「助けて……!」
渡辺ノドカ(わたなべ のどか)のか細い悲鳴が土間に響いた。 だがそれは彼女の絶望の始まりでしかなかった。
「ひっ……!」
ノドカは後ずさろうとした。 だが玄関の引き戸は開かない。 小悪魔マナがいつの間にか回り込み完璧に退路を塞いでいた。
「大丈夫ですノドカさん! 私たちを信じてください!」
「あ、あの! 大丈夫ですよ!」
奥の居間から五十嵐イスズ(いがらし いすず)がTシャツ一枚の無防備な姿で駆け寄ってきた。 その手にはなぜか温かいお茶の入った湯呑みを持っている。
「神主様は悪い人じゃありません! とっても『儀式』が上手なんです!」
「いや……! 来ないで! アンタたち、グルなのね!」
ノドカは完全にパニックだった。 お人好しな彼女の頭脳ではこの
「グルと言われましても」
マナが困ったように眉を下げた。
「私たちは貴女の『悩み』を解決しに来たのです。貴女のその『苦しみ』を」
「悩み……?」
「そうだ」
改蔵が重い声で割り込んだ。 彼はゆっくりとノドカに近づく。 ノドカは壁に背中を打ち付け逃げ場を失った。 改蔵の太い指がノドカの目の前で立てられる。 そしてその指はゆっくりと下がりノドカの『胸』を指し示した。
「それだろ」
「……!」
ノドカの呼吸が止まった。 図星だった。 彼女の人生で最も触れられたくない『核』だった。 彼女は反射的に自らの胸を腕で強く抱きしめた。 まるでそれが汚らわしいものでもあるかのように。
「邪魔なんだろ」
改蔵が吐き捨てるように言った。
「重いんだろ。肩が凝るんだろ。人の視線がうざいんだろ。いっそ無くなってほしい。そう思ってるな」
「な……! なんで……!」
「スキャナーにそう出てました!」
マナが得意げに魔術スマホを掲げた。
「貴女の『鬱屈したポテンシャル』は過去最高クラスです! 早く
ノドカは震えた。 この人たちは知っている。 自分の誰も知らないはずの『秘密』の願いを。 その事実に恐怖よりも別の感情が湧き上がった。 『絶望』の中の、ほんの一筋の、ありえない『期待』。
「……本当に?」
ノドカは震える声で尋ねた。
「本当に……この、重いのが……無くなるの?」
「ああ」
改蔵はニヤリと笑った。 その
「俺の『儀式』を受ければな。そいつはもうお前の『悩み』じゃなくなる。綺麗サッパリ『作り替え』てやるよ」
「よかったですね!」
イスズが心の底から嬉しそうに手を叩いた。
「神主様の『儀式』は本当にすごいです! 私も毎日受けてますけど身体がとっても『軽く』なりますよ!」
「え……?」
ノドカはイスズの言葉に食いついた。 イスズの胸もノドカには劣るが常識外れの豊満さだ。 その彼女が『軽く』なると。
(この人たちなら。本当に。私を『普通』にしてくれるかもしれない)
ノドカはもう正常な判断ができなかった。 長年の苦しみは彼女をそこまで追い詰めていた。
「……わかった」
ノドカは妹に頼まれた本の入った紙袋をそっと床に置いた。
「儀式……受ける。だから。私を『普通』に、してください……!」
「ハッ! 話が早えな!」
改蔵の笑い声が響いた。
「おう。任せとけ。アジト(ここ)で一番『
改蔵はノドカの細い腕を掴んだ。 その力は拒絶を許さなかった。
「イスズマナ! お前らは
「はいっ!」
「ああん! 共同儀式じゃないんですね! でも見学します!」
改蔵はノドカを抵抗する暇も与えず儀式の
***
カビ臭い土蔵。 改蔵はノドカを魔法陣の中央に突き飛ばした。
「きゃっ!」
ノドカは埃っぽい床に尻餅をついた。 その反動で胸が大きく揺れる。 改蔵はその『獲物』を値踏みするように見下ろした。
「さっさと脱げ」
「え……」
「『儀式』だ。
「……!」
ノドカは屈辱に顔を歪めた。 だが彼女はもう後戻りできない。 震える手でTシャツの裾に手をかけた。 彼女の人生で最も嫌いな時間。 その『呪い』を晒す瞬間。 Tシャツがめくれ上がりブラウスが外され最後の薄い
ドサリ。 重い音を立てて二つの『現実』が解放された。 Tシャツ一枚のイスズすら霞んで見えるほどの圧倒的な『質量』。 血の気が引くほど白い肌。 その重さで青い血管が薄く浮かび上がっている。 それはもはや『乳房』という記号ではなく『悲劇』の塊だった。
「……すげえ」
改蔵は本能的に呟いた。
「ひっ……!」
ノドカは泣きながらその場にうずくまった。 見ないで。 その視線が彼女を何よりも傷つける。
「神主様! 早く『儀式』を!」
