※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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32話

「おう。フルチューンしてやるよ!」

 

 黒野改蔵(くろの かいぞう)が獣のように吼え佐々木ナナ(ささき なな)の肢体に飛びかかった。 埃っぽい土蔵の床に極上の裸体が押し倒される。 背中に冷たい床の感触。 だがナナは悲鳴など上げない。 むしろそのルージュを引いた唇を吊り上げ獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべていた。

 

「見せてみなさいよ。アンタの『整備(テクニック)』とやらを」

 

 彼女は躊躇なく両脚を大きく開き改蔵を迎え入れた。 その脚は驚くほど長い。 ただ細いだけのモデル脚とはわけが違う。 大地を蹴り風を切るために鍛え上げられた機能美の結晶。 太ももにはしなやかな筋肉が張りふくらはぎはバネのように引き締まっている。 サーキットの男たちを狂わせてきたその『美脚』が今はただ一人の男のためだけに開かれていた。

 

「ハッ! 上等だ! 最高の『シャーシ』じゃねえか!」

 

 改蔵はその挑発に興奮を隠せない。 彼はナナの太ももを両手で鷲掴みにした。 指が食い込む。 吸い付くような肌の質感。 その奥にある強靭な反発力。 こいつはいい『マシン』になる。 頑丈で反応が良くそして何より『走る』ことに飢えている。

 

「まずは『暖気運転』だ。焦るなよ」

 

 改蔵は逸る気持ちを抑えナナの身体を丹念に愛撫し始めた。 まるで熟練のメカニックがレース前のマシンのコンディションをチェックするかのように。 豊満だが決して垂れることのない張りのある胸。 腹筋のラインがうっすらと浮かぶ引き締まったウエスト。 そして感度の高い首筋から鎖骨にかけてのライン。 彼の指が這うたびにナナの喉から甘い吐息が漏れる。

 

「ん……っ。あら……意外と丁寧なのね。もっと乱暴に来るかと思ったわ」

 

「当たり前だろ。最高のマシンは扱いも慎重にならなきゃな。ネジ一本の緩みも見逃さねえよ」

 

 改蔵の手が下へと伸びる。 ナナの身体の『核』となるエンジン部分。 そこはすでに期待と興奮で潤み準備万端の状態だった。 指先が触れるとナナの腰がビクリと跳ねた。

 

「……ふふ。アンタの指、熱いわね。オイル交換のつもり?」

 

「ああ。古いオイルは全部抜き取って俺の『特製オイル』で満タンにしてやる。粘度の高い極上のやつをな」

 

 改蔵はナナの耳元で囁きその指を侵入させた。 ぬるりとした音。 熱い。 内部は沸騰したラジエーターのように熱を帯びている。

 

「あ……っ! んぅ……!」

 

 ナナの背中が反る。 快感。 だがそれ以上に彼女が感じたのは『熱』だった。 指先から流れ込んでくる改蔵の魔力。 それが彼女の血管を駆け巡り全身の細胞を活性化させていく。 今まで感じたことのない感覚。 ただのセックスではない。 何かが『点火』される感覚。

 

「(……なにこれ)」 「(熱い。身体の奥で、火花が散ってるみたい)」 「(エンジンに、火が入った)」

 

 ナナは目を見開いた。 視界が明滅する。 今まで感じたことのない高揚感。 サーキットで爆音を聞いた時以上の興奮が身体の芯から湧き上がってくる。 血がガソリンに変わったかのような錯覚。

 

「どうだ。俺の魔力の味は」

 

 改蔵がニヤリと笑いながら指を動かす。 中をかき回し広げ準備を整えていく。

 

「……悪くないわ。ゾクゾクする。でも……」

 

 ナナは改蔵の首に腕を回しその耳を甘噛みした。 挑発的に。 そして飢えたように。

 

「アイドリングはもう十分でしょ? 早く『レッドゾーン』まで回しなさいよ。焦らされるのは嫌いなの」

 

「……このスピード狂が! 望み通りにしてやるよ!」

 

 改蔵の理性が弾け飛んだ。 これ以上待てるか。 彼は自らの『ピストン』をナナの『シリンダー』へとあてがった。 寸分の狂いもないドッキング。 先端が触れ合うだけで火花が散るようだ。

 

「いくぞ! スタートだ!」

 

 ズプンッ! 重く湿った音が蔵に響いた。 二つの肉体が一つに繋がる。 抵抗感。 そしてそれをこじ開けて進む征服感。

 

「あ……っ! んんーっ! き、来た……!」

 

 ナナが声を上げた。 痛みはない。 あるのは圧倒的な『充足感』。 空っぽだったタンクにハイオクガソリンが注ぎ込まれるような感覚。 身体の空洞が満たされ力がみなぎってくる。

 

「すごい……! すごいわマスター! 力が! パワーが! 身体中を駆け巡ってる!」

 

「ハッハァ! まだまだこっからだ! シートベルト締めとけよ!」

 

 改蔵が腰を動かし始める。 最初はゆっくりと。 重いギアを回すように。 徐々に回転数を上げていく。 ガツン。ガツン。 重い衝撃がナナの身体を揺さぶるたびに彼女の中の『メーター』が跳ね上がる。

