当の目的は「補給」にあることは、全員が知っていた。

 

「あら、ヤシロさん。いらっしゃい」

 イスズが優しく迎える。

「ちょうどよかったわ。今夜は採れたて野菜のカレーにしましょう」

 

「は、はい! 手伝います! ……あ、あの、その前に……」

 ヤシロがモジモジしながら、改蔵の方を見る。

 そこには、マナ、メイ、ミスティ、ウナ、双子、ミヤが密集している。

 隙間などない。

 

「少しだけ……『休憩』させていただけませんか? ……その、どこでもいいので……」

 

「どこでもいい? 甘いわね元社長! ここは戦場よ!」

 ミスティが牽制する。

「早いもん勝ちだもん! お尻ペンペンしちゃうぞ!」

 ウナが威嚇する。

 

「まあまあ。詰めれば入れますよ。……ほら」

 改蔵が、マナとメイを少しだけ押しのけて(二人は不満げに「むぅ」と声を上げたが)、自分の太もものわずかな隙間をポンポンと叩いた。

 

「! ……はいっ!」

 ヤシロがパァァッと顔を輝かせ、スカートを押さえて改蔵の膝に滑り込む。

 そして、幸せそうに彼の胸に頭を預けた。

 その瞬間、彼女からも甘いため息が漏れる。

 

 カオスが極まる六畳間。

 その時、部屋の隅に置かれた通信機から、悲痛な叫び声が響いた。

 

『ちょ、ちょっと待ってくれたまえ黒野君!』

 

 ホログラムで投影されたのは、やつれきった中間管理職、サイトウだった。

 彼は電卓を片手に、頭を抱えている。

 

『今月の食費! 光熱費! そして雑費! 全部予算オーバーだ! 君のところ、人が増えすぎなんだよ! マナちゃんとメイちゃんのお菓子代だけで赤字だぞ!』

 

 サイトウが叫ぶ。

 確かに、これだけの人数(しかも大食らいの怪人たち)を養うコストは莫大だ。

 

『頼むから稼いでくれ! 世界征服しなくてもいいから、せめて家計を征服してくれ!』

 

「うるせえな。金ならミミガーが出すだろ」

 改蔵が耳をほじりながら答える。

「マスターのみみ、おいしい」

 メイが耳を甘噛みする。

 

『ミミガー君は今、株の暴落でショックを受けて冬眠中だ! 君が働くしかないんだよ!』

 

「ちっ。……労働かよ。一番嫌いな言葉だ」

 

 改蔵は悪態をついたが、その表情は決して不機嫌ではなかった。

 右にマナ、左にメイ。膝にヤシロ、背中にウナ。足元にミヤ、周りにミスティ、レン、ユキ、双子。そして台所にはイスズ。

 彼女たちの体温。笑い声。そして、むせ返るような欲望の匂い。

 それは、彼が守り抜いた「世界」そのものだった。

 

「……ま、仕方ねえか」

 

 改蔵は、ヤシロの肩を抱き、マナの頭を撫で、メイの口に指を突っ込みながら、ニヤリと笑った。

 

「退屈よりは、マシだからな!」

 

 彼は立ち上がり(女たちがボロボロとこぼれ落ち、嬌声を上げる)、天井に向かって拳を突き上げた。

 

「野郎ども! 飯食って、風呂入って、盛大にヤるぞ! それが俺たちの『業務』だ!」

 

「「「はーいッ!!! ♡」」」

 

 美女たちの黄色い歓声が、古民家を揺るがす。

 サイトウが「あぁ……私の胃が……」と崩れ落ちる。

 

「悪の組織、万歳!」

「改蔵様、万歳!」

「セックス万歳!」

 

 窓の外、夕暮れの空に、彼らの馬鹿げた、しかし力強い勝鬨が響き渡る。

 

 ***

 

 その様子を、遠くの電柱の上から眺めている影があった。

 ジャスティンジャーの5人と、覆面ライダー、そしてヒカリとキリハだ。

 

「……相変わらずだな、あいつらは」

 レッドが苦笑する。

「世界を救った英雄が、あんなだらしない男だなんて、世間には絶対言えないわね」

 キリハが呆れつつも、どこか羨ましそうに呟く。

 その手には、マリー&ルイーズのグッズ(ぬいぐるみ)が握られている。

 

「でも、楽しそうですね。……私たちも、たまにはあっちに混ざってみますか?」

 ヒカリが冗談めかして言うと、全員が顔を見合わせ、そして吹き出した。

 

「バカ言え。俺たちは正義の味方だぞ」

 ライダーがバイクのエンジンをかける。

「悪が栄える限り、俺たちの戦いは終わらない。……だがまあ、今日のところは、見逃してやるか」

 

 彼らは夕日に向かって走り去っていく。

 その背中は、以前よりも少しだけ軽やかに見えた。

 

 正義と悪。

 秩序と欲望。

 それらが奇妙に共存する世界で、黒野改蔵の堕落した、しかし愛に満ちた日々は、これからも永遠に続いていく。

 

 悪の組織は、永遠に不滅(と書いて、ふしだらと読む)である。

 

【完】




完結までお付き合いありがとうございました。

色々な怪人を出すのは楽しかったのですが、広げて続けた風呂敷を閉じるのに苦労しました。。
何とかそれらしく終われたかな?と思います。

そして何度も感想をくれた方々。本当に励みになりました。皆様が完結まで支えてくれた作品です。ありがとうございました。
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