※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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1話

 

 朝の光が、古びた障子戸を薄ぼんやりと照らしている。 チチチ、と鳥のさえずりが聞こえる、長閑な田舎の朝。 世界征服を目論む悪の組織のアジトが、こんなにも平和な朝を迎えていることなど、誰も知る由がない。 埃っぽい六畳間の畳の上。万年床と化した布団の山が、もぞもぞと動いた。

 

「んん……」

 

 布団の中から、黒野改蔵(くろの かいぞう)がうめき声とともに這い出してきた。 寝癖だらけの髪。スウェットのズボンだけを履いた、締まりのない上半身。 とてもじゃないが、世界を恐怖に陥れる悪の組織の黒幕(怪人作成担当)には見えない。

 

「……腹減った」

 

 昨日脱ぎ散らかしたTシャツを頭から被り、ふらふらと部屋を出ようとする。 その足に、布団の中から伸びてきた白く細い腕が絡みついた。

 

「改蔵様……」

 

 吐息混じりの甘い声。 布団がめくれ、昨日召喚したばかりの小悪魔、マナが姿を現した。 光沢のある黒いレオタード姿。しかしその衣装は、昨夜の「神聖なる儀式」の激しさで少しばかりずり下がり、コンパクトながらも形の良い胸の膨らみが、あわやこぼれ落ちそうになっている。 輝く金髪は乱れ、空色の瞳はとろりと潤んでいた。

 

「……まだ『安定』しておりません」

 

 マナはそう言うと、改蔵の足首を掴んだまま、ずるずると這い寄ってきた。 そして、改蔵のスウェットのゴム紐に、ためらいなく手をかける。

 

「お、おいマナ。もう朝だぞ。腹減ったって」 「いけません、改蔵様」

 

 マナは、昨日までの首席才媛然とした態度はどこへやら、うっとりとした表情で改蔵の逞しい下半身に頬ずりした。

 

「契約の安定は、サポート担当悪魔としての最優先事項です! 魔力の経路が不安定なままでは、今後の怪人作成業務に支障が……!」 「いや、お前が一番支障出てるだろ。完全にセックスのことしか考えてねえじゃねえか」 「違います! これはあくまで神聖な……あぁん!」

 

 改蔵の呆れた声も、マナの耳には届いていない。 マナは、その小さな身体で改蔵を再び畳の上へ引き倒そうと、懸命に腰を振り始めた。 魔界の訓練校首席卒業。 その真面目さと勤勉さが、今はすべて「契約の安定(という名のセックス)」に振り向けられていた。

 

「あぁっ! 改蔵様の魔力……! なんて、濃密で……!」 「ったく、しょうがねえなあ……」

 

 改蔵は、世界征服だの悪の組織だのには一ミリも興味がなかった。 だが、このエロ可愛い小悪魔と好きなだけセックスできるという報酬()には、すこぶる満足していた。 どうせ暇な田舎のスローライフだ。 朝飯の前に、一発「儀式」をキメるのも悪くない。

 

「ほらよ! 神聖な『注入』だろ!」 「はいぃっ! いただきます、ですぅ!」

 

 縁側では、今日も小鳥が平和に鳴いている。 テレビのニュースが、遠くの都会でジャスティンジャーが新しい怪人を撃破したと伝えていたが、アジトの中では、悪魔の甲高い嬌声が響き渡るばかりだった。

 

 ***

 

 同時刻。 都会の喧騒が戻り始めた、私立大学のキャンパス。 縞田チアキ(しまだ ちあき)は、友人たちの退屈な会話に、内心で大きなため息をついていた。

 

「てか、昨日の怪人、マジウケるよね。カメレオンのくせに、全然隠れられてないし」 「わかるー。聖剣姫キリハに一瞬で見つかって、秒殺されてたし」

 

 友人たちがスマホをいじりながら、昨日のヒーロー番組(という名の本物の戦闘中継)の話題で盛り上がっている。 チアキは、そんな会話に愛想笑いを浮かべながら、手元の講義ノートに視線を落とした。 明るい茶髪のロングヘア。少し焼けた小麦色の肌は、健康的な色気を放っている。 流行の、身体のラインを隠さないファッション。 抜群のプロポーションも相まって、彼女はキャンパス内でも常に注目の的だった。 いわゆる「ギャル系」に分類される彼女は、誰からも明るく、ノリのいい人気者だと思われている。

