※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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31話

 

 日本の片田舎にある古びた木造平屋。 悪の組織の秘密アジトであるこの場所は今や酒池肉林の極致と化していた。 朝の光が障子を透過し乱雑に敷かれた万年床を照らし出している。 そこに転がっているのは肉塊の山だ。

 

「ん……んぅ……」

 

 甘ったるい吐息を漏らしながら黒野改蔵(くろの かいぞう)の胸板に顔を埋めているのは『魔人ミスティ』こと石川カスミだ。 先日組織の本部でガス欠を起こし送還された彼女は一晩中改蔵の『魔力(ガソリン)』を貪り続けていた。 漆黒の翼のような髪は乱れボンテージ風の衣装はあちこちがはだけて白い肌が露わになっている。 その肌は魔力の充填によって艶めかしい光沢を放っていた。

 

「……ふぅ。やっと満タンかよ」

 

 改蔵はけだるげに天井を見上げた。 絶倫を自負する彼でもさすがにこの燃費最悪の魔人を一晩中相手にするのは骨が折れた。 だがその疲労感さえも心地よい。 なぜなら彼の周囲には極上の『癒し』も完備されているからだ。

 

「神主様。お疲れ様でした」

 

 右側から五十嵐イスズ(いがらし いすず)がTシャツ一枚の姿で冷たいタオルを差し出してくる。 彼女は改蔵の汗を丁寧に拭き取るとその豊かな胸を改蔵の二の腕に押し付け『浄化』のマッサージを始めた。

 

「マナも! マナもマッサージします!」

 

 左側では小悪魔マナがレオタード姿で改蔵の腕を揉みほぐしている。 そして足元では。

 

「……マスター。あし、きれいにする」

 

 サキュバス怪人(ペット)のメイが改蔵の足指を一本一本丁寧に舐め上げていた。 完璧なケア体制だ。 改蔵は王様のようにふんぞり返った。

 

「あー……極楽だわ」

 

「ふふ。よかったです。あ、カスミちゃんも起きました?」

 

 イスズの言葉に胸元のミスティがのそりと動いた。 彼女はけだるげに身体を起こすと乱れた髪をかき上げた。 その瞳には昨日のような『禁断症状』の狂気はなくトップアイドル特有の勝気な光が戻っていた。

 

「……ふん。まあまあの『給油』だったわね」

 

 彼女は強がって見せたがその頬は上気しとろりとした余韻が残っている。

 

「口の減らねえアマだ。昨日は泣いてすがってたくせに」

 

「なっ! わ、忘れたわよそんなこと! 私は『魔人ミスティ』! 常に完璧なの!」

 

 ミスティは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。 だがその手は無意識に改蔵のTシャツの裾を掴んで離さない。 完全に『依存』していた。

 

「はいはい。ご飯できてますよ。今日はスタミナをつけるために豚肉の生姜焼き定食です」

 

 イスズがちゃぶ台にお盆を運んでくる。 朝からガッツリ系だが今の彼らにはこれくらいのカロリーが必要だった。

 

「豚肉……。ミミガーさんが見たら泣きそうですね」

 

 マナが苦笑いしながら箸を取る。 アジトの朝は今日も騒がしくそしてエロティックに過ぎていく。

 

 だがその平和は長くは続かない。 マナが味噌汁を一口すすったところで懐の魔術スマートフォンが震えた。 サイトウからの定時連絡だ。 彼女は慌てて口元を拭いホログラムを展開した。

 

『……あー。おはようマナ君』

 

 サイトウの顔色は相変わらず悪い。 昨日の本部襲撃(ミスティの乱入)の処理で徹夜したのだろう。

 

「おはようございます! サポート担当マナ異常ありません!」

 

『異常だらけだよ君のところは……。まあいい。本題だ』

 

 サイトウは咳払いを一つした。

 

