ギイイ、と、蔵の古い扉が重い音を立てて開かれた。
「きゃあっ!」
アリスの小さな身体が埃っぽい床の上を転がる。 完璧にセットされていたゴスロリのドレスが土と埃にまみれた。
「……っ」
アリスは、息を飲んだ。 汚い。 汚い汚い汚い。 完璧であるべき自分の『
「離しなさい! 触るなと言ったでしょう!」
アリスは、半狂乱で叫び、身にまとわりついた埃を必死で払いのけようとした。 その姿は、潔癖症の人間が汚物に触れた時のそれだった。 蔵の入り口から、マナと、五十嵐イスズ(いがらし いすず)がひょっこりと顔を覗かせた。
「あ、あの……神主様。なんだか、すごく怒ってますけど……」
イスズが心配そうに眉を下げる。 彼女は、ブカブカのTシャツ一枚という姿で昨日からすっかりアジトの『世話人』に収まっていた。
「大丈夫です、イスズ様! あれは『儀式』前の正常な拒絶反応です!」
マナがきっぱりと言い放つ。 その実、彼女は、ドリル
「何よアンタたち! 見世物じゃないわよ!」
アリスの人形のように整った顔が初めて人間らしい『怒り』と『屈辱』に歪んだ。
「帰しなさい! こんな汚い場所! 私のほうがよっぽど完璧な『人形』だわ!」 「ああ。そうだな」
改蔵が面倒くさそうに、アリスの前に立った。
「今のアンタは、ただの『人形ごっこ』をしてる、生意気なガキだ」 「なっ……!」 「だが安心しろ。今からお前を、お望み通り、二度と文句も言わねえ、完璧な『お人形』にしてやるから」
改蔵は、そう言うと、アリスの返事を待たなかった。 彼は、その高価なゴスロリ服の胸元のリボンを、鷲掴みにした。
「や……! やめ……!」
ビリビリビリーッ! 布が裂ける、甲高い音。 改蔵は、アリスの最後のプライドであった『完璧なドレス』を、まるで雑巾でも引き裂くかのように、力任せに剥ぎ取り始めた。
「いやあああああああああっ!」
アリスの金切り声が蔵の中に響き渡った。 フリルが千切れ、レースが舞う。 それは、単なる暴力ではなかった。 アリスの『存在証明』そのものを、否定する行為だった。
「汚い手で私に、触るなあああっ!」
アリスは、小さな拳で改蔵の胸板を叩いた。 だが改蔵は、その抵抗を、まるで小動物のじゃれつきのように、完全に無視した。 服が剥ぎ取られ、血の気のない、白磁のような肌が薄暗い蔵の中に晒される。 それは、確かに、人間離れした、人形のような肌だった。 だがその肌は、改蔵の汚れた手形によって無惨に『汚されて』いた。
「……あ」
アリスは、自分の肌についた『汚れ』を見て絶句した。 そしてプツリ、と、何かが切れた。
「……殺す」
アリスの瞳から、光が消えた。
「アンタも、そこの女も、全員、汚い人間。みんな、みんな、壊してやる」 「ハッ。ようやく、本性が出たか」
改蔵は、自らのTシャツとスウェットも脱ぎ捨てた。 その圧倒的な『陽』の気。 人間の生々しい『生命力』の象徴。 アリスは、その『汚らわしい』巨根を目の当たりにし、吐き気すら覚えた。
「……獣」 「ああ。その『獣』がお前を『人形』にしてやるんだよ」
改蔵は、もはや抵抗する力も失ったアリスの身体を、魔法陣の中央に、乱暴に押し倒した。 冷たい床。 埃の匂い。 そして上から覆いかぶさってくる、人間の『熱』。 アリスの完璧であるべき世界が汚されていく。
「や……いや……」
アリスのか細い拒絶。 それを、改蔵の巨根が物理的に塞いだ。 処女膜を突き破る、硬質な痛み。
「いっ……! ぎぃ……!」
アリスは、叫び声すら、上げられなかった。 痛い。 汚い。 熱い。 汗。 唾液。 自分以外の『体液』が自分の中に流れ込んでくる。 アリスの精神は、その『汚染』に、耐えきれなかった。
「……あ、あ……」
涙がそのガラス玉のような瞳から、静かにこぼれ落ちた。
「(……壊れる)」 「(……私が汚れて壊れていく)」
「おおっ! 始まりました!」
蔵の隅でマナが興奮した声を上げた。
「改蔵様の魔力が注入されていきます! ポテンシャル『人形願望』! 因子が改蔵様の魔力と激しく反発しています!」 「あ、あの……神主様」
イスズがTシャツの胸元を握りしめ、おろおろしている。
「なんだか、あの子、とっても苦しそうです! もっと、こう、優しく『中和』してあげないと……!」 「うるせえ!」
