※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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14話

 

 古びたアジトへ穏やかな午後の光が差し込む。 縁側で小悪魔マナが小さな足を揺らし退屈そうにあくびを漏らす。 居間では五十嵐イスズ(いがらし いすず)が楽しげに鼻歌を歌い畳を丁寧に拭き掃除している。 彼女の格好は相変わらず黒野改蔵(くろの かいぞう)のブカブカなTシャツ一枚。 その豊かな胸が屈伸のたびにぽよんと大きく揺れる。 その光景を寝室(六畳間)の入り口から改蔵が柱に寄りかかりだらしなく眺めていた。

 

 平和だった。 怪人を作成し組織に納品する『任務』さえなければここはただの怠惰でエロい理想郷(ユートピア)だ。 改蔵は大きく欠伸をした。

 

「おい」 「はいっ! 神主様!」

 

 イスズがぱっと顔を上げ満面の笑みを向けた。

 

「マナ」 「はいっ! 改蔵様!」

 

 マナも縁側からぴょんと飛び降りてきた。

 

「ちょっと魔力が不安定になってきた」 「ええっ!?」

 

 イスズの顔がさっと青ざめた。

 

「大変です! 神主様の『陽』の気がまた暴走しようと……!」 「ああ。だが今回はどうも様子が違う」

 

 改蔵は神妙な顔つきで自らの下腹部あたりを押さえた。

 

「『浄化』と『安定』。その両方が同時に必要みたいだ」 「えっ」

 

 イスズとマナの動きが同時に止まる。 そして二人は顔を見合わせた。

 

「『浄化』と『安定』」 「を『同時』に」

 

 イスズの頬がぽっと赤く染まった。 マナの瞳がギラリと獲物を見つけたかのように輝いた。

 

「そ、それって……!」 「はい! つまり先日試した高度な『共同儀式』ですね!」

 

 マナが改蔵の意図を完璧に(エロ的な意味で)汲み取った。 イスズがこくりと頷く。

 

「わ、わかりました! 世界平和のためですものね! 私がんばります!」 「おう。じゃあ寝室(儀式の間)行くか」

 

 改蔵はニヤリと笑い二人を万年床が敷かれた薄暗い六畳間へといざなった。

 

 ***

 

 アジトでの『共同儀式』がまさにクライマックスを迎えようとしていたその頃。 アジトから数キロ離れた高校のプール。 午後の日差しが水面をきらきらと照らし出す。 部活動の時間はとうに終わっている。 静まり返ったプールサイドにただ一つ荒々しい水音だけが響き渡っていた。

 

 バシャアアアン! ターン。 水中でしなやかな日に焼けた肢体がイルカのように翻る。 中野アズサ(なかの あずさ)はただひたすらに泳ぎ続けていた。

 

 短いショートカット。 水泳で鍛え上げられた一切の無駄がない引き締まった筋肉。 彼女は自らの身体を極限まで『道具』として磨き上げていた。 水泳部のエース。 だが彼女は満足していなかった。

 

 ザバアッ! アズサはプールの壁を叩き水面から顔を出した。 「はあっ、はあっ……!」 荒い呼吸。 彼女はプールサイドに設置されたデジタルのタイムキーパーを忌々しげに睨みつけた。 『0:58.99』 百メートル自由形。 自己ベストにはほど遠い。 ここ数ヶ月彼女のタイムは完全に停滞していた。

 

「くそっ」

 

 アズサは濡れた拳で壁を叩いた。 (何が足りない) (フォームは完璧なはずだ。筋肉も限界までつけた。なのに)

 

 彼女は水の中で自らの『腕』を見た。 日焼けしたしなやかな腕。 だがそれはどうしようもなく『人間』の腕だった。 もっと水を力強く『掴む』形。 もっと抵抗のない流線型の『胴体』。

 

(この身体が重い) (この人間の『形』が私のリミッターだ)

 

 彼女が求めているのは勝利や名声ではなかった。 ただ純粋に誰よりも『速く』。 水の『抵抗』から解放されたい。 そのためならこの人間の『身体』さえ捨ててもいい。 そんなアスリートとしての純粋すぎる『渇望』が彼女の全身を焦がしていた。

 

「もう一本」

 

 アズサはゴーグルをつけ直し再び壁を蹴った。 その鬱屈した『渇望』の波動を悪の組織の『スキャナー』が感知していることなど知る由もなかった。

 

 ***

 

「はふぅ」

 

 アジトの六畳間。 『共同儀式』は無事に終了していた。 改蔵は完全な『安定』と『浄化』を終え賢者のように天井を見つめていた。 その右腕にはマナが。 左腕にはイスズが。 二人とも汗だくでとろとろに溶けた恍惚の表情で改蔵に抱きついていた。

 

「す、すごかったです神主様」 「はいぃ。マナの魔力回路もイスズ様の『浄化』のおかげでいつもよりスムーズに安定しましたぁ」 「ああ。三人同時最高だったな」

 

