※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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19話

 

 悪の組織のアジトに穏やかな朝が訪れた。 その平和な空気を形作っているのは畳と土の匂いではない。 香ばしい出汁と炊き立ての米の匂いだった。 居間のちゃぶ台では黒野改蔵(くろの かいぞう)小悪魔マナ五十嵐イスズ(いがらし いすず)の三人が食卓を囲んでいた。 そしてもう一人。 部屋の隅で渡辺ノドカ(わたなべ のどか)改め『牛怪人』が正座していた。 彼女はイスズから借りたブカブカのTシャツ(胸の部分が異常に突っ張っている)を着せられ目の前のきゅうりを不思議そうに眺めている。

 

「あの……私……」

 

 ノドカが戸惑ったように口を開いた。

 

「はいっ! ノドカちゃん!」

 

 イスズが味噌汁のお椀を持ったままにこやかに振り向いた。

 

「なんだか……肩が……軽いです」

 

 ノドカは恐る恐る自分の肩に触れた。 人生を呪い続けたあの『重さ』が消えている。 痛みも消えている。 胸の『質量』そのものは昨日よりむしろ増している気さえするのに。

 

「よかったですね!」

 

 イスズが心の底から嬉しそうに笑った。

 

「やっぱり神主様の『儀式』はすごいです! 悩みも疲れも全部『浄化』してくださいますから!」

 

「神主様……」

 

 ノドカは居間の中心で朝食をかき込んでいる改蔵を複雑な表情で見つめた。 あの男の野蛮な『儀式(セックス)』が自分の長年の苦しみを解決した。 それは紛れもない事実だった。

 

「だろ? 俺の魔力(チカラ)は万能なんだよ」

 

 改蔵はニヤリと笑った。

 

「はいっ! 改蔵様の魔力は魔界でも最高水準です!」

 

 マナが改蔵の膝の上で得意げに胸を張る。 (いつの間にか移動していた)

 

「その代わり『安定』と『浄化』が大変なんですけどね!」

 

 イスズが続ける。 アジトのハーレム(日常)は完璧な秩序で回っていた。 その時だった。 ビーッ! ビーッ! マナの魔術スマートフォンが激しく振動した。 サイトウの疲れた顔がホログラムで浮かび上がる。

 

『あ! マナ君! ちょうどよかった!』

 

「はいっ! サイトウ幹部! いつでも任務可能です!」

 

『いやその元気は結構なんだが……。首領(トップ)が大層ご期待だ!』

 

 サイトウは興奮しているのか切羽詰まっているのかわからない早口でまくし立てた。

 

『カメレオン怪人のデータもドリル怪人のデータも素晴らしかった! 河童怪人も局地的には無敵だった! あの黒野君の『儀式』の成果は我が軍団の切り札だと!』

 

「へえ。あのジジイ(首領)も見る目あんじゃん」

 

 改蔵が鼻をほじる。

 

『とにかく! その新しい『牛怪人』もすぐに実戦投入だ!』

 

「えっ! わ、私ですか!?」

 

 部屋の隅でノドカがビクリと震えた。

 

『そうだ! 幸いジャスティンジャーは昨日の河童怪人の後始末で疲弊している! 市民公園の広場に奴らが集結している情報を掴んだ! そこを叩け!』

 

「し、しかしサイトウさん! この怪人(ノドカ)の能力はまだ……!」

 

 マナが慌てて抗議しようとした。 昨日の変貌があまりに特殊だったためマナにもまだ解析が追いついていない。

 

『いいからやれ! 行けばわかる! これは首領の『期待』だ!』

 

 サイトウがバンザイ! と叫びたくなるような顔で通信が切れた。

 

「……だ、そうです」

 

 マナが青い顔で改蔵を振り返る。

 

「あ、あの……私、戦いなんて……!」

 

 ノドカが泣きそうな顔でうずくまった。 彼女の『悩み』は消えたが『おっとりした性格』は変わっていない。

 

「フン。まあいいだろ」

 

 改蔵は立ち上がった。

 

「イスズ」

 

「はいっ! 神主様!」

 

「お前が儀式(アレ)で『軽く』なったって言ってたろ。そいつの能力も似たようなもんだろ」

 