『昨日ミスティ君が派手に暴れてくれたおかげでジャスティンジャーの注意は都心に向いた。だが奴らも馬鹿じゃない。すぐに捜査網を再構築してくるだろう』

 

「へえ。懲りねえ連中だな」

 

 改蔵が生姜焼きを頬張りながら口を挟む。

 

『そこでだ。奴らを撹乱し戦力を分散させるために『スピード』に特化した怪人が欲しい。一撃離脱で各地を荒らし回れるような機動力のあるタイプだ』

 

「スピードですか」

 

 マナが考え込む。 カッパ怪人(アズサ)は水中では無敵だったが陸上では脆かった。 陸上で圧倒的な速さを誇る怪人。

 

『頼んだよ。報酬(活動費)は弾むから』

 

 サイトウはそれだけ言うと通信を切った。 胃薬を飲む時間が来たらしい。

 

「スピード……速い人……」

 

 マナは魔術スキャナーを起動した。 画面に地図と光点が浮かび上がる。 彼女は指先で検索フィルタを調整していく。 『因子:速さ』『渇望:加速』『身体能力:高』。

 

「……あ」

 

 マナの指が止まった。 一つの光点が激しく明滅している。

 

「見つけました! 改蔵様!」

 

「ん? 早えな」

 

「すごい反応です! 場所は……国際サーキット!?」

 

 マナが興奮気味に画面を改蔵に見せる。

 

「この『渇望』の波形! まるで飢えた獣です! 『速さ』への執着心が異常なレベルで計測されています! これなら間違いなくサイトウさんの要望を満たせます!」

 

「サーキットか」

 

 改蔵はニヤリとした。 速さを求める女。 それはつまり『乗る』のが好きってことだ。 色々な意味で。

 

「よしマナ。仕事の時間だ」

 

 改蔵は箸を置いた。 マナがビシッと敬礼する。 彼女の『本業』。 それは改蔵のために極上の『素材(おんな)』を調達してくることだ。

 

「はいっ! 必ずや最高の素材を拉致……いえスカウトしてまいります!」

 

「おう。頼んだぞ」

 

「あの……私は?」

 

 ミスティが不満げに口を挟んだ。

 

「お前は留守番だ。燃費が悪すぎる。またガス欠で倒れられたら面倒だ。イスズに餌付けされてろ」

 

「はあ? 私を誰だと思ってるのよ! ……まあいいわ。どうせ私以上の女なんていないでしょうし」

 

 ミスティは悔しそうに唇を噛んだが反論はしなかった。 昨日の醜態は彼女自身が一番よく覚えているからだ。 それに今の彼女にはアジトで改蔵の匂いに包まれている方が心地よかった。

 

「いってらっしゃいマナちゃん! 晩ごはんまでには戻ってきてね!」

 

 イスズが手を振る。

 

「はいっ! 行ってまいります!」

 

 マナは黒い煙に包まれアジトから姿を消した。 改蔵は再び箸を取り生姜焼きを口に運んだ。 どんな『獲物』が運ばれてくるのか。 彼は楽しみに待つことにした。

 

 ***

 

 爆音とオイルの匂い。 そこは『速さ』に取り憑かれた者たちが集う聖地。 国際サーキット場のパドックエリア。 色とりどりのレーシングカーが整備されメカニックたちが忙しなく走り回っている。 その喧騒の中心に一人の女が立っていた。

 

 佐々木ナナ(ささき なな)。 彼女はこのサーキットの華『レースクイーン』だ。 だが彼女が放つオーラは単なるマスコットガールのそれとは一線を画していた。

 

「ナナちゃん! 目線こっち!」

 

「最高! そのポーズ!」

 