 

「あ、あ、あの! 神主様! 激しいです! 音が!」

 

 蔵の入り口で見守っていた五十嵐イスズ(いがらし いすず)が顔を赤らめて声を上げた。 彼女はお盆にお茶を用意して待機しているがとても出番がありそうにない。 肉と肉がぶつかる音があまりにも生々しく響き渡っている。

 

「観測します! 魔力循環率、正常! いえ異常なほど高いです!」

 

 小悪魔マナがモニターにかじりついている。 画面上のグラフが右肩上がりに急上昇していた。

 

「彼女の『渇望』が魔力を燃料にして燃焼しています! 効率が良すぎます! まるで最新鋭のターボエンジンです!」

 

「フン。野蛮な女ね」

 

 そしてもう一人。 魔人ミスティこと石川カスミが腕組みをして仁王立ちしていた。 彼女は改蔵に「留守番しろ」と言われたが結局気になって見に来てしまったのだ。 黒いボンテージ姿で壁に寄りかかり冷ややかな視線を送っている。 だがその目は釘付けだった。

 

(……でも、あの『目』)

 

 ミスティはナナの目を見た。 快楽に溺れているだけではない。 その奥にあるギラギラとした『野心』。 それは自分と通じるものがあった。 現状に満足できない女の目。 もっと上へ。 もっと前へ。 その貪欲さが共鳴する。

 

(……私と同じね。でも種類が違う。私は『高さ』を求めた。あの女は『速さ』を求めている)

 

「もっと……! もっと速く!」

 

 ナナが叫んだ。 彼女は改蔵の腰に自らの長い脚を絡みつかせその動きを加速させようとしていた。 遅い。 まだ遅い。 こんな速度じゃ風になれない。 私はもっと速く走りたいのよ! 

 

「オラオラ! 要望が多い客だぜ! 振り落とされるんじゃねえぞ!」

 

 改蔵もそれに応える。 彼の腰使いはもはや人間の限界を超えていた。 残像が見えるほどの高速ピストン。 普通の女なら気絶しているだろう。 だがナナは笑っていた。 髪を振り乱し汗を飛び散らせながら狂ったように笑っていた。

 

「あはっ! いいわ! その調子! もっとギアを上げて! 景色が変わるくらい!」

 

 彼女の脳裏にはサーキットの光景が広がっていた。 アスファルトの照り返し。 タイヤの焦げる匂い。 目の前を走るライバルたち。 今まで自分を置き去りにしてきたマシンの背中。 スタンドから見下ろすしかなかったあの光景。 だが今は違う。 私が走っている。 私の足で。

 

(抜ける) (今なら、抜けるわ) (あいつら全員、バックミラーの点にしてやる)

 

 彼女は幻視の中でアクセルをベタ踏みした。 リミッターなどない。 ブレーキなど必要ない。

 

「あ、あ、あああっ! 見える! コースが見えるわ! 私が、トップよ!」

 

 ナナの身体から赤いオーラが立ち昇り始めた。 それは彼女の闘争心とスピードへの執着が具現化したものだ。 熱気が蔵の中に充満し空気が歪む。

 

「改蔵様! 魔力反応が『赤』に突入しました! オーバーヒート寸前です! 危険域です!」

 

 マナが警告のアラームを聞きながら叫ぶ。 普通の人間なら身体が耐えきれずに崩壊するレベルのエネルギー量だ。

 

「構わねえ! こいつはまだ踏める! まだまだ『余裕』があるぜ!」

 

 改蔵は直感で理解していた。 この女の『シャーシ(器)』は頑丈だ。 これくらいの負荷じゃ壊れない。 むしろ限界ギリギリでこそ真価を発揮するタイプだ。 壊れる寸前の軋みこそがこいつの快感なのだ。

 

「いくぞナナ! トップギアだ! ついてこい!」

 

「ええ! 振り切って! 私を『向こう側』へ連れてって! 限界の、その先へ!」

 

 二人の動きが完全にシンクロした。 肉体がぶつかり合う音が機関銃のように響く。 汗が飛び散り熱気が蔵を満たす。 それはセックスというより命を削るデッドヒートそのものだった。 互いの魂を削り合い高め合う儀式。 改蔵の『陽』の気がナナの全身に行き渡り彼女の細胞一つ一つを爆発させる。

 

「うおおおおおっ!」

 

「きゃあああああっ!」

 

 絶頂。 それはチェッカーフラッグだった。 改蔵の全ての魔力がナナの中に叩き込まれる。 白濁したエネルギーが彼女の奥底に注ぎ込まれ臨界点を超えた。 ナナの身体が大きく弓なりにしなり痙攣した。 視界が真っ白に染まる。 音速の壁を超えたような衝撃。

 

「最終変態、開始します!」

 

 マナの声が響く。 光の中でナナの身体が作り替えられていく。 派手な赤毛のソバージュが風を切る流線型のたてがみのように逆立つ。 エナメル質のように滑らかだった肌には黒い斑点が浮かび上がりより強靭でしなやかな筋肉の鎧へと変わっていく。 骨格がきしむ。 関節が組み変わる。 手足が伸びより長くより強靭なバネへと進化する。 爪が鋭利なスパイクのように変形し指の間には空気抵抗を制御する皮膜が生まれる。 そして尻からは高速走行時のバランスを保つための長く太い尾が生え出した。