蔵の入り口でイスズがTシャツの胸元を押さえながら叫んでいる。 (あのイスズですら自分の胸を『小さく』見せようとしている) その光景がノドカの『異常さ』を際立たせていた。
「わかってるよ!」
改蔵も自らの服を脱ぎ捨てた。 その『陽』の気の顕現。 アズサが見た『力』の塊。 改蔵はうずくまるノドカの細い身体を無造作に掴み床に押し倒した。
「いやあっ! まって……!」
「待てるか! お前の『悩み』を解放してやるんだ!」
改蔵はノドカの抵抗を力でねじ伏せた。 そしてその『悩み』の解放を願う
「いっ……! ああああああっ!」
ノドカの悲鳴が蔵に響いた。 痛み。 恐怖。 そして『儀式』が始まった。
「あっあっ……んぅ……や! ぁっ」
改蔵は腰を動かしながらその巨大な『獲物』に手を伸ばした。
「ひっ!? いや! そこだけは! 触らないで!」
ノドカが半狂乱で叫んだ。 彼女にとって胸は『汚物』と同じだった。 他人に触れられるなど想像するだけで気を失いそうになる。
「うるせえ! お前の『悩み』はここだろ!」
改蔵はノドカの絶叫を無視した。 その柔らかく重い『豊穣』を両手で鷲掴みにした。 むにゅりという凄まじい感触。 だが改蔵の目的はそれだけではなかった。
「いくぞ! お前の『悩み』の根源に魔力を注入する!」
「え……? あ……?」
改蔵の『陽』の気が子宮からだけではない。 ノドカの胸を掴むその『両手』からも直接魔力が流れ込み始めた。
「あああああああああっ!?」
ノドカは今までにない感覚に絶叫した。 熱い。 熱い熱い熱い! 子宮が熱いのはわかる。 だがそれ以上に『胸』が熱い! まるで沸騰した鉄の湯を乳房に直接注ぎ込まれているかのような灼熱。
「あ! あつい! あつい! 溶けちゃう! 私の胸が!」
「ハッ! そうだ! 溶かして『作り替え』てんだよ!」
「あ! あ! ああああっ!」
ノドカの人生を縛り付けてきた『重さ』。 その『悩み』の正体である乳腺や脂肪組織が改蔵の魔力によって再構築されていく。 慢性的な『痛み』や『重さ』が消えていく。 その代わりに別の『力』がその場所で脈打ち始めた。
「観測します!」
蔵の隅でマナが興奮した声を上げた。
「魔力が胸部に集中! 循環しています! あ! ポテンシャル『豊穣』! 因子が『ウシ』に確定します!」
「ウシ……ですか?」
イスズが小首を傾げる。
「はい! あの豊かさはまさに『乳牛』です! 素晴らしい『素材』ですよ!」
「あああああっ! なんだか! なんだか、胸が、気持ちいい……!?」
ノドカが混乱した声を上げた。 今まで『呪い』でしかなかった場所が改蔵の魔力によって『快感』を生み出す器官へと変貌していく。
「あ! あ! あ! イク! イっちゃう! 胸が、イっちゃうううう!」
ノドカの絶叫。 彼女はセックスではなく『胸』で絶頂を迎えた。 その瞬間改蔵もまた儀式の完了を告げる魔力をその『豊穣』の器へと叩き込んだ。
「オラアアアアアッ!」
「イイイイイイイイイッ!」
二人の絶叫がシンクロし魔力の光が蔵全体を白く染め上げた。
「最終変態、開始します!」
マナの宣言が響く。 光の中でノドカの身体が激しく変貌する。 彼女の柔らかかった肌が引き締まり部分的に黒と白の『模様』が浮かび上がる。 手足の先が硬質化し『蹄』のように変わっていく。 頭部からは小さな二本の『角』が可愛らしく生えてきた。 そして何よりも。 彼女の『悩み』だった胸。 それは縮むどころかさらに一回り『巨大』に。 だが形は重力に負けたものではなく上向きにピンと張った完璧な『豊満』へと作り替えられた。 まるで神が作ったかのような『乳牛』のそれだった。
やがて光が収まった。 そこにいたのはおっとりとした大学生ではない。 黒と白のぶち模様。 小さな角。 そしてなによりもTシャツ一枚では隠しきれない(そもそも着ていない)圧倒的な『豊穣』の乳房を持つ女怪人。
「……」
怪人はゆっくりと立ち上がった。 そして自らの『胸』にそっと手を触れた。
「……あ」
怪人の唇から戸惑ったような声が漏れた。 その声はノドカのままだった。
「重くない……」
彼女は信じられないという顔で自分の胸を支える。 あれだけ自分を苦しめていた肩こりも重さも消えていた。 代わりに力がみなぎっていた。
「……軽い」
彼女は泣き笑いのような顔でその場に座り込んだ。
「フン。良かったな」
改蔵が服を着ながら声をかけた。
「お前の名前は今日から『牛怪人』だ」
「うし……」
牛怪人は自らの
「……モウ」
彼女は小さくそう鳴いた。 それは感謝の言葉にも聞こえた。