 無数のカメラマンが彼女を取り囲みシャッターを切る。 ナナは慣れた様子で腰をくねらせ挑発的な視線をレンズに向けた。 派手な赤毛のソバージュヘアが風になびく。 彼女が身に纏っているのは極限まで布面積を削ったハイレグのコスチュームだ。 エナメル質の赤と白の生地が彼女の抜群のプロポーションを強調している。 豊満な胸元。 引き締まった腹筋。 そして何よりも目を引くのは驚くほど長くしなやかな脚線美だった。 170cmを超える長身にさらに厚底のブーツを履いている。 彼女が立つだけで周囲の空気が支配されるようだった。

 

「……チッ」

 

 ナナは完璧な笑顔を浮かべながら心の中で舌打ちをした。 (遅い) 彼女の視線の先にはコースを試走するレーシングカーがあった。 爆音を上げてストレートを駆け抜けていくマシン。 だがナナの目にはそれが『止まって』見えた。

 

「あんなライン取りじゃタイムは出ないわよ。下手くそ」

 

 彼女は呟く。 誰も聞こえないほどの小声で。 彼女はただのレースクイーンではない。 実は誰よりも『速さ』を理解し誰よりも『走る』ことを渇望している。 だが彼女にはその資格がなかった。 金がない。 コネがない。 あるのはこの『恵まれた身体』だけ。 だから彼女はこの世界にしがみつくために自分の身体を武器にした。 ドライバーの横に立ち傘を差し笑顔を振りまく『飾り』として。

 

(私は飾りじゃない) (本当は……誰よりも速く走れるのに)

 

 彼女の『渇望』はドロドロとした情念となって渦巻いていた。 目の前を通り過ぎるドライバーたちへの嫉妬。 自分を『オカズ』としか見ていないカメラマンたちへの軽蔑。 そして何より走れない自分自身への苛立ち。

 

 休憩時間。 ナナは控室の裏手にある喫煙所で一人煙草をふかしていた。 華やかな表舞台とは違う彼女の『素』の顔。 そこには獲物を狙う肉食獣のような鋭い光が宿っていた。

 

「いい身体ですね」

 

 不意に声が掛かった。 ナナは煙を吐き出しながらゆっくりと振り返った。 そこには金髪の少女が立っていた。 黒いレオタード。 悪魔の羽。 サーキットには似つかわしくない奇抜な格好。 だがその瞳は奇妙なほど真剣にナナを見つめていた。

 

「……誰? 新しいキャンギャル?」

 

 ナナは冷たく言い放った。 ライバルか。 それにしては小さすぎる。

 

「いいえ。私はスカウトマンです」

 

 少女マナは完璧な営業スマイルを浮かべた。 彼女は一歩近づく。

 

「佐々木ナナさん。貴女に『オファー』があります」

 

「オファー?」

 

 ナナは鼻で笑った。

 

「モデル事務所? それともAV? 悪いけど興味ないわ。今の稼ぎで十分だから」

 

「違います。もっと貴女に相応しい仕事です」

 

 マナはナナの足元を見た。 その長く美しい脚を。

 

「貴女『走りたい』のでしょう?」

 

「……っ!」

 

 ナナの表情が凍りついた。 紫煙が揺れる。 なぜこの少女がそれを知っている。 誰にも言ったことのない私の本音を。

 

「あそこのコースを走っているドライバーたちを見てイライラしていませんか? 『私ならもっと速く走れる』って」

 

「……アンタ、何者?」

 

 ナナは吸いかけの煙草を地面に捨てヒールで踏み消した。 警戒心と好奇心が入り混じる。

 

「私はマナ。貴女に『翼』を与える者です」

 

 マナは両手を広げた。

 

「マシンなんて必要ありません。貴女自身が『マシン』になればいいのです」

 

「……どういうこと?」

 

「貴女を誰よりも速く走れる『存在』に作り替えて差し上げます。風よりも速く、音よりも速く。このサーキットの誰よりも速く」

 

 ナナの瞳が揺れた。 作り替える。 人間をやめるということか。 普通なら狂人の戯言だと笑い飛ばすところだ。 だが今のナナにはその言葉が悪魔的な魅力を帯びて聞こえた。

