※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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27話

 悪の組織のアジトはもはやアジトではなかった。 少なくとも黒野改蔵(くろの かいぞう)にとっては。 そこは完璧な『理想郷(ハーレム)』と化していた。

 

 チチチと小鳥のさえずりが障子戸を抜けてくる。 古民家を包むのは埃とカビの匂いではない。 米の炊ける甘い香りとふわりと漂う味噌汁の出汁の匂いだ。 これらはすべて五十嵐イスズ(いがらし いすず)がアジトに住み着いてからの『恩恵』だった。

 

「……ん」

 

 万年床の布団の中でイスズは目を覚ました。 Tシャツ一枚の身体が寝汗で少ししっとりしている。 昨夜の『共同儀式(フォーサム)』はいつもより激しかった。 イスズは『世話人』としての本能でゆっくりと身を起こした。 (あ、もうこんな時間。朝ごはんの準備をしないと) 彼女は隣で大の字になって寝ている『神主様(改蔵)』を起こさないよう静かに布団から這い出した。

 

 だが。 イスズは台所へ向かう途中で、その光景に気づき、足を止めた。 「あらあら……」 イスズは思わず苦笑いを浮かべた。 改蔵の布団。 その『下半身』の部分が、不自然に、もぞもぞと動いていたのだ。 そして、そこから、二人の女の、くぐもった、甘い声が漏れ聞こえていた。

 

「ん……んん……! 改蔵様……! 朝の『安定』、一番乗り、ですぅ……!」

 

「……ふふ。マスターの『ごはん』。あったかい。メイが、ぜんぶ、もらう」

 

 布団の中。 そこでは、イスズより早く目を覚ました小悪魔マナとサキュバス怪人(ペット)のメイが、壮絶な『争奪戦』を繰り広げていた。 二人は、まだ寝ぼけている改蔵の『陽』の気の(きょこん)に、我先にと群がっていた。 マナは『契約の安定』のためと称しその小さな口で。 メイは『朝ごはん』と称しその熱い頬で。 二人がかりで、朝一番の『魔力』を貪っていたのだ。

 

「……ん、ぐ……」

 

 改蔵は、まだ夢うつつだった。 だが、その口からは、無意識の、快感に満ちたうめき声が漏れている。 寝ながらにして『儀式』は始まっていた。 まさに『朝からエロエロ三昧』。 それが、このアジトの『日常』だった。

 

「もー。マナちゃんもメイちゃんも。神主様が起きちゃいますよ」

 

 イスズは母親のように、呆れながらも、どこか羨ましそうにその光景を見守っていた。 (私も、後で『浄化』してもらわないと) イスズが自分の『儀式』の順番に思いを馳せていた。

 

 ***

 

 居間のちゃぶ台。 絶品の朝食(イスズ特製)が並んでいる。 改蔵が中央に座る。 その左足にはマナが。 右足にはメイが。 二人の女がまるで双子のペットのように改蔵の足に絡みつきながら朝食を食べていた。

 

「あーん。マスター」

 

「いえ! マスターには私が!」

 

「こら! お前ら! イスズの飯がマズくなるだろうが!」

 

 改蔵の一喝。イスズが「はいはい」と母親のように笑いながら改蔵にお茶を淹れる。 完璧な日常だった。 だがその日常は『組織』からの催促によって破られる。

 

 ビーッ! ビーッ! けたたましいアラート音がだらけた朝の空気を切り裂いた。 改蔵の枕元に放り出されていたマナの魔術スマートフォンが激しく振動したのだ。 布団の中の『動き』が、ピタリと止まった。

 

「ひゃっ!?」

 

 マナが慌てて布団から顔を出す。 その口元は魔力(よだれ)でテカテカだった。 ホログラムが展開しサイトウの胃痛が伝わってきそうな顔が浮かび上がる。

 

『マナ君! 黒野君! 聞いてるかね!?』

 

 サイトウはいつになく切羽詰まっていた。

 

「は、はいぃっ! サポート担当マナ、いつでも任務(ぎしき)可能です!」

 

 マナは改蔵の股間から顔を出したままビシッと敬礼した。 その異様な光景に、ホログラムのサイトウが絶句した。

 

『……き、君たち……朝から、何を……いや、もう聞くまい』

 

