※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

13 / 110
12話

 

 ギイイ、と、蔵の古い扉が重い音を立てて開かれた。 黒野改蔵(くろの かいぞう)は、小脇に抱えていた格子アリス(こうし ありす)を、まるで荷物でも放り投げるかのように、魔法陣の中央へと乱暴に投げ捨てた。

 

「きゃあっ!」

 

 アリスの小さな身体が埃っぽい床の上を転がる。 完璧にセットされていたゴスロリのドレスが土と埃にまみれた。

 

「……っ」

 

 アリスは、息を飲んだ。 汚い。 汚い汚い汚い。 完璧であるべき自分の『聖域(ドレス)』がこの下等な人間の下等なアジトの下等な埃で汚された。 その事実が彼女のプライドを、何よりも深く傷つけた。

 

「離しなさい! 触るなと言ったでしょう!」

 

 アリスは、半狂乱で叫び、身にまとわりついた埃を必死で払いのけようとした。 その姿は、潔癖症の人間が汚物に触れた時のそれだった。 蔵の入り口から、マナと、五十嵐イスズ(いがらし いすず)がひょっこりと顔を覗かせた。

 

「あ、あの……神主様。なんだか、すごく怒ってますけど……」

 

 イスズが心配そうに眉を下げる。 彼女は、ブカブカのTシャツ一枚という姿で昨日からすっかりアジトの『世話人』に収まっていた。

 

「大丈夫です、イスズ様! あれは『儀式』前の正常な拒絶反応です!」

 

 マナがきっぱりと言い放つ。 その実、彼女は、ドリル怪人(リン)の時と同じく、プライドの高い素材をどう『落とす』か、改蔵の手腕を興奮気味に見守っていた。

 

「何よアンタたち! 見世物じゃないわよ!」

 

 アリスの人形のように整った顔が初めて人間らしい『怒り』と『屈辱』に歪んだ。

 

「帰しなさい! こんな汚い場所! 私のほうがよっぽど完璧な『人形』だわ!」 「ああ。そうだな」

 

 改蔵が面倒くさそうに、アリスの前に立った。

 

「今のアンタは、ただの『人形ごっこ』をしてる、生意気なガキだ」 「なっ……!」 「だが安心しろ。今からお前を、お望み通り、二度と文句も言わねえ、完璧な『お人形』にしてやるから」

 

 改蔵は、そう言うと、アリスの返事を待たなかった。 彼は、その高価なゴスロリ服の胸元のリボンを、鷲掴みにした。

 

「や……! やめ……!」

 

 ビリビリビリーッ! 布が裂ける、甲高い音。 改蔵は、アリスの最後のプライドであった『完璧なドレス』を、まるで雑巾でも引き裂くかのように、力任せに剥ぎ取り始めた。

 

「いやあああああああああっ!」

 

 アリスの金切り声が蔵の中に響き渡った。 フリルが千切れ、レースが舞う。 それは、単なる暴力ではなかった。 アリスの『存在証明』そのものを、否定する行為だった。

 

「汚い手で私に、触るなあああっ!」

 

 アリスは、小さな拳で改蔵の胸板を叩いた。 だが改蔵は、その抵抗を、まるで小動物のじゃれつきのように、完全に無視した。 服が剥ぎ取られ、血の気のない、白磁のような肌が薄暗い蔵の中に晒される。 それは、確かに、人間離れした、人形のような肌だった。 だがその肌は、改蔵の汚れた手形によって無惨に『汚されて』いた。

 

「……あ」

 

 アリスは、自分の肌についた『汚れ』を見て絶句した。 そしてプツリ、と、何かが切れた。

 

「……殺す」

 

 アリスの瞳から、光が消えた。

 

「アンタも、そこの女も、全員、汚い人間。みんな、みんな、壊してやる」 「ハッ。ようやく、本性が出たか」

 

 改蔵は、自らのTシャツとスウェットも脱ぎ捨てた。 その圧倒的な『陽』の気。 人間の生々しい『生命力』の象徴。 アリスは、その『汚らわしい』巨根を目の当たりにし、吐き気すら覚えた。

 

「……獣」 「ああ。その『獣』がお前を『人形』にしてやるんだよ」

 

 改蔵は、もはや抵抗する力も失ったアリスの身体を、魔法陣の中央に、乱暴に押し倒した。 冷たい床。 埃の匂い。 そして上から覆いかぶさってくる、人間の『熱』。 アリスの完璧であるべき世界が汚されていく。

 

「や……いや……」

 

 アリスのか細い拒絶。 それを、改蔵の巨根が物理的に塞いだ。 処女膜を突き破る、硬質な痛み。

 

「いっ……! ぎぃ……!」

 

 アリスは、叫び声すら、上げられなかった。 痛い。 汚い。 熱い。 汗。 唾液。 自分以外の『体液』が自分の中に流れ込んでくる。 アリスの精神は、その『汚染』に、耐えきれなかった。

 

「……あ、あ……」

 

 涙がそのガラス玉のような瞳から、静かにこぼれ落ちた。

 

「(……壊れる)」 「(……私が汚れて壊れていく)」

 

「おおっ! 始まりました!」

 

 蔵の隅でマナが興奮した声を上げた。

 

「改蔵様の魔力が注入されていきます! ポテンシャル『人形願望』! 因子が改蔵様の魔力と激しく反発しています!」 「あ、あの……神主様」

 