「え? はい! 神主様の『陽』の気を浴びると身体がぽかぽかして心が『軽く』なります!」

 

「それだ」

 

 改蔵はノドカを指差した。

 

「牛怪人。お前は戦わなくていい。ただそこに『いる』だけでいい。お前のその『豊穣』の魔力(チカラ)をヒーローどもに浴びせてやれ」

 

「え? いるだけ、ですか?」

 

「そうだ。お前は『癒し系』なんだろ。ヒーローどもを骨の髄まで『癒して』やれ」

 

 改蔵の言葉は悪魔の囁きだった。 だがノドカにはそう聞こえなかった。 (戦わなくていい。いるだけでいい) それなら自分にもできるかもしれない。

 

「……わ、わかりました。やってみます」

 

 ノドカ(牛怪人)がこくりと頷いた。

 

「よし! マナ転送だ!」

 

「は、はいっ! 転送します!」

 

 マナが魔法陣を展開する。 ノドカは不安そうにその中へと足を踏み入れた。 彼女の巨乳が不安に揺れた。

 

 ***

 

 アジトに静寂が戻った。 改蔵は大きな欠伸をした。

 

「さてと。一仕事終わったな」

 

「はいっ! 神主様!」

 

 イスズが待ってましたとばかりに寝室(六畳間)の押し入れから万年床(儀式用)を引っ張り出してきた。

 

「マナちゃん! モニターの準備を!」

 

「はいっ! 魔術モニター展開します!」

 

 マナも手慣れた様子で空間にホログラムを投影する。 そこには市民公園の広場に転移させられオロオロしているノドカ(牛怪人)の姿が映し出された。

 

「え? 神主様?」

 

 改蔵は不思議そうな顔をした。

 

「俺はまだ『暴走』してねえぞ」

 

「いけません!」

 

 イスズがTシャツ一枚の姿で改蔵の前に仁王立ちになった。 その胸はノドカには一歩譲るがそれでも圧倒的な『浄化』の象徴だ。

 

「新しい怪人が神主様の魔力を『出力』している最中です! その『大元』である神主様の魔力が不安定になるのは当然です!」

 

「その通りです改蔵様!」

 

 マナも改蔵に詰め寄る。

 

「これは『予防』です! 暴走してからでは遅いのです! 今すぐ私とイスズ様による完璧な『共同安定化儀式』を実行しアジトの平和を守らなければなりません!」

 

「……」

 

 改蔵は二人を見比べた。 一人は純真な目で『世界平和(セックス)』を訴え。 一人はエロい目で『任務(セックス)』を訴えている。 断る理由がなかった。

 

「……しょうがねえな! 世界平和(俺のハーレム)のためだ! 儀式を開始する!」

 

「はいっ!」

 

「いただきますです!」

 

 三人はもはや芸術的な流れる動作で布団になだれ込んだ。 改蔵の背中にイスズが張り付き『浄化』の体勢を取る。 改蔵の正面にはマナが跨り『安定』の体勢を取る。 完璧な布陣だった。 三人の視線が戦闘中継(エロビデオ)を映し出すモニターに注がれた。

 

 ***

 

 市民公園は騒然としていた。

 

「怪人だ!」

 

「牛だ! 牛女だ!」

 

 市民が逃げ惑う。 ノドカ(牛怪人)はその中心でオロオロしていた。

 

「あ、あの! 逃げないでください! 私は戦いに来たんじゃ……!」

 

「そこまでだ怪人!」

 

 五色の閃光。 ジャスティンジャーがノドカの前に降り立った。 だがその姿はどこか疲弊している。 連日の怪人(ドリル河童人形)との激戦で彼らの体力は限界だった。

 

「レッド……また新型か」

 

「くそっ! 悪の組織め! 休ませる気がないのか!」

 

 ジャスティンブルーが肩で息をしている。

 

「……皆さん。なんだか、お疲れのようですね」

 

 ノドカ(牛怪人)は敵意ではなく純粋な『同情』の目でヒーローたちを見た。 彼女のお人好しな『癒し系』の気質は怪人になっても変わっていなかった。

 

「……そうだ」

 

 ノドカは改蔵の言葉を思い出した。 (いるだけでいい。癒してやれ)

 

「皆さん。戦いはやめましょう。きっと疲れてるんですよ」

 