 サイトウは頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。

 

「おうサイトウさん。どうしたんだよそんなに慌てて」

 

 改蔵もようやく目を覚まし布団から上半身を起こした。 その下半身にはまだメイがしがみついている。

 

『どうしたもこうしたもない! 君たちのせいだぞ!』

 

 サイトウがホログラムの画面を切り替えた。 そこにはジャスティンレッドが『あの田舎町に全神経を集中させろ』と司令室で号令を出している盗撮映像が映し出された。

 

『ヒーローどもが本気になった! 例の局地的な怪人出現のせいでこのアジトが特定されかかっている!』

 

「へえ。やるじゃんヒーロー」

 

「か、改蔵様! 感心してる場合じゃありません!」

 

 マナが真っ青になった。 アジト(このハーレム)がバレたら大変だ。

 

『こうなったら一刻も早く奴らの捜査網を叩き潰す強力な『戦力』が必要だ! 首領(トップ)もそう仰せだ!』

 

「強力な戦力ねえ」

 

 改蔵は自分の足に絡みつくメイ(不良債権)と天井の隅に引きこもるユウミ(幽霊)を見た。 (……最近、ロクな戦力作ってねえな)

 

『マナ君! 君のミス(メイとユウミ)を挽回するチャンスだ! スキャナーで最強の『素材』を見つけ出せ! 失敗は許さんぞ!』

 

「は、はいぃぃぃ!」

 

 マナは首席才媛のプライドをズタズタにされながらも必死で頷いた。 通信が切れる。 マナは泣きそうだった。

 

「うぅ……私の評価が……」

 

「大丈夫だよマナちゃん。ほら卵焼き食べて」

 

「イスズ様……!」

 

「マナ」

 

 改蔵がマナの頭を雑に撫でた。

 

「いい加減『大当たり』引いてこい。俺も久々に『本気』の儀式がしてえ」

 

「! はいっ! 改蔵様!」

 

 マナは改蔵の言葉に(エロ的な意味で)復活した。 彼女は魔術スキャナーを起動し今までにない真剣な顔で『素材』の選定を始めた。

 

 ***

 

 その頃。 東京のテレビ局。 巨大なスタジオセットの中はまばゆい照明とスタッフたちの怒号で満ちていた。

 

「はいCM入りまーす!」

 

「CM明けカスミちゃんソロのアップから!」

 

「メイクさん! カスミちゃんの汗拭いて!」

 

 その熱狂の中心。 石川カスミ(いしかわ かすみ)は完璧な『アイドル』の笑顔を浮かべていた。 156cm B85W55H82。 数字以上に瑞々しく弾けるようなプリプリのボディ。 大きなリボンで括った高い位置でのポニーテールが彼女のトレードマークだ。 「はーい! ありがとうございます!」 彼女はメイクスタッフにさえ愛想よく頭を下げた。 カメラが回っていない時でも彼女は『完璧』だった。 ファンからは『国民の妹』と呼ばれその清純さと愛嬌で今最も勢いのあるアイドルの一人だ。 だが。

 

 カタン。 収録が終わり楽屋の扉が閉まった瞬間。 カスミの顔から『笑顔』が消えた。 彼女はハイヒールの音も荒くソファに深く沈み込むと苛立ったようにポニーテールを乱暴に解いた。

 

「あー。つっかれた」

 

 その声はテレビで聞く甘いアニメ声とは似ても似つかない低く冷めた声だった。

 

「カスミちゃんお疲れ様。今日のキレも良かったよ」

 

 マネージャーがスポーツドリンクを差し出す。 カスミはそれを受け取ると一口だけ飲みテーブルに叩きつけるように置いた。

 

「当たり前でしょ。あんな素人(ほかのアイドル)たちと一緒なんだから私が目立って当然」

 

「はは……まあね」

 

「ていうかさっきのカメラ割り何? なんであそこでミカ(ライバル)を抜くわけ? あそこは私でしょ。後でプロデューサーに言っといて。使えない」

 

「わ、わかった」

 

 石川カスミの本性。 それは強烈な『野心』と『上昇志向』の塊。 彼女は『人気』に満足していなかった。 センターでは足りない。 『一番』では足りない。 『唯一無二』の『特別』な存在になりたい。 この世界は『私』を中心に回るべきだ。 彼女は本気でそう思っていた。 そのために『清純派アイドル石川カスミ』という完璧なペルソナ(仮面)を演じ続けているのだ。