 イスズがTシャツの胸元を握りしめ、おろおろしている。

 

「なんだか、あの子、とっても苦しそうです! もっと、こう、優しく『中和』してあげないと……!」 「うるせえ!」

 

 改蔵が叫んだ。 彼は、今までにない『抵抗』を感じていた。 チアキは『快感』に。 リンは『力』に。 それぞれ、早い段階で儀式を受け入れた。 だがこいつは、違う。 こいつの『人形願望』は、改蔵の『人間的な魔力』そのものを、心の底から『拒絶』している。

 

「あ、ぐ……! この汚い、魔力……! 私に、入ってくるな……!」

 

 アリスは、魔力が注ぎ込まれるたび、まるで毒でも飲まされたかのように、激しく身をよじった。 だが改蔵は、その腰を止めなかった。

 

「ハッ! 汚いかよ! そうだろうな!」

 

 ガツン、ガツン、と、改蔵は、その拒絶ごと、アリスの『核』を突き続けた。

 

「お前が欲しいのは、心も、感情もねえ、冷たい『ガラクタ』だろ!」 「……っ!」 「だったら、俺のこの『汚ねえ』人間(ナマ)の力でお前の『心』を、全部、焼き尽くしてやるよ!」

 

 改蔵は、意図的に、魔力の出力を最大にした。 それは、もはや『儀式』ではなかった。 アリスという『人間』の自我を、魔力で完全に『上書き』するための荒療治だった。

 

「あ、あ、あああああっ!」

 

 アリスの身体がビクン、ビクンと、異常な痙攣を始めた。 拒絶が限界を超える。 魔力がその精神を、壊し始めた。

 

「(……あ。もう、いい)」

 

 アリスの最後の理性がプツリと、切れた。

 

「(……人間、いらない)」 「(……私、いらない)」 「(……こわしてはやく、『人形』に、して)」

 

 彼女が自ら『人間であること』を放棄した、その瞬間。 儀式は、成立した。

 

「……!」

 

 改蔵の身体を、電流のようなものが走った。 さっきまでの激しい『拒絶』が嘘のように消えた。 イスズの時とは、まったく逆。 アリスの『器』が改蔵の魔力を、冷たく、無機質に、『受け入れ』始めたのだ。

 

「……(ああ、そうか。こうすれば、いいのね)」

 

 アリスの身体から、力が抜けた。 ただ、されるがままに、改蔵の魔力注入を、受け入れる。 それは、快感じゃない。 痛みでもない。 ただ、自分という『個』が消えていく、『無』になるための作業だった。

 

「……オラアアアアッ!」

 

 改蔵が最後の一撃と共に、膨大な魔力を叩き込んだ。 アリスの小さな身体が大きく弓なりにしなる。 そして異変が始まった。

 

「最終変態、開始します!」

 

 マナの歓喜の声が響いた。 アリスの白磁のようだった肌が光を失い、完全に、冷たい『陶器』の質感へと変わっていく。 カチリ。 カチリ。 乾いた音と共に、彼女の肘、膝、手首、足首。 そのすべての『関節』が人間のそれから、球体が組み合わさった『球体関節』へと、組み変わっていく。

 

「あ……」

 

 イスズが息を飲んだ。 アリスのプラチナブロンドの髪がその艶を失い、完璧に整えられた『化学繊維』のそれに変わる。 大きく開かれた瞳は、もはや、瞬きをしなかった。 潤んでいたはずの瞳は、命の光を失い、ただ、美しいだけの『ガラス玉』になっていた。

 

「……」

 

 やがて光が収まった。 魔法陣の中央に横たわっていたのは、格子アリスではなかった。 それは、信じられないほど精巧に作られた、一体の美しい、等身大の『ビスクドール』だった。

 

 カクン。 人形がぎこちない動きで首を動かした。 そしてゆっくりと、立ち上がる。 その動きは、滑らかではなく、関節がカチ、カチ、と、わざとらしい音を立てていた。

 

「……」

 

 人形は、自らの『手』を見た。 陶器の手。 完璧な、造形。

 

「……あ」

 

 人形の小さな唇がわずかに開いた。 そこから漏れた声は、アリスのそれではなく、まるで古い蓄音機から流れるような、ノイズ混じりの無機質な音声だった。

 

「……かん、ぺき」 「……」

 

 人形は、カクン、と、首を改蔵に向けた。 そのガラス玉の瞳が改蔵を、じっと、見つめた。

 

「……すごい」 「ひっ……!」

 

 イスズが小さな悲鳴を上げ、改蔵の後ろに隠れた。 生きているのに、生きていない。 そのあまりにも不気味な『完成度』に、恐怖を覚えたのだ。 マナだけが興奮に、魔導書を握りしめていた。

 

「やりました、改蔵様! 完璧な『人形怪人(ドール・モンスター)』の誕生です!」 「……ああ」

 

 改蔵は、服を着ながら、自らの『最高傑作(あるい は、最悪の失敗作)』を、見つめていた。

 

「……マスター」

 

 人形が改蔵に向かって一歩、踏み出した。

 

「わたくしを、こんなに、うつくしく、してくれてありがとう、ございます」

 

 カクンと、人形はぎこちなくスカートの裾をつまみ完璧な『淑女の(カーテシー)』をしてみせた。 人間の『心』を失った完璧な怪人がそこに誕生した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。