ギイイと音を立てて土蔵の重い扉が閉められた。 姪浜メイ(めいのはま メイ)の最後の逃げ場が消えた音だった。 カビ臭い空気。 埃っぽい床。 薄暗い空間の中央には歪な魔法陣が描かれている。 メイはTシャツ姿の
「さあ『素材』よ。儀式を始める」
「ひっ」
メイは小さく悲鳴を上げた。
「あ、あの! 神主様!」
五十嵐イスズ(いがらし いすず)がTシャツの胸元を握りしめながら心配そうに声を上げた。
「この子とっても怖がってます! もう少し優しく『浄化』しないと!」
「イスズ様。これは『浄化』ではありません。『儀式』です」
マナがイスズを制止した。 その目は首席才媛の観測者の目だった。
「この素材のポテンシャルは『拒絶恐怖』。マスターの『陽』の気をどれだけ『拒絶』せず受け入れられるか。それが今回の
「じ、実験……?」
メイが震える声で呟いた。
「そうだ。実験だ」
改蔵がニヤリと笑った。 その笑顔はメイが今まで出会ったどの不機嫌な客よりも恐ろしかった。 改蔵はメイの目の前に立った。 その筋肉質な身体から発せられる『圧』だけでメイは泣きそうだった。
「儀式だ。服を脱げ」
「え」
「聞こえなかったか? 脱げと言ったんだ」
それは命令だった。 バイトリーダーの理不尽な残業命令と同じ。 メイの身体は思考より先に動いていた。 彼女は震える手で着ていた安物のブラウスのボタンに手をかけた。
「あ……あ……」
涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。 嫌だ。 恥ずかしい。 でも。 (断ったら) (断ったらこの人たちが怒る) (もっと恐ろしいことになる) メイは奥歯をギリギリと噛み締めた。 そして最後のプライドを捨てた。 彼女はゆっくりと服を脱ぎ始めた。 スカートが床に落ちる。 薄汚れた下着が露わになる。 メイの小柄だがアンバランスなほどスタイルの良い身体が薄暗い蔵の中に晒された。
「……ふーん」
改蔵は満足そうにその身体を舐め回すように見た。 メイはうずくまり両手でかろうじて胸を隠した。
「隠すな。それも脱げ」
「ひっ……!」
メイは息を飲んだ。 だが彼女の指はゆっくりとブラジャーのホックに向かう。 彼女は『断れない』。
「ハッ! 面白い」
改蔵は確信した。 今までの素材とは違う。 こいつは『抵抗』しない。 『絶望』もしない。 ただ『受け入れる』だけだ。 こいつはどこまで『イエス』と言うんだ? 改蔵の歪んだ好奇心に火がついた。
「わ、わかり、ました」
メイはついに最後の布切れも手放した。 彼女は完全に裸になった。 床にうずくまりただ震えている。
「いいだろう。儀式を始める」
改蔵もまた自らのTシャツとスウェットを脱ぎ捨てた。 その逞しい『陽』の気が蔵の空気を震わせる。 メイは目を固く閉じた。 痛いのは嫌だ。 怖い。 でも我慢しなきゃ。
改蔵はメイの細い腕を掴み魔法陣の中央へと引きずった。 冷たい床の感触にメイの身体がビクリと跳ねる。
「あ、あの! 神主様! やっぱり乱暴すぎます!」
「うるせえ。イスズは黙って見てろ」
改蔵はメイの身体に馬乗りになった。 そしてその『器』に自らの『力』を押し当てる。
「ひ……!」
メイは固く目を閉じたままだった。 改蔵は待った。 ドリル(リン)や
「……チッ。つまんねえな」
改蔵はそう吐き捨てると一切の愛撫なくその身を突き立てた。
「いっ……!」
メイの小さな身体が弓なりにしなった。 痛み。 熱。 異物。 だが彼女は叫び声を上げなかった。 ただ「う……ぅ……」と喉の奥で嗚咽を漏らすだけ。 彼女の潤んだ瞳から涙が静かに流れ落ち埃っぽい床に小さな染みを作った。
「……」
改蔵は腰を動かし始めた。 いつもの『儀式』だ。 魔力を『注入』し素材を『破壊』し『再構築』する。 だが。 (……反応が、薄い) メイは
「おい」
改蔵は動きを止めメイの顔を覗き込んだ。
「痛えか」
「……っ!?」
メイは驚いて目を開けた。 まさか『加害者』から気遣うような言葉をかけられるとは思わなかった。
「だ、だい、じょうぶ、です」
「……」
「わ、私が、我慢すれば、いい、ですから……! ど、どうぞ、お構いなく……!」
彼女は泣きながら無理に笑おうとした。 その笑顔があまりにも歪で哀れだった。 改蔵の何かがプツリと切れた。 (こいつ) (こいつ、本物だ) 本物の『断れない』女だ。 なら。