 

「フン」

 

 カスミはスマートフォンを取り出しSNSでエゴサーチを始めた。 『カスミん今日も天使』 『ポニテ最強』 『ミカより絶対カスミ派』 溢れる賛辞。 だがカスミの目はその中に混じった一つの『ワード』に釘付けになった。 『聖剣姫キリハ』。

 

(……またこいつ)

 

 最近のトレンドはカスミではない。 キリハ。 あるいはジャスティンジャー。 本物の『力』を持つヒーローたちが世間の注目をかっさらっていく。 カスミは舌打ちした。 (アイドル(わたし)なんて所詮『作り物』) (あいつら(ヒーロー)は『本物』) (……ムカつく) どんなに完璧に演じても『本物』には勝てないのか。 この苛立ち。 この『渇望』。 (私だって『本物』になりたい) (誰にも負けない『特別』な力が欲しい) 彼女の強烈な『欲望』の波動が悪魔のスキャナーに捉えられていることなど知る由もなかった。

 

 ***

 

 その夜。 カスミは都内一等地のタワーマンションの最上階にある自室に戻った。 完璧なセキュリティ。 だがその『完璧』は悪魔の前では無意味だった。 カスミがバスローブ姿でワイングラスを傾けていたその時。 リビングの真ん中に黒い煙が渦巻いた。

 

「……!」

 

 カスミは驚かなかった。 いや驚いた。 だが彼女は悲鳴を上げなかった。 瞬時に状況を分析する。 (強盗? ストーカー? いや違う) (この出現の仕方。人間じゃない) 煙が晴れそこにマナが立っていた。 カスミはマナの姿(レオタードと翼)を見てそしてすぐに『理解』した。

 

「悪魔、か。あるいは『そっち系』の怪人?」

 

「え?」

 

 今度はマナが驚く番だった。 怯えない。 それどころか『値踏み』されている。 (こ、この素材……!)

 

「私はマナ。悪の組織の使い魔です」

 

「悪の組織。ああヒーローごっこの相手の」

 

 カスミはワインを一口含みマナを値踏みした。 (……力が、ある) (このチビ。本物だ)

 

「石川カスミさん。貴女に『力』を差し上げに来ました」

 

「力?」

 

「はい。貴女の『渇望』が聞こえました。『特別』になりたいのでしょう?」

 

 マナは首席才媛の笑顔でスカウトを始めた。

 

「私と『契約』し神聖な『儀式』を受ければ貴女は人間を超えた『怪人』になれます」

 

「怪人」

 

 カスミの目がギラリと光った。 ヒーローと戦う悪の存在。 だがそれは紛れもない『本物』の力。 (……これだ) (これを『利用』すれば私はキリハを超えられる)

 

「面白いじゃない」

 

 カスミはソファから立ち上がった。 バスローブがはだけ豊満な身体のラインが露わになる。

 

「その『儀式』とやら受けてあげる。私をもっと『特別』にしなさいよ」

 

「え? あ、はい! もちろんです!」

 

 マナは久々の『超優良素材』の即決に歓喜した。 この子ならメイとユウミの失敗を挽回できる! 

 

「では参りましょう。『儀式』の間へ」

 

 マナがカスミの手を掴む。 一瞬の浮遊感。 次の瞬間カスミが立っていたのはカビ臭い薄暗い土間だった。 そして目の前には。 Tシャツ一枚でだらしなく寝転がり漫画を読んでいる改蔵。 その足に絡みつくメイとマナ(さっきまでいたはずのマナとは別のマナ? いやサキュバスか)。 そして台所で「あ! マナちゃんお帰りなさい!」と手を振るTシャツ一枚のイスズ。 あまりにも混沌とした『地獄』。 カスミの完璧な笑顔が凍りついた。

 

「……何よこれ」

 

 カスミの低い声がアジトに響いた。

 

「アンタが『マスター』? 聞いてた話と全然違うじゃない」

 

 彼女は『本物』の力を求めてきた。 それなのに目の前にいるのは『欲望』にまみれた(オス)とそれに侍る『家畜』の群れ。 カスミのプライドが音を立ててキレた。

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