 

 だが、チアキの内心は、友人たちの誰とも共有できない秘密の情熱で満たされていた。 (……カメレオン怪人。素材は悪くないのに、使い方が素人すぎる) 彼女の頭の中は、そんな批評でいっぱいだった。

 

 チアキの趣味。 それは、コスプレだった。 いや、ただのコスプレではない。 彼女が求めるのは、衣装を着てキャラクターになりきる「ごっこ遊び」ではなかった。 彼女の欲望は、もっと根本的なもの。 「変身」 そのものだった。 今の自分(縞田チアキ)とはまったく別の存在に、物理的に、精神的に、完全になりきりたい。 カメレオンのように、周囲の風景に溶け込んで、自分という存在を消し去りたい。 そんな、倒錯的とも言える変身願望を、彼女は密かに抱えていた。 だから、世間が恐れる「怪人」という存在が、チアキには時として、眩しく映ることさえあった。

 

「チアキー? 聞いてる?」 「あ、ごめんごめん! 聞いてるよ! 今日の放課後、カラオケでしょ? 行く行く!」

 

 チアキは、パッと笑顔の仮面を貼り付け、友人たちの輪に戻っていく。 (……あーあ。本当に、変身できたらいいのに) そんな、叶うはずのない願望を、青空に吐き出すように、彼女は再び小さくため息をついた。

 

 ***

 

「はふぅ……ごちそうさまでした、です……」 「おー。こっちもごちそうさん」

 

 アジトでは、ようやく朝の「儀式」第二ラウンドが終了したところだった。 改蔵は今度こそTシャツを着込み、マナはぐったりと畳の上で伸びている。

 

「さて、と。で、今日の『仕事』はどうすんだよ」 「あ、はい! そうでした!」

 

 マナは、慌てて懐から魔術的なスマートフォンを取り出した。 画面には、なにやら怪しげなレーダーマップが表示されている。

 

「これは、魔界科学の粋を集めた『潜在的怪人因子(ポテンシャル)スキャナー』です!」 「なにそれ」 「平たく言えば、コンプレックスや、鬱屈した欲望を強く抱いている人間……つまり、怪人化しやすい『素材』を探すための道具です!」 「へえ、便利じゃん」

 

 マナが画面を操作すると、いくつかの光点がマップ上に表示された。

 

「現在地から一番近い、高反応(ハイ・ポテンシャル)な個体は……ここですね」

 

 画面が拡大され、一人の女性の写真とプロフィールが表示される。 『縞田チアキ。二十歳。大学生。表層意識:充実。深層意識:強い変身願望(自己同一性への懐疑)

 

「ふーん。カワイイじゃん」 「改蔵様!」

 

 改蔵の不純な呟きに、マナが頬を膨らませた。

 

「これは『素材』です! 決して、改蔵様の性欲処理の道具では……!」 「お前が言うな」 「うぐっ……」

 

 マナは、つい先ほどまで腰を振っていた張本人であることを指摘され、言葉に詰まる。

 

「と、とにかく! 任務です! 私がこの『素材』をアジトまで連行してきますので、改蔵様は『儀式』の準備をお願いします!」 「準備っつってもなあ。俺はいつでも臨戦態勢だが」

 

 改蔵がニヤリと笑い、自身の股間を軽く叩いた。 その姿に、マナは顔を真っ赤にしながらも、どこか恍惚とした表情を浮かべる。

 

「か、改蔵様……! さすが、黒幕です……!」 「はいはい。さっさと行ってこい」 「は、はいっ! 行ってまいります!」

 

 マナは、ビシッと(少し腰砕けになりながら)敬礼すると、その姿を黒い煙とともに掻き消した。 召喚されたばかりで、まだ空間転移は不安定だが、近距離なら問題ないらしい。

 

「さて、と。メシの前に、もう一仕事か」

 

 改蔵は、これから始まる「怪人作成」という名の、新たなセックスを想像し、下品な笑みを浮かべた。

 

 ***

 

 大学からの帰り道。 カラオケで無難に盛り上がり、友人たちと別れたチアキは、一人、夕暮れの道を歩いていた。 (……疲れた) 「ノリのいいチアキ」を演じるのは、骨が折れる。 早く家に帰って、こっそり注文した新しいコスプレ衣装のウィッグでも調整しよう。 そう考えながら、人通りの少ない路地に入った、その時だった。