改蔵が叫んだ。 彼は、今までにない『抵抗』を感じていた。 チアキは『快感』に。 リンは『力』に。 それぞれ、早い段階で儀式を受け入れた。 だがこいつは、違う。 こいつの『人形願望』は、改蔵の『人間的な魔力』そのものを、心の底から『拒絶』している。
「あ、ぐ……! この汚い、魔力……! 私に、入ってくるな……!」
アリスは、魔力が注ぎ込まれるたび、まるで毒でも飲まされたかのように、激しく身をよじった。 だが改蔵は、その腰を止めなかった。
「ハッ! 汚いかよ! そうだろうな!」
ガツン、ガツン、と、改蔵は、その拒絶ごと、アリスの『核』を突き続けた。
「お前が欲しいのは、心も、感情もねえ、冷たい『ガラクタ』だろ!」 「……っ!」 「だったら、俺のこの『汚ねえ』
改蔵は、意図的に、魔力の出力を最大にした。 それは、もはや『儀式』ではなかった。 アリスという『人間』の自我を、魔力で完全に『上書き』するための荒療治だった。
「あ、あ、あああああっ!」
アリスの身体がビクン、ビクンと、異常な痙攣を始めた。 拒絶が限界を超える。 魔力がその精神を、壊し始めた。
「(……あ。もう、いい)」
アリスの最後の理性がプツリと、切れた。
「(……人間、いらない)」 「(……私、いらない)」 「(……こわしてはやく、『人形』に、して)」
彼女が自ら『人間であること』を放棄した、その瞬間。 儀式は、成立した。
「……!」
改蔵の身体を、電流のようなものが走った。 さっきまでの激しい『拒絶』が嘘のように消えた。 イスズの時とは、まったく逆。 アリスの『器』が改蔵の魔力を、冷たく、無機質に、『受け入れ』始めたのだ。
「……(ああ、そうか。こうすれば、いいのね)」
アリスの身体から、力が抜けた。 ただ、されるがままに、改蔵の魔力注入を、受け入れる。 それは、快感じゃない。 痛みでもない。 ただ、自分という『個』が消えていく、『無』になるための作業だった。
「……オラアアアアッ!」
改蔵が最後の一撃と共に、膨大な魔力を叩き込んだ。 アリスの小さな身体が大きく弓なりにしなる。 そして異変が始まった。
「最終変態、開始します!」
マナの歓喜の声が響いた。 アリスの白磁のようだった肌が光を失い、完全に、冷たい『陶器』の質感へと変わっていく。 カチリ。 カチリ。 乾いた音と共に、彼女の肘、膝、手首、足首。 そのすべての『関節』が人間のそれから、球体が組み合わさった『球体関節』へと、組み変わっていく。
「あ……」
イスズが息を飲んだ。 アリスのプラチナブロンドの髪がその艶を失い、完璧に整えられた『化学繊維』のそれに変わる。 大きく開かれた瞳は、もはや、瞬きをしなかった。 潤んでいたはずの瞳は、命の光を失い、ただ、美しいだけの『ガラス玉』になっていた。
「……」
やがて光が収まった。 魔法陣の中央に横たわっていたのは、格子アリスではなかった。 それは、信じられないほど精巧に作られた、一体の美しい、等身大の『ビスクドール』だった。
カクン。 人形がぎこちない動きで首を動かした。 そしてゆっくりと、立ち上がる。 その動きは、滑らかではなく、関節がカチ、カチ、と、わざとらしい音を立てていた。
「……」
人形は、自らの『手』を見た。 陶器の手。 完璧な、造形。
「……あ」
人形の小さな唇がわずかに開いた。 そこから漏れた声は、アリスのそれではなく、まるで古い蓄音機から流れるような、ノイズ混じりの無機質な音声だった。
「……かん、ぺき」 「……」
人形は、カクン、と、首を改蔵に向けた。 そのガラス玉の瞳が改蔵を、じっと、見つめた。
「……すごい」 「ひっ……!」
イスズが小さな悲鳴を上げ、改蔵の後ろに隠れた。 生きているのに、生きていない。 そのあまりにも不気味な『完成度』に、恐怖を覚えたのだ。 マナだけが興奮に、魔導書を握りしめていた。
「やりました、改蔵様! 完璧な『
改蔵は、服を着ながら、自らの『
「……マスター」
人形が改蔵に向かって一歩、踏み出した。
「わたくしを、こんなに、うつくしく、してくれてありがとう、ございます」
カクンと、人形はぎこちなくスカートの裾をつまみ完璧な『淑女の