 

「……本当に?」

 

「はい。私たちの『マスター』ならば可能です。彼との『儀式』を受ければ貴女は生まれ変われる」

 

 マナはナナの手を取った。 その手は小さく冷たかった。

 

「お前のその脚。ただ見せびらかすだけじゃ勿体ないでしょう?」

 

 ナナはその言葉に背筋が震えるのを感じた。 恐怖ではない。 歓喜だ。 この少女の言う通りだ。 私はこの脚で立ち尽くすために生まれたんじゃない。 駆けるために生まれたんだ。

 

「……面白い話ね」

 

 ナナはマナの手を握り返した。 彼女の口元に肉食獣の笑みが浮かぶ。

 

「もし本当に私を『最速』にしてくれるなら……魂でも身体でも好きに使っていいわよ」

 

 彼女は自分の価値を理解している。 そして欲しいものを手に入れるためには対価が必要なことも。 それが自分の身体なら安いものだ。

 

「交渉成立ですね! では参りましょう!」

 

「案内しなさいよ。アンタたちの『ガレージ』へ」

 

 ナナはふてぶてしく顎をしゃくった。 その態度はまさに『女王(クイーン)』だった。 マナは黒い煙を展開した。 サーキットの爆音が遠ざかり意識が暗転する。

 

 ***

 

 浮遊感が消えナナが目を開けるとそこはボロ屋の土間だった。 埃とカビの匂い。 そして微かに漂う甘い体液の香り。 目の前にはだらしないTシャツ姿で寝転がる(改蔵)。 その周りには豊満な(イスズ)や痴女のような(メイ)が侍っている。 そして黒髪の(ミスティ)が不機嫌そうに爪を磨いている。

 

「……ここがアンタたちの『ガレージ』?」

 

 ナナは眉をひそめた。 最先端のラボか何かを想像していたのに連れてこられたのは昭和の遺物のような民家だ。

 

「狭い。汚い。センスがない」

 

 彼女は忌憚なく言い放つ。

 

「連れてまいりました! 改蔵様!」

 

 マナが得意げに報告する。 改蔵は寝転がったままナナを見上げた。 そのハイレグから伸びる長い脚。 挑発的な視線。 改蔵の目がギラリと光った。

 

「へえ。上玉じゃねえか」

 

 改蔵はゆっくりと起き上がった。

 

「見た目はボロいが『設備』は最新だぜ。特にお前の身体をチューンナップする『工具』はな」

 

 改蔵はニヤリと笑い自らの股間を叩いた。 ナナはそれを見て目を丸くした。 そして。

 

「……ふふっ」

 

 彼女は吹き出した。 下品だ。 最低だ。 でも。

 

「……悪くない『排気量』ね」

 

 彼女は改蔵の目を真っ直ぐに見つめ返した。 その瞳は挑発的でそして濡れていた。 この男が『マスター』。 私を速くしてくれるメカニック。

 

「いいわ。メンテナンスを始めましょうか」

 

 ナナは自らハイレグのコスチュームのファスナーに手をかけた。 ジジジッという音が静かな土間に響く。 エナメルの衣装がするりと床に落ちる。 露わになったのはサーキットの男たちを狂わせてきた極上の裸体。 だが彼女は隠そうともしない。 堂々と仁王立ちになりその肢体を改蔵に見せつけた。

 

「さあ。私を『最速』にしてみなさいよ。メカニックさん?」

 

「……ハッ! 言うじゃねえか!」

 

 改蔵の理性が弾け飛んだ。 レースクイーン。 高飛車な美女。 そして『速さ』への執着。 こいつは……間違いなく『傑作』になる。

 

「おう。フルチューンしてやるよ!」

 

 改蔵がナナに飛びかかった。 悪の組織のアジトに新たな『獣』の咆哮(あえぎごえ)が響き渡ろうとしていた。

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