 

「ぎ……! ぎぎぎぎぎ……!」

 

 骨がきしむ音。 肉が再構築される音。 普通の人間なら発狂するほどの激痛。 だがナナは悲鳴を上げなかった。 歓喜の声を漏らしていた。

 

(軽い) (身体が、羽のように軽い) (重力が消えたみたい) (力が、溢れてくる)

 

 光が収まった。 土埃が舞う魔法陣の中央。 そこに立っていたのはもはや人間ではなかった。 赤と黒のツートンカラー。 極限まで空気抵抗を減らした流麗なフォルム。 獣の耳と尾を持ちながらその立ち姿はレースクイーンの妖艶さを色濃く残している。 地球上で最も速い哺乳類。 チーターの特性を持った怪人。 その肢体は走るためだけに設計された芸術品のように美しかった。

 

「……」

 

 怪人はゆっくりと自分の手足を見下ろした。 握りしめた拳から力が溢れている。 彼女は軽くその場でジャンプした。 シュッ。 風を切る音すら置き去りにするほどの速度。 彼女は一瞬で天井の梁に飛び乗りそして音もなく床に着地した。 重さを感じさせない動き。

 

「……すごい」

 

 怪人の口から漏れた声は感動に震えていた。 その瞳は猫科の猛獣のように縦に割れ世界を捉えていた。

 

「見える。止まって見えるわ。空気の流れさえも。埃の舞う軌道さえも」

 

 彼女はアジトの中を見渡した。 驚くイスズの表情。 モニターを見るマナの指。 それらすべてがスローモーションに見える。 彼女の動体視力と神経伝達速度は極限まで高められていた。 世界が遅い。 私だけが速い。

 

「……フフフ。アハハハハ!」

 

 怪人は高らかに笑った。 その笑声は高回転のエンジンのように甲高く響いた。

 

「これよ! これが私が欲しかった『速さ』!」

 

 彼女は改蔵の前に歩み寄った。 そして恭しく片膝をついた。 それは主への服従ではない。 最高のチューニングを施してくれたメカニックへの敬意だった。

 

「ありがとうマスター。最高のチューンナップだったわ。アンタ腕がいいのね」

 

「おう。気に入ったか」

 

 改蔵は服を着ながらニヤリと笑った。 その顔には仕事をやり遂げた男の満足感があった。

 

「お前の名前は今日から『チーター怪人(チーター・モンスター)』だ」

 

「チーター……。地上最速のハンター。悪くないわね。私のイメージ通りよ」

 

 チーター怪人は立ち上がりそのしなやかな尾を揺らした。 全身の筋肉が躍動したくてうずうずしているのがわかる。

 

「ねえマスター。試運転(テストラン)に行ってもいいかしら? エンジンが暖まりすぎて爆発しそうなの」

 

「へえ。元気だな。生まれたてだぞ」

 

「当たり前でしょ。今の私なら音速だって追い越せる気がするわ。この『性能』試さずにはいられないのよ」

 

 その時部屋の隅で見ていたミスティがフンと鼻を鳴らした。 彼女は壁から背中を離しチーター怪人の前に歩み出た。

 

「調子に乗らないでよ新入り。速いだけじゃ『頂点』には立てないわよ」

 

「あら。先輩?」

 

 チーター怪人はミスティを流し目で見た。 挑発的な視線が交差する。

 

「嫉妬? 見苦しいわね。アンタみたいな重そうなボンテージじゃ私の背中は拝めないわよ。置いてきぼりにしてあげる」

 

「なっ……! 言わせておけば!」

 

 ミスティの全身から紫電が迸る。 アジトの空気が張り詰める。 一触即発。 魔人と怪人の衝突。 だが改蔵はそれを止めるどころか面白そうに眺めていた。

 

「まあ待てミスティ。こいつのデビュー戦だ。手柄を譲ってやれ。お前は昨日暴れただろ」

 

「……チッ。マスターがそう言うなら」

 

 ミスティは不満げにオーラを収めた。 だがその目は「次は許さない」と語っていた。 チーター怪人は勝利の笑みを浮かべマナに向き直った。

 

「さあマナちゃん。コースへ案内して。私が風になってあげるから」

 

「は、はいっ! サイトウさんに連絡して転送します! 場所は……」

 

 マナが慌ててスマホを操作する。 サイトウから指定されたポイント。 そこへの座標を入力する。 チーター怪人の足元に魔法陣が展開される。

 

「見てなさいマスター。私が世界を『置き去り』にしてくるところをね」

 

 ウィンク一つ残し彼女の姿は掻き消えた。 残像すら残さない神速の出撃だった。 衝撃波が遅れてアジトを揺らす。

 

「……速えな」

 

 改蔵は呟いた。 アジトには彼女が巻き起こした風だけがいつまでも渦巻いていた。 新たな『最速』の伝説が今始まろうとしていた。

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