 ノドカは自らの『力』を解放した。 それは攻撃的な魔力ではない。 彼女の『豊穣』のポテンシャルが生み出す温かく柔らかい『オーラ』だった。 まるで牧場の陽だまり。 あるいは温かいミルクの匂い。 その『癒し』の波動が疲弊したヒーローたちを包み込んだ。

 

「……あ」

 

 ジャスティンイエローの膝が崩れた。

 

「なんだか……急に……眠く」

 

「ダメだ……! 戦わないと……! でも……もう……いいか……」

 

 ジャスティンブルーのビームライフルが手から滑り落ちた。 ノドカの怪人能力。 それは『強制弛緩(リラックス)』。 敵の闘争心を根こそぎ奪い骨の髄まで『怠惰』にさせる恐るべき『癒し』の力だった。

 

「い、いかん! みんな! 目を覚ませ!」

 

 ジャスティンレッドが必死で叫ぶ。 だが彼自身も凄まじい『眠気』と『脱力感』に襲われていた。 もう剣を振るう気力さえ湧いてこない。 (ああ……もう……休みたい……)

 

「ハッハァ! やるじゃねえかノドカ!」

 

 アジト。 改蔵はマナの身体を激しく突き上げながらモニターに声援を送った。

 

「あ、あんっ! すごいです! ジャスティンジャーが! 戦意喪失していきます!」

 

「わあ! 神主様! 神主様の『陽』の気も最高潮です! 浄化が追いつかないくらい熱いです!」

 

 イスズが改蔵の背中で嬉しそうに喘いでいる。 三人の『儀式』も最高潮だった。

 

「このまま一気に! 全員『堕落』させてやれ!」

 

 改蔵が叫んだ。 その時だった。

 

「……つまらん」

 

 戦場に凛とした声が響いた。 眠気に包まれる公園にただ一人。 聖剣姫キリハが立っていた。 彼女はノドカの『癒し』のオーラを浴びても眉一つ動かしていない。

 

「な、なんで……!?」

 

 ノドカ(牛怪人)が驚愕する。

 

「その『なまぬるい』空気は何だ。戦場だぞ。反吐が出る」

 

 キリハの精神は『剣』そのもの。 癒しだの平和だのという『感情』が入り込む余地はゼロだった。 彼女にはこのオーラはただ『鬱陶しい』だけだった。

 

「……あ」

 

 アジト。 改蔵の腰が止まった。

 

「あ! キリハです! またあいつです!」

 

 マナが絶望的な声を上げた。

 

「相性最悪だ!」

 

「キリハ……!?」

 

 ノドカが怯えたように後ずさった。 あのカメレオン怪人を一撃で倒した最強のヒーロー。

 

「私は戦いたく……!」

 

「問答無用」

 

 キリハは聖剣を構えた。

 

「聖剣・一閃」

 

 閃光。 キリハはノドカ(牛怪人)を斬らなかった。 彼女が斬ったのはノドカの足元の『地面』だった。 轟音と共に地面が割れノドカはバランスを崩し尻餅をついた。

 

「ひゃあっ!」

 

 その反動で彼女の『豊穣』の胸が大きく揺れる。 キリハはその光景に心底うんざりした顔をした。

 

「……デカい。斬る気が失せた。帰る」

 

「え?」

 

 キリハは聖剣を鞘に納めるとそのまま転移魔法で消えていった。

 

「……」

 

 ノドカ(牛怪人)は尻餅をついたままぽかんとしていた。 ジャスティンジャーは眠っている。 キリハは帰った。

 

「……あ」

 

 アジト。 改蔵マナイスズの三人もぽかんとしていた。

 

「……帰ったぞ」

 

「……はい」

 

「……えっと」

 

「あ! ああああんっ! だめ改蔵様! 儀式が! 儀式がまだ中途半端です!」

 

「おお! そうだった!」

 

「わあ! 神主様! 集中してください!」

 

 改蔵は仕切り直すようにマナとイスズを抱きしめた。

 

「オラアアア! 世界平和(再開)だ!」

 

「「イグウウウウウッ!」」

 

  尻餅をついていた怪人(ノドカ)はキョトンとしながら、悪の組織に回収(転移)されていった。

 アジトの黒幕は今日もやりたい放題だった。

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