「……そうかよ」
改蔵の口元が三日月のように吊り上がった。
「なら『遠慮なく』いかせてもらうぜ」
「え?」
改蔵の腰の動きが『破壊』から『享楽』へと変わった。 彼はメイの耳元で囁いた。
「お前『断れない』んだろ」
「ひっ……!」
「だったら俺が今からすること全部『受け入れろ』よ」
「あ、あ、ああ……!」
メイは違うと叫びたかった。 でも言えない。 言ったらこの男が『怒る』かもしれない。 それが怖い。
「いい子だ。まずはこっちを向け」
改蔵はメイの身体を反転させうつ伏せにした。
「いや……! あ、あの……!」
「『儀式』の角度を変える。この方が魔力が入りやすい」
「は、はい……!」
メイは訳もわからず言われた通りの体勢になった。 改蔵はその後ろから再び『儀式』を再開した。 今度は先ほどよりも深く激しく。 メイの小さな身体が前後に揺さぶられる。
「あ、あんっ! ああっ!」
「声出せよ。気持ちいいんだろ?」
「ち、違……! い、イク……! あ、あ、はいっ! き、気持ち、い、です……!」
「ハハ! 素直じゃねえか!」
改蔵は完全に『調子にノッて』いた。 この女は何をしても『許してくれる』。 何をしても『受け入れてくれる』。 それは改蔵にとって生まれて初めての『全能感』だった。 彼はメイの身体をオモチャのように扱い始めた。
「あ、改蔵様!」
蔵の入り口でマナが頬を赤らめながら観測モニターを見つめていた。
「ま、魔力の反応が! 『愛情』でも『屈服』でもない! マスターの『欲望』にダイレクトに反応して『変質』していきます!」
「あ、あの! マナちゃん! あれは、ちょっと、メイちゃんが可哀想です!」
イスズが涙目で訴える。 モニターには改蔵がメイにあらゆる『プレイ』を強要している姿が映し出されていた。 (内容はあまりにも過激なため描写を割愛する)
「イスズ様! これも『儀式』です! マスターのあらゆる『欲望』を受け入れることでしか誕生しない怪人がいるんです!」
マナは興奮していた。 これは未知のデータだった。 一方メイの意識はとうに限界だった。 (もう、だめ) (この人、こわい) (でも、断れない) (私が、我慢すれば) (我慢すれば、終わる) 彼女の『自己』が急速に摩耗していく。 その代わりに彼女の『器』は改蔵の『欲望』の魔力をスポンジのように吸い上げていった。
「いいぞ……いいぞメイ!」
改蔵もまたリミッターが外れていた。 この女は俺の『理想』だ。 俺の全てを『肯定』してくれる。 「お前はもう俺だけのモンだ! 俺から離れるな!」 「は、はい……! は、離れま、せん……!」 「俺だけを見てろ!」 「は、はいっ! 見て、ます……!」 「俺のために尽くせ!」 「はい! つく、しますぅ……! ああああああんっ!」
メイの絶叫。 それは苦痛ではなく『契約』の完了を意味していた。 彼女の『自己』は完全に破壊され『改蔵に尽くす』ことだけが彼女の新しい『存在理由』として再構築された。
「……ッ!」
改蔵は最後の魔力をその『契約』の証として叩き込んだ。 凄まじい量の魔力がメイの身体に流れ込む。
「あ……あ……」
メイの身体が光に包まれた。 だがその変貌は今までの怪人とは違った。
「最終変態、開始します!」 マナが叫んだ。 「ポテンシャル『拒絶恐怖』! 因子が『奉仕』と『欲望』に確定! これは……!」
メイの身体は異形にはならなかった。 だが変化した。 肌は透き通るような白さに。 髪は濡れたような漆黒に。 潤んでいた瞳は獲物を誘うようにとろりと潤んでいる。 背中から小さな悪魔の翼が。 そして尻からは誘うようにしなる『ハート』の形をした尾が生えてきた。
「あ……」
光が収まった。 そこにいたのは怯えるウエイトレスではない。 自らの裸体を恥じることもなく床に四つん這いになり恍惚とした表情で改蔵を見上げる『何か』だった。
「……マスター」
その声は蜜のように甘くねっとりとしていた。
「……すごい、です。マスターの『魔力』……いっぱい、いただきました」
彼女はそう言うと自らの唇をぺろりと舐めた。 そしてそのままハイハイで改蔵に近づきその足元にすり寄った。
「……あ」
改蔵は自らの『傑作』を見てゴクリと生唾を飲んだ。 マナが震える声で告げた。
「……『サキュバス怪人』の、誕生です」