 世界平和は今日も守られた。 改蔵がその完璧なスローライフの余韻に浸っていたその時だった。 マナのTシャツ(イスズのお下がり)の胸ポケット(イスズが縫い付けた)で魔術スマートフォンが震えた。

 

「んん? あ、はいマナです」 「スキャナーです。改蔵様」

 

 マナは眠い目をこすり画面を見た。 そしてその目がカッと見開かれた。

 

「こ、これは! 昨日のアリスさんに匹敵する高ポテンシャル反応です!」 「ほう」 「場所は近くの高校。『欲望』因子は『身体改造』!?」

 

 マナは飛び起きた。 『儀式』の直後だというのに首席才媛の『仕事モード』の血が騒いだのだ。

 

「改蔵様! イスズ様! アジトをお願いします!」 「お? おう」 「い、いってらっしゃいマナちゃん! 気をつけてね!」

 

 マナは自分用のレオタードに(急いで)着替えると黒い煙と共にその姿をアジトから消した。 改蔵はまあいいかと再びイスズの柔らかい身体を抱き寄せた。 『二度寝(浄化)』も悪くない。

 

 ***

 

 夕暮れ。 部室棟の女子更衣室。 アズサは一人冷たいシャワーを浴びタオルで乱暴に身体を拭いていた。 疲労困憊だった。 だが心はまだ渇望に燃えていた。 (どうすればいい) (どうすれば私は速くなれる) その独り言のような心の叫びに答える者がいた。

 

「その『身体』を捨てればいいのです」

 

 不意に声がした。 ロッカーの上。 そこに金髪の小さな悪魔(アズサにはそうは見えなかった)が座っていた。

 

「誰だアンタ」

 

 アズサは驚かなかった。 ただ警戒し低い声で問うた。

 

「私はマナ。貴女の『願い』を叶えに来ました」 「……」

 

 アズサは無言でタオルを身に巻き付けた。

 

「『身体改造』。貴女、そう願っていましたね?」 「盗み聞きか。趣味が悪いな」 「盗み聞きではありません。貴女の『魂』がそう叫んでいたのです」

 

 マナはロッカーからふわりと床に降り立った。

 

「私なら貴女を今の人間の『限界』から解放してあげられます」 「……」 「貴女が望むなら水中の誰よりも速い最強の『存在』に作り替えて差し上げます」

 

 アズサの瞳がギラリと光った。 それは彼女が心の底から求めていた言葉だった。

 

「どうやって」 「『儀式』です。神聖な魔力を使った『改造』の儀式ですよ」 「儀式」 「私たちの『マスター』が貴女の鍛え上げられた『器』へ人間を超えた『力』を注ぎ込んでくださいます」

 

 アズサはマナの悪魔の瞳をじっと見つめ返した。 嘘をついているようには見えなかった。 いや嘘でも構わなかった。 もしそれで今の『停滞』を破れるのなら。

 

「面白い」

 

 アズサはニヤリと挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。その『儀式』とやら受けてやる。その代わり」

 

 アズサは自分の引き締まった上腕二頭筋を指で叩いた。

 

「中途半端な『力』だったらアンタもその『マスター』とやらも私がこの手で叩き潰す」 「……!」

 

 マナはゴクリと生唾を飲んだ。 カメレオン(チアキ)ともドリル(リン)とも人形(アリス)とも違う。 この女は自らの『意志』で強くなることを望んでいる。 (こ、この人! 最高すぎる『素材』です!)

 

「フフ。望むところです。ではご案内します。私たちの『聖域』へ」

 

 マナがアズサの鍛え上げられた腕を掴んだ。 次の瞬間二人の姿は塩素の匂いがする更衣室から消えていた。

 

 ***

 

 カビ臭いアジトの土間。 アズサは転移のわずかな浮遊感の後すぐに体勢を立て直した。 そして周囲の『匂い』と『空気』を瞬時に分析した。 (なんだこの埃っぽい場所は)

 

「おーマナ。ご苦労さん」

 

 奥の居間から気の抜けた声がした。 寝起きのTシャツ姿の改蔵。 その後ろからひょっこりとTシャツ一枚(ノーパン)のイスズが顔を出した。

 

「あ、マナちゃんお帰りなさい! あ、その子が新しい『巫女』様ですか?」 「……」

 

 アズサはそのあまりにも緊張感のないだらしない『儀式場』の光景に眉をひそめた。

 

「マナ」 「は、はいっ!」 「アンタの言ってた『マスター』ってのはこいつか?」

 

 アズサは改蔵をあごでしゃくった。 そのスポーツ選手特有の鋭い目で改蔵のだらしない身体(だが芯は異様に鍛えられている)を値踏みするように見つめた。

 

「ふーん」

 

 アズサは不敵な笑みを浮かべた。

 

「まあいい。見た目はともかく。アンタが私を『改造』するんだな?」

 

 改蔵はそのまったく物怖じしない『素材』の態度にいつものスケベな笑みを浮かべた。

 

「ああそうだ。お前を骨の髄まで『作り替え』てやるよ」

 

 二人の視線が火花のようにぶつかった。

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