 

「あの、もし」

 

 不意に、背後から声をかけられた。 振り返ると、そこに立っていたのは、小柄な金髪の少女だった。 黒いレオタードに、小さな悪魔の翼。 完璧な造形。

 

「……コスプレ?」

 

 チアキは、思わず呟いていた。 あまりにも現実離れした、しかしクオリティの高いその姿に、目が釘付けになる。

 

「違います! これは悪魔の正装です!」

 

 少女は、なぜかぷんぷんと怒っている。

 

「あなたが、縞田チアキさん、ですね?」 「え、あ、はい。そうですけど……」 「単刀直入にお伺いします!」

 

 少女は、マナと名乗った。 彼女は、チアキの目をじっと見つめ、有無を言わさぬ迫力で言い放った。

 

「あなた、変身したいんでしょう?」 「え……!?」

 

 心臓が、ドクリと跳ねた。 誰にも言ったことのない、自分だけの秘密の欲望。 なぜ、この少女が。

 

「今の自分じゃない、まったく別の存在に。溶けて、消えて、なりきってみたい。そう、思っていませんか?」 「な、なんで、それを……」

 

 チアキが狼狽する。 マナは、フフンと得意げに小さな胸を反らせた。

 

「私は悪魔ですから。人間の隠された欲望くらい、お見通しです」 「悪魔……」 「私なら、あなたのその願い、叶えられますよ」

 

 甘い、誘惑の言葉だった。 怪しい。どう考えても怪しすぎる。 だが、チアキの心の奥底で、無視できない何かが叫んでいた。 「変身できる」 その言葉が、彼女の理性を麻痺させていく。

 

「……どうすれば、いいの?」

 

 チアキが、かすれた声で尋ねた。 マナは、訓練校首席の営業スマイル(のつもり)を浮かべた。

 

「簡単です。私たちの『アジト』で、神聖な『儀式』を受けるだけですよ」 「儀式……」 「はい! さあ、こちらへ」

 

 マナが、チアキの手を引く。 その手は、見た目に反して、恐ろしく冷たかった。 チアキは、何かに取り憑かれたように、その小さな悪魔の後に続いた。

 

 連れてこられたのは、町外れにある、古びた一軒家だった。 どう見ても、ただのボロい民家だ。

 

「ここが……アジト?」 「はい! 認識阻害の結界が張ってあるので、一般人にはただの空き家にしか見えません!」

 

 マナが、得意げに玄関の引き戸を開ける。 ギイ、と重い音が鳴った。

 

「改蔵様ー! 『素材』、調達してまいりました!」

 

 薄暗い土間。 その奥から、気の抜けた返事が聞こえた。

 

「おー。ご苦労さん」

 

 奥の居間から、一人の男が顔を出した。 Tシャツにスウェット。寝癖だらけの髪。 縁側で茶をすすっているのが似合いそうな、平凡な……いや、少しだけ顔立ちは良いかもしれないが、それだけだ。 チアキは、ここでようやく我に返った。

 

(……は?)

 

 コスプレの少女。神聖な儀式。悪魔のアジト。 そして、気の抜けたTシャツの男。 状況が、まったく理解できない。

 

「あの……何、これ……?」 「あ?」

 

 改蔵が、チアキの全身を、品定めするようにジロリと見た。 小麦色の肌。抜群のプロポーション。 その視線は、明らかに「神聖」なものとは程遠い、生々しい欲望の色をしていた。

 

「……マナ、こいつが今日の?」 「はい! 高ポテンシャルの逸材です!」 「へえ。そりゃ、楽しみだ」

 

 男は、ニヤリと、どうしようもなくスケベな笑みを浮かべた。 チアキは、自分がとんでもない場所に来てしまったことを、ようやく悟った。

 

「な、なんなのよアンタたち! 帰る!」

 

 踵を返そうとしたチアキの背後で、ピシャリ、と無情にも玄関の戸が閉まる音がした。 マナが、冷たい笑顔で出口を塞いでいる。

 

「ダメですよ。神聖な儀式が、始まりますから」

 

 チアキの運命は、この能天気な黒幕と、色狂いの小悪魔の手に完全に握られたのだった。

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